はこちん!   作:輪音

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熱はあっても
休めない
提督たちは
休めない
倒れちゃったら
すみません

そんな冬のある日のお話

今回は三〇〇〇文字ほどあります







CCCⅩLⅦ:ちょっと熱のあった日

 

 

 

 

うちの艦娘たちに人気が高い、現在放映中のアニメーション作品『装甲のリヒトホーフェン』。

先日放映された『七色のアウロラ』編はそれぞれの登場人物たちが敵味方入り交じる死闘を繰り広げていて、実に見応えがあった。

対ライアー戦での敵味方双方一歩も引かぬ見事な魔法戦。

対リーネア戦での、可愛い悪魔たるリーネアが放つ素晴らしき技の数々。

アウロラ様とリヒトホーフェンとが丁々発止の駆け引きを行った心理戦。

いずれもなかなかよかった。

原作の『行間』を膨らませる技法が、実に素敵な仕上がりとなって視聴者に届く。

よきかな、よきかな。

リヒトホーフェンの旅の仲間たちが踊る場面も大変よかった。

あの場面はすべて手描きだったという。

パーフェクトだ、ウォルター。

 

 

 

 

朝起きたら熱が三八度四分あった。

少し気だるい。

まあ、なんとかなるだろう。

三八度六分や七分くらいまでなら、それなりに動ける。

なんとか提督としての業務を果たす。

それだけのことだ。

なに、以前所属していた会社の仕事よりも格段に楽だ。

夜討ち朝駆けが日常的常態化していた業務に比べれば、なんてことはない。

 

それにつけても独りの時間が欲しい。

合間を見てガス抜きしないといかん。

同様の状況にある他の提督も非常に困っていると聞く。

提督が人気者の場合、鎮守府や基地などが修羅場になりやすいらしくて時折刃傷沙汰になっていると聞く。

提督が物理的に減ってしまうと、戦力的にも後始末的にも困る。

先日も横須賀鎮守府でしっちゃかめっちゃかな騒動があったらしい。

どうにかこうにか揉み消したそうだが。

敢えて艦娘に関心を持たないようにしている同僚もいるが、そうした鎮守府の艦娘たちから相談を受けることも少なくない。

痛し痒(かゆ)しだ。

 

無邪気な駆逐艦の攻勢に敢えなく撃沈轟沈する提督がけっこういるそうなので、実例集を作ったらいいんじゃないのかなとマスターオータムクラウド辺りに提案したが、新妻力が強すぎて現場に近寄れませんと涙ながらに言われてしまった。

なんだよ、新妻力って。

冬の同人誌即売会向けの原稿を必死に描いている場合じゃないぞ。

まったく、もう。

海防艦に傾倒している提督もいるらしい。

事案を発生させないで欲しいと切に願う。

 

モテる提督はイケメンと限らないのが悩ましい。

イケメンフツメンブサメンは特に関係無いと、大抵の艦娘がきっぱり言っている。

故に、モテた経験の無い提督がモテた時に悲劇が起こりやすいと言えなくもない。

やれやれである。

 

 

 

 

添い寝していた島風と吹雪を起こさないようにそっと起きようとするも、胴回りをがっしり掴まれているので身動きが取れない。

今のうちに熱を測っておこう。

体温計を腋に挟んだ。

少しほわほわした脳味噌のまま、両名の頭を撫でる。

うちの最強系駆逐艦たちが、むにゅーとした顔で寝ぼけたまま抱きついてきた。

これこれ島風さんや、君は元おっさんだろうに。

だんだん女の子化してきているような気がする。

どれどれ、体温はどうだ?

三八度七分か。

まだちょっと熱があるな。

体温計をそっと元に戻す。

 

ほわほわした頭のまま着替えを手伝ってもらい、下着を彼女たちに渡した。

下着を渡さないと皆機嫌が悪くなるのだ。

洗い場に持っていくくらい出来るのにな。

曙と霞の組み合わせで添い寝だった時に下着を自分自身で洗う旨伝えたら、彼女たちに思いきり怒られた。

それくらいさせろ、と。

しかし、返ってくる下着がいつも新品同様か新品なのは変だと思う。

そう思って大淀や鳳翔や間宮などにも言ってみたが、話をはぐらかされてしまった。

カッターシャツを洗濯に出してもそうなるし、ある提督にその話を振ったら何故かめちゃくちゃうらやましがられた。

よくわからない。

 

頭がぼわわとしているので両名から酷く心配されたのだけれども、大丈夫だと頭を撫でておく。

そうそう、君たちは今すぐ服を着なさい。

 

 

 

 

朝礼をほわほわした頭でなんとか切り抜けたものの、食事はちょっこし難しい。

食欲が明らかに減退している。

大湊(おおみなと)からいただいた林檎を執務室で食べるとするか。

朝四分の一、昼半分、夜四分の一。

これでいいのだ。

講堂を出てほんの少しぼんやりしていたら、いつの間にか大淀が至近距離で私を見つめていた。

目がこわい。

まるで歴戦の王を相手にしているようだ。

何故か彼女の背後に、金髪碧眼の剣士がいるような幻覚を見た。

疲れているのかな?

 

「提督、お熱があるのですか?」

「微熱が少々。」

「何度ですか?」

「三八度七分。」

「第三級緊急事態発令!」

 

大淀の突然の発言に、がやがやしていた周囲の艦娘たちが即座に私の周りで輪形陣を築いた。

なんで大和と武蔵がここにいるんだろう。

休暇か?

戦艦級艦娘六名を中心とする豪勢な陣形だった。

ネヴァダや戦艦棲姫やとある航空戦艦も凛とした顔つきで私の周りを取り囲んでいる。

この面々で演習したら資源が激減だ。

実戦だったら、真っ青になると思う。

そんなことをついつい考えてしまう。

長門教官がキリッとした顔をして言った。

 

「提督! この長門が朝晩問わず看病してやる! 安心して休むがいい!」

「ここは譲れません。」

 

そこに加賀教官が割り込んできた。

 

「提督は空母系艦娘による二四時間三交替制で看病します。勿論索敵も怠りませんし、きめ細やかな対応も怠りません。」

「巡洋艦を忘れてもらっては困ります。」

 

普段冷静沈着な妙高先生まで参戦してきた。

 

「室内に常時二名配置し、無論、部屋の外にも充分な数の巡洋艦を配置します。索敵の航空機は常に飛ばしますし、雷撃戦も夜戦も十二分に対応可能です。対応の多彩さではひけを取りません。」

「数の多さなら、駆逐艦よ! 多様な戦場に対して千変万化に対応出来る幅の広さでは他の艦種にひけを取らないし、人海戦術ならば駆逐艦の本領を示すことが容易に可能なんだから。」

 

霞が参戦してきて、収拾がつかなくなる。

メリケン艦やら深海勢やらが議論に加わってはちゃめちゃだ。

わいわいがやがやする艦娘たち。

陣は既に崩壊している。

掴み合いをしちゃあいけないじゃないか。

止めたくとも体がまともに動かない。

ぼおっと彼女たちを眺めていたら、ひょいと抱き上げられた。

おや、誰かな?

 

「ほんま、キミはモテモテやね。」

 

龍驤か。

 

「さ、部屋まで行こか。」

 

軽やかにお姫様抱っこされ、ドナドナされる。

途中で雲龍や早霜らも加わり、担ぎ手を順繰りに交代しつつわっしょいわっしょいされながら私室まで送られた。

 

外は吹雪いている。

雪が徐々に積もり始めていた。

明日からは雪かきをしないと。

そう言ったら、周囲の艦娘たちにむちゃくちゃ怒られた。

嗚呼、もどかしい。

 

 

 

 

結局、『厳選』された艦娘二名ずつに私を看病させることで落ち着いたらしい。

何故か艦娘が交代する度に、着替えをさせられた。

そんな必要があるのかと問い質したら、勿論です当たり前ですと切り返される。

普段世話になっているし、大目に見るか。

まあ、明日くらいには熱も下がるだろう。

座薬を誰が挿入するかでかなり揉めたらしいけれど、それくらい自分でやるわい。

子供扱いはやめてくれたまえ。

 

加賀教官の順番の時、何故だか瑞鶴も一緒だった。

土産だという鳩サブレーを無表情に我が口元へ差し出す教官と、それをにやにや顔で見る幸運艦。

気まずい。

なんたるちあ、サンタルチア。

早く治らねば、とかたく心に誓った。

 

 

 

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