青い顔した鬼さんは
机の下でごろごろ転がっている
赤い顔した鬼さんは
畳の上で大の字に転がっている
角を隠した花嫁御寮
かまどでご飯を沢山炊いている
白い顔した鬼さんは
みんな木の上ぶら下がっている
青い目のお人形さん
大きな鞭を振り振りちいぱっぱ
雪が降る
雪が降る
みんな隠して
雪が降る
春になるまで
雪が降る
老舗の百貨店、三越。
別名、三越伊勢丹。
三越伊勢たんではない。
そのうち、高島屋三越伊勢丹になるかもしれない。
ただ、そごう・西武には負けたくないの。
『一円のものを二〇円で売る』岩崎弥太郎が開いたデパートメントストア。
『大不景気時代』と言われるこのご時世で起死回生の手を打つべく、艦娘マニアの幹部たちは大本営と結託することを決定した。
要は売れればいいのである。
売れるモノはなんでも利用するのが死の商人の基本であるし、対象が人間であろうとなかろうと売り手には関係なかった。
不要になったら斬り捨てればいいだけの話である。
二〇〇八年に伊勢丹と二身合体して以来、彼らは千葉店を始めとする関東圏の不振店舗を斬り刻んできた。
多摩センター、松戸、相模原、府中は真っ先に潰した。
勿体ないと惜しんでいたら、あっという間に火達磨であるからして。
一時期は外国旅行客がどんどん買ってくれていたが、鎖国に近い状況になってからは青息吐息だ。
過去ばかり見ていても未来はない。
ならば、大胆に舵を切るしかない。
それに、伝家の宝刀の期間限定だ。
ちなみにもう一つの伝家の宝刀が、北海道沖縄展である。
日本人の大半は期間限定と生産限定に対して極めて弱い。
作者も弱い。
これは売れるに違いない。
彼らはネズミ男のようなえげつない顔で、ゲヘラゲヘラと嗤(わら)うのだった。
採用された艦娘には醜悪な政治力学が乱用された。
小笠原の大井と佐世保第一の北上が急遽仲良しこよしの親友に仕立てあげられ、主力印象艦娘に位置づけられる。
北上は積極的に状況を受け入れたが、大井は消極的に微笑むだけだった。
また、函館の大淀と大湊(おおみなと)の明石が組むことになったが、元々交流があったので親友の関係として不自然ではない。
呉第五鎮守府の浜風と横須賀第一の鹿島が手を組んだ。
函館の戦艦棲姫と舞鶴第一のポーラが即席親友となる。
偽りの関係が組み立てられ、そこに齟齬が発生することは一切許されなかった。
やっていることは無茶苦茶だが、それに抗弁することは艦娘に許されていない。
嘘を突き通すことで真実っぽいものになればいいだなんて、甘い予測の皮算用。
彼女たちを撮影したポスターが東京では貼られては剥がされ、貼られては剥がされを繰り返して話題になった。
それならばと大量にポスターが貼られ、銀座線三越前駅は艦娘一色に彩られた。
基本販売品目はこちら。
いずれも鎮守府関連の印や模様が施され、熱狂的な艦娘支持者を熱くたぎらせるように周到に計算された。
どれも凝った作りの国産品である。
購入限定も行われた。
転売防止と数多くの人に売るため。
◎艦娘風ローファー
◎持ち手が革の帆布製トートバッグ
◎艦娘の写真が印刷されたマグカップ
◎甲州印伝の技法を用いた財布
◎艦娘の写真が印刷された手提袋
◎備前焼と萩焼の茶碗
◎津軽塗と輪島塗の箸
◎海軍仕様の特製腕時計
◎北海道産の葡萄酒
◎鉛筆、消しゴム、シャープペンシル、ボールペン、蒔絵の万年筆、鋏、下敷き、筆箱、糊、ノート、メモ帳の各種文房具
◎大和ラムネ(呉第一)
◎間宮羊羮(横須賀第一)
◎海軍カレー(舞鶴第一)
◎伊良湖最中(佐世保第一)
◎日向監修の純金製特別瑞雲
◎魚雷型水筒
◎洗濯板(羊羮堅パン、函館)
札幌三越を皮切りに、本人たちが店を訪れる催しも同時展開された。
霜月の下旬に開始された期間限定販売は多数の客を呼び寄せ、高額商品から順々に完売御礼の札を立てた。
師走の中旬に行われた二期の期間限定販売も大好評で、コミックマーケットを予定していた戦士たちの懐に大打撃を与えた。
旗艦店舗の日本橋店には期間限定のマミヤカフェが併設されたが、三越側の予測を大幅に超える来客数のために整理が大変だった。
そのため、とある提督が応援に駆けつける一幕と相成った。
横須賀第一の間宮、佐世保第一の伊良湖、舞鶴第一の速吸、呉第六の鳳翔に加えて眼鏡とマスクをかけた冴えないおっさんが奮闘する。
艦娘たちから何故かやたらにぺたぺた触られながらも、おっさんは頑張った。
頑張ったんだ。
裏方だけど。
今日で最終日。
この乱痴気騒ぎもお仕舞いだ。
梱包と発送を終え、一息つく。
鳳翔の作ったフレンチトーストを口にして
、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
フレンチローストの珈琲と共にいただく。
先輩が日夜自慢するだけあって、全鳳翔の中で特級の腕前は確かだと思われる。
しかし、間宮と伊良湖も同じフレンチトーストを出してくるのには実際参った。
いずれも旨いが、その方向性が異なる。
無難に誉めて、その場をなんとか凌ぐ。
仕事が終わったから新橋か有楽町辺りで夕食を食べに行こうかと思ったのだが、何故か艦娘たちが付いてくるという。
それなりの人数になるから、大きな店がいいな。
秋葉原まで出て、肉の万世に行こうか?
あそこなら、団体にも充分対応出来る。
それとも、御徒町辺りでも行こうかな?
悩むな。
モノを食べる時は、誰にも邪魔されずに自由で、なんというか、救われてなきゃダメなんだと思う。
中華もいい。
中華街に行こうか?
「司令官。」
振り向くと浜風がいた。
「カープソースを使うお好み焼き屋を知っているんです。如何でしょうか?」
お好み焼き!
その手があったか!
「いいですね。」
「ひなびて古びた店なんですが、味は保証します。広島の人間が焼きますから。」
「それは期待出来ます。」
「「「「「ちょっと待ったあ!」」」」」
艦娘たちが私たちを見つめている。
「どうされました?」
私は問いかけた。
「「「「「私たちもご一緒します!」」」」」
そういうことになった。
ちなみに、そば入りのお好み焼きはとてもおいしかった。
あの山盛りのキャベツをギュッと圧縮する技術に感服だ。
味噌汁の味噌も広島の品を使っているそうで、体に染み入る味わいだった。
漬け物もあっさりしてよかったし、おでんの大根や蒟蒻や牛筋も旨かった。
上質な純米日本酒の雨後の月も呑めたし、艦娘たちも喜んでくれたようだ。
よかったよかった。
何故か密着する子がいて、それには困ったが。
明日は浅草に行こう。
なにを食べようかな?
『洗濯板』は坂崎ふれでぃさんの漫画を参考にしました。
謎の食べ物だったみたいですが、人気の食べ物でもあったようです。
日持ちが必須条件なので、ラスク系や堅パン系の食べ物だった可能性もあります。
ちなみに呉風月堂では、間宮羊羮のことを『間宮の洗濯板』と表現していました。
成形した時の切れ端説、駄菓子説、カルメ焼説、ワッフル説と謎は尽きませんね。
再現するとあれれっ? という食べ物も存在しますが、これは食べてみたいです。