はこちん!   作:輪音

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LⅩⅩⅩ:夢見るリアリストたち

 

 

アメリカ合衆国カリフォルニア州アナハイム。

そこに本拠を構える、軍産複合企業のアナハイム・エレクトロニクス。

合衆国最大級の変態企業と目されてもいる国際的組織だ。

『メリケン艦娘』と日本で呼ばれるシップガールの稼働状況や性能に関する情報などは此処に集約され、既存の技術を高めたり新技術の研究などに活かされている。

合衆国は艦娘の技術を独立して切り離すことはしなかった。

寧ろ、積極的に自分たちの領域に取り込んでいる。

ハワイ諸島を奪還する最終作戦が終了すれば、アナハイムの価値は飛躍的に上昇する。

 

『提督』だの『司令官』だの呼ばれている連中は、精々前線指揮官程度の力しかない。

政治的能力を有する者は殆どいない。

そもそもろくな権限を与えていない。

諜報も防諜も全然出来てなどいない。

多少政治的能力を有していても、それは海千山千且つ複雑怪奇な政局を動かせるものではなく、却って利用されるのがオチ程度の能力である。

上院下院に太い人脈がある訳でもない前線指揮官たちに、戦後の保証はない。

金銭的な余裕を持つ者は少なく、基盤となる土地を持つ者も殆ど存在しない。

それはある意味、メリケン艦娘たちの将来的な命運をも示している。

だが。

彼女たちが亡命するかもしれないという考え方は政治家たちにない。

提督を失ってしまえば、後はこちらの言いなりだろう。その程度の認識だった。

人は都合のよい考えに執着する生き物だ。

実際に艦娘に会えば認識が変わるかもしれないが、好んで接触するような者は政界財界問わず存在しない。

特に内陸部の国民にとって、艦娘とはたまさか報道される軍用兵器に過ぎない。

それが逆に、艦娘を救う切っ掛けになるかもしれないが。

今はまだ、激化する戦場を切り開く道具としてしか価値を見出だされていない。

中には良心的な者がいないでもないが、決定権を持つ面々の頭脳は石頭だった。

よく知りもしない相手に尽くす者などいない。

日本とはまるで違い、メリケンの艦娘関連の宣伝関係者に有能な者は存在していなかった。

働く者は天下りの者が大半を占めていたし、艦娘たちに好意的な宣伝は不要だと判断されたからだろう。

たぶん。

 

提督がいなければ、艦娘は十全の能力を発揮出来ない。

指揮官あっての艦娘だからだ。

頭のない群れを駆逐するのは簡単だ。

故に提督は有能でない者が好まれる。

不要となれば即座に切れるような者。

連携も取れぬままに提督を働かせる。

それが基本的な政府の政策であった。

仲違いさせるのは政治家の本領故に。

有権者を騙すのがお仕事なのだから。

艦娘に投票権が無いから捨ててよい。

 

政治家たちや大金持ちたちや企業は戦後を楽観視していた。

現在、北米南米近海の安全性はなんとか確保してはいるものの、アラスカ以西や大西洋太平洋方面の進捗は思わしくない。

しかし、国民の死亡者のなんと少ないことか!

白人の死亡率も低い。

現場では英語以外の言語が中心に使われている。

食い詰めた中南米の海軍関係者の少なくない人数が軍用艦艇に乗り込んで、運が悪ければ海の藻屑と化していた。

そして、艦娘に随伴する軍用艦艇は時折撃沈されるものの、それは緊急徴兵を行うまでには至らない状況だった。

開戦当初に沿岸部の人間が少なからず死亡してはいるが、戦争には犠牲者が付き物だ。

それに、犠牲者がいた方が宣伝しやすい。

 

軍事衛星ワカッテンネンのやや不正確な情報を精査した結果、日本が随分奮闘しているようだが、なに、日本人如きがこの世界を支配出来る筈もない。

彼らに国際情勢が理解出来る訳もない。

己の都合が悪いものに耳を塞ぐ国民性。

異質な考えや相手を排斥し、責め立てること多き者たち。

国際感覚の欠如した者たちが世界で活躍出来る筈もない。

世界を制するのは、我が合衆国。

それは初めから決まっていることだ。

深海棲艦(ディープフリート)とやらが海を我が物顔で暴れてはいるが、何時までも戦い続けられる訳がない。

合衆国の物量作戦に勝てる存在など存在しないのだから。

彼らの勢力はけして広くない。

いつまで耐えられることやら。

偉大なる合衆国の、繁栄の礎(いしずえ)になるがいい。

敵が頑強な抵抗をするのなら、それを圧倒出来る戦力を送り込めばいい。

 

あのアンドロイドたち、いや、クローン兵士に近いのか、あの人間もどきには人に近い感情が見られるようだが、彼女たちは人間ではない。

階級と給料と幾ばくかの権利はくれてやろう。

だが、国籍は与えない。

人間ではないから与えられないと言っておけばいい。

人権団体を抑えてはいるが、その内抑えきれなくなるだろう。

彼らはその時になってから利用すればいい。

最初は厳しく接して、その後親切に振る舞えば大抵なんとかなる。

鞭と飴は使いようだ。

 

 

 

アナハイムの連中が私に月開発計画を打診してきた。

下院に働きかけて欲しいとのことだ。

将来に於ける、戦後復興の策として提案してみようと思っているらしい。

月面の常駐者として艦娘を使えば、厄介払いにもなるだろうと言われた。

そう言った幹部の顔は下卑ていた。

国のために奮闘する者に対する表現としては、後々問題発言に成り得る。

詰まらぬ男だ。

代表のカーマインが食事を誘ってきた。

予定を合わせることを約する。

久々にSFの話でもしようか。

奴とは昔D&Dを遊んだり、トラクター工場で撃ち合いをした仲だ。

若い頃を不意に思い出す。

ファウンデーションでも作れたら面白いのになあ。

ペリー・ローダンは今でも続いているのだろうか?

英国の連中のしつこさには呆れる時があるが、ドイツの連中のしぶとさにも呆れることがある。

早く平和な世界にして、新作を読みたいものだ。

 

そう、平和こそ最高なのだ。

戦争を始めるための準備期間なのだから。

 

 

 


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