はこちん!   作:輪音

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艦娘は提督になにを求める
ある艦娘はその日の任務の為に
ただ引き金を引き
ある艦娘は作戦成功の為に
己の手を血潮に染める
またある艦娘は
実りなき野心の為に
硝煙と死臭にまみれる
艦娘はやがてひとつの流れを作り
川となって大海を目指す
幸せという形のないものを
ひたすら求めて
彼女たちは時に流れに逆らい
そして
力尽きて流される

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか





ⅩⅩⅩⅡ:俺の月はいつもそこにある

 

 

ところどころコンクリートがひび割れ、雑草があちこち生える海岸。

旧いコロニアル様式の白い建物は、ところどころ塗装が剥げている。

鉄柱のあちこちが錆びた工廠。

密林にどんどんと近づく中庭。

まるで廃墟に見えかねぬ場所。

それが俺様の着任した鎮守府。

珈琲と黒砂糖とラムが産物の諸島。

旨い珈琲を飲めるくらいが利点だ。

現地スタッフはくっちゃべってばかりで、給料を与えると平気で何日も来ない。

金が無くなった頃、ようやくヘラヘラした顔でやって来る。

元艦娘たちを雇ったら、最初は真面目に業務をしてくれるがその内現地人に口説かれてさっさと退職する。

バブル時代のOLみたいだ。

所属する艦娘たちはいずれも余所の鎮守府から追い出されるような奴らばかりで、こちらの言うことなんざ聞こうともしない。

 

てーゆーかさー。

なんだよー、提督になったら艦娘とウハウハ出来るんじゃなかったのかよー。

なんで函館のおっさんばっかりモテモテなんだよー。

あんなぼんやり野郎が艦娘と毎晩夜戦してるんじゃねえかと思うと、ムラムラしてメラメラしてヤキモキするぜー(作者註:函館鎮守府の提督は当分童貞予定です。念のため)。

なんの為に半年訳のわかんねー座学や実習を受けたと思ってんだよー。

なんで駆逐艦の頭を撫でたら怒られるんだよー。向こうも喜んでたから問題ねーじゃねーか!

なんで重巡洋艦のおっぱいを見てたら怒られるんだよー。

あんなにでかいのをユサユサやられたら、誰だってじっくり見るだろ!

なんで大破した艦娘の姿を堪能していたら怒られるんだよー。

やられたところをよく見ねーと今後の参考にならねーだろー!

もー訳わかんねー。

お飾り鎮守府だから戦績は問わねえって聞いてたのに、なんで大淀からゴチャゴチャ言われなきゃいけねえんだよー。

あの眼鏡、うざってえー。

叢雲(むらくも)とか曙とか満潮とか大井とか摩耶とかもなんかうるせー。

駆逐艦と風呂に入ったくれーで怒りやがってよー。

俺様、執務室に閉じ籠もるぜー。

これぞまさに、天の岩戸だぜー。

望月、お前だけだよ、俺様の味方はよー。

 

「ん……もう少し上……そこ……ん……段々……ん……上手くなっ……ん……司令官……ふう。」

 

どーでー、俺様の肩揉みはよ。

 

「最初は痛かったんだよね。」

 

ここはどーよ。

 

「そこはまだダメ!」

 

でもよー。

 

「だーから痛いってばよ!」

 

でもこんなに……。

 

「つーか、マジで痛いっての!」

 

あー、悪かった。

でもよー、俺様、マジでお前のことが……。

 

「司令官、たまには部屋の外に出たいんだけど。」

 

そんなつれねーこと言うなよー。

ホラ、間宮特撰羊羹だ。

限定品のやつだよ。

手に入れるの大変だったんだぜー。

前から食いてえって言ってただろ?

通販で、札幌のパティスリーヨシの焼菓子も買ったんだ。こっちも食えよ。

『恋は叢雲のように』も『ヘルシング』も『ドリフターズ』も『イケない萬九郎』も揃えたし、ホラ、お前の下着も靴下も用意したんだ。フリルが付いてて可愛いだろ。

 

「司令官も、たまには部屋の外に出た方がいいんじゃないか?」

 

俺様はお前とだったら、ずっとずっとここにいるだけでいい。

執務室と私室は繋がっているし、往復するだけで済むからな。

台所も冷蔵庫も風呂場も洗濯機もあるし、全部ここで済むぜ。

 

「あたしが一番いいだなんて、どんなぬるい司令官なんだよ。……ってまあ、悪い気はしないね。」

 

お前は俺様の輝ける一番さ。

 

「な、なんか照れるね。でも、あたしなんかのどこが気に入ったんだ?」

 

全部だよ、全部。

言わせんなよー。

 

「そ、そうか、あたしは愛されているのか。」

 

そーだよ。

お前だけだよ、俺様の人生の中で俺様のことを全否定しなかったのは。

これからも頼むぜー。

 

「う、うん。ところで現在の秘書艦はどうなっているんだい?」

 

全部一人でやってるぜー。

大淀はやたらうるせーしよー。

みんなイヤイヤやってっしな。

もーなんか一人でいっかー、って感じだし。

 

「手伝うよ、司令官。」

 

でもよー。

 

「あたしだって、恩義に感じることくらいはあるさ。」

 

そっかー。

流石俺様の望月だなー。

お前さえいてくれたら、俺様は十年くらい戦えるぜー。

 

「お、大袈裟だね。」

 

愛してるぜ、望月。

いつもそこにいてくれよ。

 

「と、取り敢えず書類作業を済ませようか、司令官。」

 

お、おう。

なんかえらく真面目モードだな。

いつものだりー発言はどうした。

 

「これだけずっとゴロゴロやってたら、流石に飽きるさ。」

 

そ、そうか。

やるぜやるぜやるぜ!

 

「執務後にお話しましょうか、提督。」

 

振り向くと、じい様憲兵がそこにいた。

その昔特機隊にいたとか聞いた老人だ。

俺様よりも遥かに強いのは間違いねー。

 

「いろいろとお聞きしたいことがありますので、お覚悟なさってください。」

 

放課後に呼び出しをするベテラン教師のような表情で、彼はそう言った。

 

モッチー。

俺様を導きたまえ。

ああっ!

お月様!

 

 

 

 

 





【オマケ】

『はこちん!』世界に於ける一部レア艦所属先鎮守府(現役限定)

◎島風
[横須賀第一]
[呉第一]
[函館(量産型)]
最速駆逐艦。
最も撮影されている艦娘で、広報誌や雑誌に載る確率も一位。

◎大和
[呉第一]
[横須賀第一]
戦艦。
その破壊力は随一。
本人曰く「ホテルじゃありません。」
ラムネ作りに定評あり。
『波動砲計画』があったとかなかったとか。

◎武蔵
[佐世保第一]
[舞鶴第一]
戦艦。
豪快な武闘派。
酔うと脱ぐ。
面倒見のよい姉御肌。

◎長門
[四大鎮守府の各第一と第二に在籍]
[大湊]
[ブルネイ]
[函館(元教官)]
戦艦。
連合艦隊旗艦。
頼れるお姉さん。

◎陸奥
[四大鎮守府の第三、第四、第五、第六に在籍]
[大湊]
[海外の泊地にも何名か在籍]
戦艦。
色っぽいお姉さん。
ケッコンしていることが多い。

◎瑞鶴
[横須賀第二を中心として四大鎮守府に二名ずつ在籍している]
[台湾(大湊から派遣)]
[大湊]
正規空母。
姉が沢山いる幸運艦。
正規空母の加賀とは、因縁の間柄だったり仲良しだったりとバラバラな関係。
小規模な鎮守府へ姉たちと共に応援に行くことも多い。
台湾のアイドルでタイワンシックスのひとり(大湊の翔鶴からはいつも心配されている)。

◎瑞鳳
[佐世保第一]
[呉第六]
[大湊]
軽空母。
玉子焼き作りの名手。
瑞鶴と共に、小規模な鎮守府へ応援に行くことが多い。その日の夕食を手伝うことも多く、心待ちにする艦娘も少なくない。

◎雪風
[台湾(大湊から派遣)]
[呉第六]
[佐世保第一]
[舞鶴第三]
駆逐艦。
幸運艦。
台湾のアイドルでタイワンシックスのひとり。
空を飛ぶ者がいるとかいないとか。



※他の子たちはまだよく考えていません。
※建造はどの鎮守府もドカドカとは出来ません。よって、『建造祭』だとか資源を溶かしまくったとかいう事例は発生していません。いない筈です。







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