宇都宮にて提督関連の会合があったので、出席する。
政府関係者とか財界関係者とかも複数参加していた。
ややぐったりとしながら、実り少なき会合を終える。
陸路での出張だったが、主要な駅舎を幾つか見ても景気につながるなにかは感じ取れなかった。
私が鈍いだけかもしれないけれど。
絵空事ばかり述べる各陣営のお偉いさんたちには、一体どんな理想郷が見えているのだろうか?
戦後ねえ。
気がまだ早すぎるんじゃないかな?
まあ、なんちゃって提督としては部下たちと充分意志疎通をはかりつつ戦い続けるしかないな。
それにしても、腹が、減った。
よし、こんな時は旨い飯を食べるに限る。
私の腹はなに腹だ?
店探しに出発進行!
てくてく歩いているうちに、雰囲気のよさげな定食屋を見つけた。
よし、ここだ。
ここで食べよう。
店内に入り、気さくな女性三人に出迎えられる。
いずれも若い。
オススメを聞きながら、幾つかの品を注文した。
お通しが続々と運ばれてくる。
え?
こんなにも?
どんどん眼前に並べられる小鉢群。
南瓜の煮付け、ひじきと豆を炊いたもの、切り干し大根、きんぴらごぼう、豚肉とニンニクの芽の炒めもの。
どれも旨い。
少し味つけは少し濃いように思えたが、酒の肴にするならばこれくらいが丁度いいのかもしれない。
続けて、紅白なますと玉子焼きと茄子の白味噌和えと野菜サラダが来た。
私は……夢を見ているのか?
女性三人はニコニコしながら、私をそれとなく見つめている。
来た品々を一生懸命食べていると、頼んだ品々が来た。
餃子を先ずは食べてみる。
ほう、いいじゃないか。
餃子を口に入れるとニラ。
ほぼ、ニラ。
ニラまみれ。
これは旨い。
しゃきしゃきしている。
薄型ハムカツは衣がサクサクしていて、薄くて駄菓子っぽくて個人的に好きな感じだ。
気分はガキ大将である。
添えられた胡瓜の漬物はしっかり辛い。
もつ煮はやさしい薄味で、野菜たっぷりの母性愛に満ちた一品だ。
これはいい。
つくねと皮とネギマとレバーとハツの焼き鳥は、じんわりと口の中に旨みが染み込んでくる。
そして、ちたけそうめん。
なんともやさしい和風味。
和の極みのような素麺だ。
茸と茄子と麺との三位一体な味の饗宴。
頼んだ品々を食べている間にも、お通しと称した小鉢が継続して眼前に置かれる。
なんだかとんでもないことになってきちゃったぞ。
女性三人はニコニコしていた。
店にはいまだ他に誰も来ない。
小鉢の中身は多様性に富んでいる。
こんなにくれて、大丈夫かしらん?
青菜の胡麻和え。
麻婆豆腐。
肉じゃが。
ポテトサラダ。
もはや、過剰戦力である。
だが、旨い。
箸が進んでしまう。
頼んでいないのに甘いものが来る。
これもお通しなのか?
聞いたら、お通しらしい。
謎だ。
芋きんとん。
蜜柑ゼリー。
甘夏の皮の甘煮。
林檎の甘煮。
ここで白旗を上げる。
無限にお通しが来そうに思えたからだ。
「あら、て……もう食べないの?」
「し……もっと食べていいのよ。」
「て……お土産を用意するわね。」
もうお腹いっぱいです。
お土産に自家製マーマレードをいただく。
ありがたやありがたや。
この不景気なご時世にありがたいことだ。
ニコニコした三人に見送られ、宇都宮駅に向かう。
確か、夜行列車が出ている筈だ。
それに乗れたら、乗っていこう。
お腹は既に、満腹ぷんぷくりん。
後は汽車に揺られて北の国まで。
さあて、部下たちが待っている。
帰るとしよう。
※いつも誤字報告をいただきまして、ありがとうございます。
※今回は二七〇〇文字ほどあります。
「そのような戯言(たわごと)は、今年の霜と同じく春先に消えてしまったと思っていたが、そうではなかったらしいな。貴様も夏に雪を降らせて喜ぶ輩(やから)か!」
長門教官の声が高らかに響き渡る。
大本営から来た三名の大淀がすっかり萎縮していた。
うちの大淀は平然としている。
我々を管轄する組織から命じられた任務はどちらかというと、あまり好ましいと思えるようなものではなかった。
長門教官がカンカンに怒るのも無理は無い。
我らが大本営は二〇年近く放映され続けている人気魔法少女アニメーション作品のルリキュアと協同作業的なことをするようになったのだけれど、我々函館鎮守府の面々は魔法少女の扮装をすることが既に決定づけられていた。
事前の連絡は一切無いままに。
そりゃ怒るわな。
「我々はそれぞれが好きな登場人物の扮装をさせてもらう。そちらからの一方的な指図は受けん! わかったな!」
……え?
あれ?
そこが怒るところ?
扮装自体はいいの?
脅えた顔の大淀たちは頷き人形と化している。
これでいいのだ?
その夜。
決起大会を行おうと言って、いつもと違って血気盛んな初雪と望月とマスター・オータムクラウドに引きずられ講堂へ赴く。
講堂の中は熱気むんむんで、おそらく魔法少女と考えられるものの実際はよくわからない扮装をした艦娘たちで溢れかえっていた。
なんなんこれ?
あまりの熱量に戸惑っていると、早着替えしてきた初雪と望月が戻ってくる。
どこやらの学生服らしき扮装の二名を見ていたら、美智瑠と加穂留だという。
そう言われて、そんな子たちを昔テレビジョンでちらと見たなと思い出した。
二名ともウィッグまでつけていて、なんとも本格的だ。
そして彼女たちはいきなり、『ふたりはユリキュア マキシマムハート』という曲を歌い出す。
盛り上がる艦娘たち。
なんだかよくわからないが、とにかく勢いがあることだけはわかった。
同人誌即売会。
まんが祭。
混沌を呑み込む魔女の鍋。
幾つもの苦難を乗り越え、この夏もコミックマーケットが開催される。
函館から来ると蒸し暑いが、西日本の暑さはこんなものじゃないぜよ。
部下たちからなんとかの扮装をしてくれと再三頼まれたが、断ってよかった。
まさか、衣装まで用意しているだなんて。
あんな貴族みたいな恰好、出来るものか。
とても皆のようにノリノリではいられん。
参加者たちが着ているTシャツに印刷されているモノも様々だ。
漢字四文字の熟語のような必殺技のようなモノ。
『働いたら負け鴨長明』とあるモノ。
推している艦娘の名前が入ったモノ。
『仏の顔も三度まで』と『あなたは三度わたしを知らないと言うだろう』と記されたモノ。
七言律詩的なモノもあるが、あれは杜甫(とほ)かな?
西館四階に上がる自動階段は常々盛況だ。
多種多様な人々が夢を求めて上へと昇る。
横濱かをり並びに新横浜カオリの対決的コンサートが、会場近くに設営された野外音楽堂的な場所で開催されるらしい。
どちら様?
アイドル決戦?
よくわからないな。
遠目に練習する姿を見たが、どちらも気合い十分な感じだ。
会場外で出展する食べ物屋。
我が鎮守府は今年も強力な布陣で臨んでいる。
うちの霞に信州から来た元艦娘の霞、そして他の鎮守府などから来た四名の霞、合計六名の霞によるおにぎり屋の霞亭。
龍驤によるお好み焼き屋の昇龍軒。
足柄と龍田によるコロッケ屋のくろけっと。
李さんによる焼売(しゅうまい)屋の李下飲茶。
余所の鎮守府や警備府や人気店には絶対負けないと、ほぼ全員が息巻いていた。
今回はコミケット初出店となる人気店が多いから大変だ。
洋菓子屋のキラキラコンフェクショナリーやラッキーフォーク、パン屋の日向屋、和菓子屋の菓子舗胡万智に春野屋、弁当屋のおおもり屋本店、お好み焼き屋の朱音、洋食屋のこしょね亭。
いずれも強力な店だ。
それでも負けないくじけないあきらめないが信条の艦娘たちだ。
きっと、よい結果を得ると思う。
駆逐艦たちは、思い思いの魔法少女の扮装でこの即売会に臨んでいる。
業務終了後の時間や休日を利用し、服を手縫いして作り上げたそうな。
ようやるのう。
駆逐艦以外の艦種の娘も扮装しているようだが、数がまったく違うみたいだ。
既製品も売られているらしいが、金具や魔法の小道具も手作りだとか。
器用じゃのう。
早速会場のあちこちで激写されている。
スカートが短すぎないかと言ったら、見られてもいいやつを穿いているから問題ないと言われた。
おじさん的にはよくわからない感覚だ。
私を写したいという奇特な女性まで複数現れたのには、思わず笑ってしまう。
中学生らしき元気な女の子たちを何人も見かけると、平和の到来を強く願う。
もっと往来がしやすいセカイにするため、私たちはより一層踏ん張らねばな。
女の子たちが部下の艦娘たちに劣らぬ美少女揃いだったのでついつい遠くから眺めていたら、たまたま通りすがったらしい紫キュアな曙に怒鳴られた。
解せぬ。
深海棲艦たちもそれぞれ、思い思いの扮装をしている。
ユリキュアに出てくる悪の幹部とかそんな感じらしい。
なるほどなー。
屋外でぴょんぴょん飛び回るユリキュア姿の駆逐艦たち。
島風や吹雪あたりの駆逐艦の動きはまさしく立体機動というか、よくあんな動きが出来るものだと感心してしまう。
彼女たちの運動能力ならば、ユリキュアみたいに振る舞えるだろう。
たぶん。
光線的なナニカは流石に出せないが(出せないと思いたい)、初代の格闘技だとか空手的な技ならば使えるだろう。
おそらくは。
「あんた、ここにいたのね。丁度よかったわ。」
振り向くと、叢雲(むらくも)がいた。
紫キュア的な扮装をしている。
彼女は私の手をガシッと取るなり、すたすた歩き始めた。
「どこへ行くのですか?」
「みんなのやる気を高めるためには、あんたの力がなんとしても必要なのよ。そう、キラキラルのように。」
「キルラキル?」
「キラキラル。」
「やる気、ねえ。」
「そう、やる気。」
私なんぞが関与しなくとも、艦娘たちのやる気は十二分にあると思うのだけれど。
「いるんですか?」
「当たり前じゃない。」
彼女の曇りなき瞳が私を見据える。
「あんたはそれほどの存在なの。もっと自覚しなさい。みんなのソウルをギュイーンとシャウトさせるためにもね。」
「はあ。」
ユリキュアっぽい艦娘たちが遠くに何名も見えてきた。
こちらへ向かって走ってくる娘さえいる。
と、その時。
いきなり叢雲が私の眼前で見栄をきった。
「やる気全開! 伝説の戦士、ユリキュアに変身よっ!」
「ほう、それがユリキュアですか。大したものですね。」
「当然よ。」
積乱雲が広がる青空を背景にして、歴戦の少女はにっこりと笑った。
やれやれ、と彼は思った。
戦闘は勝利して終わった。
それ故の歓声は、部下たちが帰港した現在も継続している。
未亡人を何人も生産する破目に陥らなくて済んだのは『これまで』よりもずっとましのことだったけれども、敵対者を倒さなくてはならないことに変わりがない。
喜びのあまり、彼にしがみついている駆逐艦さえ何名もいる。
随分モテるようになったと思ったが、前世で妻だった女性は彼の熱烈なる信奉者で熱心過ぎるファンサイトを運営していたそうだし(何故か閲覧出来なかった)、謎の集いも月イチで開催していたようだ。
その集いのことを何度か彼は妻にそれとなく聞いたが、毎回巧妙極まるやり方ではぐらかされたために実態は未だによくわからない。
少しは興味が無くもないけれど、知らぬが仏だろう。
このセカイでは、あのようなことをする女性は流石にいないと思いたい。
妻が素晴らしい人物だったことに間違いはないものの、それとこれとは別問題だ。
女性は謎に満ちた存在にしか見えない。
嫌いとかそういうのではなく、ただただわからない。
これなら大軍と戦った方がまだマシだ。
彼は切実にそう思う。
だが、慕ってくれる相手を無下にする気持ちも無い。
結局、慣れるしかないのだろう。
今は戦い続けるしか手段が無い。
勝つ為の方策ならばそれなりに思いつくが、それを実行する為のあれこれがちっとも足りない。
無い無い尽くしの中で、その辺のナニカを掻き集めて対応するだけだ。
それにしても、喉が渇いた。
後で、函館の提督から貰ったコニャックを紅茶で割って飲むとしよう。
そう、それがいい。
あれはいいモノだ。
しかめっ面のままだった彼が破顔したのを見て、部下たちはホッとした。
これでもっともっと甘えられると考えながら。
彼の笑顔を素早く隠し撮りした某重巡洋艦は、ニヤリと嗤(わら)った。
これで求められた需要が満たせると考えつつ。