はこちん!   作:輪音

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グーテンモルゲン、小官はなんちゃって提督
大本営より少佐を拝命しております
皆様、ちょっと考えてみてください
常識とは基本的に偏見かもしれぬと
常識で合理性を計ることは狂っていると
そう、常識が正しいとは限らないのです
とは言え、これは常識で断言出来ますが
既に提督が五人も行方不明になっている鎮守府へ駆逐艦一名と共に乗り込むというのは、なにかがおかしい、と

『叢雲の槍に貫かれたくて』
ではまた戦場で





CCCⅢ:叢雲の槍に貫かれたくて

 

 

 

俺の初期艦にして腹心たる叢雲(むらくも)は、この三つ目の鎮守府への転属に付き合ってくれたよき片翼だ。

誠によく出来た世話女房だと思う。

彼女にはまったくもって頭が上がらない。

別の頭は上がるのだが、勘弁して欲しい。

今後とも、俺を支え続けて欲しいものだ。

ちなみに、彼女以外の艦娘で俺の転属に付き合おうとした者は誰もいない。

寒い時代だとは思わんかね。

 

 

 

「起きなさい、朝よ。」

「おはよう、叢雲。今日もきれいだな。」

「ありがとう。さ、早く顔を洗って着替えて身だしなみを整えなさい。」

「わかったよ、母さん。」

「あんた、母親相手にここをこんな風にしちゃうの?」

「あ、そこはやめて。」

「他の子にちょっかいを出せないようにしておこうかしら。」

「ちょ、む、叢雲さん、叢雲さん、あ、ちょ、ちょっと……。」

 

 

「これが今日の書類。うちの子たちがあんたの方針に大人しく従って演習したら、倍未満で終了予定ね。そうでなかったら、三倍か或いは……。」

「お、おう。ま、まあ、ヤバいことしなきゃいいんだけどな。」

「演習相手が四大鎮守府とか函館辺りだったら大丈夫かもしれないけど、普通の鎮守府相手だったらなにをするかわからないわね。正直なところ、未知数よ。」

「なんで俺、ここの提督なんだろう。」

「しっかりしなさい。あんたがへっぴり腰だと、出来るものも出来なくなるわ。」

「わかったよ、母さん。」

「なんでもう、こんな風になっているのかしらね。あんた、変態なの?」

「ちょ、叢雲さん、叢雲さん、アーッ!」

 

 

「演習が無事に済んだな。」

「ええ、目潰しも金的もなかったし、火も吐かなかったし、クリンチも引っ掻きも噛みつきもなかったわ。その上、トンカチも栓抜きも暗器も使わなかったし。上々ね。まともに勝ててよかったわ。」

「俺の堅実な方針のお陰だ。」

「はいはい。そういうことにしときましょ。」

「取り敢えず、反則しなかった全員を誉めてやらないとな。」

「ふざけた発言をした挙げ句、刺されないようにしなさい。」

「わかってる、わかってる。」

「じろじろ見ないようにね。」

「それって、当たり前だろ。」

「どうだか。いつもいつもエロい目で見られて困るって駆逐艦の子たちが言っていたわよ。」

「事実無根だ!」

「あんた、顔や存在そのものがセクハラなんだからもっと気をつけなさい。」

「ひでえ!」

「転属を現在進行形で検討中の艦娘だっているのよ。もっと自覚しなさい。」

「え、マジ?」

「ホントよ。」

「あの、その、訴訟沙汰にはなりませんよね、叢雲さん。」

「私たちには戸籍も人権もないのに、訴訟なんて出来る訳ないでしょ。」

「そ、それもそうだよな。」

「ま、単に行方不明の司令官が一人増えるだけよ。」

「ちょ、叢雲様! 叢雲様! 叢雲様!」

 

 

 

この鎮守府に着いて驚いたのは、ここの艦娘が普段から非常に好戦的なことだ。

発言が過激な傾向にあり、並の感覚の人間では対応しきれないんじゃないかな?

全員戦闘狂と言っても過言ではない。

よそ様の戦艦や空母をトンカチで殴る駆逐艦がいるのは、うちくらいだと思う。

うち以外にいたら滅茶苦茶こわいが。

なんにせよ、無茶苦茶な少女たちだ。

深海棲艦相手に近接戦闘を平気でかますのが通常運転とか、それなんてノルドの戦士。

提督は既に五人行方不明になっているが、今もって彼らの消息が掴めていない。

物的証拠もなんらかの形跡も残されておらず、一切の手掛かりが見当たらない。

彼らは一体、どうなってしまったのだろうか?

誰も、その答を教えてくれようとしない。

 

 

 

「めちゃ忙しいのに、なんで俺が炊事当番なんだ?」

「たぶん、あんたがカレー名人だからじゃないの。」

「よせよ、部下が見ている。」

「ほら、手伝ってあげるからさっさと作りなさい。」

「イエス、マム!」

「いつもこんな風にきびきびしていたらいいのに。」

 

 

「あー、やっと仕事が終わった。」

「そうね。」

「仕事後の風呂は生き返るぜよ。」

「ちょっと、あんまり動かないでよ。ここ、狭いんだから。」

「わりー、わりー。」

「なに、じろじろ見ているのよ。」

「いやー、大変魅力的だと思って。」

「そういうのは、後にしなさい。」

「甘えたっていいじゃん。ウヒヒ。」

「ま、ちょっとくらいならいいわ。」

「バブー、バブー。」

 

 

 

仕事が終われば、後は叢雲に甘える時間。

彼女はなんだかんだで、世話好きなのだ。

嫁艦に甘えまくることが明日への活力源。

さあ、今宵も彼女を堪能してしまおうぞ。

 

 

 

「……備蓄は既に空であります!」

「ガンガン行くわよ! ついてらっしゃい!」

「それ、別の子の台詞!」

「細かいことはいいじゃない。ほら、早く再装填しなさい。」

「そんな、薄い本みたいにはいかないよ。」

「あら、口答えする気?」

「いえ、滅相もありません!」

 

 

 

そして、一日がようやく終わる。

 

 

 

「じゃあ、寝るか。」

「電気を消すわよ。」

「ああ、おやすみ、我が秘書艦殿。」

「ええ、おやすみなさい。あんた。」

 

 

 







活動報告で、《『艦隊これくしょん』の世界について》と題した考察を上げています。
よろしければ、ご覧くださいませ。


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