はこちん!   作:輪音

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ⅩⅩⅩⅨ:青い部屋

 

 

 

気づいたら、青い部屋にいた。

赤い部屋ではない。

赤い部屋だったら、小男の踊りを見ないといけないだろう。

夢か?

夢なのか、これは?

覚醒夢だったかな?

明晰夢だったかな?

 

「初めまして、ですかな?」

 

振り向くと、マホガニー製らしき立派な机の向こうに異相の男がいた。

特徴的な声にやたら長い鼻。

 

「私を呼んだのは貴方ですか?」

「ほほう。」

 

男の目が細くなる。

 

「左様ですが、この空間で認識出来るのですか?」

 

認識?

 

「よくはわかりませんが、私は私で貴方は貴方という概念でしたら、そうなりますかね。」

「哲学的ですな。」

「哲学的な話題をする為に呼んだのですか?」

「それもまた一興ですが、別の機会にいたしましょう。」

「では本題ですね。」

「話が早くて助かります。此処に来られた方は、大抵説明で苦戦する傾向にありまして。」

「まあ、そうなるでしょうね。」

「貴方は人間の女性からはあまり好意を持たれないが、随分艦娘から好感を持たれている。しかも、面識のない娘からまで。」

「ご名答ですね。」

「その状況は各方面からの努力もあって改善はされたものの、予断を許さない状況にある。」

「まったくもって、その通りです。」

「なんとかされたいとは思われませんか?」

「うちの鎮守府には魔王がいますから。」

「自称かもしれませんよ。それに、本当の魔王でしたら、貴方がた人間でなんとか出来る存在ではありません。」

「彼の好意に期待しています。」

「悠長ですな。」

「他に手がありますか?」

「それをこれから提案し……おや、『介入』が始まりましたな。これは残念。」

「お別れですか?」

「そうなります。」

「サヨナラだけが人生さ。」

「ふむ、興味深い。また一度お話したいものですな。」

「私もまたお話したいですよ。」

「では今回の記念にソレを進呈します。」

「腕輪?」

「貴方を守る力になるでしょう。」

「ウルトラの腕輪みたいですね。」

 

 

 

変な夢を見た。

まだ夜明けには少し早い時間だ。

隣で寝ているネヴァダとシカゴを起こさないようにして起き上がる。

 

私室を出ると、ロッタがいた。

彼女はいつもの武装メイド姿。

 

「おはようございます、ご主人様。」

「おはよう。」

「お茶の準備をいたします。」

「いや、それはいい。ちょっと射撃の練習がしたい。」

「わかりました。すぐご用意いたしますので、こちらで少々お待ちください。」

「わかった。」

 

彼女はいつ寝ているのだろう?

 

 

地下射撃場を利用するのは人間だけで、たまに小樽のロシア人がバンバンと射撃してゆくくらいだ。

 

先ずは射撃用の手袋をはめる。

素手で撃っていると微細な金属片で細かな傷が付いたりするので、滑り止めも兼ねて必要だ。

防音用の耳当ても付ける。

発射音は軽く乾いた音だが、耳の保護は大切だ。

ヘッケラー・ウント・コッホ製の半自動式拳銃を手に取り、下部にある爪を押して弾倉を引き抜く。

九ミリ弾をシングルカアラムの弾倉に八発込めて、銃本体に挿入する。

遊底を引いて、射撃可能状態にした。

クーパースタイルで銃を構える。

引き金の下にある安全装置のスクウィーズ・コッカーを握り締め、その高らかな音と共に初弾次弾第三弾を放つ。

パン、パン、パン。

乾いた音がこだまする。

日本国内で相手先商標生産(OEM)されている瑞西の半自動式拳銃に比べると操作性にかなり癖のある拳銃だが、これもまたよい。

メリケン製の半自動式拳銃も試してみた訳だが、ロッタとアマーリエと小樽の提督が大量に持ち込んだ銃火器の中からこの拳銃を選んだ。

なんであんなに持っていたんだ?

無心で弾を撃ち尽くす。

弾を再装填し、弾倉を銃の中に入れてスクウィーズ・コッカーを握り締めるやそれによって戻る遊底とほぼ同時に引き金を引く。

詰めては撃ち詰めては撃ちを繰り返し、五〇発入った紙箱が空になった。

 

よし、調子が出てきた。

外では激しい雨が降っているもののなんのそのだ。

朝食をもりもり食べて仕事をばりばり片付けよう。

たまには硝煙のにおいを嗅ぐのも悪くない。

なんてな。

 

 

 





『終戦後艦娘』というお題のツイッターがあって、戦後の艦娘たちがボロボロになってゆく様を記述したものがあります。
確かにそうなる可能性が高いと思わせるものも多々ありますが、では、提督たちや大本営は戦争職人ばかりで戦後のことを全然考えられない社会的無能揃いなのかという疑問を覚えました。

途中で気分が悪くなって読むのを止めた為、見落としがあると思います。
思いますが、似た世界観に目眩を覚えました。
そして、そういうものを読んでいてとても悔しく思いました。
元々人工生命体に関する作品が好きな為かもしれません。
基本的にわたしの原動力は『怒り』なのですが、やりきれない悲劇を好む方々に負けたくはないです。

『よその鎮守府とまともに交流も連携もなく、地域社会との関わりもなく、艦娘たちに教育や技能を施すことなく、艦娘が恨みを残して亡くなっても深海棲艦化せず、戦争のことしかまともに考えられない提督が幅を効かせる世界』が基本線のように思えました。

なんと酷い提督たちなのでしょうか!
なんと無能な大本営なのでしょうか!

悲劇的な展開は読み手的には腹立たしいことがあり、然れども、書き手的には暗い快楽を伴うものです。
書き手として本当に辛くなる話は書けない筈です。
単純に明るい話は嘘っぱちですが、艦娘に経済的価値があると認められれば立場は悪くないと考えます。
よって、『はこちん!』のセカイでは艦娘が経済の牽引役です。

艦娘が恨み嘆きながら死んで、深海棲艦化して戻ってくる展開が『終戦後艦娘』に於いて存在しないのは不自然です。
少なくとも、わたしが読んだ辺りまでは皆無でした。
深海棲艦を滅ぼしたと思った後、彼女たちは本当に二度と現れないのでしょうか?
都合の悪い可能性に蓋をするやり方にはあまり感心出来ません。
二次創作作品では散々艦娘が深海棲艦化しているのに、こちらではならないだなんて。
このタグが付いた世界観に於いて、艦娘が深海棲艦化するのは禁則事項なのでしょうか?
深海棲艦化する展開があった場合は申し訳ありません。


艦娘の立場をよくするも悪くするも提督次第ではないでしょうか?
艦娘を本当に大切に思うなら、戦後を見据えて教育したり技術を身に付けさせたり資格を取らせたりするのではないでしょうか?
本当に大切な相手を窮地に追い込みたい人はいないでしょうから。
鎮守府だって、戦争ばかりしている訳ではないでしょう?
待機して暇をもて余す艦娘が存在するならば、その時間を使って色々出来る筈です。

深海棲艦の侵攻開始から半世紀経っても先が見えないという世界観で二次創作作品を平然と書かれている方もいますが、そんな状況だったら人類は勝てないのではないでしょうか?


艦娘を化け物扱いされる前に、宣伝工作は行うべきであります。
艦娘を安全安心信頼の証として世間に知らしめる必要性があるのであります。
情報操作は政治経済の基本であります。
提督殿、ご決断を願うであります。
これこそが、戦後の艦娘たちを救済する手段のひとつになるのであります。
あきつ丸は陸軍の一員として提案するのであります。


艦娘を貶めるのは書き手として暗い愉悦を伴うものかもしれませんが、そういう展開にはしたくないです。
そうした点で、赤川次郎さんの随筆は書き手として興味深いものがありました。

極力ご都合主義を排除しようとはしているのですが、そうすると暗い展開が魅力的な瞳でこちらを見つめています。
紅玉のような瞳で。
ソレに抗うのは、自身が深海棲艦化するのを抑える艦娘の気持ちに近い気がします。

確かに、厭な設定はぼろぼろと思いつきます。
それをどうひっくり返すか日々悩んでいます。
艦娘ってなに?
妖精ってなに?
提督ってなに?
鎮守府ってなに?
大本営ってなに?
深海棲艦ってなに?
妊娠は出来る?
出産は出来る?
寿命はいつまで?
老化はどうなる?
戸籍はどうなる?
人権はどうなる?
戦後はどうなる?
反乱は防げる?
隔離される?
オーダー66みたいなコードは組み込まれていない?
一定状況だと艤装が動かないようにされてはいない?

どうすれば、艦娘は幸せになれるでしょうか?
この血塗れの手は、綺麗になるのでしょうか?

艦娘を、『だって人殺しの道具でしょ?』という認識しか出来ない政治家があまりいないように願いたいです。



しばしば迷走している作品ですが、少しでもなにかしら感じていただけましたら幸いです。
元ネタがわからない場合、お問い合わせいただけましたらお答えします。お気軽にお聞きください。


わたし自身占いをするのですが、某氏屋さんの描かれたタロットが欲しい今日この頃です。




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