はこちん!   作:輪音

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グーテンターク
銃火に怯える不安もなく安寧且つぬるま湯の安全地帯的な日常から凄惨にして悲惨な戦場を眺め、「これは酷いね」と他人事のように淡々と呟く常識人の皆様
人の不幸はお楽しみいただけましたか?
絶え間のない悲劇で心洗われましたか?
他人の不幸は蜜の味でしたか?
見知らぬ人の涙は甘露ですか?
私もそうありたいものです
とは言え、人生は配られた札と一方的な規範で遊戯するしかないのですから致し方なし

ああ、ご挨拶が遅れましたことをお詫び致します
はじめまして
元帝国軍航空魔導部隊所属、現大本営直属艦娘部隊所属
ターニャ・デグレチャフ魔導少佐であります

『ラインの悪魔』
ではまた、戦場で




今回は六〇〇〇文字ほどあります。





CCCⅣ:ラインの悪魔

 

 

 

ライン戦線は、本当に、本当に地獄でした。

あの、不条理極まる戦場。

呆気なく失われてゆく命。

先任将校も練達の下士官も新兵も敵も味方も関係なく、次々にばたばたと死んでゆくのです。

人はなんともろいのでしょう。

 

そうした中、千載一遇の機会がありました。

敵対する共和国の主要な人員へ、『とどめの一撃(クーデグラ)』を与えることの出来る状況があったのです。

私は欣喜雀躍しました。

これが、戦争を終わらせる好機だと。

ライヒのためだと。

帝国のためだと。

私の渇望を満たすネクタルなのだと。

提案は、驚くほどにあっさりと全否定されました。

思わず、目の前が真っ暗になります。

今すぐにでもヤらねばならないのに。

時間こそが、一秒が金一粒なのです。

咄嗟に上官へ反論してしまいました。

司令官に作戦を拒絶され、反射的に抗弁したところまでは覚えています。

そこから後の記憶が、一切ありません。

あの後、部下たちはどうなったのでしょうか。

あの、有能且つ勇猛果敢な部下たちは。

すべてを任せられるいとも素晴らしき副官のヴァイス中尉は、あのやや頼りないながらも不屈な帝国軍人の片鱗を見せ始めている新人のグランツは。

私の陽気な戦争狂たちは無事でしょうか。

もしも、願わくは、穏便な扱いになればよろしいのですが。

私のなにもかもを理解しておられるゼートゥーア閣下ならば、悪いようにはされないでしょう。

 

いつの間にか、私は真っ白な部屋にいました。

あのろくでなしの存在Xが管理している場所でしょうか。

よくわかりません。

気がつくと、私は辞令書を手にしていました。

ご丁寧にも、帝国軍の正式な書式で転属命令が書かれています。

誰の仕業かは知りませんが、今度は海軍に所属するみたいです。

やれやれ、死ぬことも叶わないとは。

 

 

ああ、失礼しました。

状況を確認することばかりに気が急いていて、ご挨拶が遅れてしまいました。

誠に、誠に申し訳なく思います。

申し遅れました。

帝国軍第二〇三遊撃航空魔導大隊を率いる、ターニャ・デグレチャフ魔導少佐であります。

 

 

突然、意識がふっと失われました。

少し船酔いに似た感覚が訪れます。

まるでテレビジョンの無線遠隔操作機器を弄ったかの如く、私は白い部屋から煉瓦造りの建造物前に移動していました。

やや散漫な夢を見るかの如く。

ふわふわした感覚を覚えます。

これはまさに奇々怪々。

何者の仕業でしょうか?

目の前に見えるのはどうやら、戦争用の建物みたいです。

昔見た、どこぞの鎮守府みたいにも思えました。

どうも記憶が曖昧ですけれど。

まさか、秋津島皇国にいるのでしょうか?

もしや、あの場所からここへ飛ばされた?

なんだか、違う気がしました。

 

ここは、どこなのでしょうか?

 

そこへ、女の子が現れました。

セーラー服を着た少女が、軍服姿の私を見て驚愕していました。

彼女は少年兵ならぬ、少女兵なのかもしれません。

人のことは言えませんね。

私自身が幼い姿ですから。

はてさて、彼女は敵なのか味方なのか。

頬をだんだんと赤く染めてゆきました。

この子は、過度の緊張感に捕らわれているのかもしれません。

微笑んでみたら、少女はますます頬に朱が増してゆきました。

初々しい感じがして、自分自身の昔を思い出してしまいます。

その娘は口を開きました。

 

「し、司令官?」

「えっ?」

 

彼女の上官は私のように若年者なのでしょうか?

妙なことを言いますね。

 

「あ、あの、すみません、どちら様でしょうか?」

「自分は、帝国軍第二〇三遊撃航空魔導大隊を預かるターニャ・デグレチャフ魔導少佐だ。」

「しょ、少佐殿!? し、失礼しました!」

 

反射的に敬礼する少女。

最低限の躾はされているようです。

私は帝国軍方式で返礼をしました。

娘の敬礼は海軍式なので、どうやらここは海軍基地の模様です。

潮のにおいが今更のように鼻腔をくすぐりました。

見渡せば、海が見えます。

紺碧の海が。

しかし、だがしかし。

斯様に素朴な少女の学徒兵まで用いているとは、この世界は末期戦みたいですね。

吹雪という名の少女兵に案内され、私は彼女の上官たちに会うこととなりました。

幸いというか、不幸というべきか、手元の忌々しくも呪われたエレニウム工廠製九五式試作演算宝珠は『生きて』います。

術式が『此処』でも使えることの証左です。

いざとなればどうとでも出来得るでしょう。

精神汚染は厭なものですが、場合によっては緊急措置が必要不可欠です。

普通に使えるエレニウム工廠製九七式演算宝珠もありますから、防殻術式すら展開出来ない連中相手ならばこちらでも十分な火力を生み出せます。

魔導師がいなければ、の話ですが。

汚い花火を見るのは好みでないのですが、状況によっては致し方ないことになりましょう。

そうならないことを、仏様に祈るばかりです。

 

 

 

幼女、と言った方が近いような軍服を身にまとった子供が少佐と名乗った時、大本営のお偉方は大変困惑した。

最初は悪い冗談かと思われたが、その幼女はあまりにも自然に軍服を着こなしていたし、発言が厳しい訓練と実戦なくして語れないような代物だ。

つまり、彼女は『本物』だ。

異様なる娘を見て、彼らは思った。

『また』異常事態か、と。

異常事態を引き受ける専門としての函館鎮守府送りにしようかとその場にいる全員が思った時、見計らったかのように大淀が書類を配った。

彼女の帝国軍に於ける勤務評定だという。

どこからこんなものが、と更なる困惑に包まれつつおっさんたちは書類に目を通す。

曰く。

 

【士官学校】

野戦将校として必要水準を満たすと認む

 

【陸軍大学】

望みうる将校としての水準を満たす

 

【北方方面軍】

指揮権に対する明確な異議申し立てがあったために配置転換を実施

 

【西部方面軍】

功罪相反するために評価しがたい(抗命未遂あり)

 

【戦技研所技術廠】

成果は認めるが計画の採算性は最悪

 

 

一読したお偉方は揃って悩ましげな表情になる。

何者なのだ、この幼女は?

この息苦しい時代を切り開く鍵なのか?

それとも、邪神に忠実なる尖兵なのか?

彼女を連れてきた吹雪の反応も気になる。

熱狂的な表情で幼い少佐を見つめていた。

熱情に浮かされたみたいに。

初恋に燃える乙女みたいに。

あれはなんだ?

なんなのだ?

 

 

彼女はおそらく、大変有能な野戦将校。

ならば、艦娘を率いる提督にもなれる。

なれる筈だ。

いや、すぐになってもらわねばならない。

妖精を興味津々で見つめているのだから。

大湊(おおみなと)や小樽や函館の提督なども不安材料だが、彼女も彼ら同様或いはそれ以上の危険分子に見えなくもない。

まさかな。

おっさんたちは無意識的に、同じ仕草を行う首振り人形と化した。

客観的には気持ち悪いこと、この上ない。

 

結局、絶え間ない目配せとちっちゃなメモ用紙を学生のように回した末に彼女が新任提督となることは決定された。

老害……もとい、老人の一人が幼女へ命令する。

 

「君には艦娘を率いて戦ってもらうこととなる。これに否やはなかろうな。」

「拝命いたしました。」

「やれるのだろうな?」

 

沈黙する少女。

重ねて老人が問いかける。

 

「答えよ、少佐。」

「お言葉でありますが、小官は答えようの無い問いに返答する手間を省いたに過ぎません。」

「なんだと?」

「小官は軍人であって、口舌の徒ではありません。口先を用いた戦働きの証明は致しかねます。」

 

そこへ、函館の提督をよく世話しているまともな将官が話しかけた。

 

「少佐は、成果を出せるのだね。」

「結果をご覧ください。そのために、私は『此処』にいるのでしょうから。」

 

幼女は日本の防衛を担っている筈の重鎮たちに問いかける。

最前線へ出向いた経験すら怪しげな老人たちに問いかけた。

 

「失礼ですが、編成期限は如何程いただけるのでしょうか? それは何週間貰えるのですか?」

「五日だ。」

 

スラブ式の冗談をまともに喰らったかのような顔をするゲルマン系ローティーン。

呆けた顔すら、美しい。

連邦のとある少女大好き的男ならば、喜び勇んで写真撮影に興じることであろう。

彼女は眉をひそめた。

理解出来ない。

理解したくもない。

理解する気も起こらない。

それでも、敢えて重ねて問いかける。

 

「今、なんとおっしゃいました?」

「五日だと言ったのだ、少佐。現在、大規模作戦の発動中でね。有能な指揮官は一人でも最前線に送り込みたいのだ。艦娘部隊を直ぐに編成し、一〇日以内に東部戦区へ移動せよ。戦線投入は、遅くとも今日より三週間後となる。」

 

その傲慢な言い種にデグレチャフは即時に爆裂術式を展開しようかとも考えたが、居並ぶ面々の頭のネジが緩かろうと吹き飛んでいようと愚鈍だろうと、今はこの劣悪な拡声器をくくりつけたような屑鉄どもが彼女の上官に当たるのだ。

極一部は違うようだが。

いや、屑鉄に失礼だな。

塵芥(じんかい)と言った方が正しいのかもしれない。

これはもう、ちりあくたー。

その程度の連中だ。

彼女はそう思った。

誰しもが驚き、すべての提督が同じ反応をするだろう命令をいとも簡単に行う連中。

こいつらは無事に戦後を迎えることなど無いだろうと思いつつ、ターニャ・デグレチャフはそれでも一矢報いようとする。

 

「ご命令とあらば、全力を尽くす所存ではありますが……。」

「『多少』は大目に見る。手段は問わずに、やってのけろ。」

「……了解しました。」

 

実戦経験の乏しい参謀や将官が多すぎる。

心中の深い嘆きを飲み込みつつ、歴戦の野戦指揮官は意識を切り替える。

お偉方の後ろで、バールのようなモノを持った大淀がやさしく微笑んだ。

聖女の如く、無垢な表情で。

 

 

 

社会人と同じく、軍人或いは軍属という存在は、訓練されていなければ制服を着ていようとも到底使い物にはならないのです。

人的資本とは、まさにこのことを言い得た表現なのでしょう。

 

まったくもって、ここはとんだ世界です。

一部の艦娘を資源とも見なさずに使い捨てるだなんて。

せめて賢く使い捨てるならば議論くらいは出来得るのでしょうが、ここでは無作為に無分別に為されてゆきます。

愚かな。

なんとも愚かな。

それは許しがたい浪費でしょう。

 

おまけに、再利用という資源の効率的運用についても未発達。

不可解極まります。

資本投資に一体幾らかかっているのか、運用している者たちは理解しているのでしょうか?

艦娘の育成費用と期間を思えば、ぽんぽんと轟沈される訳にはいかないというのに。

 

 

 

副官、嗚呼、副官。

有能極まるヴァイス中尉がいなくて、とても残念だ。

もし彼がいてくれたならば、すべて丸投げしたのに。

この世界で新しい有能な副官を得なくてはならない。

あの函館鎮守府の大淀が副官候補としてよさそうだったけれど、既に上官に忠誠を尽くしているのは見ればわかる。

残念だ。

一度会ってみたいものだな、その男に。

 

取り敢えずは、兵卒を集めなくてはならない。

都合のよいことには、ここ大本営には未所属の艦娘が何名もいる。

出戻りだろうが、問題児だろうが、関係ない。

使えそうな兵隊を引き抜けばよかろうなのだ。

ターニャ・デグレチャフは以前募兵する時に使った文言を少し弄り、彼女へ宛がわれた部屋の前に紙を貼り付けた。

曰く。

 

『常に彼を導き、常に彼を見捨てず、常に道なき道を往き、常に屈さず、常に戦場にある。すべては暁の水平線に勝利を刻むために。求む艦娘、至難の戦場、僅かな報酬、剣林弾雨の暗い日々、絶えざる危険、生還の保証なし。生還の暁には名誉と称賛を得る。』

 

一時間もかからずに、驚くほどの応募者がやって来た。

対応に困る程に。

いの一番にやって来た吹雪を臨時副官として、ターニャは次々に訪れる艦娘たちを捌いてゆく。

様子を見に来た大本営所属の大淀を捕まえ、彼女の意見を取り入れつつ、簡潔無比な面接を続けた。

 

癖が有りすぎて制御しにくいだろう古参兵や戦場を経験していない新兵含め、様々な艦娘が美しき幼女の前に集結する。

炎に群がる蝶の如く。

大本営で任命を待つ未所属提督が複数いる中、あっさりと彼らを抜き去った金髪碧眼の美幼女が、勇猛果敢な戦闘団を形成するに至った。

彼女をなめきって突っかかる愚鈍蒙昧な者は何人かいたが、彼らはその日の内によくて退任悪くて殉職した。

自室で一酸化炭素中毒になった者すらいたという。

 

幼女に従う艦娘たちへの訓練は実に猛烈苛烈で、たまたまそれを見かねて意見した横須賀の提督が一週間入院する『事件』まで発生した。

目撃者が殆どいなかったことから『事件』は厳重に秘匿され、提督は熱射病と熱中症との合併症によって入院したのだと公式に発表された。

 

 

 

防殻術式は無事に使える。

深海棲艦とやらの砲撃や爆撃に耐えられるかどうか、実地試験してみようじゃないか。

近接戦闘用の魔導刃を発現させ、奴らの喉元に喰い込ませるのも悪くない。

さて、戦争を始めようか。

 

「諸君、これは、我らの、我らによる、我らのための戦争だ。軍人として、これに勝る誉(ほま)れはない! さあ、いざ、抜錨!」

「「「「「「抜錨!」」」」」」

 

 

幼女と共に、鮫のように嗤う戦闘団。

鉄の規律もて、狩りに出かけるのだ。

目標は深海棲艦。

黒と白に彩られた、美しき異形たち。

その異形を倒すべく、異形たちが出陣する。

入院や行方不明によって数を減らした将官たちが、苦々しげに悩ましげにカンプ・グルッペを窓越しに見送った。

 

 

 

 

ははは。

楽しい。

なかなか楽しいじゃないか。

この風、この匂い。

これこそが戦場よ。

 

「擬似シマーヅ・モード、展開。釣り野伏せを行うぞ。」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

深海棲艦の哨戒部隊とやらに一当てしてみたが、薩摩隼人方式は通じるようだ。

六個部隊のいずれも、今は相応に機能している。

まだぎこちなさは取れきっていないものの、これから次第だろう。

戦争処女を砲弾や魚雷で失うがいい。

生き残れば、お前らには古兵(ふるつわもの)の称号を得る権利が与えられる。

 

さてと、再びお仕事の時間だ。

新しいお客さんのお出ましだ。

 

ターニャが笑顔になる。

紅い薔薇が花開くかの如く。

白すぎる体に金髪と碧眼の、造形美に溢れたビスクドールの如く。

それは、変態極まるロリヤならば有無を言わさず連邦全土の収容所から一個中隊どころか大隊程度でも随喜の涙流しつつ悦楽の表情で即時に送ってくれるだろう代物。

敵対する深海棲艦たちは不可解な敵対者へ怯えのような感情を発露しつつ、それでも懸命に砲撃する。

きっと倒さねばならぬと決意して。

悲壮な決意の元、彼女たちは敵に向かって突撃を敢行した。

 

 

 

 

平和、平和、平和。

私たちの希求するモノ。

あって欲しいモノ。

さあ、私たちの戦争を始めようじゃないか。

平和のために。

我らの愛してやまない平和のために。

……。

それにつけても、身長と珈琲の欲しさよ。

嗚呼、もっと背が高くなりたい。

嗚呼、旨い珈琲が飲みたい。

そう。

私が望むのは平和。

珈琲が静かに楽しめる平和。

私は熱狂的な平和主義者だ。

 

さあ、諸君。

平和のために戦争をしようじゃないか。

 

 








【オマケ】

諸君、私は珈琲が好きだ
諸君、私は珈琲が好きだ
諸君、私は珈琲が大好きだ

熱い珈琲が好きだ
冷やし珈琲が好きだ
珈琲ゼリーが好きだ
ティラミスが好きだ
アプフェルクーヘンが好きだ
アプフェルシュトゥルーデルが好きだ
アルメ・リッターが好きだ
バウムクーヘンが好きだ
バイエリッシェ・クレームが好きだ
クーゲルフプフが好きだ
プディングが好きだ
ザッハートルテが好きだ
ザーネロレが好きだ
サヴァランが好きだ

カッフェで
食堂で
家で
集合住宅で
塹壕で
凍土で
砂漠で
海上で
空中で
泥中で
湿原で

この地上で淹れられる
ありとあらゆる旨い珈琲が大好きだ

椅子を並べた喫茶室で与えられる
眠気を吹き飛ばす珈琲が好きだ

空高く飛んでいて魔法瓶から注いだ珈琲を飲む時など心が躍る

アプフェルのよく効いた菓子で我が胃袋を撃破するのが好きだ

嬉しすぎて声を上げそうな焙煎中の珈琲のにおいを胸いっぱいに吸い込んだ時など
胸がすくような気持ちだった

珠玉の珈琲豆の詰まった硝子瓶が揃えられた店先でそれらを買い占めるのが好きだ

新しく入荷した豆の状態を何度も何度も確認する時など感動すら覚える

麻袋に入った豆が店先に置かれた姿などはもうたまらない

泣き叫びそうになる珈琲を飲んで
薙ぎ倒されそうになるのも最高だ

部下たちが健気に持って来た雑多な豆を
どうらとばかりに粉砕して淹れた時など
絶頂すら覚える

露助の地名を冠したシベリアサンドを滅茶苦茶食べるのが好きだ

必死に守るはずだった豆が要望によって供与され
砕かれ淹れられる様はとてもとても悲しいものだ

英米の物量から横流しされた珈琲を飲むのが好きだ

害虫が大切な豆を駄目にしてゆくのは屈辱の極みだ

諸君
私は珈琲を
地獄のように熱い珈琲を望んでいる

諸君
私に付き従う大隊戦友諸君
君たちは一体なにを望んでいる?

更なる珈琲を望むか?
情け容赦のない泥水のような珈琲を望むか?
悪魔のように甘い珈琲を望むか?

よろしい
ならば珈琲だ

我々は満身の力をこめて
今まさに淹れてゆく珈琲抽出器だ
だが
この暗い闇の底でずっとずっと耐え続けてきた我々にただの珈琲ではもはや足りない!

旨い珈琲を!
一心不乱の旨い珈琲を!





※アプフェルクーヘン:林檎のケーキ
※アプフェルシュトゥルーデル:マリア・テレジアも好んだという林檎の菓子。ドイツ語圏の林檎菓子の代表格
※アルメ・リッター:ドイツ版フレンチトースト。『貧乏騎士』の意
※バイエリッシェ・クレーム:ババロワ(ババロア)の元祖
※クーゲルフプフ:クグロフの標準ドイツ語的呼称
※ザーネロレ:ロールケーキ
※サヴァラン:ババ・オ・ラムの派生型発酵菓子



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