黒い玉さんの『隠蔽された鎮守府』とのコラボレーション作品の続編です。
向こうでの作品名は『ゅゅゆ』になります。お気に入りから行けますので、興味のある方は是非ともご覧ください。
会話文を『はこちん!』仕様に幾らか変更しています。
予めご了承ください。
提督に続いて、函館鎮守府に所属する六名の艦娘がぞろぞろと歩く。
旗艦の長門は疑惑の眼差しで彼を見つめていた。
その頭脳を高速回転させている戦艦に代わり、他の五名は周囲を警戒している。
何故、艦娘が一名も見当たらないのだ?
電探は遠方での反応を示した。
周囲には存在しない。
あまりにも不用心ではなかろうか?
その内、六名全員が納得した。
異形の者が執務室の扉の前に立っている。
しかも、二名。
憲兵の服を着た魚頭人。
人の頭部に魚一匹そのまま載っている、異界の存在。
不味いな、と島風がぼやいた。
周囲の面々が彼女を見つめる。
「知っているのか、島風?」
長門が問いかけた。
「あれはオオクチバスだ。」
島風が乾いた声を出す。
「魚自体は知っているが、こいつらは初見だ。これではまるで、ホラーゲームか恐怖映画という感じだ。全員のSAN値チェックが必要事項かな?」
「それは兎も角、食べられますかね?」
「吹雪は食いしん坊ね。殺ってみる?」
「ちょっと物騒なことを言わないで。」
「私には、美味しそうに見えません。」
島風の言葉に続き、吹雪、戦艦棲姫、ネヴァダ、加賀が発言する。
「この憲兵たちに害はないよ。こちらから害を与えない限りはね。安心してくれて構わない。入ってくれ。」
提督が苦笑しながら、そう言った。
長門が振り返り、五名はこくりと頷いた。
島風が遊撃、長門とネヴァダが正面突破、戦艦棲姫は後詰め、加賀は制空権確保、吹雪は加賀の護衛。
場合によっては、戦艦棲姫と吹雪も前衛に加わる。
そこまで一瞬で決めた。
この提督とやらも、化けの皮をかぶっているかもしれないからな。
用心に越したことはない。
部屋の扉を閉めたら閉鎖空間になるかもしれないと、警戒した島風が部屋の外側に残った。
彼女(中身はおっさんだが)は憲兵を観察した後、服を突っついたり引っ張ったりして挑発した。
わざと挑発的行動を相手に取って、相手の反応を確かめる。
島風はなんといっても、鋭いカラーテ使いだ。
マーシャルアーツやコマンドサンボの技術力は伊達ではない。
いざとなれば、最速駆逐艦の名に恥じぬ暴れっぷりを見せてやろう。
しかしながら、憲兵は反応しなかった。
彼女の挑発に乗るつもりはないらしい。
「なあ、ここの提督さんよ。この憲兵たちはずっと立っているままだが、機能はしているのか?」
可愛い声でおっさん喋り。
提督が首をかしげている。
違和感を感じているのだ。
「その憲兵に触れられると一瞬で意識を失うくらいだから、機能はしていると思う……。」
「ふむ。普通、そんなことはあり得ないんだがな。」
島風は考え込む仕草のまま、吹雪の隣に座る。
「なにか疑問に思ったことはあるかな?」
疑問だらけだよ、とおそらく六名は内心彼に突っ込みを入れたことだろう。
戦艦棲姫がすっと手を挙げる。
「艦娘が見当たらないのと、先程の事象を説明して欲しいわ。それと、ここは本当に鎮守府なの?」
頷く他の五名。
長門は剣呑な視線で提督を見つめている。
それを気にした風もなく、提督が口を開いた。
「世間一般からは隠蔽されているのさ、この鎮守府はね。」
ざわざわとする艦娘たち。
「ここは秘密実験場なのか? それならば筋は通る。不法な行為を重ねているというのなら……。」
どうやら、長門の推理が固まったらしい。
不正な場所ならば、全力で潰すつもりのようだ。
「そう、殺気立たないで欲しいね。ここは簡単に明かせるような場所じゃないんだ。うちの艦娘たちはケーキを食べに食堂へ行っているよ。」
「ケーキ!? いいなあ……。」
かなり腹を空かせたらしい吹雪が、羨ましそうに言った。
まさに食いしん坊万歳である。
「明かせるような場所じゃない……? まさか、やはりここはブラック鎮守府か?」
爆発三秒前のような顔で長門が立ち上がる。
それをまあまあ、と手をヒラヒラさせながら提督は言葉を継ぎ足した。
「いや、ここは元ブラック鎮守府だったらしい。着任して資料を見て気づいたんだ。前任の提督は……その……艦娘に対していろいろやっていたようだ。」
苦い顔の提督から渡された資料を、貪るように読み出す艦娘たち。
だが、その資料に異変が起きる。
資料の文字をなにかが『食べて』いるのだ。
「この三枚目の資料は少しおかしい。文字が穴開きになっているぞ。」
「長門、此処を見て。資料の中をなにかが泳いでいるわ。アンビリーバブゥ!」
「ゅゅゆ……? 文字を食べている……。まるで魚が餌を食べているみたいだ……。」
「文字が文字を食べるだなんて、初めて見ました。『私の』提督に報告したいくらいです。」
「ちょっと待て、加賀。いつ我々の提督がお前の提督になったんだ?」
「ここは譲れません。」
「止めなさいよ、ふたりとも。」
「そうですよ、私の司令官のために争わないでください。」
「吹雪、貴女、度胸があるわね。」
「いやあ、それ程でも。」
「ほう、いい心がけだ。」
「ナガト、座りなさい。」
「気分が高揚しますね。」
「カガも煽らないでよ。」
島風が文字喰う文字に感心している。
「紙魚(しみ)が文字を食べるのは江戸時代の文献で読んだことがあるが、『ゆ』という文字が他の文字を食べるとは珍しいな。」
じっと眺めている提督に気づき、長門は顔を少し赤らめながらコホンと咳をする。
「内輪のことで失礼した。ところで……私たちが向かおうとしていた西端のことも教えてくれ。あのまま私たちが進んでいたら、一体どうなっていただろうか?」
なにかを思い出すような顔で提督が答える。
「死ぬのかな……? 向こう側の知識を持ってこちら側に還ってはこられるが……その、理解したくないんだ。まあ、向こうのことを喋ってしまうと伝染病のようになるらしい。そうだな。取り敢えず、絶対に西へ向かうな。」
「取り敢えずわかった。近づかないことにしよう。忠告に感謝する。ところで、通信機器を貸してくれないか? 函館鎮守府に連絡を入れたい。」
鋭い視線のまま、長門は提督に言った。
「わかった。いいだろう。ところで済まないんだが、少しだけ手伝って欲しいことがあるんだ。我が鎮守府の危機であり、それは世界の危機でもある。うちの艦娘では人数が足りないんだ。」
「どんなことをさせる気だ? 場合によっては……。」
提督は奇妙な笑顔で言った。
「ケーキを食べて欲しい。増え続けるケーキを。」
その一瞬。
彼の背後に、青い猫のようななにかが見えたような気がした。
最も危険な罠。
それはケーキ。
巧まずして仕掛けられた
食堂の皿に並ぶ殺し屋。
それは突然に増え続け
偽りの平穏を打ち破る。
その地は怪異と罠の島。
そこかしこで信管をくわえた
不発弾が目を覚ます。
函館鎮守府の面々も巨大な不発弾。
自爆、誘爆、御用心。