はこちん!   作:輪音

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反抗作戦は成功した
だが艦娘に意外な弱点が発覚する
それは提督
深海棲艦の捕虜を受け入れて
北の港町の騒乱は続く
誰がそれを望んだのか
混迷の輪は広がってゆく
しかし今はただ
戦乙女として
駆け抜けねばならない

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか



Ⅷ:潜入者

 

 

今回、三回目の報告書を送ります。

前回、前々回の報告書ではごく短時間で得られた断片的な情報のみをご報告しましたので、今回はその後のことについて述べさせていただきます。

捕虜となった戦艦棲姫ですが、彼女は理知的で冗談も言えて提督にベタ惚れのようです。

少なくとも現段階で内部攪乱をするつもりはなさそうです。

彼女は私たちの強力な好敵手です。

 

目標が私を疑っている形跡は、現在のところ見当たりません。

また、他の艦娘に疑われている要素もありません。

よって、現時点では、レターパックでの報告書の発送に支障をきたすおそれはないものと思われます。お使いついでに函館中央郵便局に立ち寄ることはとても簡単です。

 

目標の異名でもある所謂『艦娘たらし』ですが、これはおそらく常時発動型の無意識的特殊能力の一種なのではないかと考えられます。

深海棲艦の出現、次いで顕現した艦娘に関連したのではないかと考えられる人間の異能者が何人か発見されていますが、目標もそうした異能者の一人だと考えられます。

『異能生存体』の可能性を探索している最中ですが、もしかしたら函館鎮守府の責任者である目標がその一人かもしれず、早急な『処分』はしない方が賢明ではないかと考えます。

そういうのはやめて欲しいです。

私の提督に危害を加えないよう、よろしくお願いいたします。

 

肉体的接触は度々試みていますが、目標は容易に次の段階に進ませようとはしません。

それは拒否反応ではなく、私たちを大切に思っているが故の対応だと思われます。

目標からは疎んじられてはいませんし、とても大切にされています。

その態度は娘や孫に対するものだと考えるのが正解かもしれません。

目標の紳士的な態度を崩すのは大変困難ですし、先日他の艦娘と臨時に共闘しましたが、却って返り討ちに遭いました。

暫くは誘惑出来ない状況です。

着任早々目標の私室に設置した盗聴器は今も外されておらず、存在することすら想像していないようです。

これは平和ボケした日本人全般に於ける問題とも思われますので、この報告書をご覧いただけましたら、早急に盗聴器の確認をお勧めします。

目標が公言しているように、彼が童貞なのは確かです。

蜂蜜作戦は現在停滞中ですが、近々突撃予定です。セイコウしましたら、その旨再度ご報告します。

最初は目標のことを冴えないおっさんだと思っていましたが、最近は目標の魅力に目覚めつつあります。

目標と添い寝するのはとても素敵な体験です。

折を見て、その内またご連絡します。

 

 

 

 




【オマケ】

私の名はローマ。
イタリアの艦娘で戦艦。
深海棲艦を倒すための存在。

今日は鎮守府近くの神社でお祭りだ。
艦娘たちもわくわくしているようだ。
普段からお祭り騒ぎの鎮守府だが、それとこれとでは話が違うらしい。

「春祭よ! みなぎってきたーっ!」
「足柄姉さん、ずいぶん気合いが入っていますね。」
「しれぇ、屋台ってなんですか?」
「それはね、雪風。食べ物を売っている露店商のことだよ。」

なんだかみな楽しそうだ。

「ハーイ、ローマ。ごきげんよう。」

金髪碧眼のビスマルクがやってきた。
彼女はドイツの艦娘で戦艦。

「なにか用?」
「つれないわね。」
「貴女、どうしてスカートかズボンを穿かないの? 痴女なの?」
「えらい言われようね。晴れの国に住むとかいう絵師の趣味でしょ。」
「なにメタ発言してんのよ。貴女、私服は更にエロいし、変態なの?」
「別に裸で歩き回っている訳じゃないから特に問題はないでしょう。」
「あるわよ、貴女を見ている提督が赤くなったり青くなったりしているのを、なにも知らないとは言わせないわよ。」
「アドミラールを誘惑しているに決まっているじゃない。」
「確信犯?」
「提督は私の身体なんて見慣れているから大丈夫よ。」
「しかも着任一週間でとんでもないことをしている?」
「なんでみんなアドミラールの魅力に気づかないの?」
「疑問形で返された!」

どたばたの日々。
そんな日々も悪くない。
私のような者をきちんと受け入れてくれる鎮守府のため、粉骨砕身の働きをしよう。

「なにシリアスな顔をしているのよ。ははーん、提督とどう夜戦をしようかと考えているのね。さすが、愛のイタリア艦。」
「やめてよ。イタリア人をなんだと思っているの?」
「愛の戦士たち。」
「イタリア人がみな口説いてばかりの民族だと思っているようだけど、それは間違いよ。」
「着任早々アドミラールとやっちゃって、ケッコンカッコカリまで済ませた子がなに言ってんの。」
「えーと、その、まあ、いいじゃない。」
「いいわよ。だから仲間にいれて。」
「えっ?」
「ジュウコンカッコカリは禁止されていないわよ。」
「貴女も大概ね。」
「ローマさーん!」
「司令官が呼んでいるわよ!」
「今行くわ。」
「にこにこしている貴女は魅力的だわ。」
「ありがとう。」

私の名はローマ。
提督に惚れちゃったイタリア艦。
愛のために戦い抜くわ。



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