今回は本文が三五〇〇文字程あります。
Cパートは、一三〇〇文字程あります。
呉鎮守府で飲む珈琲はたまに苦い。
たまには艦娘のにおいも悪くない。
深海棲艦とは一体なんだろう?
見目麗しき異形の美女美少女。
そうでない駆逐艦もいるけど。
人類を脅かす存在と言われているが、我々を滅するつもりならば何故原子力発電所を攻撃しない?
海洋汚染をおそれているのだろうか?
何故、各国大都市へ空爆を行わない?
人類を滅ぼすことが主目的ではない?
なんとも不可解な出来事が多すぎる。
彼女たちにも様々な派閥があるらしく、函館鎮守府へ投降した個体が幾名もいるようにどうやら一枚岩ではないみたいだ。
しかし、函館の翔鶴がヲ級の扮装をした時の姿には驚いた。
彼女はまるで、深海棲艦そのものみたいに見えてしまった。
海防艦みたいにちっちゃなロシア艦のアリョーシャの扮装は北方棲姫みたいに見えたし、空母のキエフの扮装は空母棲姫そっくりに見えた。
世の中、なんとも不思議なことがあるものだ。
広報の撮影した宣伝映像は迫力満点だったが、確かにああした扮装が出来るのならば如何様なものでも撮れるから便利だろう。
大本営発表も容易だろうし。
……まさか……いやいや……考えすぎか。
先の作戦に於いて呉の提督群に欠員が出たとかで、大本営で書類作業と後方支援などに従事していた私は繰り上げ当選みたいな感じで呉鎮守府への着任が決定した。
担当していた艦娘乙種たちに送別会をしてもらい、乱痴気騒ぎで生まれたままの姿になって暴れ回る彼らを生暖かく見つめる。
中身がおっさんだとわかっているから落ち着いていられるが、この店は今後出入り禁止になるだろうな。
料理が旨い店なのに残念だ。
明らかに彼らは呑み過ぎだとは思ったが、出陣前の高揚感をわざわざ損ねることもないと思った。
向こうでは酒もなかなか入手出来なかろうて。
餞別に秘蔵の蒸留酒でも渡しておこう。
こうしておけば気分も高揚するだろう。
一名でも多く、作戦海域から戻ってきてもらいたいものだな。
あまりにも低すぎる生還率を、少しでも上げないといけない。
ドリルや杭打ち機や籠手を利用したアームパンチやヒートロッドなどの近接戦闘用兵装がもう少しで充実するところだったのに、中途半端なまま引き継ぎをせざるを得ないのはなんとも口惜しい。
これも宮仕えの悲しさよ。
広島県は呉線呉駅。
蒸気機関車から見えるご立派な鎮守府は、駅舎からすると南側に位置する建物。
実際、呉鎮守府は徒歩圏内だ。
艦娘マニアが周囲でひしめく。
提督の追っかけまで存在する。
なんだかよくわからん行為だ。
我々はスターでもないのにな。
ここは軍事基地と民間のショッピングモールが混成された、特殊な場所。
佐世保や舞鶴や近隣の警備府などからも、艦娘たちが買い物にと訪れる。
艦娘の人気はそら恐ろしいほどで、アルバイトの店員募集に応募者が全国から殺到するとか。
憲兵と公安による厳密極まる本人並びに背後関係調査を経て、ようやく彼女ら彼らは働くことが可能になる。
このように、艦娘に会えることを切望する人が後を絶たないとか。
人間の女性に興味を持たず、ひたすら艦娘を崇める男性が現在進行形で増えているらしい。
文月教とか五月雨教とか時雨教などというものがあるとの噂も聞く程だ。
女性でも、艦娘大好きという人が増加傾向にある。
時代は新たな変容に向かっているのかも知れない。
年一回の基地開放日には、一般人で多く賑わうという。
地方百貨店としては地元広島のものと大都会岡山のものがモール内に出張所を展開しており、負けじと都市型百貨店二軒も出張所をこさえている。
品質のよいものを厳選して置いているためか、少なくない利益を上げているとか。
各鎮守府警備府による北海道東北展が開催されることもあり、特に函館鎮守府から出品された間宮羊羮や月餅やフィナンシェなどはすぐに売り切れるそうな。
秘書艦もいないままに単身広島県までやって来たが、どんな艦娘が私の部下になるのだろうか?
女の子と付き合った経験が無いので、少し不安になる。
提督は童貞推奨とあるのだが、正直意味がわからない。
女性慣れしていない者が、美女美少女ばかりの職場で十全な働きを示せるだろうか?
彼女たちは、気に入らない上官には従わない傾向があると聞く。
妖精が見えない者は論外とも聞く。
軍隊ならばそれは許されないことだが、生憎と日本には今もそれは存在しないことになっている。
この期に及んでなにを言っているのかと思わないでもないが、現状を理解出来ずに大声を上げて糾弾する人というのは一定数存在するので困ったものだ。
しかも、そうした人々が徒党を組むと限りなく面倒になってくる。
過激過ぎる場合は拘置所に突っ込むらしいが、彼らとは会話そのものが成立しないので逮捕した官憲たちもほとほと困ってしまうのだとか。
……考えが脱線した。
まあ、それはともかく、今は我が艦娘たちと挨拶を交わし任務に取り掛からなくてはならない。
壁紙や調度品がやけに真新しくなっている執務室で、彼女たちと対面する。
戦艦、正規空母、重巡洋艦が各一名。
軽空母、軽巡洋艦が各二名。
駆逐艦が一一名。
海外艦も数名おり、メリケン艦とロシア艦の駆逐艦はとても親しげに振る舞ってくる。
彼女たちは、私の緊張を解こうとしてくれているのかも知れないな。
こうして、計一八名、三個艦隊分の艦娘たちを我が指揮下に置いた。
美しい娘ばかりで大変緊張する。
やはり、慣れぬものは慣れない。
幸い、皆私に好意的で助かった。
少し馴れ馴れしい気がしないでもないけれど、気にしないでおこう。
私の前任者はどんな男だったのだろうか?
彼女たちは彼へも同様の振る舞いを行ったのか?
そう言えば、函館の提督が呉に来て艦娘たちの転属願いを多発せしめたとの噂を聞いたけれども、ホンマかいな。
彼女たちが自重を覚えたとか、他の提督にも目を向けたという噂もある。
情報が錯綜し過ぎて迷走のきらいさえあることから、あまり真に受けない方が賢明かもな。
先ずは書類仕事。
提督の仕事の大半は紙との格闘に費やされる。
防諜がどうたらこうたらと言われたけれども、手間隙ばかりが増えるわ!
大淀や書類作業に堪能な艦娘たちに手伝ってもらい、なんとかこなした。
何時でも手伝いをしてくれると言われたので、本当に助かる。
気軽な感じでぺたぺた触られたので、少し困った。
一人執務室のソファに座って提督指南書を読んでいたら、先程とは異なる艦娘が室内に入ってきたようだった。
カチャリ。
扉を施錠する音が聞こえ、顔を上げると随分近くに美少女の顔が存在していた。
好奇心旺盛な顔立ちの美しき重巡洋艦。
思わず、見とれる。
「どうしたの、提督。辛気くさい顔しちゃってさ。」
けらけらと笑いながら、鈴谷が私の傍へ密着するように座った。
何故、彼女はこうも無防備なのだ?
そして、躊躇なくある箇所をもぞもぞしてゆく。
何故、彼女はこうも積極的なのか?
妖精を視認出来て意志疎通出来る人間は、艦娘から好意を寄せられやすいらしい。
それでも、これは度を越しているかに思われた。
紫色のレースが隙間からちらりと見える。
不味い。
不味い。
不味い。
色即是空空即是色色即是空空即是色色即是空。
「止めるんだ、鈴谷。」
「こんなになっているのに?」
「我々が知り合ってから、そんなに日にちは経っていないだろう。」
「こうすれば、お互いに早く感じ合えるじゃない。」
「なにを言っているんだ、君は。」
「提督ってさ、女の子と付き合ったことがないの?」
「ないよ。」
「そっか。」
「だから、こういうことをされると誤解しそうになる。」
「誤解じゃないよ。」
「えっ?」
「楽しみが増えるっていいことだね。」
「君はなにを言っているんだ?」
「提督は誰を選ぶのかなって話だよ。」
ふふふ、と笑いながら彼女はようやく密着状態を解除する。
じゃあまたね、と軽い感じで彼女は部屋から去っていった。
あの小悪魔め。
……早くこの状態から通常形態にトランスフォームさせないと不味い。
ん?
扉の陰から、ぬっと和風美人が現れた。
扶桑だ。
第九鎮守府最大戦力の戦艦である。
彼女は私の右腕に絡みついてきた。
白いレースが隙間から見えてくる。
不味い。
不味い。
不味い。
色即是空色即是空空即是色色即是空。
何故、彼女たちは私にこれ程の好意を向けてくるんだ?
扶桑は、鈴谷と私のアレを見ていたのか?
見た上で近接戦闘を試みようとするのか?
「ちょっとお話しましょう。」
美貌の戦艦はやさしく笑った。
新任の提督が惚れ惚れとするような笑顔を彼女は見せる。
ぼおっとなった彼の手をすっと引いて、彼女は向かった。
淀みない動きで、邪魔の来ない場所へ。
少し暗い、滅多に人の来ない場所へと。
マーシャルアーツの使い手とコマンドサンボの使い手とが、真っ向からぶつかりあった。
飛翔するジョンストンは、カラリパヤットでも別口で習得したのだろうか。
対するタシュケントは迎撃の構えなのか、天地逆転の様相で真剣な表情だ。
荒鷲のように飛び掛かるメリケン艦と、アムール虎の如くに足を繰り出すロシア艦。
足と足とが絡み合い、四の字固めや卍固めやアルゼンチンバックブリーカーやパロスペシャルやキン肉バスターなどが炸裂し、最終的に北の艦娘が食らわせたロビンスペシャルによって、ようやく決着がついた。
闘いの後、にこやかに握手する資本主義国艦と共産主義国艦。
その姿は、とても人様に見せられたものではなかった。
衣装は所々破れ、はしたないを通り越しているほどだ。
「あたしと同等にヤり合えるだなんて、なかなかヤるじゃない。」
にやりと笑う、資本主義国艦。
「共産圏以外にも骨のある存在がいて、世界は広いんだってことがわかったよ。」
余裕ありげに微笑む共産主義国艦。
「なーんか、わかったような物言いが癪(しゃく)に障(さわ)るわね。」
「触られるのなら、同志提督がいいね。彼には……そうさ、甲板の奥を見せてもいいと考えているくらいだ。」
「な、なんて破廉恥なことを真っ昼間から言うのよ!」
「おや、資本主義国では昼間から愛について語ることを許さないのかい?」
「べ、別に語ること自体がいけないとは言っていないわよ! その表現方法が問題だって言っているの!」
「ふーん、リシュリューやイタリア艦は情熱的な表現を忌避(きひ)しないけどね。メリケンは意外と保守的なんだ。」
「ステーツはね、そうしたところに恥じらいを持つ国民性なの!」
「破廉恥な雑誌の総本家、っていう印象があるけどね。」
「コンビニエンスストアでも普通にそんな雑誌を売っている、この国の人々ほどエロくないわよ!」
「確かに退廃的だ。ところで、同志提督は一体どういう雑誌を買っているのかな?」
「えっ?」
「ほら、男の人って非常にムラムラしやすいんだろう? 特に、こんな密室系環境だと息が詰まりやすいんじゃないかな。とっても気になるじゃないか。」
「な、なにを言い出すの!」
「キミは気にならないの?」
「なることはなるけど。」
「聞いた方が早いかな。」
「ちょ、ちょっとどこへ行くつもり?」
「そりゃ勿論、同志提督のところさ。」
「行ってどうするつもり?」
「彼の好みを聞くんだよ。」
「止めといた方がいいんじゃないかな。」
「キミはキミ自身に自信がないのかい?」
「そんな訳ない! あたしは誇りあるフレッチャー級駆逐艦よ! あらゆる敵に臆したりなんてしない!」
「じゃあ、問題ないじゃないか。ま、同志提督が選ぶ相手は既に決まっているさ。そうに違いない。ふふふ。」
カチンときたような顔で、メリケン艦は言い返す。
「ま、あんたにはあの人を絶対に渡さないけどね。」
「同志提督は渡さない。それは、既定事項だから。」
「なにをっ!」
「ヤるかい?」
そしてまた死闘が始まった。
まるで、●ムと●ェリーの戦いの如く。
互いに新任提督のことを脳裏に浮かべ。
その後、更にぼろぼろになった両名は毛布をかぶりながら、こんこんと提督からオセッキョーされたのだった。
顔を赤らめつつ。
とっぺんぱらりのぷぅ。