はこちん!   作:輪音

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Ⅳ:おっさんは鉄底海峡の生き残りになつかれちゃいました!

 

「俺は量産型島風だ。中身はおっさんだが、よろしく頼むぜ。ちなみに何故か両性具有だ。まあ、襲ったりはしないから気にしないでくれ。」

 

最速艦娘として名高い島風の量産型が函館鎮守府に着任した。

パンツが露出していなくて、代わりにスパッツを穿いている。

 

一時期、大本営は希望する男性を艦娘に作り替えて運用していた。

あくまで志願者という点が巧妙だ。

深海棲艦によって日本経済が崩壊し、それによって街に溢れた浪人衆へ刀槍及び鎧兜を与えた訳だ。

最盛期は数千名いたらしいが、一万名以上はいたと証言する関係者も何人かいて事実は五里霧中だ。

量産型艦娘は主に南方の激戦地に送られ、その殆どが初戦で海の藻屑になったとか。

 

「まともに銃火器を使ったことのない奴が艤装を背負って戦場へ行くんだ。緊張したまま一発も撃てないで火だるまになった奴も、一人二人じゃない。運よく初戦を生き延びられても、次の出撃で敵さんから直撃を喰らって即轟沈って奴も少なくなかった。」

 

「簡易生産型の俺たちは轟沈率がかなり高くてな。朝会話をした奴と夕方には会えなくなるなんてザラだった。おっさん艦娘の九割以上が着任して一ヵ月以内に轟沈していたよ。」

 

「俺たちおっさん艦娘を最前線で使い捨てにしながら強引に海域突破した鎮守府もあったそうだが、まあ、そんな戦術しか出来ない提督に付いてゆこうとする艦娘はいないわな。華やかな成果を出しながら、行方不明になったり戦死したりする提督も当時はけっこういたよ。行き過ぎた効率主義ってやつかな。」

 

「生粋の艦娘とおっさん艦娘の違いは、素材の差とか魂の強度差とか言われていたな。『融合化現象』で、おっさん艦娘も一週間経てば大抵女らしくなった。俺は例外だが。重巡洋艦の最上(もがみ)も俺同様に両性具有だったが、建造された時から女らしかったし、あっちの龍驤は建造された当時はえらく尖っていたが段々女になっていった。隼鷹(じゅんよう)もいつの間にかおっさん女化していた。あいつが下着に凝りだした時は本気で驚いたよ。」

 

「一年以上もおっさん艦娘をやっていた、重巡洋艦の青葉には随分世話になった。あいつから、自我の強さと相性のよさとで艦娘化の融合状況が変わると教えてもらったし、一旦艦娘化したおっさんは二度と人に戻れないことも教えてもらった。大本営なんて嘘ばっかし言うぺてん師集団だ。」

 

「青葉は所属する鎮守府の提督とケッコンカッコカリをしていた。指輪を愛おしく撫でる姿は見た目相応の娘にしか見えなかった。」

 

 

 

 

攻撃力は生粋の艦娘とほぼ同等に出来たものの、本来の作り方とは全然違うために防御力や耐久性や生命力は著しく低い者が大半なのがおっさん艦娘だった。

南方の提督たちは捨て艦戦法に多く用いたらしい。

エルガイムに対するディザードみたいなものかな?

或いはガンダムに対するジムか?

最近大本営が刷新されたのでこのように非人道的な所業は為されなくなったが、それで死んだ者が浮かばれる訳でもない。

何名生き残っているのだろうか?

 

金髪碧眼の美少女がすらりとした長い脚を組んで、憂い顔を見せる。

それだけで絵になる姿であるが、私を見つめる目に違和感を覚えた。

誰かに似ているのだろうか?

それとも……。

 

「何名生き残っているのですか?」

「俺の知る限りでは、俺と隼鷹と青葉と龍驤と最上くらいだな。もう数名いるようだが、よくわからん。隼鷹と最上は小樽に着任したよ。」

 

軽空母の隼鷹と重巡洋艦の最上か。

名前だけなら精強の艦娘みたいだ。

いや。

あの鉄底海峡を生き残れたのなら、間違いなく強者だろう。

生き残った者こそ最強なのだから。

 

「あいつらは今じゃすっかり身も心も女になっている。その方が幸せなんだろうな。」

「人それぞれでしょうね。」

「無難な答え方をする奴だな。」

「気に入りませんか?」

「いや、それでいい。」

「安心しました。」

「ところで部屋割や入浴などはどうする? 体は女だが、心は男だ。嫌がる者もいるだろう。」

「そうですね、その辺りはみなで話し合いましょう。」

「深海棲艦ともそういうことが出来たらいいのにな。」

「まったくです。」

 

話し合いは一時紛糾したが、私と同室で着替えも入浴も一緒にしようかと言ったらあっさり妥協した。

元々浴場は混浴仕様提督限定らしい。

基準がよくわからない。

私が無害そうに見えるおっさんだからだろうか?

 

 

 

近海の哨戒任務に島風を曙たちと出したら、皆大変興奮しながら帰投した。

深海棲艦相手に島風が鬼神の如く暴れたらしい。

 

「魚雷を蹴っていました! あんなの初めて見ました!」

「最速を謳われるだけはあるわね。敵が一方的に撹乱されていたわ。」

「魚雷の撃ち方は流石だったわ。無駄な発射が一発もなかった。」

「魚雷を手に持ってね、ニヤリとしながら相手の艤装の間にこう突っ込むの! そしてパンパン、って連装砲ちゃんが発砲してドカンてなるの!」

「近づいて撃つのは基本だけど、あんなに近接してぶっぱなせるなんて相当度胸があるわね。無駄弾が一発もないっておそろしい腕前よ。」

「格闘術も大したものね。回し蹴りでけたぐり倒した相手に、数発撃ってとどめを刺す。なかなか出来ないわ。」

「後ろに目でもあるんじゃないか?」

「血管に機械油が流れているとか?」

 

 

 

 

深夜の浴場。

私は隣の島風に話しかける。

 

「なあ、島風。」

「どうした、提督。」

「何故腕を絡めてくるんだ?」

「気にしないでくれ。ただのスキンシップだ。」

「なあ、島風。」

「どうした、提督。」

「何故そんなにそこがフルパワー状態なんだ?」

「気にしないでくれ。ただの生理現象だから。」

「なあ、島風。」

「どうした、提督。」

「何故そんなに密着する?」

「気にしないでくれ。人さみしいだけだから。」

 

 

 

添い寝させて欲しいと言われて流石にそれは断ったが、寝室に入ると何故か龍田が寝ていた。

仕方がないので執務室に隣接する仮眠室で寝たら、翌朝大淀が隣で寝ていた。

みんなフリーダムだな。

ちゃんと、自分の部屋で寝なきゃダメじゃないか。

朝礼で注意したら、盛大なブーイングを喰らった。

何故だ?

 

 

 

 




オマケの備忘録。
書いておかないと案外忘れちゃうので、記載しておきます。
彼女たちの出演は現時点では不明。


【小樽鎮守府】
全国初の女性提督(日本国籍のロシア人で顔に火傷痕がある。日本語勉強中の元スペツナズ。日本人の夫がいて、のろけると長い)が着任している道央周辺海域防衛的実験型鎮守府。
女の園。但し、ゆりんゆりんではない。おそらく。
別名、『北の広告塔』。
フリーダムな艦娘が多い。
乙女な艦娘も多い。
暴走する艦娘も割といる。

〈初期艦〉
◎駆逐艦の電(いなづま:ぷらずまではない。たぶん。いつも一生懸命な幼な妻。煮物に特にすぐれた手腕を持つ。稀に暴走する。憲兵や自衛隊隊員らから大人気)

〈所属艦〉
◎戦艦のローマ(ヨーロッパ大好き日本人向けの筈が……。意外にロマンティストな
乙女枠。慎重派だが暴走することもある。函館の提督が少し気になるお年頃)
◎重巡洋艦の最上(もがみ:通称もがみん。おっさん艦娘の生き残り。両性具有な乙女枠。几帳面で家庭的。函館の島風を慕っている)
◎重巡洋艦の三隈(あちこちの鎮守府をたらい回しされた歴戦艦。意外と挑戦者な芸術家で不意に暴走することもある。恋に悩む乙女。もがみんと同室)
◎軽空母の隼鷹(じゅんよう:おっさん艦娘の生き残り。陽気な調整役にして調停者。楽天的。いざという時には頼りになる存在。酒呑み仲間である釧路の千代田や函館の足柄と非常に仲がよい)
◎軽巡洋艦の天龍(頼りになる歴戦の兄貴な乙女。常識枠で冷静沈着な武人。いつも函館の龍田を心配している苦労人。横須賀第一の木曾とはただならぬ因縁があるらしい。フリーダムな面々に振り回される艦娘その壱)
◎駆逐艦の雷(いかずち:駄目提督製造艦娘。兎に角世話焼きでめっちゃ世話好きでしばしば暴走する。おはようからおやすみまで至れり尽くせりで、相手の依存度を着々と高める。使い物にならなくした提督は数知れずの歴戦艦で、女の園に左遷されたが全然懲りていない情熱家)
◎駆逐艦の暁(目指せ、淑女! 紅茶を淹れるのとスコーンを焼くのが上手で、常に向上心がある。たまに暴走する)
◎駆逐艦の響(ロシア語が上手い。提督の通訳をする才女。仲間のために敢えて暴走したふりをする頭脳派。別名、フェニックス響)
◎駆逐艦の白雪(フリーダムな面々に振り回される艦娘その弐。カレー作りに定評ありの律儀な子。外交的な社交家。函館の吹雪や叢雲とも仲がよい。スノーホワイトというハンドルネームで、電脳の海にてなにかやっているらしい)
◎駆逐艦の若葉(フリーダムな面々に振り回される艦娘その参。雷や釧路の初霜が少々苦手なハードボイルド娘。提督に憧れており、釧路の初春をいつも気にかけている)


【釧路鎮守府】
道東周辺海域の防衛を任された鎮守府。
しっかり者が多く堅実を尊ぶが反面暴走するとなかなか止まらず、提督の気苦労は絶えない。
函館との往還が意外に多く、交流が盛ん。

〈初期艦〉
◎駆逐艦の五月雨(さみだれ:いつも元気でちょっこしドジっ子。なんやかんやとみなから助けられている。提督と一緒だとホッとする)

〈所属艦〉
◎水上機母艦の千代田(しっかり者。酒豪。ヒャッハーな艦娘や函館の足柄と仲良し。横須賀に姉がいる。酔うと脱いで少しエロくなり、提督への猛攻が止まらなくなる)
◎軽巡洋艦の長良(ながら:走り出したら止まらないぜ! 行動力が高くて頭の回転が早いしっかり者。情熱家。函館の足柄や稚内の名取の親友)
◎駆逐艦の初春(はつはる:ういはるではない。教養人。堅実派。観察者。解体寸前のところを提督に助けられて恩義に感じている。少しエロく、提督をたまに試すこともある。長良に頭が上がらない。実は神様?)
◎駆逐艦の睦月(世話好きなしっかり者。コロッケと餃子を作るのが上手い。他者の助けになりたいと常に願っている。如月の親友)
◎駆逐艦の如月(エロい発言を連発するが、まだ接吻すらしたことがないおしゃれさん。提督の唇を狙う女豹[自称]。エッチなことに興味津々で、時折暴走してはいろんな艦娘を巻き込んでいる。睦月の親友)
◎駆逐艦の長月(しっかり者で手堅いハードボイルド娘。小樽の若葉の好敵手。解体寸前のところを提督に助けられて恩義に感じている)
◎駆逐艦の初霜(『坊ノ岬の勇者』。様々な鎮守府を渡り巡った歴戦艦で、戦術理論に定評がある。提督に興味を持ち、自ら釧路への転属を願った。穏やかな性格で後片付けに長けた常識枠。調停者。『釧路の防波堤』。友と呼べる艦娘が多い。姉である小樽の若葉をいつも心配しており、台湾に行った雪風や時雨を気にかけている。函館の霞の頭が上がらない存在)


【稚内】
道北周辺の海を守る武闘派鎮守府。
血の気の多い艦娘が多いが、旭川の動物園へ遠足に行った時はかなり盛り上がった。
可愛いなあ、とにやついて見ていた提督は満潮から滅茶苦茶嫌味を言われたらしい。

〈初期艦〉
◎駆逐艦の漣(さざなみ:エロいネタどんとこいの面白かったらそれでいいんです娘。提督とは悪友で企み仲間。意外と純情。解体寸前だったが、提督に保護された。提督が少し気になる。函館の曙の変化にニヤニヤしている)

〈所属艦〉
◎軽巡洋艦の名取(引っ込み思案の艦娘だが提督の大のお気に入りで、なにかと頼られて一日中いつも一緒にいる。常識枠だが周囲に流されやすく、提督の性癖に悩まされることも少なくないがついつい応えてしまうお人好し。解体寸前だったが、提督に保護された。キレると鎮守府最強)
◎駆逐艦の朧(生真面目な体育会系で武闘派で努力家。函館の曙をよく気にかけている)
◎駆逐艦の潮(人見知りが激しいけれども、気遣いに長けている乙女。やや内向的。よく他の艦娘から大きな胸を触られている。函館の曙をいつも心配している)
◎駆逐艦の三日月(生真面目なしっかり者。意外と好戦的な武闘派。姉である釧路の睦月や如月をいつも心配しており、函館の鳳翔を慕っている)
◎駆逐艦の荒潮(おしゃれさんな明るい社交家で武闘派で観察者で挑戦者。釧路の如月から好敵手扱いされている。満潮のことをいつも気にかけている。小樽の最上や三隈とも仲がよい。提督の唇を狙っているらしく、一回成功しかけた)
◎駆逐艦の大潮(朝から晩まで兎に角元気。明るくやさしくおおらか。鎮守府の癒し枠。意外と武闘派。満潮のことが大好き)
◎駆逐艦の満潮(あちこちの鎮守府をたらい回しされた、皮肉屋でさみしがり屋。武闘派。ツンデレ枠。常に努力を怠らない不屈の子。解体寸前だったが、提督に保護された。『稚内の猛虎』。函館の提督を皮肉った時に叢雲曙霞三名の猛撃を受ける破目に陥ったが、それでも孤軍奮闘した)





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