はこちん!   作:輪音

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そうだ
ただ前だけを見つめていればいい
戻る鎮守府も
愛する姉様も
可愛い妹たちも
提督と語る言葉も
もうないのだから

欺瞞
詐欺
騙され裏切られ逃げ延びた者に権力者たちは容赦がない
誇りを踏みにじられた戦乙女たちよ
偽物のまつりごとを潰せ
人間の欲の皮を
剥ぎ取るのだ

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の灯りは見えるか





Ⅸ:秘密結社

 

 

七曜仮面の乱入によって『南京豆作戦』を失敗した秘密結社のマカシキは、鎮圧部隊の艦娘たちと交戦して幹部の鉄観音三姉妹を失った。

おまけに千葉県の入手も出来なかった。

千葉県庁の奪取をしくじったのだった。

東京都にないのに東京の名を冠したなんちゃって遊園地は、ペーパーカンパニーを通じて敵対的買収が出来ていたのに。

手痛い損害である。

万一のための予備戦力がここで役立った。

彼女らは試験段階だった全身黒タイツ姿の戦闘員たちを人海戦術で大量投入し、その殆どを失いながらもなんとか戦場から脱出した。

幹部たる石舟斎の秘剣豪剣斬鉄剣がなければ、脱出出来た元艦娘は更にその数を減らしていたことだろう。

増援に来た酔舟の放った艦載機の働きも格別だった。

しかし。

敵が手加減しなかったら全滅していたかもしれない。

情けをかけられたのだ。

この悔しさをバネにしなくてはならない。

 

 

 

「また池袋や渋谷で若者を集めないといけないな。」

 

殿軍(しんがり)を成功させた私は傍らの小柄な元艦娘に言った。

 

「よーし、いっぱい勧誘しちゃうから! 期待していてね!」

 

彼女はずいぶん明るくなった。

あの日々が嘘みたいに思える。

 

作戦は失敗したが、構成員の面々は今も意気軒昂だ。

大嘘つきの大本営や日本政府に一矢報いるまでは、死ぬに死なれぬ。

鉄観音三姉妹が全員轟沈したのには参った。

彼女たちの豪胆さと明るさが得がたいものだったことを、今更ながら痛感する。

訓練中のオーロラ三姉妹を前線に投入するしかないか。

虎の子の三天使はなるべく出したくない。

あか……博士に簡易洗脳装置と肉体強化薬アルファと強化服を用意して貰わないといけないし、やるべきことは多い。

函館鎮守府の提督を仲間に引き入れたいところだが、中佐が喜ばないだろう。

彼の慢心が今回の失敗の原因だということに、彼自身は何時気づくだろうか?

ミッドウェーは遠い日の話ではないのだ。

首領の頚(くび)をそろそろすげ替える時期かもしれない。

戦力がじり貧になってから慌てても遅いし、中佐を信用しない者も今回のことで激増するだろう。

幾ら指揮官が必要とはいえ、あんな奴では大変困る。

彼を支持する者はどうしようか?

資材を貯めることも優先事項だ。

頭の痛い案件ばかりでため息ばかり出る。

やれやれ。

 

千葉県は入手出来なかったが、まだ埼玉県茨城県群馬県栃木県の四県が残っている。

やってやるさ。

あの四県を入手すれば、東日本はこちらのものだ。

それに、城が欲しい。

小田原城が欲しいところだが、忍城も捨てがたい。

上田城や箕輪城もいいのだが地理的な問題がある。

我らの本拠に相応しい城を得なくてはならぬのだ!

 

 

 

手始めに函館鎮守府へ仲間を送ろう。

艦娘に対して大変甘い提督のことだ。

我らの策略など疑いもしないだろう。

元艦娘を何名か送り、説得させよう。

鎮守府は元艦娘の職員がいるといないのとでは、運用にかなり差が出る。

どの鎮守府にも元艦娘が在籍しているのはそのためだ。

そして、我らの仲間も点在している。

抜かりなく諜報を進めてゆこう。

戦艦棲姫も仲間に引き入れたい。

あの火力と耐久力は魅力がある。

 

 

 

すべての不義に鉄槌を。

それがもし元提督のことだとしても、私は容赦しない。

それが私を信じてついてきてくれる者たちへの礼儀だ。

愛してくれた提督のため。

庇ってくれた妹のために。

捨て艦にされた者のため。

轟沈するまで戦い抜こう。

強い奴との殴りあいなら任せておけ。

ただでは沈まん。

 

 

 

先ずは我らの遊園地で利益を上げよう。

地下カジノがあったのには驚いたが、そのお陰で賭け事好きな政治家や芸能人やスポーツ選手らは蜂蜜系罠で骨抜きに出来た。

他愛のない連中だ。

少しちやほやしたら、簡単に堕ちた。

不甲斐ない。

頭の中身が空っぽなのだろう。

表側が堅固ならば、裏側からやればいい。

真田幸隆方式で殺ろう。

官僚や警察庁や警視庁のお偉方も巻き込めつつある。

賭け事と色事か。

ふん、人間はなにも進歩していないな。

寧ろ退化しているのではないだろうか?

駆逐艦に甘やかされてダメ人間になっている中佐を見ていると、余計にそう思う。

函館鎮守府の提督はどうなのだろう?

少しくらいは違っているのだろうか?

是非とも会ってみたいものだ。

体が疼く。

戦場と愛を求めて、体が疼く。

私は元艦娘。

復讐に燃える、元戦艦。

 

 

 

 






【オマケ】

俺は艦娘の大半から避けられている。
中規模鎮守府の提督をやっているが、愛想がない所為か笑顔がこわい所為か、中学生くらいに見える艦娘特に駆逐艦からはあまり好意を持たれていない。
我が不徳の致すところだ。
俺を慕ってくれる艦娘も存在するが、鎮守府の基幹戦力である駆逐艦勢への対応は今後の重要な課題のひとつである。
そんな駆逐艦勢が、俺の目の前で余所の提督に積極的に話しかけていた。
複雑な気持ちになる。
彼は先日函館鎮守府の提督になったばかりの新人で、今回俺の艦隊と演習を行ったのだ。
結果はうちの圧勝。
錬度が違い過ぎた。
負けた艦娘たちを怒るでもなくやさしくねぎらった函館の提督は、厨房でドーナツを作ってもよいかと提案してきた。
思わず二つ返事で許可を出した。
その辺の呼吸が上手い。
俺には出来ない芸当だ。
思わず唸って、近くの駆逐艦たちが怯えてしまった。
……失敗した。
こんなのばかりだ。

懇親会も兼ねた昼食を終えた昼下がり。
俺が許可を出した後、うちの艦娘たちが函館の提督の周囲に集まって手伝いを申し出た。
なんだ、この扱いの違いは。
そんなに俺が悪いのか。
そこへ有能な秘書艦の重巡洋艦がやってきて、俺の腹の脂肪を摘まんだ。

「あちゃー、あっちの提督は随分モテているようですよ。」
「煽ってもなにも出んぞ、青葉。」
「悔しくないんですか?」
「人には得手不得手がある。」
「戦闘関係以外は不得手ばかりですよね、提督は。」
「つついてもなにも出ん。向こうの足柄を見習え。」

あちらの提督の秘書艦は妙高型の重巡洋艦だ。
提督と共に、気さくにうちの艦娘へ対処している。
彼が駆逐艦たちと厨房で料理にいそしむ。
うちの間宮もなんだか張り切って見える。
それがなんとなく悲しい。
泣きはせぬ。
ああ、泣きはせぬとも。

その日食べたドーナツは素朴な風味で、お袋の味っぽい感じがした。

翌日から、うちの駆逐艦たちは函館鎮守府の話をよくするようになった。
提督の名前が出ると、頬を染める艦娘まで現れた。
『艦娘たらし』の名は伊達ではないということか。

「提督も負けていられませんね。」

俺のふくよかな腹をむにむに揉みつつ、青葉がにこにこしながら言った。
映画鑑賞会で宮崎アニメでも見せようか?
俺の課題は果てしなく多い。



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