いつも誤字報告をいただきまして、ありがとうございます。
現在やや不調気味ですが、ぼちぼち低空飛行でやっていきたいと思います。
今回は二三〇〇文字少々あります。
最新鋭の掃海艇あくりょうとうは開発の時点で問題が多発し、その名のもとになった島での記念行事の際には殺人事件さえ発生してしまった。
紆余曲折を経てこの世に生まれた彼女について、これから語ってみたいと思う。
深海棲艦が地球の海で暴れ始めた頃、海上自衛隊では次世代型掃海艇に関する議論が活発に行われるようになった。
あくりょうとうが就役するに至るまでには幾つもの問題が発生し、また、就役日に殺人事件が発生したために悪い意味で有名になってしまった。
殺人事件の方は幸いにも自称名探偵の活躍によってなんとか早期解決に至った。
解決までに何人もの命が失われてしまったが。
掃海艇は機雷の掃海を任務とする軍艦である。
艦船の航行に於いて重大な脅威たる機雷を除去するための艦艇。
磁気反応する感応機雷に対抗すべく艇体は非磁性化されており、無人遠隔作業機などの特殊な装備も有している。
あくりょうとうのそれについてはあわじやえのしまで採用された繊維強化樹脂(FRP)が用いられることとなり、艇体そのものの強度向上が図られた。
武装は他の掃海艇に使われている二〇ミリ多銃身機銃(ガトリング砲とかバルカン砲と言った方が通じやすいかもしれない)ではなく、アンノウンに対応するための火力向上と仮想敵国の戦闘爆撃機への対空戦闘力の向上を図るため、ちくご型護衛艦などに装備されていたボフォース四〇ミリ連装機関砲を採用することとした。
一門当たり一分間に最大一六〇発を放ち、最大射程はおよそ一〇キロメートルの頼もしい武器である。
戦闘は火力!
近隣諸国の情勢が不安定なのも、装備の強化に対する考えを後押しした。
他国の戦闘艦艇と遭遇戦になることは避けたいところだが、相手側が大人しくひいてくれるとは限らない。
一触即発の事態は現実に頻発していたし、あわや戦闘に至る寸前になったことも数回どころではなかった。
侵略してくるのは宇宙人や深海棲艦ばかりでないし、人間同士の醜い争いはこれからもずっと続くだろう。
四〇ミリならば充分抑止力になると期待したい。
だがこれが一部の人権団体及び野党、そしてカストリ雑誌系チンピラ記者の逆鱗に触れ、あくりょうとうの受難が始まったのだった。
彼らは何故か揃って鉄球を握り締めつつ、益体(やくたい)もない言葉を散々喚き散らした。
当然! 鉄球だッ!
後に彼らは鉄球派と称されるようになる。
鉄球派の追及は陰険且つ執拗なもので、彼らが大抵口にするのは非論理的な感情論だった。
しかも現状に則していないというおまけつき。
何故だっ!?
とてもやっていられない。
彼らは「それが流儀ィィッ!」と、謎の定番発言をすることも忘れない。
「冬のナマズみたいにおとなしくさせるんだ!」とイキって連呼することから、フユナマ派と呼称されることもあったという。
あくりょうとうは進水日を普通に迎えられた。
内々のこととして行われたからだ。
だがこれが再度鉄球派の逆鱗に触れ、正式構成員の過半数は国会議事堂前に集結した。
彼らと機動隊との間で睨み合いが発生し、
いつなにが起きてもおかしくなくなる。
都内各地で鉄球派を自称する暴徒による焼き討ちが群発し、東京都は深海棲艦侵攻のために定番化しつつある何度目かの戒厳令を発動した。
三頭犬の紋章を掲げた特殊部隊まで現場に投入され、都内は一時騒然となる。
新設された部隊に実戦経験を積ませたいという警視庁の意向のもと、過剰なまでの戦力が暴徒たちに襲いかかった。
開発中だった多脚戦闘車輌までが暴徒対策用として投入され、一定以上の効果はあったものの、こちらも後々批判の種となる。
ばらばらになってしまって元に戻せない暴徒が続出したからだ。
そこまでするとは思ってもいなかった烏合の衆は算を乱して現場から逃亡しつつもことごとくそれに失敗し、次々にこの世から旅立っていった。
後の公式発表では過激な暴徒と化した人間が機動隊と衝突した結果、多数が逮捕されたのだと一貫して述べることになる。
逮捕後の彼らはまるで冬のナマズのように大人しくなったと、関係者は語った。
いや、騙ったの方が正しいかもしれない。
新聞記者や雑誌記者は大半が沈黙か散華かの運命をたどり、発表までこぎ着けたものの販売差し止めを喰らった挙げ句に行方不明となってしまう者まで発生した。
横領窃盗違法薬物異性同性へのナニなど身に覚えの無い犯罪で続々と検挙された鉄球派は全員示し合わせたかのように途中で逃亡をはかり、その後皆行方知れずとなる。
実に不可解だ。
鉄球派は政界経済界その筋の人などからじわりじわりと圧力をかけられるようになってゆき、次第に勢力を減退させることになる。
それでもこそこそと活動する者もいたが、ちょっとしたことでどんどん検挙されていった。
留置場から脱走をはかった彼らはいずれも行方知れずとなって捜索自体は続けられたものの、未だに誰も見つかっていない。
捜索の過程で過激派や爆弾魔や通り魔などが逮捕されたり討ち果たされたりしたが、それはあくまでも偶然の産物と思われる。
その名のもとになった島であくりょうとうの記念行事を行った際、殺人事件が発生した。
おそるべき偶然である。
ゲスな発言を繰り返す自称探偵によって現場は何度も何度も引っ掻きまわされたが、警察が解決に向かって尽力したため被害者は三八人でおさまった。
犯人のおそるべき計画は第三段階でなんとか食い止められたが、探偵が捜査の足を引っ張らなければ第二段階で止められた可能性すら存在したという。
苦難続きのあくりょうとうが次に向かう先は函館鎮守府。
そこで式典を行い、悪運を取り払うのだ。
阿玖陵島。
その名を冠した彼女は、北へ向かって海を軽やかに走ってゆく。
新たな時代を斬り開く一員たらんとして。