はこちん!   作:輪音

320 / 347




ロシア驚異のメカニズム
次々と開発されるコンバットアーマー
パーフェクトコミュニスト
ズベズダもプラモデルにしたい
人型機動兵器ニコラエフ




今回は四五〇〇文字ほどあります。





CCCⅩⅩ:ニコラエフ

 

 

 

 

春なお寒い今日この頃、雪のちらつく中、函館鎮守府に小樽の提督が来訪した。

業務の合間を縫って、彼女とひそひそ話をする。

メトロンの技術が用いられた防諜設備のある会議室にて、我々は日露秘密会談を行った。

なんちて。

 

「これが祖国の戦術的切り札と称される、サヴァロフAG9ニコラエフの写真だ。見たまえ、タヴァリーシチ(同志)。なかなか笑えるだろう? 発明家が国中に溢れ、シャーロック・ホームズと純文学とSFとを好むロマンティックな国民性が特徴の我が国らしい。」

 

そう言って、小樽鎮守府と同地に住むロシア人の元締めたる女性提督は私に数葉の写真を手渡した。

なんだこれ。

戦闘ヘリのローターと後ろをぶったぎったような上半身に二足歩行用の下半身付きの兵器が、飛んだり跳ねたりしている。

一見不安定に見える体格だが、存外安定した均衡性を保てているようだ。

両の脚にはそれぞれ六連装の噴進弾発射装置があり、右肩には大型砲が設置されている。

軽快な動きからすると機動性は高そうだ。

併せてこの奇妙な巨人がぴょんぴょん跳ねる動画も見せてもらったが、ロシア軍は本気でこの変わった兵器を戦場に投入するのだろうか?

そういや、日本でも四脚型の多脚戦車を開発しているって呉の先輩が言っていた。

写真をこの間見せてもらったが、まさに脚付きの戦車といった感じの兵器だった。

世界的な流行?

世界的な潮流?

ドイツやメリケン辺りでもなんか作っていたりして。

 

「この奇妙な二足歩行型兵器を、軍部は対深海棲艦戦闘に於ける決定的且つ強力な対抗存在とする腹積もりだそうだ。まあ、一種のファンタジーだな。一応のお題目としては、暴徒鎮圧と対空戦闘が主体という話になっている。そんな偽装をせずとも、他国はそれほど気にしないと思うがな。ま、なんでも複製してしまってそれを自国で独自開発したとのたまう国家もあるから、斜め上の行動を取る相手には油断をせぬことだ。」

「ハインドみたいな既存の戦闘ヘリを重武装化した方が、より建設的なんじゃないですかね。」

「ミグやスホーイ辺りも現在進行形で頑張って兵器を開発しているらしいが、この国の艦娘のような戦果は未だに生み出せていないのが現状だ。チシマにあるマトゥア島の対深海棲艦打撃艦隊も苦戦しているらしいしな。日本の駆逐艦系艦娘に負けているようでは、たかが知れている。それから、あそこにはあと何名か艦娘を入れた方がいいぞ。」

「最優先課題のひとつとして、こちらも提言はしているんですがね。それで、ロシアの艦娘はどうなんです?」

「軍部曰く、第二次世界大戦の頃じゃあるまいし少女に鉄砲を持たせても国家の威信には繋がらないとのことだ。お飾りとしての有用性は検討中のようだがな。」

「はあ。」

「このニコラエフが開発された時の標語だが、『戦車以上の不整地走破性を持ち、戦車や戦闘ヘリ以上の火力を持ち、戦闘ヘリ以上の稼働時間が特長』だったそうだ。」

「ほう。」

「最初期に作られたニコラエフは操縦席と火器管制席とから成る複座型で、それは現在練習機として使われている。その初任務は、カリーニングラードで発生した暴徒に対して速やかな鎮圧を行うことだった。上半身下部に設置された二門のチェーンガンは、事態を収束させるのに大変効果を発揮したそうだ。今も広報の連中はそう強調している。人型だったことは暴徒へ恐怖感と威圧感を与えることに繋がり、軍部は結果に一応満足した。」

「『暴徒』の鎮圧ですか。」

「痛ましい話だが、早急に対処しないと国中に暴動が広がる恐れはあった。それ故の投入だ。暴動を起こす者は国民でないとする認識の高官も複数いることだしな。理想論では、我が国は経営出来んよ。」

「戦うのは戦場だけであって欲しいものです。」

「まったくその通りだ、タヴァリーシチ。カリーニングラードで一定以上の成果を挙げたニコラエフだが、ここから苦戦が始まる。情報統制をしていた筈だが、情報漏れした西側諸国から痛烈な批判をされたこともあり、事態は軍部の予想外の方向へ向かったとも言える。」

「二足歩行型兵器への対抗手段が、速やかに構築されたのですか?」

 

彼女の瞳がギラリと光る。

 

「くくく、勘のいいタヴァリーシチは嫌いじゃないぞ。知っての通り、深海棲艦による沿岸地域破壊活動はクレムリンへ経済的大打撃をもたらした。即座に派遣された戦闘部隊は瞬く間に壊滅した。五次に渡って討伐部隊が深海棲艦群へと送り込まれたけれども、結果は惨憺(さんたん)たるものになった。これによって彼らは弱体化した訳だが、それに伴って複数生まれた反政府組織や抵抗組織は、鎮圧に向かったニコラエフの脚部と操縦席を徹底的に狙った。情報が漏洩していたと考えるべきだろう。何人もの将校が粛清されたけれども、無実の者を吊るした結果は軍部の更なる弱体化に繋がった。無残だな。そして複雑怪奇な西側諸国が徒党を組んでロケットランチャーや対空ミサイルや対物ライフルなどを反政府組織へ供与したことも、我が祖国へ甚大な被害を与えた。連中、なにをやったのかそれすらも理解出来ないようだ。団結すべき時に分裂するなど、愚の骨頂にしか思えん。ウクライナでも小賢しいことをしているようだしな。人はなかなか賢くなれないみたいだ。悲しいとは思わんかね、タヴァリーシチ。」

「クラークの小説みたいにはいきませんね。」

「その通りだ。」

 

小樽の提督は、少し悲しそうな顔をした。

 

「数々の愚行の結果、『親欧米的』と見なされ疑われた政治局員は次々に吊るされるかシヴェリア送りとなった。実に馬鹿馬鹿しい行為だ。で、ロケットランチャーや対物ライフルなどは実行現場に何挺もあったそうだから、『政策的に好ましくない』とされる国々の紐付きな武器商人が暗躍したのは間違いない。ただまあ、英国製の兵器だとしばしば発射出来なかったり装弾不良になったり、時折信管がきちんと働かないこともあったみたいだ。」

「英国製はアカンですか。」

「武器と食事に関しては厳しいな。物語や服飾や紅茶や菓子や酒などは優秀だが。」

「そういうものですか。」

「そういうものだな。それで、だ。激化する状況の中、肉片となる前にニコラエフを撃破した猛者も複数いる。二週間で合わせて五機のニコラエフを失った軍部は、報復措置として空爆部隊と戦闘ヘリを敵の複数ある拠点に投入。結果として敵対的不正規戦闘部隊の大半を行動不能に至らしめたが、都市機能も併せて大いに麻痺させてしまった。クレムリンは今もその後遺症で悩まされている最中だ。」

「うわあ。」

「で、どうだ?」

「どうだ、とはなんでしょう?」

「鈍い奴だな。何機買ってくれる?」

「……は?」

「このような兵器が深海棲艦との戦闘に役立つ筈は無かろう。軍部からオタルへの配備を打診されたが、断っておいた。オタルは勇猛なる艦娘と我が優秀なる兵士たちと頑丈なハインドなどで十分だからな。ただ、沿岸警備用の張りぼてとしてならば多少は使い物になるだろう。そう思わないか?」

「いえ、全然。」

「取り敢えず、二機でいいんだ。」

「あの、お隣の国はどうですか?」

「他国の商船向けとされた出来かけ空母を騙して入手し、自国で独自開発したとして完成させ、しかもそれをいけしゃあしゃあと艦隊旗艦にするような国だぞ。おまけにその空母の艦載機まで蜂蜜作戦で情報を盗んだ結果だし、息を吐くがごとくにちょっとでも都合の悪いことをすべて隠蔽する。しかも、今は三国に別れているじゃないか。あんな奴ら、信用なんかこれっぽっちも出来ん。多数の国民の期待を背負って生まれた割にコケまくる、ドジっ子な我が国の方がまだ数段ましだ。ルーブルは国際的に信用が無いけれども、あの国の通貨はそもそも……まあ、そんな話はどうでもいい。」

「はあ。」

「実は、ニコラエフは既に量産態勢に入っているんだ。」

「えっ?」

「クレムリンは月産五〇機を目標にしているらしいが、生産工場ではそんな数を作れる状況から果てしなく遠い。必死に作って月産五機出来るかどうかだな。操縦士の育成も順調とは言い難い状況と聞いた。前途多難だよ。」

「えええ。」

「二機を即決で購入してくれたら、私の権限で更に練習機と先行量産機を一機ずつ無料で進呈しようじゃないか。タヴァリーシチの顔を立てて、私がなんとかしよう。」

「私の一存では決められませんし、とても予算は下りそうにないですよ。」

 

話し合いは二時間続いた。

小樽の提督はやがて、イタズラを思いついたような顔で私に言った。

 

「わかった。では、慈悲深い私は練習機と先行量産機をタヴァリーシチに与えよう。各種部品も特別なオマケで付けてやる。さあ、喜ぶがいい。」

「こんな時、どんな顔をしていいのかわかりません。」

「笑えばいい。ほら、こうしてみろ。」

「あはは。」

 

 

 

 

函館鎮守府に新しい名物が生まれた。

名前はニコラエフ。

ロシア驚異のメカニズム。

弾を装填していない、大きな案山子。

練習機先行量産機強行偵察機の三機。

さっそく全国各地の明石や夕張や物好きの技術者などが大挙して函館を訪れ、国内のマスメディアからも取材依頼が殺到した。

カストリ雑誌系の取材は大本営がすべて断ったそうだが、現在もなんとか生き残っている彼らは大変執拗である。

今後もねちこく絡んでくるだろう。

行方不明者が増えないことを望む。

 

「ねえ、提督、この子を分解していいですか? ちょこっとでいいんですよ。分解したらちゃんと組み立てますから。」

 

キラキラした笑顔でスパナをブンブン振り回すどこかの明石。

鼻からオイルを漏らして瞳孔が開いた状態で私に詰め寄る彼女は程なく、警備にあたっていたにゅうこうしえんかんたいの海防艦たちに捕まった。

私に近づき過ぎた彼女は、やがてどこかへ連れ去られてゆく。

 

広報の青葉や富竹中尉などが、ニコラエフをぱちぱち撮影している。

青葉も鼻からオイルを漏らしていた。

爽やかに笑う富竹中尉は相変わらず、「富竹フラッシュ!」と叫びながら撮影している。

稼働時のニコラエフのようにぴょんぴょん跳ねながら。

 

 

 

 

先日もゾンビ映画への出演を打診されたのを、不意に思い出す。

貧乏ながらも映画監督を続けている先輩が熱心に勧誘するのだ。

先輩曰く、役者が足りないという。

気に入った役者という意味だろう。

美人のポロリが随所にあるらしい。

可愛くて若いけれども仕事がろくに無いセクシー系の女優を掻き集め、それを売りにするという。

普段ポロリをしているし、されてもいる。

あまり興味はないな。

 

 

今宵は鎮守府内の『ウスケシ放送局』で、初雪望月とラジオ放送しなくてはならない。

『ハッチーモッチーステーション』だ。

両名はニコラエフをネタにする気満々。

問い合わせがわんさか来るだろうなあ。

風が冷たい。

雪花が舞う。

北の国に春はまだ遠い。

最低気温が氷点下になることもしばしばである。

鍋にしようかな?

冷える夜にはやはり鍋だ。

大洗経由でもらったアンコウもある。

さてさて、頑張って料理をするぞい。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。