「駆逐艦二番と四番、それと五番が大破。戦闘不能です。」
「残りの兵力で艦隊を立て直せるか?」
「やってみます。」
「タンゴリーダーより各艦、後方に機雷原。その場で待機せよ。」
「タンゴ壱より、旗艦前方に艦娘多数接近中。目標艦隊規模、なお増加中。」
「警戒、二時方向に熱源反応。」
「方位〇四〇、移動目標。」
「距離三二〇〇〇、移動目標多数。戦艦らしき熱源反応、主砲の射程に入ります。」
「タンゴリーダーより本部、妨害勢力の脅威が更に増大中。発砲の許可を要請する。」
「本部よりタンゴリーダー、即時に発砲し、艦娘を迎撃せよ。現在、ガウダ隊がそちらへ急行中だ。合流して敵を粉砕せよ。繰り返す、即時に発砲し、艦娘を迎撃せよ。全力で討ち果たせ。」
「タンゴリーダーより本部、敵の攻撃力が高く、回避不能。本部聞こえるか。」
「前方より戦艦主砲らしき熱源。」
「欺瞞的防御、間に合いません!」
「前方より更なる熱源反応あり。」
「敵の攻撃範囲より脱出出来ません!」
「隊長ーっ!」
「戦列を整え、食い止めろ!」
「敵機をすべて撃ち落とせ!」
「増援は、あのガウダ隊だ! あいつらが来るまでの辛抱だ!」
「敵だって、無敵じゃない。こちらの攻撃だって通じる筈だ!」
「撃ち返せ! 対空防御強化! 雷撃防御用の囮を放て! 奴らにこの海は渡さん! やらせはせん! やらせはせんぞ!」
※誤字報告をいただきまして感謝します。
※今回は三〇〇〇文字近くあります。
機動戦士的作品の擬似現実的電脳遊戯が開発されたとかで、我々提督は公国軍と連邦軍とに分かれ、業務の合間を縫って戦うことと相成った。
どうやら、こうした娯楽作品で政府への批判的矛先をそらす方針らしい。
我々は被験者として採用されたようだ。
ぶっちゃけ、モルモットか。
お題目としては、各産業経済分野での技術的応用範囲がすこぶる広いのだとか。
ふーん。
業務終了後の休息時間。
自室に電脳遊戯用ヘルメットを持ち込んだ私は、五感を電脳空間で変化させてゆく。
今夜の艦娘たちが密着してくるけれども、致し方ない。
私は公国側で戦うことを選択し、先ずはルウム戦役へ参加することになった。
乗機はザクⅠ。
旧ザクとも呼ばれる機体。
相棒はシーマ・ガラハウ。
彼女は無作為抽出方式で撰ばれた副官だ。
勇猛果敢な戦乙女らしい。
青地に白線を入れた機体で旧式重巡洋艦のチベから出撃し、同様に出撃する先輩同僚後輩NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)たちと共に宇宙(そら)を駆ける。
シーマ機は暗い紅に白線。
ちなみに我が機は『壱號機』と右肩に備え付けられた楯へ白文字で入れ、シーマ機は『弐號機』と入れている。
二八〇ミリ噴進砲と一二〇ミリ機関砲と白熱的戦斧とを駆使し、巡洋艦二隻と突撃艇五機、並びにガンキャノンの初期型と思われる機体を二機撃破した。
シーマ機も巡洋艦一隻と複数の兵器を撃破し、順調に戦果をあげていた。
ジャブロー戦では可愛らしいアッガイに搭乗し、潜入任務に従事することになった。
この機体は我が鎮守府の駆逐艦たちから圧倒的な支持を集め、他の艦種からも人気を得ている。
おそるべし、公国水泳部。
塗装は通常通りで、シーマはゴッグに乗って後方支援任務となる。
量産型モビルスーツの生産工場を予定通りに爆破したのはよかったものの、白い悪魔に追いかけ回される破目に陥った。
悪魔が赤色のズゴックと激戦を繰り広げている間に、すたこらさっさと逃走した。
ゾックが果敢に光学兵器で支援してくれはしたものの、白い悪魔は幾つもの光芒を平然とくぐり抜け、ビームサーベルをゾックの操縦席へあっさりと突き刺した。
連邦のモビルスーツは化物か!
右腕を失ったもののそれでもなんとかアマゾン川へと逃げ込めたし、途中でシーマのゴッグに回収されたのでなんとか基地へ帰投出来た。
オデッサ戦には不参加することにした。
書類仕事が大変だったので、それどころではなかったのだ。
初雪望月などにぶーぶー言われたが、自作のべっこう飴で黙らせておいた。
戦局の推移は録画されたものを見る。
公国勢は奮闘したものの、白い悪魔やジム陸戦型を含む精鋭部隊が無茶苦茶に戦場で暴れまわって結局は負けていた。
むう。
マ・クベ司令はギャンに搭乗して獅子奮迅の活躍を見せ、最終的には連邦軍艦隊に突撃して壊滅的打撃を与えていた。
ソロモン戦が始まった。
試験的運用はこの一戦でおしまい。
それ故に、気合いを入れて戦おう。
事前打ち合わせで担当部署を再確認する。
連邦軍はどうもかなりの戦力を投入しているようだ。
人海戦術というか、米帝様式というか。
物量ではどうにもならないのが残念だ。
公国軍は意気盛んだが、連邦軍はじわりじわりとこちらを追い込んでくる。
まあ、やるだけやるさ。
私用に調整されたギャン・マリーネへ搭乗する。
巨大なビームランスが頼もしく心強い。
シーマはゲルググ・マリーネに乗った。
宇宙の戦場は音も無く、資源や人命を光球或いは残骸へと否応なしに変化させる。
幾つも、幾つも。
ザクレロとビグロの混成部隊が戦艦や巡洋艦の群れに突撃する。
ブラウ・ブロが有線攻撃で、量産型モビルスーツ群を駆逐する。
旧ザクがおそれることなく敵のモビルスーツに肉薄し撃破する。
司令がモビルアーマーに乗って出撃するとかしないとかの、混乱した情報が飛び交っている。
敵のモビルアーマーが大砲をぶっぱなしながら、隊列を作って攻撃してくる。
串刺しにしては破壊し、ダブルスコアはトリプルスコアへと容易く変化する。
まだまだ新手がやってきそうな気配さえ、この戦場でひしひしと感じられた。
まだだ、まだ充分やれる。
シーマの無事を確認しながら、新しい獲物を探すため、バーニアを吹かした。
要塞方面から巨大な光芒が放たれ、それは敵艦隊が含まれた多くのモノを呑み込んでゆく。
あれは……あれは……もしかして、トールハンマーか?
それとも……ガイエスハーケン?
木馬を途中で見かけたけど、弾幕が激しすぎて近寄ることすら出来なかった。
代わりに、近くにいるマゼラン級戦艦を撃沈することにしよう。
ビームランスはあっさりと戦艦の艦底を貫き、スパッと斬り裂いた。
シーマの放つ光の線が艦橋に穴を開け、そうして戦艦は大爆発した。
そういう感じで、戦艦五隻と巡洋艦八隻を撃沈する。
だが、砲撃は依然として激しい。
いや、ますます激しさを増してさえいる。
モビルスーツやモビルアーマーや突撃艇も二桁破壊。
それでも、敵はうじゃうじゃやって来る。
斬り裂いても斬り裂いてもどんどん来る。
まるで無限の軍団を抱えているかの様に。
物量差を嘲笑うかの如くに、迫って来る。
倒しても倒しても、追加の連中が訪れる。
深海棲艦がこんなんじゃないといいなあ。
ま、目の前に迫る奴らは倒してしまおう。
別に全機を撃墜してかまわないのだろう?
他の部隊に戦列維持を任せ、機体を後退させた。
一旦要塞に戻り、補給する。
連邦軍主力艦隊を周辺からちまちま削ることが、次なる目標として提示された。
要塞から出撃した全機が奮闘していたけれど、多勢に無勢なのは明らかだった。
司令は既にモビルアーマーで出撃し、トリプルスコアを易々と達成したという。
青いゲルググや赤いゲルググなど、親衛隊の機体も全力で護衛しているそうな。
よし、右肩も赤く塗ったことだし、それでは有終の美を飾りに行くとしようか。
最終出撃が通達され、我々は気合いをより一層入れて発進した。
もうこれで終わりなのだと、なんとなくセンチメンタルになりながら。
あれは、G3か?
ザクⅡやリックドムを次々に撃破しながらこちらに迫ってくる、灰色のモビルスーツを見据えた。
速い。
だが。
こちらも機動性を高めた機体だ。
早々墜とされはしないさ。
ブラウ・ブロが有線型光学兵器を用いて、敵機へ猛烈な全周攻撃を仕掛ける。
熟練者が乗ったような灰色の機体はとんでもない機動性を見せつつ、有線型光学兵器を順次無力化してゆく。
なんだ、あの動きは。
化物じみた回避能力。
あれに私は勝てるか?
ブラウ・ブロの支援に乗り出すが、動きが速すぎて当てることすらかなわなかった。
背中に目の玉でも付いているのか?
弾除けの魔法でも使っているのか?
シーマ機と連携して弾幕を張ってはみたものの、我々の攻撃は至極あっさりとかわされる。
再度狙いをつけた瞬間。
奮戦していたモビルアーマーは数条の光の線によって貫かれ巨大な火球と化し、その影響で我々は瞬時敵機を見失う。
ん?
どこだ?
見えた!
そこっ!
偶然か否か、僅かな動きから相手の存在を確認する。
先輩か?
あの動き、覚えがある。
ビームライフルがこちらを向いた。
見える!
避ける。
ビームランス最大展開!
全火器の安全装置解除!
ははは!
この気配、この雰囲気!
これこそが戦場よ!
全力でぶちかますぞ!
先輩、お覚悟!
函館鎮守府の講堂。
そこに設置された大型液晶ディスプレイに映るは提督の勇姿。
居並ぶ艦娘たちはその姿に声援を送る。
しかし、そこに彼の僚機が近づくと不満の声をあげた。
優秀な機動兵器乗りたる女将校。
その腕前は全体でも上位に入る。
しかし、そんなことは関係ない。
気安げな口調で自分たちのオトコに話しかけ、おちょくる真似までしてくれる。
現実にそんな人間の女性がいたならば、なにをされるかわかったものではない。
周囲でメキメキ、とか、バキバキ、とか聞こえてはならないような音が響いた。
提督主演のドラマを撮る話がコケてよかったなあ、としみじみ思いながら講堂にいた男衆は戦略的撤退を開始した。
他でもこれを見られるから問題はない。
なに、あの女。
私の司令に近づくだなんて。
いい度胸ね。
様々な心の声が実際の音となって、周囲に呪詛を撒き散らす。
最初は何人もいた男性陣だが、今は一人たりとて存在しない。
宇宙人も悪魔も人造生命体もその他も皆等しく撤収していた。
ロッテを組んで螺旋機動する二機。
パパッ、パパパッ、と砲口が咆哮をあげると次々に狙われた相手が消えてゆく。
元々戦の申し子たる艦娘だ。
仮想現実的戦闘とはいえ自分たちの愛する男が活躍する姿には、彼女たちの魂をきゅんきゅんさせるものがあった。
僚機に搭乗しているのが同性だったなら、もっとよかったのに。
そう考えつつも、惚れた男に熱い声援を送る戦乙女たちだった。
歓喜と怨嗟と喜びと怒りなどが、どろどろと渦巻く空間。
盛り上がる艦娘たちの勢いはとどまるところを知らない。
画面上の戦いはまだまだ終わりを見せようとしなかった。