今回は二六〇〇文字強あります。
ネタに苦しむ酷暑かな
それにつけても
金の欲しさよ
皆様、熱中症と熱射病にはくれぐれもご注意くださいませ。
提督という、今のこのご時世ではけっこうな人気職業に就いて半年。
それは、私にとってとても長く続けられるような仕事ではなかった。
それでもやらねばならないのが辛いところだ。
艦娘と呼ばれる戦闘系少女たちとの距離感はさっぱりわからないし、昭和感溢れる民家を改造した屯所で雑魚寝する生活は緊張する一方だ。
幸いだったのは、その肝心の艦娘たちからさほど嫌われなかったことか。
いや、彼女たちは私に対してなにかを飲み込んでいたのかもしれないが。
函館鎮守府の提督はこちらが恐縮するほど親身になってくれる人物で、だからこそ彼は大本営から非常に煙たく思われているらしい。
提督がいるからこそ、艦娘は十全に動けるのだと彼は言う。
そんなものかねえ。
促成栽培される提督の一部が退役したり行方不明になっている話は、訓練校で散々耳にした。
訓練校で貰える金を貯金し、提督になって三年働き、その後退役して適当に暮らすとの目標を持つ者もちらほらいたが、そうした手合いは大抵訓練途中で行方不明になるか大本営での業務に耐えられなくてそのまま辞めたりしていた。
訓練二日目で逐電した奴もいたな。
たまに大本営直属のツインテール系空母の教官が訓練校へふらりとやって来て、艦娘との付き合い方を教えてくれた。
彼女が時折大本営への愚痴を漏らしたり気分転換に函館鎮守府へ行くのを何度も見ていたので、艦娘とは意外と自由な存在なのだなあとの認識を得た。
他の空母系教官や戦艦系教官並びに重巡洋艦系教官からは、彼女は自由枠だと言われた。
成る程。
提督の死因の二割程が、職場内での誤射や誤爆と聞く。
物騒なことだ。
稀に、外部の人間が誤射や誤爆に巻き込まれるという。
悲しいことだ。
その外部の人間の職種は様々で総合商社や製薬会社や建築会社に所属する会社員だったり、市や府や都や県の議員だったりで、たまに国会議員がヤられたこともあるそうな。
おそろしいことには例外なく全員即死なのに、事件性が皆無だと警察や検察が断言することだ。
ほんまかいな。
事件性は皆無とされたが、先日とある関係者のすっぱ抜きで政治家数名と彼らの秘書及び建設業者が次々芋づる式に逮捕された某学園問題もあるから、その内誰かがなにかをすっぱ抜くかもしれない。
私が管轄する屯所には駆逐艦二名が配属され、それは一名きりの屯所よりも難易度が高く思われた。
一対一で気まずい思いをするのも厭だが、二対一で無視される方がよりキツいかもしれない。
人間ではない彼女たちをこう評価するのは間違っているのかもしれないが、彼女たちの方が私の周りにいた人間たちよりもよほど人柄が練れていて人間味に満ちているかに見える。
まあ、これは私の偏見かもしれぬが。
彼女たちは彼女たちなりに、私との距離感を見定めようとしているのだ。
そうに違いない。
ピーマンと玉ねぎと挽肉のカレーを作って彼女たちに提供する。
まあまあね、という評価をもらった。
麻婆茄子を作ってみた。
評価はぼちぼちだった。
少し固くなった食パンを入手したので、フレンチトーストをこしらえてみる。
鳳翔間宮の作る品と比較されてしまったけれども、味は概ね及第点を貰えた。
豚のしょうが焼きを作ったら、うちに来ていた他所の子たちにも好評だった。
何故か、うちの子たちがお冠になる。
猪の肉をけっこう貰えたので、角煮とチャーシューとカツレットとを作ってみる。
娘たちは旨そうに食べてくれた。
鹿肉を大量にいただいたので、ハンバーグにしたり餃子にしたり筑前煮にしたりカレーにしたりしてわしわし食べた。
他所の子たちもわいわい賑やかに食べた。
駆逐艦や軽巡洋艦が密集して食べる様はまるで学校給食だ。
なんせ二艦隊以上の艦娘の胃袋を満たさなくてはならない。
大量に作るため、何名かの艦娘に手伝ってもらう。
うちの子たちもおにぎりを作ってくれた。
屋内ではとても空間が足りないので、廃校になった学校の椅子や机を供与してもらい、それらを外で使っている。
お代わりしまくる彼女たちの勢いは、大量に作った筈のおかずをあっという間に駆逐してしまった。
間宮羊羹をいただく。
大変においしかった。
水羊羹を試作してみたら、そこそこの評価を得られた。
うちに寄った他所の子たちが旨そうに食べるのを見た彼女たちは、何故か激しい剣幕で私をなじった。
若いねえ。
やや理不尽にも思えたが、以前武田観柳斎みたいな上司からねちねちいじめられた経験があるので実に可愛いものだ。
執務室兼居間兼茶の間で仕事をしながら、お茶を飲む。
自家製ながら、そんなに味は悪くないと思う。
近場にコンビニエンスストアでもあればもう少し楽なのだが、そういった便利な店舗は徒歩圏内に存在しない。
あったとしても、場合によっては道の駅というか地産地消的な物産を置いた販売店に変貌していたりする。
空き店舗になったままの存在が幾つもある事実を鑑(かんが)みれば、変貌を遂げた姿だとしても『活きている』だけマシなのかもしれない。
当たり前だったモノがどんどん消え、やがて風化してゆく。
今後のコンビニエンスストアは、もしかしたらそういう存在になってゆくのかもしれない。
久しぶりにスーパーマーケットへ行く。
うちの子たちの機嫌も地味によい感じ。
物流は近隣諸藩限定であるものの、そこそこの量がある。
内装が古びてはいるが、まだまだ踏ん張って欲しい所だ。
「ガンガン行くわよ! ついてらっしゃい!」
「私も本気で行くから、即席提督、行くよ!」
若い子たちは元気で可愛いな。
近海での哨戒任務がうちの子たちの通常任務だ。
出撃の時間がやって来る。
今もって慣れない時間だ。
でも、平和を勝ち取るためには彼女たちへ命じなければならない。
この令呪……もとい、提督としての命令権をもって。
「今日も無事に帰ってきてくださいね。」
私は心を込めて、彼女たちに言った。
途端、少女たちは私に言葉を放った。
「そんなの当たり前でしょ。あんたはあたしがいなかったらなんにも出来ない即席提督なんだから。」
「そうよ、あんたは黙ってあたしたちのご飯を作ってればいいの。勿論、それはなににもまして優先されるべきことよ。わかる? 即席司令官?」
近々開催される予定の夏祭りを密かに楽しみとしている彼女たちは、きりっとした顔で凛々しく出撃する。
浴衣も帯も下駄も用意した。
試着はしたようだが、まだ見せてくれない。
当日のお楽しみ、ということか。
今夜は冷麺にしようかな。
マヨネーズはかけるべきか、かけざるべきか。
それが問題だ。