呪われた力
忌み嫌われる力
それらは海に哀しみを落とす
人の愚かさの象徴
人の世の寄せ集め
マガイモノ
マジリモノ
祓わねばならぬ
落とさねばならぬ
マガツヨのモノを倒さんと
若き姿の娘たちが
武装して襲いかかる
トランプの表と裏
Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか
普通の喫茶店で一杯三〇〇〇円だの四〇〇〇円だのしていたスペシャルティでもゲイシャでもない珈琲がようやく一杯一五〇〇円かそれ以下に下がりつつある昨今でも、ショコラーテなチョコレートの価格は三〇〇〇円くらいする。
どこぞのパティシエやベルギーの王室御用達うんたらが作った至高の品とかではなくて、普通の板チョコである。
銀紙でくるまれ、焦げ茶色の紙に包まれたなんの変哲もない庶民的嗜好品。
今では高級品だ。
一時期激減していたコンビニエンスストアで販売される淹れたて珈琲が一杯六〇〇円で、各種代用珈琲が二〇〇円から三〇〇円くらい。
ボトル珈琲や缶珈琲などというものは壊滅し、プレミアムだのエクスクルーシブだのという表現でやたら高級感を煽っている。
なんだかなー。
リュクスはとっくに死語になったと思っていたが、最近高級嗜好品を表現するのに多く用いられている。
みんなカタカナ言葉が好きだねえ。
相場が高騰すると、必ず悪い奴等が雨後の筍のように現れる。
そうでない好景気時も有象無象がいるけれども、それはそれ。
外務省も頭を抱えているが、我々の勢力に無縁の話でもない。
怪しい輸入業者や商社やインチキ野郎が後から後から現れる。
南米方面からの珈琲豆やカカオ豆の供給は期待出来ず、アフリカ方面からの珈琲豆やカカオ豆の価格はボッタクリを越えた価格が当たり前だ。
故に、比較的高めではない価格帯を目指そうとすると、東南アジアやオセアニア方面になる。
ごく一部を除き、大金は出せないからだ。
日本は既に狂乱の水泡金満大国ではない。
隣国の共産圏は中央政府の統制が取れなくなり、内戦状態が続いていた。
北の共産圏大国も割に酷くて、東西で国が二分される結果になっている。
深海棲艦が出現した為に日本を頼る国も少なくなく、それは外交上極めて有利に働いていた。
浦潮(うらじお)泊地や新潟鎮守府辺りから、この函館へも時折支援要請が来る。
大湊(おおみなと)の艦娘たちと一緒に、日本海の警備に向かうこともままある。
艦娘もどきが日本海周辺で暗躍している説はよく聞くが、実物はまだ写真に於いてですら見たことがない。
量産型艦娘の技術が海外に流出したとか数人の研究者や即席提督や量産型艦娘が亡命したとか拉致されたとか蜂蜜作戦の餌食になったとか、今もいろいろ言われ続けているが真相は闇の中だ。
日本人のチョコレート消費量は欧州のそれに比べたら可愛いものだ。
欧州の人々のチョコレートにかける情熱や執念は、日本人の米にかけるそれらに近いのかもしれない。
一部の海域が解放されてシヴェリア鉄道が頻繁に輸送業務に従事している今日この頃でも、需要を満たせるほど供給されている訳ではない。
大量輸送による安定供給と低価格化は、現在の世界情勢下では夢のまた夢の話だ。
狂乱泡沫期に上手いことをした連中ほど、当時のきらびやかさを誇らしげに語る。
滑稽な感じがしないでもないが、それくらいしかすがるものがないのだろう多分。
彼らの口からは、金のかかるようなことしか紡ぎ出されないような印象さえある。
今は節約の世なのに。
昔懐かしい『省エネ』の標語が復活して社会的に浸透しているので、騒ぐのは多数ではない。
ないのだが、声を大きくする連中には厄介な者が少なくない。
晴天下の、風の涼やかな真夏のある日。
災厄を体現したようなおっさんが目の前の椅子に座っていた。
ペルソナ・ノン・グラータかな。
一目見ただけで不味そうな気配。
ややこしそうな雰囲気を感じる。
五〇代前半位の身なりのよい男。
豊満な肉体から汗を流している。
ダラダラと止めどなく滝の如く。
狂乱泡沫期のにおいが強く香る。
ゼロハリバートンの金属製の鞄。
オメガの時計に仕立てのよい服。
システム手帳と万年筆も高級品。
バブルの匂いがプンプンするぜ。
個人輸入業者をしているそうだ。
高級品を主体に売る商売だとか。
特に万年筆で儲けているらしい。
舶来品を勧められたが、断った。
一本五〇万の万年筆など買えん!
標準的な価格ですよと言われた。
国産品の万年筆の方が高性能だ。
私は普及品のボールペンで充分。
言葉巧みにいろいろ勧めてくる。
陳情なら大湊に行けばいいのに。
何故に函館へ来たんだ、この人。
うちと癒着でもする気だろうか?
そんなことをしたら逮捕される。
バレなきゃ犯罪じゃないのかね。
あちこちで断られたと言っているが、そんなのは当たり前だ。
上手い儲け話などさほど存在する筈がないから、のらりくらりと暖簾に腕押し糠に釘状態でやんやりかわしてお帰り願った。
うさんくさい。
入り口に塩を撒き、ついでに盛り塩をしておいた。
大淀や他の面々も厭そうな顔をしている。
随分ねちっこい視線だったと怒っていた。
それはとてもいやらしい感じのエロ視線。
あんなエロ親爺が提督でなくてよかった、と曙が私の膝の上で言った。
私もエロ親爺だと言うと、だったら早く手を出しなさいよと返された。
頷く面々。
やれやれ。
後日回状が回ってきて要注意人物の欄を読んでいたら、先日やって来たおっさんの名前があった。
その翌日に浦潮泊地の提督から電話がかかってきて、そのおっさんがヴラディボストークなウラジオストックへ来たという。
日本の提督たちの反応が今一つなのでここへ来ました、と小樽からの紹介状を渡しながらそう言ったらしい。
そこには、これを読んだらさっさとそいつを追い出せと殴り書きのロシア語で書かれていたそうだ。
彼は小樽の姐さんに目を付けられたこと間違いなしだな。
二人でため息をつく。
その足で彼はハバロフスクへ向かったらしいが、消息が途絶えたので後のことはわからない。
駆逐艦を含む艦娘たちからロシア直輸入の桃色円盤を没収して壊しながら、これも舶来品になるのかなと少し考えた。