はこちん!   作:輪音

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LⅦ:独りきりにはさせないから

 

 

 

「もう、司令官たら、やっと追いつけたじゃない。はい、いかめしとお茶。出来立てのピザもあるわよ。」

 

函館本線に揺られて着いた森駅。

やや長めの停車時間をぼんやり過ごしていたら、世話好きの駆逐艦が乗り込んできた。

私の優秀な秘書艦。

我が第一艦隊旗艦。

紺色の半袖ブラウスに菜の花色のフレアスカート、そして麦わら帽子。

 

「どうして、独りで来たの? 誰も連れていかないなんて物騒だわ。」

 

小ぶりなボストンバッグを頭上の棚の上に置きながら、彼女は大袈裟にため息をついた。

 

「来たのか。」

「来たわよ。」

「函館から走ってきたのか?」

「函館から走ってきたのよ。」

「そうか。」

「そうよ。」

 

折角の食べ物だ。ありがたくいただこう。

二人で仲よくいただく。

 

「みんな、心配していたわ。」

「そうか。」

「あたしたちのことが嫌いになったの?」

「ただの休暇旅行だ。」

「そうは見えないわ。」

「思い過ごしだ。」

「そうかしらね?」

「そうなのだよ。」

 

汽車が走り出した。

長万部(おしゃまんべ)に着いたら倶知安(くっちゃん)行きの汽車に乗り換え、取り敢えずは札幌へ行くつもりだ。

 

「あたし、役に立てていない?」

「お前は有能だ。嘘は言わん。」

「なら、どうして、独りなの?」

「誰かといた方がよかったか?」

「ホント、意地悪だわ。」

「そんなつもりはない。」

「女の気持ちがわかっていないわ。」

「たぶん一生わからないだろうな。」

「函館の提督は親切よ。」

「転属許可がいるのか?」

「違うわ。司令官は司令官のままでいいの。」

「何故、アイツのことを引き合いに出した?」

「嫉妬した?」

「しないな。」

「でも、怒っているわ。」

「アイツは嫌いなんだ。」

「悪い人じゃないわよ。」

「だから問題なんだよ。」

「わからないわ。」

「それでいいさ。」

「どこまで行くの?」

「取り敢えず札幌。」

「ススキノで遊ぶつもり?」

「それは悪くない考えだ。」

「あたしたちじゃ物足りない?」

「根本的勘違いをしているな。」

「だって、司令官の女性の好みがわからないもの。」

「自分の女性の好みを艦娘に押し付けはしないさ。」

「それだと、あたしたちは好みじゃないのね。」

「どうして、そんな結論になってしまうんだ?」

「教えて欲しいの、なにもかも。」

「それはプライバシーの侵害だ。」

「愛する人のことなら、すべて知りたいのが女よ。」

「愛する人に伝えないことが多いのも、女だろう?」

「あたしたちじゃ物足りない?」

「別段そんなことは思わない。」

 

長万部に着いた。

私が指揮官をしている鎮守府の艦娘たちが、全員乗降口にいた。

駆逐艦三名と軽巡洋艦一名。

皆心配そうな顔をしている。

函館から走ってきたのだろうか?

そんな顔をしなくてもいいのに。

勝ち目なんて始めからないのだから。

憂い顔さえ、輝きを撒き散らすのか。

 

どうやら、独りきりにはさせてもらえないようだ。

 

 

 


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