はこちん!   作:輪音

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今回は二三〇〇文字強あります。


CCCⅩⅡ:ちょっと熱のあった日

 

 

 

朝起きたら熱が三八度三分あった。

少し気だるい。

まあ、なんとかなるだろう。

三八度五分や六分くらいまでならそれなりに動ける。

なりなりてなりあまれるものが荒ぶっていたが、こんな時でも元気なものだ。

毎朝の現象だが、じっと見られていなくてよかった。

理路整然と現象について説明するのは気恥ずかしいものだ。

駆逐艦たちに男の生理現象のことを口頭で説明した時は大変恥ずかしかった。

トランスフォーマーする様を実際に見せてくださいと言われた時は閉口した。

図で誤魔化したが、実地に見せる提督などいないだろう。

……いないよな。

いないと思いたい。

 

それにつけても独りの時間が欲しい。

合間を見てガス抜きしないといかん。

他の提督も非常に困っているだろう。

自撮りの写真を渡されても困惑する。

ケッコンしている提督だとこんなことにはならないと思うが、人気者の場合は修羅場になりやすいそうで、時折刃傷沙汰になっていると聞く。

先日もとある大型鎮守府で騒動があったらしい。

敢えて艦娘に関心を持たれないようにしている同僚もいるが、そうした鎮守府の艦娘たちから相談を受けることも少なくない。

痛し痒(かゆ)しだ。

 

童貞を殺す服とやらについて聞かれることも多々あるが、唇を奪った方が早いんじゃないかと言いかけたことも度々ある。

童貞にそういうことを聞かないで欲しいのが本音だけども、彼女たちからすると童貞だから聞きやすいのかもしれないな。

無邪気な駆逐艦の攻勢に敢えなく撃沈轟沈している提督がけっこういるので、実例集を作ったらいいんじゃないのかなと秋雲辺りに提案したが、新妻力が強すぎて近寄れませんと涙ながらに言われてしまった。

なんだよ、新妻力って。

海防艦に傾倒している提督もいるが、事案を発生させないで欲しいものだ。

 

モテる提督はイケメンと限らないのが悩ましい。

イケメンフツメンブサメンは特に関係無いと、大抵の艦娘がきっぱり言っている。

故に、モテた経験の無い提督がモテた時に喜劇が起こりやすいと言えなくもない。

いや、悲劇かも。

やれやれである。

 

添い寝していた島風と吹雪を起こさないようにそっと起きようとするも、胴回りをがっしり掴まれているので身動きが取れない。

少しほわほわした脳味噌のまま、両名の頭を撫でる。

うちの最強系駆逐艦たちが、むにゅーとした顔で寝ぼけたまま抱きついてきた。

これこれ島風さんや、君は元おっさんだろうに。

だんだん女の子化してきているような気がする。

 

ほわほわした頭のまま着替えを手伝ってもらい、下着を彼女たちに渡した。

下着を渡さないと皆機嫌が悪くなるのだ。

洗い場に持っていくくらい出来るのにな。

曙と霞の組み合わせで添い寝だった時に下着を自分自身で洗う旨伝えたら、彼女たちに思いきり怒られた。

それくらいさせろ、と。

しかし、返ってくる下着がいつも新品同様か新品なのは変だと思う。

そう思って大淀や鳳翔や間宮などにも言ってみたが、話をはぐらかされてしまった。

カッターシャツを洗濯に出してもそうなるし、ある提督にその話を振ったら何故かめちゃくちゃうらやましがられた。

よくわからない。

 

ぼわわとしているので両名から酷く心配されたのだが、大丈夫だと頭を撫でる。

そうそう、君たちは今すぐ服を着なさい。

 

 

 

朝礼をほわほわした頭でなんとか切り抜けたものの、食事はちょっこし難しい。

食欲が明らかに減退している。

大湊(おおみなと)からいただいた林檎でも食べるとするか。

朝四分の一、昼半分、夜四分の一。

これでいいのだ。

講堂を歩きながらほんの少しぼんやりしていたら、大淀が至近距離で私を見つめていた。

 

「提督、お熱があるのですか?」

「微熱が少々。」

「何度ですか?」

「三八度三分。」

「第三級緊急事態発令!」

 

大淀の発言に、がやがやしていた周囲の艦娘たちが即座に私の周りで輪形陣を築いた。

なんで大和と武蔵がここにいるんだろう。

戦艦級艦娘六名による豪勢な陣形だった。

ネヴァダや戦艦棲姫やとある航空戦艦も凛とした顔つきで私の周りを取り囲んでいる。

この面々で演習したら、資源が激減する。

そんなことをついつい思ってしまう。

長門教官がキリッとした顔をして言った。

 

「提督! この長門が朝晩問わず看病してやる! 安心して休むがいい!」

「ここは譲れません。」

 

そこに加賀教官が割り込んできた。

 

「提督は空母系艦娘による二四時間三交代制で看病します。勿論索敵も怠りませんし、きめ細やかな対応を行います。」

「巡洋艦を忘れてもらっては困ります。」

 

普段冷静沈着な妙高先生まで参戦してきた。

 

「室内に常時二名配置し、無論、部屋の外にも充分な数の巡洋艦を配置します。索敵の航空機は常に飛ばしますし、雷撃戦も夜戦も十二分に対応可能です。対応の多彩さではひけを取りません。」

「数の多さなら、駆逐艦よ!」

 

曙が参戦してきて、収拾がつかなくなる。

メリケン艦やら深海勢やらが議論に加わってはちゃめちゃだ。

わいわいがやがやする艦娘たち。

ぼおっと眺めていたら、ひょいと担ぎ上げられた。

おや、誰かな?

 

「ほんま、キミはモテモテやね。」

 

龍驤か。

 

「さ、部屋まで行こか。」

 

軽やかに俵担ぎされ、ドナドナされる。

途中で雲龍や早霜も加わり、担ぎ手を順繰りに交代しつつ私室まで送られた。

 

 

 

 

結局、『厳選』された艦娘二名ずつに看病させることで落ち着いたらしい。

何故か艦娘が交代する度に着替えをさせられた。

まあ、明日くらいには熱も下がるだろう。

座薬を誰が挿入するかでかなり揉めたらしいけれど、それくらい自分でやるわい。

そんなに私の菊門に指を突っ込みたいのだろうか?

よくわからない。

 

加賀教官の順番の時、何故だか瑞鶴も一緒だった。

土産の鳩サブレーを無表情に我が口元へ差し出す教官と、それをにやにや顔で見る幸運艦。

早く治らねば、とかたく心に誓った。

 


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