レオタードのように体の線にぴったりな服を着て耐閃光防御ゴーグルを頭に着けた、凛とした雰囲気の長身の豊乳娘がピシリと敬礼する。
金色の髪なびかせた娘。
「私はアンドロメダ級宇宙戦艦一番艦のアンドロメダだ。栄光の第二世代型地球防衛軍宇宙艦隊旗艦として、激戦を戦った。艦載機の運用による柔軟な作戦行動と、拡散波動砲による決定的破壊力で敵艦隊を消滅してみせよう。ブラックタイガー隊を指揮する加藤はとても優秀だぞ。」
欧州中世風の胸元を強調した服を着て腰に剣を差した、ゆるふわ系巨乳美人が敬礼する。
赤毛の娘。
「私はゲア・ガリング級超弩級空中要塞一番艦のゲア・ガリングよ。大量のオーラ・マシンの運用が可能な航空母艦として、戦果に貢献するわ。直接ぶつけられるのは苦手なので、気を付けてね。今はドラムロとビランビーだけだけど、開発すればレプラカーンやビアレスやライネックやボチューンなども装備出来るわよ。マーベルのハイパー・オーラ斬りで姫や鬼も真っ二つなんだから。」
「君たちのように強力無比な戦力が、我が艦隊に加わるのは大変望ましい。」
私の言葉に、二名の表情が明るくなってゆく。
「しかし、敵艦隊を一撃で破壊出来る砲撃能力や、一隻で数個艦隊を相手取れそうな戦力は過剰戦力であり、これまでの状況を悪い方にひっくり返すおそれがある。」
「だが、提督、戦力が大きくなることは喜ばしいことだろう。」
「そうよ、この子たちを使いこなせば海域解放の進捗度が格段に進むわ。」
「そして、君たち以外の艦娘がどんどん壊れ、疲弊して沈んでゆく訳だ。」
「そんなことはさせん。」
「そうよ、させないわ。」
「君たちがそう思い、私が手を尽くし、大淀さんが手を回しても、大本営はあの手この手で次々に要求してくるだろう。使い勝手のよい消耗品扱いされるのがオチさ。」
目覚めた。
……夢か。
まだ夜明けには遠い。
添い寝している娘たちはどちらも私に背を向けている。
今寝ている娘たちは……その……誰だったか。
……寝よう。
そうだ。
寝てから考えよう。
目が覚める。
午前四時だ。
両隣の妙高先生と足柄を起こさないように、慎重にベッドから降りる。
そのまま手洗いに向かった。
ふう。
小窓を開け、ファブリーズを噴射する。
あと何年こういう生活が続くのだろう?
彼女たちはいつまで理性を保てるのか?
いつダムが決壊してもおかしくはない。
今はまだなんとか帳尻を誤魔化しているものの、その内厳しい精算を求められるに違いない。
とても支払えそうにない額を請求されることであろう。
その時、如何に対処出来るか?
むふう。
和平工作を戦艦棲姫とショウカクとに模索してもらっているが、現状は芳しくない。
……。
さてと。
風呂にでも行こうか。
四六時中開いている天然温泉に独り浸かるのは、とても贅沢なことだと思う。
湯を堪能していたら、大淀が入ってきた。
まるで計ったように入浴するねえ。
「あら、提督。入っていらしたんですね。」
「ええ、まあ。」
「「偶然ですね。」」
嗚呼、雷神具惨しちゃう。
「なによ、インスタント司令官。入るなら入るで教えときなさいよ。」
霞まで何故か入ってきた。
早く出ないと不味くなる。
いかん、両脇に来られた。
その後、妙高先生と足柄が来て、そりゃあもう大変だった。
手洗いに行っておいてよかった。
『もっけもん』というゲームがある。
二〇年以上も前から販売されている。
息の長い電脳遊戯だ。
手を変え品を変え、継続されている。
『もっけもん』とは、おっさんの姿をした魔物の総称。
プレイヤーはカイーシャ・マスターとなり、『もっけもん』と仮契約したり本契約したりして最強を目指すのだ。
キカシューという、黄色いシャツを着た小太りのおっさんが代表格の魔物。
「気化? 気化?」と虚ろな目で近づいてくるのが妙に受けているそうな。
『気化臭』なる独自技は強力。夏場の雨天時の満員電車よりもおそろしい。
進化とか二身合体とか様々な要素がそこかしこに仕掛けられており、ロケット娘隊と呼ばれる敵対集団が物語を盛り上げる。
例えば、『名刺カッター』は基本技だし、最終決戦技の『ドゲーザ』『ハイ・ドゲーザ』『ハイパー・ドゲーザ』は使いどころがハマると相手のSAN値をガリガリ削る。但し、失敗すると目も当てられない結果に終わるが。
『能率手帳砲ノルティ』
『社内恋愛支援OL』
『残業斬舞』
『書類契約拘束障壁』
『アルカイック・スマイルの楯』
『ノミニケーション・サーキュレーション』
色々な技がてんこ盛り。
特殊技能の『エム・エー』で他社を乗っ取ることも可能。
資金力次第で、特殊技能の『フロム・エーエー』により臨時の『もっけもん』を数多く雇用可能だ。
『モヨオシモノ』系の戦闘で役に立つ技能である。
先日、携帯端末に対応した最新作の『もっけもん・おー』が発売され、人気を博している。
中年男性を写すことによって、強力な『もっけもん』を召喚したり契約したり出来るのだ。
函館は本州に比べて涼しい。
今日は日が照らずに涼しい。
書類作業が円滑に進みゆく。
そんな午後。
同期の提督から電話が来た。
「なあ、お前、『もっけもん・おー』はやっているか?」
「していない。私は最近のピコピコがわからなくてね。」
「ピコピコ言うな。最新のゲームの情報くらい押さえておけよ。そっちの艦娘だってやっている子がいるだろう?」
「サテュルヌス時代のゲームくらいならわかるんだがな。」
「『アクラ大戦』とか『エミュレータ・サマナー』とか『スナッチ・ハンター』とかか。」
「『アンソルト』もよかったなあ。」
「またマニアックなゲームを。で、そのゲームで、『ミュールツー』がどのおっさんを撮影したら出てくるかで話題になっているんだよ。」
「『ミュールツー』? おっさん?」
「あー、なんも知らないのな。『もっけもん』自体、昔から出ているゲームだぞ。」
「名前自体は知っている。」
「最新作の『もっけもん・おー』はな。おっさんを撮影すると強い『もっけもん』が入手出来るんだ。」
「ごめん、おじちゃん、意味わかんない。」
「まあ、そうなるな。しかも、冴えないおっさんを撮影すると、より強力な『もっけもん』を入手しやすいらしい。」
「ふーん。」
「おいおい、お前、他人事じゃないぞ。」
「なんで?」
「なんで、って……お前、冴えないおっさんだろ。」
「お前もな。」
「まあな。……じゃなくて、お前も充分撮影対象なんだよ。」
「な、なんだってーっ!?」
「来るぞー、来るぞー、艦娘が来るぞー。おまけに訳わからん奴まで来るぞー。俺もやられたからな。俺は詳しいんだ。」
「なんて不快指数の上がりそうなお言葉だこと。」
「流行りなんてそんなもんだ。今のうちに覚悟完了しておけ。あ、鳳翔さんとこに逃げるって手もあるな。俺はそうした。」
「早速そうする。ありがとう。」
「いえいえ、どう致しまして。」
何故か何名もの青葉に追いかけられながら、多数の艦娘から撮影された。
『マタンキ』よ、『マタンキ』よ、という言葉が聞こえる。
マタンゴじゃないのか。
鳳翔の所に逃げ込み、騒動が一段落するまでそちらで執務を行った。
ピコピコこわい。
ちなみに、『マタンキ』というのはかなり強力な『もっけもん』だそうだ。
その情報が錯綜混線し、函館駐屯地の司令を撮影したら『マタンキ』が出るという誤情報が流れ、その近辺は一時期不審者が多数現れるので警官が出動する騒ぎにまでなった。
実際にゲームをしている隊員が司令を撮影し、その噂が事実でないことをネットで公表して事態は鎮静化された。
小学生から五〇代のおっさんまで幅広く遊ばれている『もっけもん・おー』だが、遊んでいる女の子をおっさんたちがナンパしちゃって問題になったり、『もっけもん』の交換が多額の金の動くリアル・マネー・トレーディングの温床になったりと問題山積だ。
また、『もっけもん・おー』を遊ぶには検索エンジンの閲覧履歴やメールへのアクセスが必要とのことから、『監視社会体制を促進する動きだ』と批判する人たちもいる。
おっさんを無断撮影して揉め事を起こすプレイヤーが何人も全国報道されて大問題になっているが、そりゃそうなるわな。
女学生たちに囲まれて撮影され、ご満悦なおっさんもちらほらいるようだ。
自撮りして、『俺自身を撮影したらこんな[もっけもん]を入手出来た』と報告するツイッターもあちこちで見られる。
肖像権侵害で訴状沙汰になったら大変だと思うのだが、今のところはそこまで問題化していないようだ。
当分、良くも悪くも話題になることと思われる。
うちの子たちにも注意しておこう。
ところで、おっさんて幾つからなんだろうか?
子供からすると大人は皆おっさんかも知れないが。
深海棲艦がどうしたこうしたとか、艦娘がどうしたこうしたとか、しかめ面して喚くよりもまだいいのかも知れないが、なんだか複雑な気分だ。