【全肯定でなければ全否定。正邪がきっちりわかれることなんて現実ではありえない。あたりまえだ。だれだってちょっとずつは正義の味方だし、同時にちょっとずつは悪の手先なのだから。オール・オア・ナッシングではなにも解決できない。】
佐藤大輔氏『エルフと戦車と僕の毎日Ⅰ(下)』より。
今回は二〇六九文字あります。
提督がまた一人、行方不明になったらしい。
艦娘と逃避行しているとか某国に拉致されたとか、深海棲艦やUFOにさらわれたとかの噂まである。
カストリ系週刊誌がなんやかんやと騒いでいるみたいだが、じきに鎮静化するだろう。
大本営の広報は有能なのだから。
未登録の屯所(とんしょ)はないかと、函館鎮守府から問い合わせがきた。
当基地に所属している艦娘たちに聞いてはみたが、全員知らないと答えた。
ならば、知らないのだろう。
艦娘は嘘がつけないらしいから。
最初は潔癖な女学生みたいな存在じゃないかと危惧していたが、研修の時に会った艦娘や今の部下たちを見ていたらそれは単なる思い込みだったみたいだ。
だいぶ姿が違うように見えるのだけれど、何事にも誤差は生じるものだ。
仲よく出来ているのだから、そこにわざわざヒビを入れる必要性は無い。
基地によっては司令官が好かれていないようだけど、好き嫌いで戦争は出来ないと思う。
あまりに艦娘から嫌われる提督(エロ過ぎる人とか暗黒系とか威張りんぼとかエロ過ぎる人とか)はたまに事切れた姿で発見されたり行方知れずになることもあるようだが、それは自業自得じゃなかろうか。
誰がヤったのか、皆目見当はつかないが。
今回、行方不明になった提督は一体どのような指揮をしていたのだろうか?
どのように彼女たちと接し、どういった言葉を投げかけていたのだろうか?
私が入浴する時間に、艦娘たちは一緒に入ろうとする。
流石にそれはよろしくないんじゃないかとも思うのだが、函館の提督は現在進行形で数多の艦娘と混浴しているのだから一切問題ないとの認識を部下たちから示された。
おまんら、示し合わせたな。
まあ、艦娘は女学生みたいな存在。
私は子供に興奮することなど無い。
ならば、一緒に入浴することに問題など無い。
つまりは、そういうことだ。
戦艦とか正規空母とかだとちょっと怪しいが。
後ろから無邪気に抱きついてくる艦娘の意外にふくよかなバルジが私の理性をガリガリ削ってゆくけれど、明鏡止水の心持ちで乗り切るべし。
これこれ、そんなに動いてはいけないよ。
ディメンション・トランスフォームしてゆくではないか。
私自身中学生や高校生に一切興味ないが、接触によって肉体が反応するのは当然の帰結である故に。
我が屯所に独立した執務室は望むべくもない。
それに艦娘の員数は片手で足りるほどだし、重巡洋艦や軽空母が所属する可能性は極めて低い。
ましてや、戦艦や正規空母だなんて。
嗚呼、なんとこの世は世知辛いのか。
私室と仕事部屋の混ざったような四畳半の書斎だかなんだかで仕事を行い、可愛い部下たちから抱きつかれたりもみもみされたりしながらあどけない誘惑と戦い続ける。
色即是空空即是色色即是空空即是色。
うむ、必要は一切ないが、念のために唱えておこう。
休憩時間は紅茶とお茶うけが必需品だ。
全力回転する脳味噌にそれはよく効く。
戦前は珈琲党だったが、現在は紅茶党に鞍替えしている。
国産紅茶もかなり品質が向上しているし。
代用珈琲には今もって慣れることがない。
もっと安くなったら、珈琲党に戻るかもしれない。
艦珈琲……間違えた、缶珈琲は復活するのだろうか?
お茶うけも人工甘味料くさくなくなって喜ばしい。
これこれ、おじさんの手をもみもみしてはいかん。
勘違いしちゃうじゃないか。
地球温暖化問題だが、戦前と現在とではかなりの差があるらしい。
世界各国では港湾施設や海沿いの工場が軒並み閉鎖か開店休業状態のもの多数だったり、旅客機が世界の空を飛びまくることもなかったりする。
そうした経済的大打撃を受けた結果、温暖化現象が軽減されているとか。
実に皮肉な状況だ。
深海棲艦が地球の平和を守るために活動しているのだと述べて迫害されている学者までいるけど、なにが本当でなにが間違っているのかよくわからない。
以前超大型台風によって浜へ打ち上げられた艦娘たちを拾って戦力にしたものの、気になって函館や大本営の大淀に問い合わせをしてみたが、芳(かんば)しい返事は来なかった。
奇妙なことに、どの鎮守府や警備府や泊地や屯所にも彼女たちは存在していないという。
変だなあ。
未登録艦娘なんて存在するのか?
現実に彼女たちは存在している。
その間隙がどこに起因するのか?
もしかして、彼女たちは海域発見艦(ドロップ艦)なのか?
それは複数出現するものなのか?
私にはわからないな。
馴れ馴れしいのが玉に瑕だが、戦闘力は高いみたいなのでまあいいだろう。
艦娘がいない状態で民家改造型基地に着任という状況こそ、変なのだから。
中途採用だからといって、杜撰(ずさん)な扱いをされるのは気分が悪い。
バンザイ・アタックを強要されないだけまだましなのかもしれないけれど。
私の癒しは同居している艦娘たちだけだ。
「テイトクー、ショーカイニンムガオワッタヨ!」
「シレイカーン、サクセンシュウリョウシタワ!」
艦娘たちが抱きついてくる。
私は彼女たちの頭を撫でた。
まあ、今はこれでいいかな。
白い肌の少女たちが微笑む。
それが、私の活力源なのだ。
さて、夕飯を作るとするか。
今夜はカレーにしようかな。