はこちん!   作:輪音

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戦闘場面は苦手です。



LⅧ:まいなな艦隊の挑戦

 

 

 

舞鶴鎮守府は屈指の武闘派として知られているが、私の先輩筋に当たる人物がその第七の提督をしている。

彼の元に集う艦娘も鉄火場を大変好む者で固められ、総勢一五名規模で二艦隊構成だがけっこうな戦果を挙げていた。

 

第一艦隊旗艦兼筆頭秘書艦兼提督の嫁艦が軽巡洋艦の天龍。

火力担当高速戦艦の比叡。

対空番長重巡洋艦の摩耶。

航空戦の要な軽空母の隼鷹(じゅんよう)。

鬼神の如き駆逐艦の綾波。

騎士の如き駆逐艦の磯風。

 

第二艦隊旗艦は猛き軽巡洋艦の名取。

槍働きにすぐれる駆逐艦の叢雲(むらくも)。

弾幕を張るのが得意な駆逐艦の白雪。

ミユキ・スペシャルで悪を討つ駆逐艦の深雪。

ひっそりと努力する駆逐艦の磯波。

おそるべき駆逐艦の不知火。

 

補佐を担当する艦娘は三名。

眼鏡っ子軽巡洋艦の大淀。

機械大好きな軽巡洋艦の夕張。

調理理髪いろいろお任せくださいな補給艦の速吸(はやすい)。

 

先輩が突然昨日の夕方電話してきて、いきなり今朝やってきた。

準備の都合があるから、もっと早く連絡して欲しいんだけどな。

ワイルドな笑顔で、白髪混じりのおっさんがニヤニヤしていた。

アウトドア系のエロ眼鏡おじさんが私の先輩なのはおそろしい。

 

「有給休暇だぜ!」

「いいんですか?」

「いいんだよ、許可は取ってある。」

 

まあ、こんな人だ。

 

 

しんみりとした嫁艦の天龍から打ち明け話をされる。

 

「そうですか、着任初日に。」

「そうなんだよ、出会ったその日の晩だった。だから、他の艦娘が毒牙にかからないように気を付けさせた方がいいぜ。まあ、俺の体ひとつで済むのなら安いものさ。」

「うわあ、先輩らしいですね。」

「俺、信用ないな。」

「大丈夫です。既に特級警戒警報発令中ですから。」

「それなら安心だ。」

「俺、なんでそんな扱いなの?」

「だって先輩、以前小樽の姐さんを口説いていたでしょう。」

「勇気あるな、提督。」

「してねえよ! 単にちょっとロシアの話を聞いただけだ!」

「酒保に誘ったんですって? 命知らずですね。」

「うわあ、勇者だな、提督。」

「ちょっと待て! なんでお前がそんなことを知っている?」

「本人から聞きましたよ。」

「今夜の荒縄はなしだな。」

「勘弁してくれ、天龍。艦娘たちにむせる環境で俺が生殺し状態でもいいのかよ?」

「天龍さん、とても厭かもしれませんが、函館の安全の為に一肌脱いでください。」

「そうだな、提督を解き放ったら危ないからな。仕方ない、文字通り一肌脱ぐよ。」

「お前ら、打ち合わせでもしたの? なんでそんなに息がピッタリ合ってんだよ!」

「先輩の被害者だからです。」

「提督の被害者だからだよ。」

「ぐはぁ!」

 

 

観光バスに押し込んだ彼らがトラピスト修道院や五稜郭やトラピスチヌ修道院に行っている間に、羊や米野菜パンなどの手配をした。

 

 

 

「うちの艦娘たちがお前の実力を見たいってよ。」

 

観光から帰ってきた先輩が開口一番。

なに言ってんですか、この先輩様は。

何故か三番勝負をすることになった。

仕方ない。

養成校時代の忍び装束でも着ようか。

所々補修跡の残る、この戦闘装束を。

 

「提督、ニンジャだったの?」

「いいえ、実習で着ただけですよ。」

「ああ、そういや、忍術の座学と実習があったな。」

「へえ。」

 

審判は向こうの比叡とこちらの長門教官。

場所は道場。観戦する艦娘で鮨詰め状態。

金的目潰し喉輪手刀正中線狙いは禁止だ。

パンクラチオンみたいな感じでいいのか?

 

第一戦。

対戦相手は名取。

袴姿で木刀を構えている。

じっと見つめていたら、何故か彼女は赤くなった。

私は木刀を右手に持ったまま彼女に歩いて近づく。

きょとんとした彼女に対し、木刀を振り上げたらつられて彼女は木刀を頭上に掲げた。

そこへ足払いを食らわせ、転がして馬乗りになる。

西江水(せいごうすい)の応用だが、上手くいってよかった。

この間およそ三秒。

名取が泣き出した。

胸元が乱れている。

 

「初めては提督に捧げる予定だったのに。」

 

あれ?

私が悪者になっている?

ナニモシマセンヨ?

ネエ、ドウシテナイテイルノ?

生理現象が悪い想像を加速させたか?

泣き止まない彼女を起こして謝った。

比叡と教官の目付きがとてもこわい。

 

「お、おそろしい男だぜ。」

「く、呉の子たちにもこの手を使ったのかしら?」

「風評被害です!」

 

彼女は何故か大浴場に連れていかれた。

いいなあ、という呟きがどこからともなく聞こえたが無視した。

 

第二戦。

対戦相手は摩耶。

 

「あたしはさっきのようにはいかないぜ。」

 

彼女は無手だが、琉球の手(てい)かなにかを遣うのだろう。

じっと見つめていたら、彼女もやがて赤い顔になった。

そこへ懐から出した鞭で一撃を加える。

 

「ちょっ! おまっ!」

 

容赦なく勢いよく鞭を振るう。

堪らず逃げ出す彼女を追いかける。

転んだ彼女に覆い被さった。

 

「そ、そんなモノを押し付けんじゃねえ!」

「すみません、生理現象です。大丈夫です、悪いことはしませんから。」

「耳元で囁くなあっ!」

「えっ? ダメなんですか?」

「ダメだっ! 力が入らねえ! みんなの前でやるつもりかっ!?」

「なにか勘違いしていませんか、摩耶さん。」

「下半身が信用ならねえ!」

 

酷い。

一生懸命彼女の耳元で説得し続けたが、首筋が赤くなる一方だった。

ナニモシマセンヨ?

ネエ、ドウシテナイテイルノ?

彼女も結局、大浴場に連れていかれた。

妙な視線を複数感じたが、気にしない。

比叡と教官の目付きが更に険しくなる。

ううう。

 

最終戦。

対戦相手は天龍。

 

「俺は他の奴らみたいにはいかないぜ。」

 

イケメン軽巡洋艦は木刀を構えている。

私は木製のフレイルを肩に担いでいた。

長い棒の先に鎖を付けて、その先に短い棒を付けた武器である。

 

「変わったものを使うなあ。」

「どうぞ、お気になさらず。」

 

合図と共に雄叫びを上げ、下段の構えで走って突撃する。

 

「そうこなきゃな!」

 

同じく走って、下段から木刀を掬い上げるように振るう彼女。

フレイルを撥ね飛ばすつもりだろう。

彼女の思惑通りに得物を飛ばさせ、がら空きになった体へと抱きつく。

 

「えっ? あっ?」

 

そのまま押し倒す。

じいっと見つめる。

真っ赤になる彼女。

悪戯心が湧いて耳を軽く噛んだら、木刀を取り落とした彼女が「ゴメンよ、提督。」と泣き出した。

あれ?

ナニモシマセンヨ?

ネエ、ドウシテナイテイルノ?

比叡と教官によって引き剥がされる。

彼女もまた大浴場に連れていかれた。

 

……これってもしかして私が悪い流れか?

 

「提督、酷いわ。よその天龍ちゃんにはあんなことをして、私たちになにもしないなんて。」

 

龍田が少し怒り、天龍の元へ行った。

比叡と長門教官から厳重注意された。

何故だ。

二名がひそひそ話をして、結局私が判定勝ちという結果になった。

戦術的勝利Aといったところか。

 

その晩、函館所属の艦娘たちから怒られまくった。

反省。

 

 

翌日。

好天。

 

午前中は第七との交流会。

間宮羊羹が大人気だった。

私も手作り菓子を出した。

クレープを焼いて出した。

意外と好評で忙しかった。

 

午後から演習が始まった。

当方は長門教官を旗艦にして、妙高先生、加賀教官、島風、龍驤、戦艦棲姫という構成だ。

相手側は第一艦隊。

 

航空戦で先ずは制空権の確保。

 

「さあさあ、航空隊、お仕事、お仕事。」

「教本通りね。問題ないわ。」

 

次に島風がその俊足で相手を掻き回す。

 

「遅いぞ、お前ら。この島風の速さをとくと味わうがいい。」

 

突撃する長門教官と妙高先生。

 

「長門、よろしくて?」

「私はいつでもいけるぞ! 殴りあいなら任せておけ!」

 

航空母艦を守りながら激しい砲撃を加える戦艦棲姫。

 

「あらあら、ぼんやりしていたら、お姉さんが殺っちゃうわよ。」

 

 

絶望的な状況でも、嬉々として戦いに臨む舞鶴第七鎮守府の面々。

旗艦の天龍が檄を飛ばす。

 

「島風は俺が殺る! 比叡姐さん、姉御、砲撃は任せた! 隼鷹は敵機を撹乱、綾波と磯風は教官たちを抑えろ! 夜まで耐えたら、こちらのモンだ!」

 

とびきりの笑顔で戦艦と重巡洋艦に向かうのは駆逐艦二名。

その表情に迷いはなく、心の底から戦闘を望んでいるかの如く。

水雷戦隊の誇りを掲げ、彼女たちは躊躇なく突進する。

 

 

島風のハイキックを紙一重で避ける天龍。

二名の航空母艦相手に奮闘する隼鷹。

苛烈な砲撃で敵対勢力を打破せんと試みる高速戦艦と重巡洋艦。

 

摩耶の対空攻撃は二名の航空母艦の機体を何機も撃墜判定するが、駆逐艦二名の劣勢は如何ともし難い。

 

「行ってきていいですよ、摩耶さん。」

「行きなよ、摩耶。」

「でもよ!」

「後方でちまちま出来ないでしょう?」

「前衛の方があんた向きだと思うよ。」

「……ああ、ダメだ。あたしも突撃する! 後は任せた、比叡姐さん! 隼鷹!」

 

摩耶が晴れ晴れとした笑顔で教官二名の元へ向かう。

 

「気合い! 入れて! 撃ちます!」

「まだまだ殺らせはしないよ!」

 

艤装のおよそ半分が破壊判定済みながらも、それでも航空隊の攻撃を絶妙に回避しつつ後方三名に痛撃を与えんと奮闘する比叡。

残機が少ないながらもやりくりを考える隼鷹。

 

「ダメだ。殺られちゃった。ゴメン、姐さん。」

 

隼鷹、龍驤の集中爆撃により最初に脱落。

 

「ごめんなさい。私も殺られちゃいました。」

 

爆撃と集中砲火を浴び、龍驤を大破させるも比叡姐さん脱落。

 

「お前ら、夜戦で長門教官を絶対に仕留めろよ。」

 

駆逐艦二名の支援によるトリプラーで、妙高先生と相討ちになる摩耶。

 

いつの間にか、天龍綾波磯風は戦場中央におびき寄せられる。

夕陽を浴びて、大破した三名がそれでも希望を捨てずに食い下がる。

 

「その意気やよし!」

 

中破に追い詰めた長門教官によって倒される磯風。

 

「綾波、鬼神と称されるお前に期待している。」

 

「戦艦棲姫までは届かなかったぜ。スマンな。」

 

島風を中破にまで追い込むも、空中三段蹴りで仕留められた天龍。

ソロモンの鬼神が孤軍奮闘する。

本来ならば旗艦の天龍が殺られた時点で既に演習終了だが、函館舞鶴双方の艦娘が興奮していて続行を望んでいた。

ならば、続けるしかあるまい。

この仮初めの死闘を。

現代の一騎討ちをば。

三国時代を彷彿(ほうふつ)とさせる戦いが、熱く静かに繰り広げられる。

 

綾波が駆ける。

狙いは一点。

相手は長門教官。

最前線で猛威を振るう旗艦の彼女を大破させれば、駆逐艦の誉れである。

今は夜戦の時間。

駆逐艦の時間。

望んだ時間。

敵討ちの時間。

温存していた必殺の魚雷を戦艦に放つ。

見透かしているかのように避ける戦艦。

至近距離での砲撃。

綾波に迷いはない。

その笑顔は鬼神級。

 

 

舞台を邪魔する無粋な者はいない。

戦場で舞うのは二名だけ。

 

 

やがて、駆逐艦は破れた。

最高の笑顔のままで。

 

「残念でした。」

「見事だった。」

 

称賛するのは長門教官。

その言葉に偽りはない。

 

 

 

戦いは終わった。

 

「ヒャッハー! ジンギスカンだ!」

 

戦いが終われば野外でジンギスカンだ。

みんなが素敵な笑顔で肉をもりもり食べる。

 

「皆さん、野菜も食べるんですよ。」

 

そう言って、斬り刻んだ野菜や茸をどっさりとテーブルに置く。

 

「さっと転がして胸に切れ目を入れて手を突っ込み、心臓に至る血管をプチ。ほら、とっても簡単でしょう?」

 

料理上手の軽空母が数秒で羊を絶命させる。

鳳翔と間宮が手際よく捌く、命あったもの。

腸を洗い、腸詰めを作る。

ヴルストだ、ヴルストだ。

餃子も作る作る作る作る。

蒸したり焼いたりしておいしい。

私の隣にはジャージ姿の補給艦。

彼女は真剣な顔で技を吸収する。

そうそう、賓客をもてなそうか。

 

「はい、先輩、めんたまです。」

「ここはシルクロードかよっ?」

「これが一番のご馳走ですよ。」

「へえっ、提督、よかったな。」

「ええい、これくらいなんともないわい。」

 

先輩が血まみれのそれを口にして、微妙な顔になった。

 

「もう一つあります。」

「天龍にやる。」

「ではどうぞ。」

「お、おうよ。」

 

大量の肉がどんどん消えてゆく。

腸詰めも餃子もすぐ消えてゆく。

出来上がった傍から消えてゆく。

比叡と磯風がカレーを作り出す。

 

羊の羹(あつもの)も作る。

これが羊羹の元なんだよな。

大根と人参のなますを口に入れられた。

 

サッポロビールもばしばし消費される。

アルミニウムの樽が次々と空になった。

駆逐艦で麦酒を口にする子がちらほらいる。

あれ?

でも呑み慣れた感じだ。

……いいのかな?

 

私は料理の合間に艦娘たちから食べ物を口に突っ込まれ、もぐもぐさせながら手を動かす。

旨いぞお。

玉蜀黍の冷製スープも旨い。

 

夕食は大盛況の内に終了した。

さあ、お片付け、お片付けだ。

私が片付けものをしていたら、舞鶴の子たちが目を丸くしていた。

 

 

明日、彼女たちは大沼公園に寄ってから帰るらしい。

厨房で胡瓜と茄子の浅漬けを仕込みつつ、首筋を見せつける艦娘たちに苦笑いした。

 

明日も晴れたらいいな。

 

 


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