「フリーター。お前はいつか大きな過(あやま)ちを犯し、正社員になりたいと考えるようになる。いいか、フリーター。歴史に名を残そうなんて考えるなよ。目立たず生きろ。」
今回は三九〇〇文字ほどあります。
以前、とある基地から某提督が見学に来た際にしみじみと言われた言葉がある。
要約したら、よくもこんなところで働けるな、といった感じのことを言われた。
うちの娘たちはいつもよく働いているのになにを言うのか、と当時はいぶかしく思ったものだが。
メトロンにも似たことを言われた経験がある。
彼らは一体なにを見て、私はなにを見落としているのだろうか?
……。
……まっ、いっか。
考えてもわからないことは、たいしたことじゃないのであろう。
たぶん。
桔梗(ききょう)町では現在、ピノ・ノワールを使った葡萄酒を醸しているという。
今年から葡萄酒を販売するらしいので、大いに楽しみにしている。
七飯(ななえ)町の大中山(おおなかやま)駅近くにも近年日本酒の酒造場が出来ているので、こちらもそのうち買おうと思う。
新しい活力が生まれるのはよいことだ。
人間の強さをそうしたところで感じる。
ある日の寒い夜、艦娘たちからの要望に基づいて怪談を講堂で話した。
今回はとある骨董品店で体験した『見るかい?』、知人から聞いたマンションの空き部屋に関する『暗い部屋』、真夜中に遭遇した『やさしいお巡りさん』、友人の中年男性が話してくれた『祠(ほこら)』の四話。
話した後、何名かの艦娘に眠れなくなったと抗議されてしまう。
反省。
兵庫県姫路市にある姫路文学館北館三階講堂で行われた関西圏商工会懇親会は、和やかな雰囲気で終わりを迎えた。
取り敢えず安心する。
函館鎮守府から遠路はるばる来た甲斐があったというものだ。
多脚戦車及び思考戦車の開発意義を一生懸命説明していた某重工業の社員は質問の集中砲火を浴び、敢えなく撃沈していた。
思考戦車は可愛いと思ったし、けっこういけるんじゃないかとは考えたのだが、その様に思わない人はまだまだ多いようだ。
艦娘に頼らないで戦うという理念はわかるけれど、実際に深海棲艦と戦えるかと問われたら厳しいかも知れないと答えてしまいそうだ。
なので、聞かれなくてよかった。
タクティカル・アーマーとかいう二足歩行型戦術兵器の話もあったが、うちの駆逐艦たちでも仕留められるんじゃないかな?
単艦突撃しそうな娘もいるなあ。
……なんとなく、世紀末的世界を連想した。
あれ、ちと不味いか?
勇敢なのはいいが、あまりにも好戦的だと戦後がよろしくない。
うちの鎮守府の面々は悪魔や宇宙人を含めて少しばかり世紀末脳にヤられている節があるし、函館に帰ったら皆に注意喚起しておこう。
うむ、そうしよう。
担当の人にはまた次回、頑張っていただきたい。
深海棲艦との戦いの現状。
国際情勢の推移。
今後の経済的な見通し。
新興国への充分な援助。
各種風評被害への対応と対策。
疲弊した覇権系国家との今後の付き合い。
東京都を含む関東圏にある企業への、様々な対応。
神戸を含む大都市の人口過密化に対する各種対策。
かつて『東洋一のマンモス港』と呼ばれた神戸港の価値を如何に高めてゆくか。
ペダン星人が送り込んできて赤い巨人と警務隊とが返り討ちにした、巨大ロボットの残骸の引き上げに関する種々様々な課題。
頭の部分だけでもけっこう大きいんだよな。
飾られたら、是非とも思う存分見てみたいものだ。
そうしたあれやこれやをゆるっとふわっと皆で話し合い、これからのだいたいの方針を大雑把に策定しようじゃないかが今回の議題だった。
したたかな経済人たちがやわらかく丁々発止のやり取りを行う様子は、なんちゃって司令官の私が到底対応しきれるどころのものではない。
我々としては戦後の艦娘の受け入れ先をととのえていかないといけないし、関西圏の経済界の方は艦娘を柔軟に受け入れてくれそうな感じがしないでもない。
油断禁物ではあるが、選択肢はどんどん増やさないといけない。
彼女たちのためにも。
どうにか生き延びて欲しいものだ。
姫路の駅舎まで車で送ってくれるとの申し出を何件も丁重に断り、駅前へ向かって歩くことにする。
護衛の艦娘はいないが、だからこそ身軽に行動出来る利点も大きい。
暗殺されにくいしな。
一応、九ミリ口径の小型拳銃は持ってきた。
練習で二〇発は撃ったから、いざという時にはそれなりに使えるだろう。
たぶん。
試作品のアーマーマグナムとやらを持っていくように何名もの艦娘から言われたが、あないなもんをどげんして使いこなせいうねん。
無理ですがな。
まあ、メトロンから個人防衛用のバリア発生装置を借りているから、機関銃や対戦車ライフルくらいは大丈夫だろう。
姫路城が見える文学館からてくてく歩き、城のお堀にたどり着いた。
そこからまたてくてく歩く。
大手門の方へ歩いていると、観光客がちらほら見えた。
近年修復された白亜の城は実に見ごたえがあるだろう。
私はこれから移動しないといけないので、残念ながら城を見るのは次回以降だな。
駅まで続く長い商店街は比較的ひっそりしていて、個人事業者の厳しい状況が今後もまだまだ続くだろうことをひしひしと感じさせる。
駅前の大型商業施設は彼らを経済的に疲弊させ、やがて弾き出すだろう。
だが、今は堅調な施設内の店舗であろうとも、そのうち静かに消えてゆく可能性がないとは言えない。
それが商売だ、と言われたらそうなのだがどうにも歯がゆい感じはある。
結局、個人ではどうしようもない話だ。
なにかしら購入し、ほんのちょっぴり経済に寄与するくらいしか出来ない。
選択肢って意外とないな。
駅近くにある百貨店の地下で、豚まんや焼売などを買った。
姫路駅始発の新快速に乗り、彦根駅まで向かうことにした。
城下町から城下町へと移動する。
いいじゃないか。
決まった行動をしてはいけない。
提督は重々気をつけねばならぬ。
長距離バスに乗って不測の事態に巻き込まれるのは避けたいし、新幹線は現在もまだ運行が少し不安定。
大型駅で襲われることは先ず無いと思いたいが、昨年新宿駅でヤられた提督がいたから油断は出来ない。
暗殺、誘拐、ハニートラップ、エトセトラエトセトラ。
私自身が、戦後も生き残れるようにしないといけない。
鎮守府に引きこもっているのが一番安全な筈だけども、そうもばっかりはしていられない。
ま、なんとかなるだろうさ。
幸いにも、公共交通機関はかなり往時の姿に近づいてきている。
汽車は普通に動いているようだし。
暗殺されたり事故に巻き込まれることを防ぐため、ある程度は急に思いついた行動を実行してよいと大本営から言われている。
適当万歳。
今日は彦根駅近くのホテルに泊まろう。
明日は日本海側を通って、秋田か弘前辺りで宿泊しようかな?
彦根駅に着いた。
まだ明るい時間。
今日は投宿出来たら、ぶらぶら街歩きを楽しもうじゃあないか。
駅の東側にあるホテルで簡単に宿泊手続きが出来た。
よかばいよかばい。
部屋で豚まんや焼売を食べて一息つき、そういえば先輩たちが今期のアニメーション作品に参加しているなあと思い出した。
ええと、『迷走のフリーター』と『迷宮独り飯』か。
前者はちょっとのんきな長命種族的非正規社員を丁寧に描写した話題作で、後者は魔王軍復興を目指すアララ様の迷宮奮闘記だったな。
今夜はフリーターの方を見られるのか。
彼女が師匠(せんせい)を思い出す回。
外出から帰ってきたら、見るとするか。
彦根城まで歩いていったが、残念ながら大手門は閉まっていた。
もうそんな時間なのか!
しまった!
城の近くの菓子屋でザラメ煎餅を見つけ、旨そうだったので函館に送ってもらうように手配する。
よし。
商店街をてくてく歩く。
ん?
なんだ、あれは?
近づいてみると、モダンで落ち着いた内装の菓子屋だった。
入ってみよう。
ほほう、かすてらとパウンドケーキがあるぞ。
旨そうじゃあないか。
これも函館へ送ってもらえるように手配する。
彦根の街が夕闇に染まってゆく。
さてはて、夕食はどうしようか。
闇に溶け込むようにふらふらと歩く。
少し遠くに明かりが見えてきた。
ん?
近づいてみる。
ほう。
中華料理店か。
ここにしよう。
店内に入った。
さて。
なににしよう?
献立表を見る。
よし。
先ずは注文だ。
「すみません、炒飯と海鮮春巻きをください。」
「はーい。」
店内には数名の客がいる。
皆、うまそうに食べていた。
よかことじゃ。
平和になりつつある社会を実感する。
更によりよい社会にせねばなるまい。
しばらくして、注文した料理が来た。
いいじゃないか。
いただこう。
食べるべし、食べるべし、ひたすら食べるべし。
旨い。
ひたすら旨い。
この炒飯、レンゲが止まらないぞ。
海老のぷりぷり感がたまらないな。
チャーシューは手作りなのか?
ネギのしゃきしゃき感もいい。
春巻きのパリパリとした皮もいい。
この海鮮春巻き、もしかしたら特許ものじゃないのかな。
創意工夫に溢れている。
嗚呼、旨かった。
食べ終えたけど、もう少し食べたいな。
「すみません、鳥そばを麺半盛りでください。」
「はーい。」
「それと。」
「はい。」
「ちまきも追加でください。」
鳥そばが来た。
食うべし、食うべし。
止まらない。
箸が止まらない。
鶏チャーシューもいい。
トリチャーうまし。
海鮮食って更に肉まで。
こんな店が函館にもあったらいいのに。
つゆを飲めば飲むほど腹が減る。
ちまきの到着が待ち遠しい。
追加してよかったと、心底思う。
ちまきが、来た。
さっそく、食べてみよう。
うむ、旨い。
もちもちした米と具材のよさが絶妙に絡み合っている。
これぞ、味の万華鏡。
幸福に口福を満たしてくれそうな、ここはそんな感じの店舗だ。
日常のそんな幸せを守りたい。
そうだ、艦娘たちと守るのだ。
そう思いつつ、私は再度食の海へと飛び込んだ。
明日の朝は駅構内の珈琲店でエスプレッソを飲もうと思いながら。