はこちん!   作:輪音

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今回は三三五〇文字ほどあります。
いつも誤字報告をいただきまして、ありがとうございます。




CCCⅩLⅡ:李さんのお粥

 

 

 

 

最近某小説投稿サイトで地道に書いていた『魔王陛下の王配』が書籍化及び漫画化を同時に成立させ、担当の編集者がかなり意気込んでいる。

嗚呼、いろいろ修正して加筆もしないといけない。

特典の掌編も書かないとならない。

宰相観点にするか、黒騎士観点にするか。

漫画化を担当してくれる描き手は丁寧な描写を旨とする人なので、安心感が大きい。

そういった人に丹念に描いてもらえることは実にありがたいものだ。

出版社の公式サイトでは時期限定型特設区画をもうけてくれるそうで、そこでは魔王陛下による語りを映像として流してくれるそうだ。

陛下役はとある終末世界的作品や某魔法少女的作品などで巧みに演じてきた人だから、こちらの方も安心感が大きい。

 

函館駅に近い紅茶専門店で担当編集者と打ち合わせをしながら、艦娘たちにこのことが露見したら不味いなと考えた。

彼女たちには私が覆面小説家であることをまだ話していない。

前もって大淀や教官たち辺りに話を通しておいた方がよさそうにも思えるけれど、時期尚早かなと考えているうちにあれよあれよと日時が過ぎ去ってしまった。

どないしようか。

……まあ、そのうちに話せばいいか。

 

小説投稿サイトの活動報告で漫画化並びに書籍化のことを発表したら(もちろん発表していい範囲内のことに限るが)、いつも熱心に読んでくれる読者たちから熱烈歓迎的内容のコメントを多くいただいた。

小説家冥利に尽きる。

函館を含む道内在住の読者も複数存在するらしく、現住所的な場所の人々にも応援してもらえているのだ。

それはとっても嬉しいなって。

担当の女性から函館市内にある大型書店でのサイン会はどうかと提案されたけれど、万が一でも身元が露呈するのは困ってしまう。

いっそのこと骸骨の覆面をかぶってみてはどうかとも提案されたが、ちょっとそれは違うんじゃないかな。

高笑いなんてやれませんわいな。

 

 

 

李さんのお粥は旨い。

滋味があって奥深い。

日によって出汁(だし)を少しずつ変えているのだろう、風味が毎日違って食べ飽きない。

私の朝は殆ど中華粥。

彼が休みの日以外、それにしている。

演習やら視察目的で同業者や上司などが時折函館鎮守府にやって来ては、旨い旨いと舌鼓を打っている。

彼らは粥を食べ、点心を食べ、彼の作り出す絶妙なる料理を食べてうなるのだ。

たまにクレクレタコラが発生するのだけど、勘弁してください。

 

 

 

 

鎮守府での火災を想定した、消火訓練並びに防火設備の点検及び遠隔操作出来る放水銃八基の点検を実施した。

駆逐艦たちが勇ましく走って消火栓からホースを引き出し、建築物に放水してゆく。

水圧の計測、訓練にかかった時間、設備がきちんと機能するかどうか。

そうしたことも記録された。

問題はさほど無いように見えたが長門教官や加賀教官は厳しい声を何度もあげていたし、妙高先生はにこやかに何度も繰り返し艦娘たちを走らせていた。

ちなみに一番よく走っていたのは島風である。

 

 

 

 

大阪の商人的知人から、李さんの中華粥を是非とも食べたい人々がいるのでなんとしても連れてきて欲しいとの打診があった。

またかいな。

大本営の許可がおりれば、と返答していたのだが、なんとも用意周到なことに既にそれは為されていたのだった。

関西圏の食通たちからすると、函館鎮守府の食堂は彼らが万難を排して訪れたい程の場所だそうな。

うちの料理人の強みは、名人が李さんだけじゃないところにあると個人的に思っている。

別に一般公開はしていないんだけども、いつも旨いものを食べてズルいズルいと同僚たちからしばしば言われるので、折に触れて焼菓子詰め合わせを発送している程だ。

大本営がやれやれゆーから、来函した政府とか大企業の偉いさんたちに李さんの料理を作ってもらったことも何度かある。

妙な交渉をしてくる訳のわからない人も何人かいたが、すべて丁重にお断りさせていただいた。

こういう人って一人二人じゃないし、時々発生するんだよな。

むう。

 

たまにうちの厨房で働きたい料理人の選考会を李さんと私と幾名かの艦娘とでやっており、艦娘たちの食べる様子によっては彼らの働く期間が激変する。

隣の魏呉蜀の三國やら台湾やら東方ロシアの首都たるハバロフスクやら近所のヴラディ・ヴォストーク(ウラジオストク、浦塩)などからも、たまさか料理人の派遣が大本営を通して要請される。

間諜もいるみたいだが、彼らの中で料理の下手な人間はいないのでまあ致し方あるまいと一応受け入れている。

ウラル料理やら台湾料理やら上海料理やら四川料理やら広東料理やらが入り乱れる献立も悪くない。

 

 

 

 

大阪行きに於ける護衛を誰にするかで揉めに揉めた。

時折単独で出張するのだから特に問題は無かろうと思ったのだけれど、艦娘たちからすると大問題らしい。

 

料理対決での苛烈な戦いの末、鳳翔と間宮が我々の旅路に随伴することと相成った。

『みたらしヘブンボンバー』と『みたらしヘルボンバー』の連続技は、可愛らしくもおそろしいものだった。

大阪の知人からの要望の中に彼女たちも出来たら参加して欲しいとあったので、結果的によかったと言える。

このことは全員に内緒にしておこう。

大本営にいる間宮を一名廻してもらえることになったので、彼女に料理を任せれば函館は大丈夫だろう。

 

 

 

 

星間連絡船……間違えた、青函連絡船の随伴艦は随分豪勢な陣容となり、乗船した人たちはなにかのイヴェント(催し)だと思ったようだ。

戦艦級や正規空母級の艦娘が航行する姿は普段見かけるものでないし、そのためか熱心に撮影する人が続出している。

深海棲艦と艦娘が当たり前のように戦列を組むのは、おそらく函館だけだろうしな。

ところで、何故あの中に大和や武蔵がいるのだろうか?

いつのまに?

…………ま、いっか。

 

 

夕暮れ時の青森駅に到着し、汽車の乗降場へ向かう。

走ってゆく人が何人もいた。

おそらくは、特急の自由席に乗るためだろう。

桟橋(さんばし)をてくてく歩くと、やがて線路が見えてきた。

どんどん辺りは暗くなってゆく。

たそかれ時だな。

発車の三〇分前には日本海が到着するという。

それまでになにか買っていこうかなかな。

李さん及び鳳翔と間宮とでキオスクに立ち寄り、あれこれ覗く。

どことなくなんとなく艦娘ぽい売り子から帆立釜めしを購入し、日本海に乗り込む。

よし、後はこのまま大阪だ。

四名で釜めしをむしゃむしゃ食べる。

旨し。

 

秋田までは座席車扱いが可能なことを利用した乗客もちょこちょこいるようで、軽装の人をちらほら見かける。

秋田駅では少し停車時間があるためか、売り子が何人かいた。

どことなくなんとなくどこかの駆逐艦ぽい売り子から翌朝用の握り飯を購入。

 

 

早朝、金沢駅到着。

どことなくなんとなく空母っぽい熱心な売り子から野菜の煮物を購入。

 

車内販売の白いお姉さんから代用珈琲や菓子を購入。

李さんはお湯をもらい、私たちのためにお茶を淹れてくれた。

朝食をいただく。

旨し。

 

敦賀駅では二〇分停車。

ここで機関車の交代だ。

特急のしらさぎやら雷鳥やらが通過するのを眺め、どことなくなんとなく巡洋艦ぽい

ツインテールの売り子から手作りらしき団子を購入。

無論、おいしくいただいた。

 

 

青森から乗り続けて半日とちょっと。

ようやく大阪駅に到着だ。

今日は洋式旅籠(はたご)に宿泊し、明日はとあるホテル内にある中華料理店の厨房を借りての料理作りである。

李さんの絶品なお粥を堪能してもらおう。

準備は既に出来ている。

鳳翔間宮の力も加われば百人力なのだよ。

とりあえず今は自由ナリ。

李さんたちと話をして、先ずは三宮や元町へ遠征しようという話になった。

ならば、新快速だ。

元町駅近くにある老舗の中華料理店で昼食を食べて、てくてく歩いて神戸屈指の洋菓子店でサヴァランをいただくとしよう。

勿論、土産用に焼菓子を多く注文しなくてはならない。

夜は大阪でお好み焼きを食べようか。

仕事が終わったら、かやくご飯やにゅうめんのおいしい定食屋へ行くのも悪くない。

 

 

そして私たちは旧國鐵現JRで神戸へ向かうべく、構内を歩き始めた。

行き交う人々には活気が見られる。

明るい声がその中に確実にあった。

世の中、まだまだ厳しい面はある。

だが、人々や艦娘の努力によってこれからはどんどんよくなってゆくだろう。

そうだ。

そうなるためにも、ますます頑張らないとな。

 

人類に栄光あれ。

 

 

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