はこちん!   作:輪音

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講習会と称して、国内外の駆逐艦たちが函館に集まった。
鎖分銅の扱い方を習うためである。
分銅は人間が扱っても敵対者の頭蓋を砕けるほどのもの。
取り扱いは気をつけねばならなかった。
小銭をハンカチーフに包んで紐に結んだなんちゃって鎖分銅も、それはそれで立派な武器だ。
講師の島風と吹雪とが手本として鎖分銅を振り回し、用意された木製の標的をあっさり砕く。
並行して、十手や鉄扇や鉄刀などの講習も行われた。
併せて、他艦種の殺り方も教わる。
それぞれの艦種には弱点があり、それを突くことで勝機が見えてくるのだ。
深海棲艦の倒し方と似通っている。
上司とのおふざけで急所責めを覚えた駆逐艦が、照れながら様々な寝技を披露する。
激しいブーイングがしばし辺りを満たしたけれども、情報の共有が素早くなされた。
一日に満たない時間の講習会だったが、基本は彼女たちの身に付いた。
後は習練あるのみ。
司令官或いは司令もしくは提督を得んがため、駆逐艦たちは帰路についた。
熱き野心に燃えながら。








今回は四五〇〇文字ほどあります。







CCCⅩⅩⅩⅢ:クリスマス決戦~戦う者の掟

 

 

 

 

 

作戦遂行のためには

目の前の味方を時には倒すのも

仁義なき戦いの鉄則

肥大化する愛情が

戦士の心を暴走させる

愛とはなんだ

恋とはなんだ

硝煙の彼方に

理想がかすむ

提督の思惑が見えなくなってきた

 

『戦う者の掟』

 

Not even justice,I hope to get to truth.

真実の灯りは見えるか

 

 

 

 

 

 

 

艦娘。

それは、戦乙女。

深海棲艦との戦いへ果敢にその身を投じる存在。

中でも駆逐艦と呼ばれる艦種は、最も勇敢だと言われることが多々ある。

どんな相手にでも、おそれを知らぬかのように立ち向かってゆくからだ。

あらゆる局面に対し、その武装を多様に換装しては千変万化に対応する。

それが、駆逐艦。

艦娘の基幹戦力。

デストロイヤー。

 

 

遠征

初詣

演習

セッツブーン

護衛

ヴァレンタイン

演習

遠征

ひな祭り

支援艦隊

大型作戦

運動会

演習

夏祭り

大型作戦

水泳大会

演習

秋祭り

芋煮会

演習

遠征

護衛

大型作戦

などなど

 

この一年を通し、数々の熾烈な戦いに於いて戦果をあげてきた駆逐艦たち。

彼女たちの今回の目的は、司令官または司令或いは提督と夜を過ごすこと。

一緒にいられる。

ただ、それだけでいい。

 

孫子曰く、『心を攻めるが上策』であると。

彼の心の扉を開かねばならない。

開くためには逃げ道を塞がなければならない。

すべてはそれからだ。

 

 

 

そして迎えるは耶蘇教の祭の前日。

旧き敵方の祝祭日的前夜祭開催日。

様々な神を寛容に受け入れてきた多神教系日本人(嗚呼、女神転生)の多くは、欧米人的神様系行事を祭の部分だけ引っこ抜いて楽しんでいる。

なに、この行事だって元をたどれば……まあそれはいい。

 

ここ函館鎮守府に於いて、駆逐艦たちの戦意は最高潮に達していた。

時刻は夕刻。

駆逐艦たちの集結場所ではかがり火が焚かれ、大いに盛り上がっている。

吹きすさぶ風に舞う雪もなんのその、意気軒昂な彼女たちは突撃準備に余念がない。

四大鎮守府では既に戦いの火蓋が切って落とされており、先日横須賀に着任した新人提督も当たり前のように巻き込まれているという。

正々堂々と戦いに臨んだ駆逐艦群は慢心した他の艦種を圧倒的に駆逐し、現在も優勢に戦局を進めている。

遠征護衛先鋒など常になにかしらの戦陣に加わっている駆逐艦は、いわばサツマニアな精兵。

直情径行の傾向が見られなくもない彼女たちは自分自身の心に対し、比較的忠実に行動する節が見られる。

そして、一旦こうと決めたら真っ直ぐ、どこまでも真っ直ぐ突き進む武辺の傾向があった。

目標達成のための習練は日々怠らず、実戦経験も豊富。

時には絶望的な戦場から無事に生還している。

そんな彼女たちを侮ることは、戦闘する前から戦いに負けることを意味した。

 

函館に集結した数多の駆逐艦たちは念のために分厚い鎧通しの目釘を湿し、自己の装備を再確認し始めた。

夜の戦いは駆逐艦たちの本領。

夜戦上等の他艦種的娘もいるが、それはさておき。

これからの時間は駆逐艦にとって勝機。

自分たちの上司に堂々と近づける好機。

気分が高揚してゆく。

もうなにもこわくない。

ぎらぎらと輝く複数の瞳が一点を見つめる。

あそこだ。

あそこが、はらいそだ。

まるで討ち入りでもするような武装の駆逐艦群は、最初から他艦種とは気迫がまるで違った。

試合と死合いの違い、とでも言おうか。

彼女たちの武装は以下の通り。

 

戦鎚(せんつい、メイスのこと)+2

棒手裏剣数本(痺れ薬を先端に塗布)

パイルバンカー(電磁式、六発)

ローラーダッシュ(不整地仕様)

ターンピック

ロケットブースター

鎖帷子(くさりかたびら)+2

防弾チョッキ+3

勝負下着(日本製、ちょっと大胆)

媚薬(上級悪魔の保証附き)

ワセリン

指輪型光線銃(麻痺光線仕様、メトロン提供)

鉢金

手甲

脚甲

小型の楯+2(リアクティブアーマー採用型)

指錠数個

閃光弾

煙幕弾

まきびし(手作り)

チャフ(アルミニウムの手作り)

催涙弾(手作り)

投網

真田紐

捕縛紐

鎖分銅

電探

スタンガン改弐

鉄扇

などなど

 

 

識別用の赤いバンダナを右肩に巻き、駆逐艦たちは出陣する。

熱き思いを胸に秘め。

 

 

 

 

敵の血潮で濡れた肩

幼い戦鬼と人の言う

函館の街に大戦期の艦艇が蘇る

きじひき高原、アイアンボトムサウンドに

無敵と謳われた最速駆逐艦

情無用、命無用の鉄騎兵

我らの命、三〇億両ナリ

最も高価な人型戦闘艦艇

 

島風、危険に向かうが本能か

 

 

 

 

戦いが、始まった。

ロケットブースターを吹かしながら、ローラーダッシュで提督のいる厨房へ向かう駆逐艦群。

迎撃に向かってきた戦闘機や爆撃機に対し、駆逐艦たちは投網を投げる。

急旋回でなんとか避ける機体もあったが、捕まる機体も多数あった。

屋内戦に於いて本来の性能を発揮出来ない航空機隊の生き残りは、やがて全機撤退する。

駆逐艦は常に六名パーティかそれに近い形で動いており、強敵に対しては日頃の敬意もなんのその、戦鎚や鎖分銅を遠慮なく振り回し倒していった。

包囲殲滅戦を効率よくこなしてゆく。

その姿は正にジャイアントキリング。

うっぷん晴らしではない。

たぶん。

装甲の薄さを装備と人数で補い、格上の軽巡洋艦や重巡洋艦を素早く撃破してゆく。

慣れない屋内での航空機運用で奮闘する軽空母正規空母を、駆逐艦たちは接近戦で果断に討ち果たしていった。

他の艦種も参戦しているが、駆逐艦の猛攻に耐えきれずにどんどん脱落してゆく。

戦鎚や鉄扇や十手や鉄刀などが欠けたり曲がったりして使えなくなろうと、激戦の末に徒手空拳になろうと、幼い荒武者たちはひたすらに目的地を目指した。

小破はやがて中破となり、それでも彼女たちは突き進む。

そこに希望があると信じて。

 

 

 

 

吹き飛ぶ甲板

千切れる艤装

燃える装甲板

踏みしめる廊下から

動乱の鼓動が伝わってくる

提督のいる厨房は未だ遠く

進撃は続く

運命は駆逐艦たちを戦場へといざなう

 

 

 

 

 

動く要塞の戦艦が現れた。

攻撃力と装甲の厚さと継戦能力の高さに於いては、艦娘の艦種中最高峰の彼女たち。

だが、ここは陸上。

しかも屋内。

厚い装甲はあっても、大砲は使えない。

鎖分銅の直撃を幾度も喰らい、麻痺光線を何発も喰らい、六名がかりの一撃離脱戦法に歴戦の戦艦さえもが翻弄されてゆく。

素早い駆逐艦たちの動きに対し、充分以上に対応出来る戦艦は少ない。

勇猛果敢な戦艦はその拳で駆逐艦を止めようとするも、事前に対策済みの彼女たちにはことごとく技を封じられる。

戦場の女王たる豪勇な戦乙女たちが、呆気なく次々に大破していった。

一部の戦艦が激しい大立ち回りで孤軍奮闘するものの、入れ替わり立ち替わりしてゆく駆逐艦たちの波状攻撃にさらされ、やがて各個撃破されてゆく。

事前に入念な訓練をしていた者とそうでない者との差が、ここで明白となった。

猛将たる軍船が獅子奮迅の激闘の末にようやく倒れ、駆逐艦たちは愁眉を開く。

あと少し。

あとちょっとで目的地だ。

 

 

 

 

最後の砦(とりで)は銀色の鎧をまとった青い服の女騎士。

金髪碧眼の美女。

エクスカリバーを構えた最強の戦鬼。

どことなくなんとなく、眼鏡っ子な第一秘書艦に似ている。

気迫はまるで異なるが。

まともに戦えば、駆逐艦全員が血の海に沈むことであろう。

油断も隙もない。

難攻不落の要塞。

今までの戦法はすべて通用しないだろう。

そう思わせる迫力が女騎士には存在する。

 

「ここは通しません。通りたいなら、私を倒してから行きなさい。」

 

全身これ覇気。

輝けるオーラが彼女を包んでいる。

だが、しかし。

駆逐艦たちに緊迫感はまるで無い。

ぼろぼろの彼女たちは陽気だった。

 

「やっぱり……。」

「……だよね?」

「大……あんな……。」

「……淀さん……普段のストレ……。」

 

なにかこそこそ囁きあってさえいる。

 

「そちらからこないのなら、こちらからいきます!」

 

女騎士はエクスカリバーを大上段に構え、殺さない程度に駆逐艦全員を吹き飛ばそうとした。

気合いは充分。

戦意も豊か。

真っ正面からやりあえば、負けることなど万にひとつもなし。

だが、油断はしない。

彼女は気を練ってゆく。

周辺の大気がうねりをあげて、剣にまとわりついてゆく。

この一撃で決める!

彼女が技を繰り出そうとした、その瞬間。

間髪入れず、駆逐艦たちの愛らしい唇から戦いの矢が放たれた。

それは褒め言葉。

べたべたの褒め言葉。

善意から放たれる気遣いの発露。

駆逐艦たちは彼女を誉め殺しにしようと、その口舌を最大限に活用する。

心遣いに充ちた、ふんわりしっとりしたかすていらの如き言霊を用いて。

罵倒系駆逐艦も、口下手系駆逐艦も、内気系駆逐艦も、武闘派駆逐艦も、こぞって思いやりの言葉を紡いでゆく。

心を侵食する糸のごとくに。

数分後。

赤い顔の女剣士は膝を屈した。

 

「くっ、殺せ。」

 

そう言った彼女を置き去りにしつつ、駆逐艦たちは駆けてゆく。

愛と欲望を行動の燃料にして。

 

 

 

 

厨房。

女たちの最終目標地点。

そう、彼女たちは到着したのだ。

中破か大破に近い状態の駆逐艦たちは、実に晴れ晴れしい表情をしていた。

無傷には程遠い様子の彼女たちだが、どの娘も誇らしげな顔でそこにいる。

ようやくここまで来た。

今宵は甘いにおいに満ちている。

そこは殆ど男たちの戦場だった。

女性料理人や菓子職人もいるが。

弩級クリスマスケーキの姿が見える。

竜田揚げや豚カツを揚げるにおいも漂ってきた。

おいしい時間は、すぐそこに近づいてきている。

 

「ああ、丁度いいところへ。」

 

満面の笑みを浮かべ、少女たちの提督が現れた。

それだけで、駆逐艦たちはここまで戦ってきた甲斐があったのだと、なにもかもがとろけてゆく。

オイル漏れしている娘さえいた。

息の荒い少女が少なからずいる。

そろそろなにかが危険領域に突入しようとしていた。

いろいろなモノが見えてさえいる。

提督は素知らぬ顔をして、彼女たちに微笑みかけた。

 

「バウムクーヘンが先程焼き上がったんですよ。」

 

神戸に本社を置くドイツ菓子の店舗から購入した、バウムクーヘン製造機の運用が始まっていたのだ。

街のお菓子屋さんでも本格的なバウムクーヘンが作れるようにと、心血を注いで開発された品である。

不味いことなどあろう筈がない。

老練なる達人のマイスターがお墨付きを与えた機械である故に。

それの導入は厳重に秘匿されていたので、情報通の彼女たちでさえなにも知らなかった。

 

「さあ、どうぞ。」

 

そして彼女たちは提督の手から聖なる焼きたてバウムクーヘンの断片を受け取り、やさしさに包まれながら甘い菓子を堪能するのだった。

勝負はこれからよ、と思いながら。

肝心の勝者が多すぎることに、駆逐艦たちはその時点でまだ気づいていなかった。

血みどろの同士討ちが回避されたのは、提督が食後にお風呂でも一緒に行きますかと提案したからである。

 

そうして、夕食が始まった。

駆逐艦たちはでれでれな顔をしつつ、提督のそばで旨いご馳走を食べまくった。

他艦種の娘たちだが、来年こそは、とウルトラの星に雪辱戦を誓うのであった。

 

 

 

この夜、一皮剥けた提督または司令官或いは司令が何人も発生したという。

ちなみに函館の提督はいつも通りの朝を迎え、雪かきに邁進したと伝わる。

 

 

 

 

 

雪が溶ければなんになる?

雪が溶けたら春になる

たわいない謎かけに秘められた

平和と愛への祈り

戦いを経ずして勝ち取れる提督はいないものか

艦娘たちは己の胸に問いつつも

寒風吹きすさぶ戦場へと向かう

 

Not even justice,I hope to get to truth.

真実の灯りは見えるか

 

 

 

 

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