はこちん!   作:輪音

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以前好評だった、こわい話大会の冬版です。
一部、作者の実体験を元にしています。



LⅩⅩⅩⅧ:冬のこわい話大会

 

 

 

ある冬の夜の函館鎮守府の大会議室。

大規模作戦での後方支援任務を念頭に作られた場所だが、その夜は季節外れのこわい話大会が複数の鎮守府の有志によって開催されている。

外では雪が吹雪いていた。

明日は積もることだろう。

何故か駆逐艦の吹雪が外で走り回り、滑ってこけていた。

雪に見紛う白いものをちらつかせながら。

 

 

 

「えっと、じゃあ、あたしから。これは又聞きだから本当の話かどうかわかんないんだけどさ、ほら、こないだ潰れた鎮守府があっただろ。そう、あそこ。あそこなんだけどね、夜勤の子がたまにいなくなるってさ、大変だったらしいよ。朝になっても執務室に報告が無くておかしいと思った提督が確認すると行方不明になっていて、しかもその子の荷物が整理された形跡なし。同室の子も特に変わった様子がなかったと言って、一時期は提督が艦娘を文字どおり食ったんじゃないかとか、深海棲艦が地下にいて餌になったんじゃないかとか、いろんな噂を聞いたよ。でさ、行方不明の子が二桁になった途端に強制査察が執行されてその鎮守府は閉鎖。いなくなった子たちは今も見つかっていないという話だよ。」

 

「では、次は私が話すのです。とある重巡洋艦さんから、とある司令官さんととある軽空母さんがとっても仲良くしている映像を、皆でわいのわいの言いながら夜中に部屋でこっそり鑑賞していたのです。すると、ギギギィと音を立てながら目だけ笑っていない司令官さんがにこにこしながら顔を私たちに向けて言いました。『見たなあ』、と。」

 

「知人から聞いた話です。知人には酒好きの友人がいて、よく一緒に居酒屋に行っていたそうです。で、その友人がある時亡くなってしまって、知人が別の友人たちと彼を偲(しの)びながら呑んでいたら店の人が追加注文はなんですかと聞きに来たんですね。知人は卓上の呼び出しボタンを押していないと言い、店の人は呼び出し音が聞こえたから注文を取りに来たのだと言ったそうです。知人は怪訝(けげん)に思いながら、折角だからと追加注文したそうです。そうしたやり取りが数度繰り返され、知人の好物だった肉じゃがを注文したら、その現象は止んだそうです。」

 

「では、私だな。ある店に元艦娘たちが常連として訪れていた。彼女たちはその店の店主がとても気になっていて、それで通っていたそうだ。彼女たちは店主との関係を深めたがったが、店主にその気はない。ある夜、双方酒が入って陽気になった皆は海岸に向かった。翌日から、そいつらを見た者は誰もいない。」

 

「とある島の提督の話なんですけれども、彼は仮眠室で寝ていたある夜、寝苦しくて目覚めたそうです。なんでだろうと思って目を開けたら、寝間着姿の艦娘が覆い被さっていたそうです。ああ、これは寝苦しいのも納得だと思った彼はその子を起こさないようにそっと仮眠室を出て執務室のソファで寝ました。翌朝、今度は別の子が覆い被さっていたそうです。部屋には鍵をかけていたし合鍵も無い筈なのになんでだろうと友人は不思議がっていました。」

 

「那珂ちゃんだよー。明日からコンサートの練習があるんだけど、飛び入り参加するね。じゃあ、こないだ政治家のおじさんから聞いた秘書の人たちについての話を……えっ、それはちょっと不味い? じゃあ、友達から聞いた話だけど、その友達はアイドル二年目でね、アイドルになる前は何度も何度も芸能事務所へ履歴書を送っていたり夜のお店で一生懸命就活していたんだよ。表向きは、路上で事務所の人から声をかけられたってことになっているんだけどね。それはおいといて、彼女がとある放送局に行った時にプロデューサーに声をかけられて、お話した時、そのおじさんがペタペタ触ってくるから止めてくださいって言ったら、戦国時代を舞台にした連続ドラマで出ている某女優は、喜んで触らせてくれるって言ったんだって。枕営業をする女優が沢山触らせてくれたりヤらせてくれているんだからお前も触らせろ、って変な理屈だよね。那珂ちゃんはみんなのアイドルだから、勿論そんなことしないけど。友達は何人か顔だけいい四〇代のアイドルたちと関係しているんだけど、おじさんとは関係を持ちたくないから、棒読み演技しか出来ないけど顔だけよくて映画にもよく出演しているそのイケメン中年アイドルに相談したんだって。そしたら、数日後にそのおじさんは北海道へ転勤になったそうだよ。」

 

「では私が話をさせていただきます。私が初めて秘書艦になった日の朝、司令官が紙袋を仲よしの軽空母に渡しました。忘れ物だと言って。翌日、別の重巡洋艦に司令官は紙袋を渡しました。忘れ物だと言って。その翌日も、そのまた翌日も別々の子たちに司令官は紙袋を渡しました。みんな、忘れ物が多いなと思っていたら、今度は艦娘側が朝司令官に忘れ物だと紙袋を渡すようになりました。私はまだ一度も紙袋のやり取りをしたことがありません。あれは一体なんなのでしょうか? すみません、これは不思議だった話ですね。」

 

「ある寒い日、汽車に乗っていたんだ。とある駅で少し停車するって放送が流れてうつらうつらしていたら、なんとなく寒くなってね、おかしいなあと思ったら少し離れた扉が開きっぱなしになっているんだ。その汽車の扉はボタンを押さないと閉まらないようになっていてね、ふらふらしている男性がいて、何度も何度も出たり入ったりしていたんだ。それでふらりと隣の車両に行って帰ってこない。仕方ないから、扉は閉めておいた。」

 

「続けて私から。提督になる前の話なんだけどね、道を歩いていたら、前方を歩いていた女性が私をちらちら見るんだ。あれ、なんだろうと思っていたら、急に女性が振り返って刺されかけたんだ。いやあ、人違いでよかった。」

 

「では更に私から。提督になる前、旅行の費用をなるべく安くあげようとネットカフェで北海道を舞台にした漫画を読んでいたら、ふと視線を感じたんだ。そちらに目を向けたら、背が高くて無表情の女性が私をじっと見つめていてね。ゾクッとして見つめ返していたら、すっと去っていった。」

 

「よっ、なにやってんの? こえー話? 飛び入り参加自由? おー、こえー話ならいっぱいあっぞ。ねーちゃんと仲よくなった翌朝、持ちもんが取られているなんて序ノ口だぜ。ロスじゃ、射殺されかけたしな。ローマじゃスリにやられるし、ロンドンでスペインの可愛い娘と仲よくなったらチンピラに散々絡まれるしよお。俺が提督になる前なんて、世界各国を巡っていたからな。パリを尊ぶ奴が未だにいるのは不思議だけどよ、あの街は観光地って態度じゃねーぜ。地元の連中なんて、こちとらが東洋人だからってよ…………。」

 

 

 

 

「少し変態が入っている先輩は直接取引で女の子のピスを購入していたが、ある時本物でないことが発覚した。勇子という交渉人の功績により、先輩は目の前で注いだものを購入出来るようになった。現在、倍払っているらしい。」

 

「駆逐艦たちに襲われて、初めての口づけを奪われた提督。」

 

「毎晩艦娘たちが交代で添い寝していて、今のところは手を出していないけど、正常な判断が出来なくなりつつある提督。」

 

「処女宣言をした数ヵ月後に妊娠が発覚した清純派アイドル。」

 

「これこれ、誰が大喜利をやれって言ったんだ? ったくよう。提督もみんなもそろそろ終わりにしちまえ。ん? こわい話? 世の中、こわいモンだらけだぜ。インチキまみれだし、マスメディアは適当だし、自分自身を絶対自己批判しねー奴だってごろごろいる。ふふ、こわいか? なんだ? 俺自身のこわい話? そーいや、大湊の龍田が……んー、ありゃ、ちょっと話せねえな。横須賀の木曾の話も……あー、問題ありまくりか。わりぃ、ねーわ。あー、深海棲艦こえーな。俺の装備は旧式だから、ちっとも相手になんねーぜ。こわいこわい。お、そうだ、提督、こないだ貰ったハンカチは気に入って使っているぜ。ははは。」

 

 

 

 


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