はこちん!   作:輪音

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LⅩⅣ:提督の消えゆく夜に

 

 

様々なモノが刺さっている

私の体で冷たく花咲かせる

最早動けない

寒い

寒い

魂がどんどん抜けてゆく

記憶がどんどん消えてゆく

あの思い出も

夢だったモノも

希望だったモノも

儚く泡のように消えてゆく

半壊した鎮守府

艦娘が本気になれば三〇分もたない

天井のぽっかり開いた執務室

それが私の最期の場所となる

星も見えない夜

彼女たちはどこへ行くのだろうか

提督を全う出来なかった私の元を

去って一体どこへ行くのだろうか

南だろうか

北だろうか

行きたかった

行きたかった

あの水平線の果てまで

生きたかった

生きたかった

あの水平線に勝利を刻むまで

なにを間違えたのだろう

なにを間違えたのだろう

どこで間違えたのだろう

どこで間違えたのだろう

効率よく

効率よく

どこまでも効率よく考えた筈

戦略的には間違えなかった筈

寒い

寒い

 

あの子たちは私をどう思っていたのだろう

初めの頃はやさしい目をして見つめていた

それがいつの頃からか冷たい目で見ていた

それをなんでもないと思ったのが間違いだ

効率第一主義で推し進めた任務は失敗続き

成功する筈の策で何度も何度もしくじった

羅針盤

羅針盤

すべての元凶の羅針盤

アレに何度煮え湯を飲まされたことだろう

艦娘たちを怒鳴る度に疎まれていったは私

怒鳴るしかないと思って泥沼に陥ったは私

何名が拳を握り締めて震えていただろうか

私はすべて見て見ぬふりして指揮を続けた

報いはある日あまりにもあっけなく訪れた

怒りも悲しみも見せぬままに雪崩れ込んだ

宣告は淡々とした言葉で行われ拘束された

執行は第一艦隊旗艦や秘書艦たちが行った

自分自身の考え方には絶対の自信があった

怒鳴ることは当たり前のことと思っていた

全否定して打ちのめすを普通と考えていた

そこから這い上がるのが普通と考えていた

そこからまた言葉で叩きのめすのが役割と

それで伸びるのだと本気で私は思っていた

私の考え方に背く者は誰とて許さなかった

徹底的に否定し

徹底的に貶めた

それが私を追い詰める原因になるだなんて

涙を絶対許さなかった

庇うのを許さなかった

懸命に取りなす娘を無視した

海域開放がやっと出来た時の手作り祝勝会をやらせなかった

そんなことをする暇があったらもっと努力しろと言い放った

それが上司の役割だと思っていたから

当たり前であると考えて実行しただけ

私は自分自身の考え方に自信があった

間違っていないのだと思い込んでいた

だが

だが

艦娘たちにはそれらが通用しなかった

何故

何故

お前たちは私を受け入れてくれなかった

何故

何故

お前たちは私を信じてくれなかったのだ

 

 

嗚呼

嗚呼

私を見つめる者がいる

私の最期を見届けようとする者がいる

ごく冷ややかな目で見つめる者がいる

黒い

黒い

それはとても黒い姿形で見つめている

何者だ

何者だ

声が出ない

知らない

知らない

お前など

出て行け

出て行け

私の最期は私だけのものだ

悔いは残る

残るが違う

この結末は違うのだ

私の想定していた経過とも異なる

だから

だから

これは悪夢

私は選択肢を間違えたのではない

そもそも間違っていたのはアチラ

そうだ

そうに決まっている

私は

私は

間違ってはいなかったのだと思いたい

誤ってなどいなかったのだと思いたい

それが出来るならもっと上も出来る筈

そう言い続けて泣く娘に武器を持たせた

仲間を失って泣く娘を叱咤し出撃させた

睨む娘に罰を与え自分自身を正当化した

それのなにが悪いのか

私は一番偉い者だった

私の判断が正しいのだ

わからない

わからない

何故私が断罪されたのか

わからない

わからない

何故私が否定されたのか

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない

 

寒い

寒い

ここは寒い

誰か

誰か

私を暖めてくれ

寒い

寒い

ここは寒い

寒い

寒……

 

 

 







こういう考え方の人は実在しますし、現実に艦娘が現れた際にこのような人が提督になる可能性は存在すると考えています。
そういう人は対外的に有能だからです。
殺意を抱かせる程相手が怒っているという意識は本人にないでしょうし、実際、悪人とは言い難い面も幾つか存在するでしょう。たぶん。
ただ、艦娘の理(ことわり)に彼らが合致するとは限りません。
人間社会ならば『おそらく』問題ないとされる人たちも、鎮守府泊地警備府の提督になったならばどうなるかはわかりません。
そこに悲劇の火種が潜んでいるものと愚考します。

『常識』とか『普通』とか『当たり前』ってなんだろうと、時折考えるのです。

他方、六〇歳になっても記憶力抜群で挙動不審で落ち着きなく自分自身を切磋琢磨することなく保身のみに齷齪(あくせく)する、小物臭溢れる男性もいらっしゃいます。
生来の腰巾着系、といえばいいのかもしれません。
他人のことは詮索するが、自身の情報は秘匿する性質。
無神経な一言を平気で口に出来る気質。
変に頭が回るものの、大局的な判断が出来ないので他人を利用するしか出来ないのでしょう。
いい歳して社会的政治的なことに殆ど関心がなく、中学生くらいのアイドルのことを嬉々として話し、身の回りの人をすぐぺたぺた触る変態さんですのであまり近づきたくはないです。
他人のためになにかしようという動きは殆ど見られず、その行動指針は清々しいまでに自分自身の利益につながるものばかりです。
その場で依存出来そうな人に近づいてべったりする様はしたたかさに満ちていて正直気持ち悪いのですが、こういう人が結局生き延びるのだろうなあと諦念に近い感情を呼び起こしたりします。
困ったところを人に助けてもらい、その人を批判するというのも正直訳がわかりません。
ここまで小悪党向きの人物は珍しい気もしますが、本人にそうした自覚は一切ないでしょうし、指摘されても理解出来ないものと考えます。
知能は高いので、もしかしたら理解出来ないフリをして誤魔化している可能性もあります。

最も提督になって欲しくない型の人です。
部下を酷使してなにも感じないからです。
なにかあれば部下の責任にするでしょう。
小狡い小汚ない小物臭激しく漂う小悪党。

『こんなのが提督になるわけないじゃん。』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、世の中訳のわからない事態になることは多々あります。
こうした人物の下にいる人は苦労させられるのが目に見えていますから、艦娘たちをなんとしてでも預けたくないものです。


『普通』とか『常識』とか『当たり前』とかいう言葉に時折胡散臭さを覚えるのですが、錦の御旗なので正面きって批判しにくいのが悩ましいところです。

怪異は案外、『普通』の隣人の顔をしているのかもしれません。


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