はこちん!   作:輪音

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『艦隊これくしょん』の二次創作作品で、普通に紅茶や珈琲が出てくると違和感を覚える今日この頃。
産地とか流通とか価格とか品質とかどないなってまんねん?
そもそも国内の物価・物資統制とか配給とかあれこれ考えると、更に訳のわからぬ状況になる悪循環。
ぬう。

教えて、紅茶姉妹筆頭の英国娘さん!





ⅩLⅥ:黒石紅茶

 

 

 

深海棲艦が侵攻を開始して国外との関わりが断たれた初期。

海外製品がいの一番に市場から消えた。

日持ちする嗜好品の紅茶や珈琲も例外ではなく、あっという間に店頭の棚からその存在を消した。

 

一時期は珈琲一杯三〇〇〇円などという値段がまかり通っていたが、最近は東南アジアやオセアニア方面の紅茶や珈琲が店頭に出回り始め、政府の物価統制もそこそこ上手くいっている。

珈琲なんぞにそんな高い金を払えるかと息巻く層がちらほらいて、そういう人たちはタンポポや小豆の代用珈琲を不承不承飲んでいたりする。

 

ちなみにチョコレートはシヴェリア鉄道経由で入荷はしているものの、今も高嶺の花だ。

こちらの方が、価格的にずっと酷い。

板チョコは現時点で一枚三〇〇〇円。

品質は某茶色な包装紙のそれと同等。

欧州戦線で戦う艦娘たちのお陰故に、その価格帯で済んでいる。

彼女たちの功績が無ければ、一枚五〇〇〇円くらいに跳ね上がることだろう。

諸行無常。

チョコレートはハイカラな高級品だ。

 

 

 

青森県黒石市。

林檎とりんごまつりとこけしと温泉とつゆ焼きそばとマッコ(お年玉)市で知られる街。

深海棲艦の侵攻で全国の市町村の多くは財政破綻寸前まで追い詰められ、実際、崩壊した地域も存在する。

未だに復興出来ていない地方自治体が複数存在する現状、黒石でも経済的に力を付ける為の暗中模索が重ねられた。

そのひとつが国産紅茶である。

 

緑茶を栽培出来るということは紅茶を産み出せるということだ。

発酵の度合いで同じ茶葉が別物になる。

烏龍茶だって、好みで作り出せるのだ。

緑茶の栽培される北限は新潟県最北端の村上市と言われているが、地元で消費されるものとしては黒石市でも栽培されている。

黒石市の民はこれに目を付けた。

宮崎の知覧紅茶、広島の尾道紅茶、岡山の高梁(たかはし)紅茶などが商業的に成功していることは、彼らの意欲を後押しした。

外国産紅茶が今も輸送費の関係で高いとか国産紅茶が流行しているとか某紅茶姉妹が暗躍しているとか、理由は様々だ。

兎に角、黒石市は現在国産紅茶の北限として売り込みを始めている。

 

 

 

ここは函館鎮守府。

私はなんちゃって提督。

今日も今日とて執務室。

高梁型軽巡洋艦三姉妹が着任してから、紅茶の消費量がやたらに多くなった。

お茶会が頻繁に催されているからである。

まるで、某紅茶姉妹が着任したみたいだ。

国産紅茶の飲み比べが行われ、ああでもないこうでもないと議論が交わされている。

平和だなあ。

あれ?

どこぞの高速戦艦たちがいるように見える。

気の所為か?

巫女服みたいな衣装が見える。

あれれれれ?

大湊(おおみなと)の紅茶姉妹かなかな?

 

「ハーイ、提督。お茶会は如何デス?」

 

やはり、紅茶姉妹だ。

 

「いただきましょう。」

 

休憩に入って、ソファに腰かける。

さりげなく鹿島と雲龍に挟まれた。

今日の秘書艦は彼女たち。

しまった!

孔明の罠か!

なんてな。

やたらに胸を押しつけてくる。

やめなさい、みんなが見ているんだから。

子供の教育に悪い環境だなあ。

 

「この黒石紅茶はプロトタイプだけど、問題ナッシングね。水色(すいしょく)は淡いし香りもまだまだだけど、ノープロブレム。今後の成長に期待したいネ。」

 

紅茶姉妹筆頭が微笑む。

うん、このマドレーヌはおいしい。

スコーンも旨い。

紅茶もいいんじゃないかなかな?

 

「私の計算によると、黒石紅茶は生産力を上げて知名度を高めれば販路を築けると予想されます。」

 

紅茶姉妹の眼鏡っ子が言う。

 

「お姉様、ただ今クッキーが焼き上がりました。」

 

お姉様好き好きわんこ娘がクッキーを手に現れる。

君たち、フリーダムだね。

 

「提督、お代わりは如何でしょうか?」

 

嫁にしたい艦娘上位の大丈夫娘が、さりげなくお茶のポットを持ち上げる。

 

「いただきましょう。」

「はい、提督さん、あーんして。」

「提督、こっちのわらび餅もおいしいわよ。」

 

鹿島と雲龍の攻勢も加速する。

ちなみに高梁型軽巡洋艦三姉妹は、地元の女学生たちとお茶会で交流を深めている。

以前イメージビデオの撮影で地元の学校の吹奏楽部を利用させてもらったが、今も交流は続いていた。

 

黒石紅茶の売り込みは大湊鎮守府が主導しており、それは青森県振興策のひとつでもある。

その普及には紅茶姉妹が一枚噛んでおり、彼女たちは事あるごとに国産紅茶の普及に力を注いでいた。

全国各地の緑茶生産地でも国産紅茶の生産に注力する地域が増え始め、凝り性の日本人たちが奮闘している。

先に述べた村上市の人々も黒石市の報を聞いて奮起し、負けてはならじ新潟県に村上市ありと名を轟かせんと国産紅茶の開発に取り組んでいるそうだ。

 

和気藹々とした雰囲気の中、少し違和感を覚えた。

紅茶姉妹が四名とも揃った鎮守府や泊地は意外に少なく、存外二名とか三名とかが所属しているだけだったりする。

現実は案外厳しいものだ。

 

彼女たちは大湊の姉妹ではないのか?

そう言えば、大湊の紅茶姉妹は現在作戦行動中で……。

 

「どうかしましたカ、提督?」

 

やさしい声で、対面の席に座る紅茶姉妹筆頭が囁く。

彼女たちはどこから来た?

四大鎮守府か?

それとも……。

 

「最近、そちらの鎮守府は如何ですか?」

「もうアチラは夏日が続いているから、函館の涼しさは素晴らしいネー。」

 

お姉様好き好きわんこ娘が、さりげなく鹿島と雲龍を部屋から連れ出す。

そして。

私の両隣に眼鏡っ子と大丈夫娘が座った。

 

「提督、ちょっとお話しましょうカ。特に転属希望艦娘についてネ。」

 

紅茶姉妹筆頭はやさしくやさしく囁いた。

 

 

 

 

 

 


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