私は失った
かけがえのない存在を
私は失った
魂の半分を
私は失った
翼の半分を
取り返しのつかぬ哀しみ
魂を引き裂かれる苦しみ
もう二度と失いたくない
そう願うほどに
心は張り裂けた
私は長い長い夜を過ごしてきた
夜よりほかに聴くものもなくて
何度も何度も哀しみをぶつけて
だが、私は得た
このハコダテで
もう二度と
それを失わないように
あらゆる手段をもって
努めなくてはならない
友情を捧げ
知恵を絞り
悪徳を退け
勇気を用い
絶対に守る
すべての力を尽くして
風のよく吹くハコダテ
風の街
風よ
私の心を届けて欲しい
きっと
きっと
『夜よりほかに聴くものもなし』
君は生き残ることが出来るか
なんやかやで、『はこちん!』は四周年を迎えました。
ひとえに皆様のご愛顧あってのことと存じます。いつも本当にありがとうございます。
また、誤字脱字があった際の報告も併せて感謝します。
脱線ばかりで手抜かりの多い作者ではありますが、今後とも良しなに願います。
作者がホラーやこわい話を好むのは仕様です。
時折なんだかミステリぽくなるのも仕様です。
あらかじめご了承くださいませ。
今回の話の題名は、ポール・ヴェルレーヌの詩及び山田風太郎氏の作品名から引用しています。
今話は三五〇〇文字ほどあります。
函館鎮守府は北方に於ける大型作戦時の補給基地と中継基地を兼務すると共に、艦娘が休暇で滞在するための保養地としての側面を有している。
戦闘狂と一部から称されおそれられる艦娘だが、彼女たちは多感な少女の面を有していて不安定な時も存在する。
少女や幼女などの容姿をしているからだろうか。
函館鎮守府はある種の癒し系空間の役割を果たしており、私がなんらかの担い手であることは誇りと思っている。
この春、新たな人員が我らの函館鎮守府へ送られて来た。
新たな楔(くさび)だと考えられる。
人間艦娘そうでないモノの精神的安寧をもたらすため、欧州発大本営経由で一人の高名な精神科医が派遣されたのだ。
そういうお題目となっており、断ることすら出来ない。
おとろしい。
彼は一言でいうと男前だ。
イケメンでなおかつ洒落た中年男性である。
金髪碧眼で、シュッとした感じの白人男性。
……。
日本国籍の人でええやん、日本国籍の人で。
そうは思うのだが、深海棲艦との戦いに一定の目処(めど)がついたと思い込んでいるごく一部の人類にとっては、戦後のあれこれこれそれが気になるのだろう。
つまりは欧州に対する政治的配慮やらなんやらかんやらの結果が、こうした事態につながったのだと考えられる。
ようわからんが、非常にめんどくさい。
なんで函館鎮守府に押し付けるのかね。
『博士』と呼ばれることになった欧州系イケメン中年男性は、料理上手でもあった。
その調理風景は実に優雅。
それは見事なものだった。
エゾシカ料理を振る舞ってくれたのだが、変な臭みもなく野生の風味はあるもののきちんとおいしく食べられる味わいだ。
倒し方・血抜き・冷蔵・熟成のすべてに於いて、高い技術が使われたのだろう。
手慣れた感じがする。
つまりは、旨いのだ。
彼が作ったハンバーグを堪能していると、博士はとてもとてもやさしげな目付きで私を見つめていた。
ちょっぴし、ゾクッとする。
なんやろな。
理不尽且つ散々な叱責(しっせき)を浴びせた後、嗜虐(しぎゃく)的な笑みを浮かべたまま大本営直属の老年期的査閲将校殿はようやく去っていった。
やれやれ。
肩がゴルゴンゾ……もとい、凝るわい。
《彼は極めて下品だ。その存在など、大した価値もなさそうなのに。なにを勘違いしているのやら。》
「失礼、博士。なんとおっしゃいました?」
イタリア語かな?
よくわからない。
「ああ、彼みたいな上官を持つと苦労するねと言ったんだよ。」
「そうですか。まあ、ああいう人ばかりではありませんから。」
「君はやさしいね。《彼が言っているのは、あなたの机の引き出しから拳銃が見つかったので、あなたの家を跡形もなく燃やしておきました、と述べるのと殆ど同様の屁理屈だ。実に嘆かわしい。》」
「博士、後半、なんとおっしゃいました?」
「君は君の不運を嘆く必要がない、といった意味合いの言葉さ。」
「お気遣いくださいまして、本当にありがとうございます。」
すると、博士ははかなげに微笑んだ。
五日後、大本営から憲兵隊がやって来た。
査閲将校殿が行方不明になってしまったという。
変だな。
憲兵隊を率いる隊長はどうも粘着質的性質の持ち主らしく、無実の私へしつこくねちこく質問を重ねてきた。
《論理的ではないし、それに知性的ではない。感情に振り回されるなど、捜査官としては下の下だな。》
博士がなにか発言したけれども、我々の誰も彼の発言内容を理解出来る者はいなかった。
隊長は割れやすそうな高級磁器でも見たかのような目付きで、おそるおそる博士に目を向けている。
おそらく、博士の言葉は彼に対して批判的な内容なのだろう。
憲兵隊も複雑怪奇な欧州と揉めたくないであろうし、日本語で批判された訳でなし、つまりは日本人的日和見(ひよりみ)的思考に基づいて黙殺するに至ったようだ。
粘着質な隊長も冷ややかな博士の態度に勢いを削がれたような表情で、程なく隊の撤収を命令した。
震えているようにも見えたが、たぶん気のせいだろう。
立会人的な立場を要求し認められた博士が見つめる中で、二日間憲兵隊によるくどくしつこい尋問的質問が何度も何度も重ねられた(休憩を挟みつつ、朝から晩まで)。
嗚呼、仕事が滞る。
大淀の機嫌が加速度的に悪化の一途を辿ってゆく。
尋問に同席出来ない秘書艦たちのうっぷんがたまってゆく。
事務局の魔王様たる田中さんの機嫌が悪くなり、配下の事務員たる魔族たちや元艦娘たちやナニカの機嫌も同様に下降線を描いてゆく。
また、うちの艦娘たちや深海棲艦たちの不満指数がうなぎ登りになってゆく。
特に駆逐艦群を抑えるのが大変だ。
なでなでして、なんとかおさめた。
憲兵隊の隊員たちは全員びくびくしていたが、隊長は不遜な態度を隠そうとすらしなかった。
次の日、ある意味勇者的な憲兵隊隊長が行方不明になった。
函館市内の宿泊施設に滞在していた彼は五稜郭近辺か駅近くの飲み屋に出かけると言って夜間外出したまま、翌朝になっても帰って来なかったのだ。
当然騒ぎとなり、疑惑はこちらへ向かう。
やだやだ。
だが生憎と尋問終了後に地方テレビ局と雑誌の合同取材を受けていた私には鉄壁の他所存在証明があり、どこかへ出かける暇さえなかった。
それが憲兵隊にとっては不服だったようだけど、しつこい隊長のいない彼らは精彩に欠けていて艦娘たちの厳しい視線にさらされながらの捜査は第三者から見てもおざなりな感じが否(いな)めなかった。
結局特務作戦小隊たる庶務三課の出動となりそうになり、最終的に憲兵隊は私服による捜査と函館市警との連携を行うことに相成った。
一週間ほど表面的な捜査をした彼らは、結局まともな手がかりすら掴めぬままに横須賀へ帰投した。
えらく上機嫌になった艦娘たちや博士を見ながら、私は複雑な気持ちになる。
今はこれで済んでいるが、もしも戦争が終結してなにかあったら……。
……うむ、考え過ぎだろう。
まあ、その時はその時だ。
博士が気合いを入れて作ってくれたザッハートルテは、貴重なカカオがふんだんに使われていて大変旨かった。
添えられた生クリームを刻んだケーキにちょこんと載せ、ぱくっと口に含むと幸せが口内に拡がってゆくのだ。
イタリアンローストで焙煎されて深みのある味わいのキリマンジャロの珈琲と併せ、共においしくいただいた。
鳳翔間宮李さんを含む我が函館鎮守府の厨房の面々は料理魂に火が点いたようで、燃え盛る炎の如くにより一層料理道へと邁進する結果となった。
最近、他所の提督が函館へちらほら訪れるようになってきた。
以前よりも増加傾向にある。
目標は博士。
目的は相談。
彼らはなにやら懺悔(ざんげ)みたいな感じで博士に話しかけ、博士は神父だか牧師みたいな感じで告解(こっかい)のようななんやらかんやらを聞いているみたいだ。
博士に相談した提督たちは一様にすっきりした顔で、自信をもって自身の基地へと帰ってゆく。
博士は大変有能な精神科医のようだ。
博士の焼いたカトルカールを食べる。
四分の一の意味を持つ、パウンドケーキのことだ。
ぼそぼそしておらず、コニャックに浸けた干し果実がよく利いていて実に旨い。
本好きの女の子が活躍する異世界小説に出てくるお菓子ってこんな感じの味わいなのだろうか、と思いつつ堪能した。
私の膝の上にいる鳳翔も満足する味わいのようだ。
ちぎって口の中へ入れて欲しいとの要求に応えているが、おっちゃんの指まで口の中に入れないで欲しいものだと思うぞよ。
もごもごしてはいけません。
私の膝の上に乗る気満々の間宮や大淀や戦艦や空母や巡洋艦や駆逐艦群が、全員目をギラギラさせている。
落ち着け、キミたち。
博士の生暖かい視線がちとつらい。
心から労(いたわ)ってくれているのはよくわかるのだが、その根拠が全然ちっともわからない。
《君は実に興味深い。生きていて本当によかった。毎日が驚愕の連続だよ。》
博士が爽やかな笑顔のまま、なにやら呟く。
本日もペイズリーのネクタイを締めている。
ホント、お洒落な紳士だと感じる。
言葉の意味を考えてみた。
彼は今のところ、我々の不利益になるようなことを一切行っていない。
つまり、先程の発言はどうやら悪い意味でなさそうだと想像がついた。
ならば、彼と手をたずさえて共に歩もう。
窓からの日射しが暖かい。
外は冷たいのだけれども。
穏やかに暮らしたいものだと切実に思う。
「私の全身全霊を傾けて、君のために持てる全てを尽くすと約束するよ。《君はなにも心配しなくていいからね。そう、なにも案ずる必要は無いんだ。》」
博士は天真爛漫に見える笑顔で、にこやかにそう言った。
《四周年記念的オマケ》
【おっさん提督】
◎所属:函館鎮守府(代表)
◎年齢:四〇代(気分だけは割と若い)
◎職業:提督(二種、中佐)
◎容姿:十人並みとの評価は多いが、顔立ちはそれなりに整っている。また、容貌やら雰囲気やら仕草やらで、母性本能をくすぐられたり庇護欲をそそられたりする女性(のようなモノも含む)が世の中には複数いるらしい。稀に男性も。艦娘からの支持率が高いことから、容姿と魅力は別物かもしれないとする有識者の意見もある
◎前歴:商社員(名ばかり係長)
◎副業:そこそこ売れている覆面小説家(意外と女性受けがいい)
◎性的遍歴:童貞(童帝)
◎女性関係:小学生時代はおねショタ的に大変モテたが、当時ガチガチの硬派だったので機会はことごとく失われた。中学生時代以降も上級生などにモテたが、この時期もガチガチの硬派だったのであらゆる好機をみすみす失った。社会人になってからも後輩や部下などからそれとなく秋波を向けられたが、よくわからないままにすべての機会を逃した。提督になってからは童帝スキルのためにそれがより一層酷くなった傾向にあり、本人は自分などモテる筈などないと思い込む節がいまだに見られる
◎公的資格:『提督二種(複合型資格)』
『英検二級』
『普通自動車第一種運転免許』
『二級ボイラー技師』
◎通常技能:『こわい話(+七)』
『根回し(+七)』
『交渉(+六)』
『説得(+五、妖精や宇宙人や艦娘や深海棲艦やSCP限定で+八)』
『度胸(+五)』
『後始末(+五)』
『歌唱(+五)』
『人脈(+五)』
『隠蔽工作(+四)』
『たらし(+四、特定の存在に対しては+八)』
『書類業務(+三)』
『口車(+三)』
『耐魔(+三)』
『幸運(+弐)』
『調理(+弐、人間以外の存在に対しては+六)』
『統率(+弐)』
『指揮(+弐、状況によっては変動)』
『射撃(+弐)』
『鉄拳(+壱)』
『近接戦闘(+壱)』
◎特殊技能:『難攻不落(常時発動。害意あるモノからのあらゆる物理的精神的魔法的妖術的干渉をはねのけ、エッチなことはいけないと思います的にそうした行為もあまねくはねのけられる。時には愉悦的展開をも防いでみせる程。そは力無き者や迫害されし者を守る楯。アイギスの楯)』
『恋愛の天秤(常時発動。みんな仲よく。詳細不明)』
『童帝の呪い(別名は絶対防御の呪い。常時発動。呪われた者は脱童貞の機会を得られない、異性は呪われた者に対して直接エロいことが出来ない、同性的恋愛的愛好家は呪われた者に触ることすら出来ない、蜂蜜作戦従事者は事前に必ず失敗する。ケッコン時に消滅予定)』
『魅了(気紛れに発動。妖精系存在限定で相当意識しない限りは発動しない筈、その筈。たまに人間とかそうでないモノにも効果があるとかないとか)』
『絶倫(ケッコン時に能力解放予定、現在は童帝の呪いによって完全に封じ込められている。詳細不明)』
『フェロモン(詳細不明)』
『奇跡(隠れ技能のひとつ。人型機動兵器的大戦などに巻き込まれた時のみ覚醒予定。気力一五〇で発動可能)』
『小宇宙(コスモ、詳細不明)』
◎加護:『とある魔王(いわゆる魔法的なナニカ)』
『メトロン(クラークの第三法則的なナニカ)』
『どこかの女神(小宇宙的なナニカ)』
『ご立派様(とにもかくにもエッチな道に突き進むのだ的なナニカ)』
『焼きたてをあなたに(パイ喰いねえパイ的なナニカ)』
『2D6(ファンブル無し的なナニカ)』
『騎士の誓い(詳細不明)』
他
◎戦闘能力:はっきりいって殆ど無い(ベ●ータ風に言うと「……ゴミめ。」)が、人型機動兵器に搭乗すると……
◎印象的写真集と円盤:よく売れている(購入層:艦娘各種、元艦娘、艦娘的存在、艦娘のようなモノ、白い娘、深海棲艦、ごく一部のご婦人や女学生、極々一部の変態紳士など。函館鎮守府所属の艦娘は全員複数点所持が基本で、どこぞの武将系正規空母も所持しているという噂がある)
◎趣味:読書、音楽鑑賞、旅行、ネット小説、料理、美術館博物館巡り
◎特技:艦娘を魅了するご飯(人間受けはそこそこ)、怪談(マジこわい)、会議に参加して主導権を握る(いつの間にか)、バーチカルギロチン(隠れ技能のひとつ。特殊な限定条件下に於いてのみ、気力一五〇で発動可能)
◎人脈:商社関係(中小)、服飾関係、文房具関係、出版関係、京阪神の経済界、映像関係、アニメーション関係、刀剣関係、北海道の人々の一部、イタリア系商社、旧東ドイツ系商社、魏呉蜀の人々の一部、ロシア軍極東方面軍団の一部、ヴラディヴォストーク(ウラジオストク)の人々の一部、ギリシャ関係の商社、とある輸入雑貨商、などなど
◎称号:妖精の契約者(詳細不明)
ぬらりひょん(詳細不明)
◎特殊称号:勇者(アーサー王を召喚可能だが、令呪はない)
◎脱童貞の機会:ケッコンするまで無いため、艦娘やそうでないモノたちと何度混浴しようが添い寝しようが絶対防御される。ただし、なりなりてなりあまれるモノは普通に反応して(自粛)なことになる。それは男性故に仕方ない
◎死に至る旗:何度も何度も死亡に至りそうな危機が発生しているけれども、特殊技能や加護などでなんとか乗り越えている。また、万一おっさん提督以外の人間が函館鎮守府の提督になった場合、なんらかの理由で死亡または行方不明となる確率は一週間以内で九割以上となる。もし仮にそうなった場合は、事故として処理される
◎フラック:四連装対空二〇ミリ機関砲に非ず。危急存亡の際に助力してくれる予定の、地獄の道化師。普段は某迷宮の奥深くで踊っているらしい
◎桃色系所蔵品:小樽の提督や呉の先輩などから送られてきた桃色系円盤や写真集などはことごとく没収済み。ただし、代用品を大量に与えられている
◎使用済各種品目:高価値商品
◎飲み会:魔王やメトロンとたまに飲み屋へ行ってくだらない会話を繰り広げているのが通常だけれど、時には重要な会議をしているらしい
◎特殊装備:魔王の護符、メトロンの御守り、ウルトラの腕輪(後日入手予定)
◎世界的至宝的所有物:メトロンが気まぐれにくれた著名な欧州的芸術家の作品複数点は、全点執務室に展示。新品同様なので基本的に複製品と思われている。「こそこそ隠すよりも、堂々と展示していた方が逆説的に安全だと思いますよ。」とはおっさん提督の弁
※以前発表した設定と齟齬が生じる場合、こちらの方が優先される予定です
※状況によっては容赦なく変更になります
※予定は未定であって決定とは限りません
※この設定が作中に於いて完全に機能するとは限りませんので、あらかじめご了承くださいませ
※これだけ権能があっても、おっさん提督は死なない程度にしか使えていません。ステータスを見ることなぞ出来ないのですから
※トーキョーN◎VA(第二版)風に言うとカブト◎,カリスマ,エグゼク●
参考:+九の調理技能を有するのが李さん。食べた人すべてを魅了すると言われる超絶技巧料理人で、あちこちから狙われている
ちなみに、彼もメトロンや魔王様同様に童貞
事務局に詰める事務員的魔族も童貞揃い
厨房へ武者修行に来ている男衆は不明瞭
函館鎮守府の男衆に於ける童貞率は高い