東洋一のマンモス港たる神戸
そこは今
侵略の嵐を前に
深い眠りから
目覚めようとしていた
おそるべきスーパーロボット
巨大な超合金の塊が
日本一ハイカラな街を襲う
それを迎え撃つは赤い巨人
地球の平和を守るため
傷だらけになっても
孤独に戦い続ける異星人
バリアー
それは宇宙ブーメランをも
跳ね返す
強力な楯
真紅の戦士は
宇宙から来た戦闘ロボットを
倒せるや否や
超兵器を駆使し
侵略者を倒すのだ
行け
我らの戦士
戦え
我らの戦士
立ち向かえ
そして
勝利を掴み取るのだ
※今回は二三〇〇文字ほどあります。
半世紀ほど昔、東洋一のマンモス港で巨大化した恒点観測員と巨大人型決戦兵器たる大型ロボットが死闘を演じた。
地元の新聞社と放送局が決死の思いで撮影した写真や映像資料及び丹念緻密に書かれた記事により、その苦戦と激闘の様が今の世に伝えられている。
どちらにも相当の数寄者がいたらしく、呆れる程に詳細な記録が残されていた。
或いは、執念か。
それとも執着か。
地球から発射した観測用ロケットを、発見した異星人側から侵略の一環と勘違いされたことがそもそもの端緒だった。
三宮駅からさほど離れていない場所での戦いは市街地を非常に震わせたが、神戸市民たちによる応援が赤い巨人を大いに勇気づけたという。
女性科学者の作り出した超電磁破壊弾と直後に恒点観測員の繰り出した宇宙ブーメランがとどめとなって、戦闘ロボットは見事撃破された。
ロボット工学の権威たる彼女が生み出したのは、電子制御を狂わせる電磁波放射型兵器。
摩耶埠頭から名狙撃手が過(あやま)たず射ち放ったのは、敵対者を打ち砕く必殺の弾。
内部が自壊してゆく中でそれでも破壊活動を継続しようとした人型兵器に対し、宇宙ブーメランを手に持ち何度も何度も叩きつけた真紅の超人。
宇宙人と地球人との連携攻撃により、銀色のロボットは神戸の海へ沈んでいった。
轟沈してゆく弩級戦艦のように。
それはまさに、夕日の中の決闘。
彼の勇姿は、新聞の号外と翌日朝刊並びに当日夕方のニュースと翌朝の報道番組で大きく取り上げられた。
また、地味に活躍した警務隊も取材された結果としての囲み記事があり、それらは大変貴重な資料である。
ちなみに巨大兵器の沈没地点だが、新港東埠頭とポートアイランドとの中間付近だという。
当時の貴重な記録映像と関係者の証言を元に、研究者が場所を特定したのだそうな。
新設する博物館で常設展示するため、かの巨人の残骸を引き上げることが兵庫県県議会で可決された。
メトロン星人に聞いてみたところ、その破壊兵器を送った星の方では特に問題になっていないそうだ。
本当かなあ?
かつてウルトラ警務隊で使われていたポインターの複製品であろう車に乗り、私たちは函館から神戸へ向かう。
それは時折滑空したり海を飛んだりしながら、目的地へとひた走る。
よく出来ているなあ。
ウルトラ警務隊の制服の複製品もよく出来ていて、運転を担当する少女によく似合っていた。
メトロン星人が何気にいろいろ手助けしてくれるのも、大変ありがたい。
目立たないからという理由で、彼は冴えないおっさん仕様な姿であった。
メトロン印の船で移動する艦娘たちは、なんだか不機嫌に見える感じだ。
まあ、お仕事だからな。
貧乏クジだが仕方ない。
我慢や、我慢。
潜水艦系艦娘たちが、回収業務のために神戸の海へと次々に潜ってゆく。
空は青色。
なにものにも囚われない、そんな青。
風は強く、函館ほどではないが寒い。
海上自衛隊や民間船の協力を得ながら、部品をどんどん拾い集めてゆく。
埠頭付近に建てた屋台では霞がおにぎりを握り、龍驤がたこ焼きを作り、大鷹が豚汁をこさえ、見物客や観光客にどんどん売っている。
メトロン星人はというと、ホルモンを焼いてはばんばん売っていた。
ねじり鉢巻がよく似合う。
私は灘の造り酒屋から貰った酒粕を用い、甘酒作りに勤(いそ)しんだ。
疲弊した艦娘たちへのねぎらいとして。
なんちゃって提督の出来る、ほんの小さなこととして。
地元新聞社や放送局の取材を受けつつ、炊き出しめいたことをしてゆく。
但馬牛の低温殺菌牛乳を飲みつつ、じっくりと甘酒作りに邁進してゆく。
稀少な潜水艦系艦娘は海域解放に向けての重要な戦力だと思うのだけど、こうした文化活動や地域振興のために尽力することこそ民意の安定化の必須事項なのだと大本営のお偉いさんはのたまったのだ。
彼らは変なことばかり力説するものだ。
寄附金の期待も大きいように見えるが。
なんとも気軽におっしゃってくださる。
自身の手は一切汚そうともしない癖に。
手を汚すのは他者で充分というとこか。
重すぎて引き上げられないモノは断念してもらおうとしたが、ここで政府の高官やら大企業のなんちゃらやらがいきったことを言い出して少し面倒なことになった。
余計な嘴(くちばし)を挟んできて、大変困るなあ。
そんなに引き上げたかったら、自分たちでやんなよ。
ところで大淀さんや。
先程出掛けたようですがのう。
眼鏡のフレームに赤黒い点が幾つか付いているのだけど、それはなんじゃらほい?
潜水艦系艦娘たちが休憩を終え、真冬の海へ飛び込んでゆく。
幸い、甘酒が好評でよかった。
特別純米酒の酒粕と奄美大島のザラメと高知の生姜と赤穂の塩の組み合わせは、彼女たちに力を与えたようだ。
無邪気に抱きついてこられると少し困るのだけれど、あまり気にしないようにするのが肝心だ。
手伝ってくれる重巡姉妹が気軽にぺたぺた触ってくるのも、ちょっこし気になる点ではあるな。
うちの子たちの安全装置は案外外れやすいし。
「ちょっとした提案があるんだ。」
そろそろ本日の作業も終わりに近づいた時刻。
メトロン星人が、にこやかに話しかけてきた。
「どうせそれは、ろくでもない内容なんでしょう。」
「酷いな、君は。私のことをなんだと思っているんだい?」
「かつて地球を侵略しようとした、悪い宇宙人でしょう。」
「それは昔の話だし、倒されたのは私と異なる存在だよ。」
「本当に?」
「本当さ。」
「で、なにを私にさせたいんです?」
「なに、とても簡単なことだ。」
色濃い夕暮れの中、彼はなんでもないことのように気軽に言った。
「君が二代目にならないかい? この地球を守る守護者として。」
人はずるく
欲張りで
とんだ食わせ者
他人の家を覗いたり
石を投げたりすること
それは規範の違反
飽くなきことのように
悪しき行為を繰り返し
そうしてこの世は
軋みつつ流転してゆく
血を吐きなから
走り続ける
マラソンの如く