はこちん!   作:輪音

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厨房です
リズミカルな包丁の音色や鍋の中の煮物がぐつぐつ煮込まれる音って素敵ですよね
おいしさ一番
元気も一番
三時のおやつは島原のかすていらです
次回、『見込まれた男』
最高の調味料は愛
愛すること






ⅩCⅤ:見込まれた男

 

 

 

 

提督ってのは、確か軍事施設か訓練施設に通って資格を得るんじゃないのか?

なんの知識も技能も無い俺が提督?

ここが鎮守府だって?

冗談にしか思えない。

つい三日前に連れ込まれた家の、自分に充てられた二階の部屋でため息を吐く。

まるで牢屋だ。

窓は外から板が打ち付けられていた。

部屋の外には必ず誰かがいて、こちらの気配を常時窺っている。

拉致監禁されちゃいましたよ、ってレベルではないぞ、これは。

ここはけっこう豪華な作りのお屋敷。

部屋や廊下などに良質の木材を使用している。

勝手に住み着いて問題にならないか?

もしかして、放棄された家屋なのか?

ベッドに腰掛けた俺の両隣には女の子が二人。

一見羨ましく見えるかもしれないが、なにをしでかすかわからない女の子たちが傍にいても嬉しいもんかね?

 

「どうしたの? ダメよ、そんなんじゃ。あたしをもーっと頼ってくれていいのよ。」

 

小学生の高学年くらいにしか見えない女の子が、長い黒髪を揺らしながらそう言った。

 

「そうですよ、提督。貴方には、私たちのいいところをもっと深く知ってもらわないといけないんですから。」

 

黒髪の女の子が儚げに微笑む。

中学生くらいにしか見えない。

二人に連行され一階に降りた。

 

「ホイサッサー、皆さん、ご飯ですよ。」

 

ピンクのウィッグを付けた女の子が、エプロン姿でにこにこしている。

彼女も中学生くらいにしか見えない。

中学生の火遊びにしては剣呑過ぎる。

 

大きな食堂。

高そうな調度やテーブル。

笑う女の子。

学生が撮る映画みたいだ。

 

「ちょっと。ぼんやりしていないで、早く座りなさいよ、この新任提督。」

「あの、そんな風に言われるとこの人……じゃなくて司令も困っちゃうよ。」

「まっ、とにかくみんなでちゃっちゃっとご飯を食べちゃおうよ、司令。」

 

巨乳中学生たちがそう言った。

ヤベーよ、ここ。

滅茶苦茶ヤベエ。

俺、犯罪者になっちゃうのか?

監禁されているようなもんだけど、警察からしたら逆だよな。

俺が警官でもそう思う。

肌が白すぎて病的な感じさえする女の子が、焼き魚や玉子焼きや味噌汁などを興味深そうに眺めていた。

彼女は出会ってから、一言も口をきいていない。

どうやら、喋ることが出来ないみたいだ。

 

 

改めて確認したが、やはり二階の窓は外側からしっかりと板を打ち付けられていて、そこから出ることなど出来はしない。

僅かな隙間から外を眺めても、人が通る気配すら感じられない。

ここはどこだ?

彼女たちは何者だ?

先日の夜、背後からスタンガンを喰らって気づくとここにいた。

彼女たちは艦娘のつもりらしいし、口調も真似ているようだが、テレビや雑誌で見た子たちとはなんというか雰囲気が違う。

そんな気がする。

困ったなあ、と思っていたら突然なんだかゾクッとして振り向いた。

 

「逃げないでくださいね。私たちには提督が必要なんです。」

 

淡々と高校生っぽい彼女はそう言った。

答に窮していると、言葉を重ねてきた。

 

「私でよかったらお相手しますよ。その代わり、他の子に手出ししないでください。」

「お、俺はそんな人間じゃない。」

「じゃあ、お風呂に一緒に入りましょうか。」

「い、いや、そんな欲望はない。」

「口封じを兼ねてです。妹と一緒に入るようなものですよ。気にしないでください。」

 

気にするよ!

 

結局、口で負けて一緒に入浴する。

風呂が広いのに密着されて困った。

添い寝は全力で拒否したが、夜中にぐずる子がいて、なだめている内に添い寝することとなった。

俺は手を出していないし、彼女から手を出されてもいない。

火星の悪魔に誓ったっていい。

俺は巻き込まれただけなんだ。

彼女たちはなにをしたいのだろうか?

一体、俺になにを求めているのかね?

謎だ。

 

 

翌日の昼食後。

家の外に出ることを許された。

指揮官兼同伴者として出撃だ。

みんなで死地に赴く寸法だぜ!

覚悟なんて完了しないままだ!

まったくイヤんなっちゃうよ!

ため息しか出てこないっちゃ。

……。

哨戒任務とやらを行うらしい。

皆でぞろぞろと屋敷から出た。

俺が閉じ込められた建築物は、漁港がすぐ近くに見える距離の場所にあったことが判明する。

なんてこった。

艦娘だと自分自身を主張する彼女たちは、防弾チョッキに手甲脚甲胸甲と兜とジュラルミンの楯などを装備している。背中には煙突やらなにやらが付いた錆びの目立つ金属のなにかを背負っていた。

艤装って言うんだっけ?

ま、本物ではないだろ。

腰にはそれぞれ、ひのきの棒とかトンファーとか短剣とか刀とかメイスとかをぶら下げていた。

皆装備がバラバラで、流浪の傭兵部隊にも見える。

近接戦闘でも行うつもりだろうか?

赤黒い斑点がなんとなく気になる。

右手に、銃のようななにかを握っていた。

箱に砲身が付いた代物で、玩具に見える。

普通の漁船にしか見えない船舶に全員乗り込み、ポンポン音を立てて船は出航した。

 

「スカル戦隊、抜錨!」

 

ドクロの旗を掲げ、命知らずの娘たちが緊張した面持ちで周囲を警戒する。

魚群探知機みたいなものを真剣な顔で見つめる娘もいた。

穏やかな海。

誰もいない海。

人っ子一人見当たらない。

日本は何時、完全復興するのだろう?

少しぼんやりする。

 

「司令官さん、指示をください!」

 

OLみたいな服に胸甲を当てた姿の、高校生っぽい子がいきなり俺に言ってきた。

おかっぱ頭の彼女は真剣な顔つきだ。

大いに戸惑う。

艦娘ごっこにしちゃ危なすぎないか?

兎に角、命令っぽいことを指示する。

 

「周囲を警戒しつつ、鎮守府周辺海域を一周。その後、帰投せよ。」

「了解しました!」

 

肌の白い娘はレオタードみたいな服を着て顔よりずっとでかいなにかを被り、マントと杖を装備している。

本格的だな。

誰のコスプレだろう?

時折、杖を振り回していた。

ラジコンらしい機体が空を飛んでいる。

ガソリンか電池で飛行しているのかな?

あの杖がコントローラーか。

最近の玩具は実によく出来ている。

短機関銃みたいなエアガンだか空気銃のようなものを装備した眼鏡っ子が、恐ろしくこわい顔で辺りを見回していた。

 

幸い、何者とも遭遇しなかった。

船は何事もなく、港に帰港する。

生きて帰れてよかったと、つくづく痛感した。

隣り合わせの死と青春やね、君たちは!

 

「では私たちは入渠してきます。」

 

彼女たちは、屋敷に隣接している入浴施設へと去っていった。

さて、俺は昼寝でもするか。

 

 

 

「修復剤が欲しいところよね。」

「以前喰らった傷がもう少しで治ります。」

「アンタは前に出過ぎ。もっと自分自身を大切にしなさい。」

「建造は出来ないし、せめて海域回収(ドロップ)出来たらもっと楽なのにね。」

「艤装はどこかに落ちていないかしら?」

「弾薬を早急に入手する必要があります。」

「魚雷は一本もないし、まともに作動する機関砲も殆どない。艤装は錆びだらけで整備すら出来ない。ないない尽くしね。」

「コマッタワネ。」

「逃亡艦娘でも来てくれないかしら?」

「燃料と鋼材とボーキサイトも涸渇気味だよ。そろそろどこかとつなぎを行うべきじゃないかなかな?」

「“彼女”に頼ってみる?」

「それは最終手段だよ。」

「そうよ。“彼”を失ったら、私たちの存在意義が失われる可能性だってあるわ。絶対逃がしちゃダメよ。」

「そうね。二人も三人も同じだから、いざという時は任せてね。」

「今度の人は安心感があります。」

「ご主人様にご奉仕しないといけないですわいな。」

「その手付きはエロいから止めなさい。」

「おや、興味津々なのに隠すのですか?」

「ワタシハシテミタイワ。」

「その顔つきもイヤらしいから止めて。」

「絶望したっ! 気持ちを誤魔化す仲間に絶望したっ!」

 

 

 

目覚めると夕方にはまだ早い時間だった。

あいつらにかすていらを作ってやろうか。

台所で生地を混ぜ合わせ、オーブンでじっくり焼く。

驚く娘たちを見て、一矢報いた気分に浸れた。

娘たちは喜んで食べてくれたが、エロいことを言ってくる子がいたので辟易する。

興味があるのはわかるが、程々にしなさいと注意した。

 

 

当面は艦娘ごっこに付き合うか。

どうなるかはわからないけどな。

 

 

 


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