はこちん!   作:輪音

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怪異
それは人の世に潜む魔
さりげなくなにげなく
我々の世界で蠢(うごめ)いている
魔とも人とも知れぬものが
暗躍し跳梁跋扈する中で
人は叡智を尽くし対応する
それが果てしなき
消耗戦だとしても
諦めてはならない
人が人たるために

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか





LⅩⅢ:おっさんは怪異と思われていちゃったりする

 

 

 

収容対象零式八〇〇号(通称:パンデミック)は現在[削除済]鎮守府の提督として、艦娘の指揮を取っています。

八〇〇号の外見は四〇代の日本人男性です。

対象はやや虚無的な傾向にあり、内気で人見知りが激しく口下手と自己評価していますが、対象と直接会話した潜入調査員の話によれば話題豊富で独自の感性もかなり持ち合わせているとのことでした。

八〇〇号は人間の女性に殆ど影響を及ぼすことが出来ませんが、艦娘に対してはその存在だけで高揚状態をもたらすことが可能です。

まるで声優やアイドルや高級萬年筆や汽車などの愛好家が、非常に嵌まりそうな存在に出くわしたかのような態度を対象に示します。

対象の悪口を言う提督や鎮守府関係者は複数名存在しますが、艦娘で八〇〇号のことを悪し様に罵る者は現在確認されておりません。

口が悪いとされる艦娘たちに話題を振ってみたところ、赤面しながら対象を力強く弁護したそうです。

余所の鎮守府の艦娘が休暇などで[削除済]鎮守府を訪れた際にも、聞き取り調査を行わせてみました。

彼女たちから聞いた限りでは作戦立案能力や軍事面・武道面での評価は今一つだったものの、生活面その他については概ね高評価でした。

八〇〇号の傍にいると、大抵の艦娘は彼のためにあらゆる努力を惜しまず尽くそうと考えます。

八〇〇号に長時間直接接触した艦娘は、彼と物理的に離れることをとても嫌うようになります。

これは驚くべき事態です。

 

対象は普段非常に理性的で艦娘たちの誘惑にも一切屈しませんが、艦娘の扱いが酷い基地のことを知ると激しい興奮状態に陥ります。

その後、その基地で酷い扱いに関係した人物が誰であれ、彼らは数日以内から一ヵ月以内になにか重大な過失を犯して罷免・更迭されるか、或いは行方不明になります。

八〇〇号の感情と彼らの凋落や失踪との因果関係は現在のところ立証されてはおりませんが、学生時代の対象へ危害を加えていた者は調査した限りに於いて全員なんらかの大きな問題に巻き込まれているか行方知れずになっています。

対象の生家に圧力をかけていた地方議員や前職の職場で嫌がらせを繰り返していた社長ですが、前者は愛人宅で卒中になって意識不明のまま二週間後に全身黒くなって終了しました。

そして、後者は現在複数臓器の合併症を悪化させたために入院中で、予断を許さない状況です。

対象になにか強い力が作用しているようにも見えますが、すべて偶然の可能性も考えられます。

 

我が特殊収容典礼公社が派遣した潜入調査員は二人とも女性(二〇代前半と三〇代前半。容貌は十人並みの人間。異星人でも元艦娘でも人造生命体でもありません。共に独身で現在恋人は存在せず)で、彼女たちに八〇〇号への印象を尋ねたところ、特に性的魅力は感じないとのことでした。

気遣いはしてくれるし、事務職員に対する態度も公平で好感が持てる旨を彼女たちは話しました。

潜入調査員たちの八〇〇号に対する態度が段々軟化してきたように見えるため、配置替えも検討しました。

しかしながら、まだ半年しか経過していないことを理由に両者から反対されました。

また、来年の春以降も任務の継続を希望するとの要望書を両者から受け取りました。

現在のところ特に問題は見られないので、今年度は同じ人員で継続対応の予定です。

 

元艦娘の事務職員たちは八〇〇号にあからさまに好意を抱いており、なにかしら対象から親切にされる度に喜びを露にしています。

[削除済]鎮守府では元艦娘の事務職員を募集していないにも拘わらず、日々複数の履歴書と職務経歴書が送られてきます。

中には、[削除済]鎮守府の近くへわざわざ転居してきた娘までいる程です。

異常事態への対応のため、即応型機動部隊を即時派遣出来る枠組の検討をお願い申し上げます。

 

八〇〇号の周囲には常に護衛が付き、それを排除することは大変困難です。

公社の特殊機動部隊を送り込んでも、即時の鎮圧は不可能かもしれません。

返り討ちになる可能性が存在しますので、強行策には慎重になるべきです。

 

最近、[削除済]鎮守府は艦娘たちの休暇先として認定されており、人気の高い場所となっています。

観光が出来て温泉があって食事もおいしいので、人間でいうところの温泉旅館へ行くような感覚なのかもしれません。

 

若干の幾つかの疑念はありますが、このまま状況の推移を見守りたいと思います。

 

 

 







潜入捜査員たちはおちんぎんが二重(公社と鎮守府)に貰えて居心地がよくてご飯がとってもおいしい状況なので、それで離れたくないのです。
この世知辛い世の中では、このような優良条件なんて滅多にありません。
ああ、なんて現実的理由。
おっさんがなんだか怪しいと言っておけば(以下略)。

ある人の実話を元になんてしていませんから。
ええ、あの提督は冴えないおっさんですから。
そう、なんの変哲もないおっさんなのですよ。
ふふふ。



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