到頭五〇話まで来ました。
皆様の支えあってこそ、ここまで来れました。
本当にありがとうございます。
我ながらよく書いたものに御座候。
自分自身でハチャメチャな話だなあと思うものも少なくないのですが、支持してくださいまして感謝の念に堪えません。
社会情勢は書けば書く程泥沼ですが、そういう内容を書くのも大切かと考えます。
構成的には、『パタリロ!!』に少し似ているかもしれません。
あの決定的な敗戦後。
自衛隊と共に二一世紀を迎えた日本が深海棲艦の侵攻を受け、武装完了覚悟完了した艦娘の扱いに苦慮しながら世界の海域の解放を目指しているのがこのセカイです。
艦娘の立場は政治的にも社会的にも未だ不安定ですが、彼女たちはたくましく生きています。
以前に恩師から「あなたは早口で話を広げ過ぎるところがあるから、その二点に特に気を付けなさい。」と注意されたのですが、ここでもついついやらかしてしまって汗顔の至りです。
『ゴールデンカムイ』が気になる今日この頃ですが、今後とも少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
七月末のある日、北海道立函館美術館開館三〇周年記念企画展の『画家の詩、詩人の絵』を護衛の劉鵬(りゅうほう)君と観に行った。
私は美術館や博物館へ行くのが好きなのだ。
受付嬢と前回の絵画展やひろしま美術館や三岸(みぎし)好太郎や近代芸術について会話を繰り広げた後、男二人で詩やら絵やらを鑑賞する。
「提督って、人間の女性もかなりイケるんですね。」
若き風魔がぽつりと洩らす。
えっ? なにゆうとんねん。
「いやだなあ、私は人見知りが激しくて内気で口下手なさみしいおっさんですよ。」
「とてもそのようには見えません。」
なんだか微妙な目付きをされる。
仕方ないので言葉を継ぎ足した。
「昔接客業をしていましたからね。」
「成程、天然のジゴロなんですね。」
「いやいや、そんなことがこの私に出来る訳ないでしょうに。」
「人は見た目だけではわからぬ故、曇りなき心眼にてしかと見よと頭領から申し付けられております。」
「こんな冴えないおっさんなんか詰まらないと思いますよ。」
「いえいえ、なかなか興味深い内面をお持ちだと考えます。」
切り返された。
なんでやねん。
私が人間の女性にモテる訳ないですだよ。
美術館の話を膝に乗ったり背中にのっかかったり抱きついたりとフリーダムな艦娘たちにすると、何故かみんなで美術館に行こうという話になった。
美術館へ行くことになった当日、鎮守府前にバスが四台あって驚いた。
なにこれおっちゃん聞いていないんだけど。
沢山の艦娘にガイド姿の大淀に妙高先生。
高雄型重巡洋艦だった元艦娘二名も、同様の姿をしていた。彼女たちは志願して案内役になったという。
妙にピタリと合う制服姿。
ゴーアヘッド!
行くべ行くべ!
情操教育を目指し、賑やかな面々を引率する。
矢継ぎ早に多数の艦娘から質問された。
おいちゃんは専門家ではないので、あまり突っ込んだ質問をしないように。
到頭、美術館の学芸員のお姉さんが解説しながら案内するという贅沢な内容になってしまった。
彼女はあの時の受付嬢だ。
いやはや、なんとも申し訳ありません。
他に訪れていたお客さんたちも熱心に聞いていたので、少し罪悪感が薄れた。
観賞後、美術館の方々に平謝りする。
幸い、皆さん大らかな対応をしてくれたので大変助かった。
案内役をしてくれたお姉さんが、私へ冗談混じりに言った。
「今度ご飯を奢ってもらおうかしら?」
「そうですね、それはいいかもです。」
あれ?
なんだか急速に周囲が冷えてゆくように思えた。
空調の設定温度を下げたのかな?
ある日、箪笥の中の下着が一新されていた。
なにこれおっちゃん聞いてへんで。
本日の第二秘書艦の龍驤に聞いてみる。
「龍驤はん、龍驤はん。」
「なんやのん、アンタ。」
「あれ? 龍驤はん、ワシのことキミ呼ばわりやなかったか?」
「旦那やからアンタやろ。」
「せやな……ってなんでやねん。いつワシは龍驤はんの旦さんになったんや?」
「ええやん、アンタはウチらの共有財産なんやし。」
「ちょい待ち、なんや既成事実作ろ思うとんかもしれへんけど、それはちょっとアカンで。」
「アカンか?」
「アカンわ。」
「しゃあないなあ。まあ許したるわ。」
「許して許して。そいでな龍驤はん。」
「なんやのん、ご主人様。」
「ちょい待ち。」
「今度はどないしたん?」
「龍驤はん、いつから漣(さざなみ)ちゃんになったんや?」
「ご主人様、って呼ばれるのが男性の浪漫なんやろ。」
「そういう嗜好の人もおるけどな、ワシはちゃうで。」
「アンタの方がええか?」
「なんでやねん。」
「夫婦漫才はここまでにして、なんか用か? 夜戦なら大歓迎やで。」
「あんな、ワシの下着が全部替わってましてん。」
「ええやん、ぴかぴかの新品や。」
「それが今回初めてならそう思うけどな。」
「ちゃうんかいな。」
「せや。これで三回目や。」
「男が細かいこと気にしたらアカンで。」
「下着が全部交換されとるのに?」
「なら聞くけど、なんぞ問題でもあるんか?」
「こんなに頻繁に替わっとったら、なんや変に思うで。」
「旦さんが愛されとる証拠や。」
「使用済みの下着や歯ブラシや割り箸やペットボトルを集めて、それを喜ぶ子たちっていうのはちょっとなあ。」
「割り箸やペットボトルは知らんで。」
「……。」
八月初旬。
鹿が市内に出た、というので函館中央署の署員たちや猟友会の面々と共に捕獲作戦に参加する。
遺愛女子中学・高校近辺に現れたというので、脚に自信のある駆逐艦や軽巡洋艦と一緒に捕獲作戦を決行した。
高梁(たかはし)型軽巡洋艦三名による、連携戦闘機能のライド・ギグを存分に発揮してもらおう。
作戦開始!
女子校を舞台に鹿を追いかけ回す艦娘。
きゃあきゃあと声援を送る女学生たち。
意外にも俊敏な鹿の動きに翻弄される。
連携行動が野生の勘にすり抜けられた。
いきなり鹿が走り出して振り切られる。
斯くして、第一次捕獲作戦は失敗した。
案外好奇心旺盛な鹿なのかもしれない。
街中を走り、市内を存分に駆ける雄鹿。
鹿は工業高校敷地内に入り、ここで総勢六〇名近い作戦従事員による第二次捕獲作戦が決行された。
最終的に鹿がサッカー場のゴールに突っ込んで身動きが取れなくなり、ようやく取り押さえた艦娘によって事態は終息した。
報道陣が多く撮影する中、函館鎮守府の艦娘の動きは輝いていたと思う。
飼いたい飼いたいと訴える面々をなんとか説得し、その鹿を野生に帰す。
しかと捕まえられて、本当によかった。
八月一日から五日間、函館では港まつりが開催される。
同時期、青森ではねぷたとねぶたが開催され、弘前市と青森市の誇りと意地とその他諸々が真正面から激突するのだ。
そして、同月六日から八日にかけては、仙台市で地元の方々から『たなばたさん』と呼ばれる七夕祭りが開催される。
道南から東北にかけて、華やかなるまつりが地域を彩るのだ。
艦娘たちの休みを調整し、希望をなるべく叶えるようにした。
まつりを見に行くという願いを。
夏祭り堪能作戦に皆々参加せよ!
私はといえば、日常業務終了後の午後八時から五日間連続で港まつりへ強制参加と相成った。
あちこちの鎮守府泊地警備府から艦娘が集まり、浴衣姿で夜のまつりを楽しむのだ。
これは愉悦。
戦闘ばかりではくたびれてしまう。
日替わりで六、七名の艦娘とまつりへと出向くのだ。
ベビーカステラを東京ケーキと変名しているのに苦笑し、ドネルサンドや静岡おでんやケバブの屋台に妙に感心する。
わたあめを買って袋を開いたら即時に左右前後から手が伸びてきて、あっという間に中身が無くなった。
仕方ない。
もう一個買おう。
そして袋を開けたら、またも左右前後から手が伸びてきて……。
今日は港まつり最終日。
私と共にいる艦娘も鳳翔、大淀、間宮、長門教官、加賀教官、妙高先生、龍驤となかなか強力である。
流石に今宵は大人の対応だろう。
すっかり馴染みになったわたあめ屋に寄ると、そこの訳あり風なお兄さんからニヤリとされた。
「あんた、綺麗所を毎晩取っ替え引っ替え引き連れてるな。ちょっとやそっとのプレイボーイじゃ、かないやしないねえ。呆れるやら感心するやらだよ。ほい。」
「いえいえ、ただの保護者ですよ。」
「ふうん。ああ、これはオマケだ。」
「えっ、こんなにいただけません。」
「いいってことよ。まつりももうじき終わりだ。ただ廃棄するのも勿体無いし、あんたは毎晩何個も買ってくれた。これはささやかなるオマケってやつさ。男なら黙って受け取りな。」
「ありがたくいただきます。」
「おう。俺たちの世界が平和なのも、そこの娘っ子たちのお陰なんだろ。これくらいしか出来ないけどな。」
「お気持ちはとても嬉しいですよ。」
「あんたが買ってくれた余波で、こちとらも売り上げがよかったからな。お互い様さ。」
皆でわたあめを分けあい、夜店を見て歩く。
どちらかというと遠慮がちな娘たちなので、積極的に買ってあげた。
屋台の分析に余念がない、鳳翔と間宮。
女学生から声をかけられる長門と加賀。
おじさんたちにモテモテな大淀と妙高。
お好み焼きとたこ焼きを堪能する龍驤。
まつりの最後を飾る、那珂ちゃん夜会が始まった。
「みんなー! 今日で港まつりは終わりだけど、夏はまだまだ終わらないよ! モリモリ元気で暑い季節を乗りきろうね! では聞いてください! 『LOVEさりげなく』!」
見事な歌唱力。
圧倒的じゃないか。
皆で楽しむ。
「あっ! 加賀教官!」
三曲熱唱後、那珂ちゃんが加賀を見つけた。
ステージを一旦降りて、加賀を連れて舞台へ戻る歌姫。
「こちらの加賀教官は私の先生だった艦娘です。」
「あなたを教えたことなんてあったかしら?」
「こんな物言いの先生なんですけど、とってもいい方なんだよ! 加賀教官は歌が上手いので、なにか歌っていただきましょう!」
「いきなりなにを言っているのかしら?」
「先生、ノリノリですね。マイクの握り方を見たらわかります。」
「では函館鎮守府所属の正規空母の加賀、『深愛』を歌います。」
「まさかの変化球来た!」
大盛り上がりになる特設会場。
盛況の内に歌謡ショーは終了。
風か少し強くなってきた。
そろそろ帰ろうか。
まつりも終わりになった。
明日からはまた書類との格闘戦。
平和を支える為の一助をするべ。
「そうそう、提督。」
大淀がにこにこしながら言った。
「明日から、提督のイメージビデオの撮影があります。」
……はい?
なにそれ、おっちゃん聞いておりません!