はこちん!   作:輪音

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LⅩⅩⅦ:海に近い花芙華亭

 

 

 

 

海に近い花芙華亭。

寂れた俺の城塞だ。

元は定食屋だった店を少しばかりいじり、俺好みのバーにした。

こんな場所の店に来る奴は酔狂なのか、或いはおおうつけ者だ。

先日まではそう思っていた。

先月からちょくちょくやって来る娘たちはいずれも規格外な感じで、なんだかとても面白い連中だ。

支払いは古い銀貨や金貨。

古銭商に持ってゆくと、そこの爺様がわりかしいい値段で引き取ってくれる。

このご時世でも旧い金属貨幣を集めている奴がいるのは驚きだが、その反面ありがたくもある。

娘たちが他に持ってくるものは、古い洋酒や南洋の果実や新鮮な海の幸だ。

長い黒髪でパンツルックの娘はルー姉と呼ばれ、黒いパーカを羽織っている娘はレッちゃんと呼ばれている。

また、黒いフリフリのゴシックロリータなドレスを着た娘はリトさんと彼女たちから呼ばれている。

夜の二二時を過ぎた頃に娘たちましたフラリと入店し、飯や酒を喰らって陽気に笑いこけ、閉店時間の夜中に帰る。

愉快な連中だ。

 

 

たまに艦娘とやらが店にやってくる。

そういや、近くに鎮守府があるよな。

辛気くさい顔だったり。

しかめっ面であったり。

時に愚痴りまくったり。

絡み酒で説教されたり。

店の中で脱ぎ出したり。

どうも印象がよくない。

それまで来てくれていたおっさんたちは絡まれたり説教されたりで腹を立てたのか、ピタリと来なくなったのも嬉しくない誤算だった。

さほど流行っていない店が、こいつらの所為でますます流行らなくなってゆくのだった。

そいつらがようやくぞろぞろ帰った後、愉快な常連娘たちがやって来る。

いつの間にやら、俺は三人娘が来るのを楽しみにするようになっていた。

みんな可愛いし、話をしていて嬉しくなるし、一緒にいると安心出来る。

なんだか彼女たちは擬似的な恋人みたいな……いや、なに言ってんだ俺。

俺みたいなおっさんを好きになってくれることなんて無い無い無い無い。

時々抱きつかれたりするけど、誤解してはなんめえ。

無防備におっさんに抱きついたらいけないと言ったら、嫌いな奴に抱きつくことなんか無いといった趣旨の発言を受けた。

嬉しいねえ。

痺れるねえ。

その晩は料理を奮発した。

三人から頬っぺたにチューされて、俺はご満悦だった。

もうウヒョーって感じだった。

あいつら、ホントに俺が好きなのかな?

ホントに俺のことが好きならいいなあ。

 

 

そんなこんな、ある日。

開店前の薄暗い店の中。

売り上げに悩んでいた。

すると。

艦娘の指揮官が店まで来た。

お偉いさんって感じの男だ。

出来る男オーラ満載だなや。

モテてんだろうって雰囲気。

リア充という表現が似合う。

エリート様が、場末の店までやって来た。

長い黒髪の艦娘を引き連れ、やって来た。

ご苦労様なこって。

事務的に平坦な口調で艦娘たちのやったことを詫びた後、そいつは羊羮のみっしり入った菓子折りを渡してきた。

こちらは金さえ払ってくれるなら、よほどの奴でない限り受け入れる旨を話した。

酔客なんて酷いのがざらにいるしな。

あんたは気にしなくていいんだ、とざっくばらんな口調で言った。

その時、指揮官はパチクリと目を瞬かせ、人らしい表情を見せた。

なんだ、笑えるんじゃないか。

最初っからその面だったらよかったのに。

最後は談笑して別れた。

護衛の艦娘も、その頃には微笑んでいた。

わざわざ業務の間を縫って来てくれたのだろうと思い直し、別れ際に古いウイスキーを進呈した。

バランタインの年代物だ。

まあ、常連娘が持ち込んだモノであるが。

俺はウイスキーを呑まないから丁度いい。

この男にだったら、呑ませる価値があるだろう。

指揮官は随分恐縮していたが、今後もご贔屓にして欲しいとの思いがあったし、死蔵するのも勿体ないと考えたからだ。

来なくなられたら、逆に困るんだよ。

そう言ったら、何故か二人とも笑った。

笑い事じゃないんだぜ、と言ったらますます笑われた。

解せぬ。

……まっ、いっか。

喜んでこの店を利用させていただくよ、と男はそう言って帰った。

 

その夜、艦娘たちは謙虚に酒や肴を口にして今までのことを詫びながら帰った。

いいってことよ、と笑って見送った。

 

いつもの娘たちが来たので、貰った羊羮を全部渡すと彼女たちは大興奮した。

懐かしいものを見るような目で、愛おしそうに羊羮の詰まった箱を撫で回す。

甘いものは食わないから丁度よかった。

なんだ、そんなに羊羮が好きなのかよ。

何度も何度もいいのか、と訊ねられた。

そんなに稀少な羊羮なのかい、これは。

お前たちが喜んでくれるなら、それが俺にとって一番嬉しいことだ。

お前たちの笑顔を見ていると、なんだか心がポカポカしてくるんだ。

そう言うと、三人とも赤い顔になった。

おっ、俺に惚れたのか、とからかった。

看板になっても娘たちは大盛り上がりしており、明日は急遽休みにしてどんちゃん騒ぎでもするかと店を閉めた後、彼女たちの酒宴に加わった。

ばか騒ぎになった。

脱ぎ出す彼女たち。

俺も負けじと脱ぐ。

 

「ナカナカやるネ、テイトク!」

「そうでナクちゃ、テイトク!」

「アタシもヌグわ、テイトク!」

 

おうおう、俺だってやるときはやるんだからな!

 

「「「ケッコンしよう、テイトク!」」」

「おう、お前らみんな、俺の嫁になれ!」

「「「「ウハハハハハハハハハ!」」」」

 

 

いやー、まー、若気の至りというかなんというか。

なんだか予想の遥か斜め上の展開が発生していた。

三人がすぐ近くで幸せそうに眠っている。

どうしよう?

……あれ?

彼女たちの肌色が昨日とは違う気がする。

陽の光の下で見ているからかもしれない。

病的白さじゃなくなったみたいに見える。

 

取り敢えず、今は朝飯でも作るか。

それから、今後のことを考えよう。

俺は彼女たちへの愛おしさが高まるのを感じながら、フライパンをコンロにかけた。

 

 

 

 

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