はこちん!   作:輪音

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開発遅延的恋愛系ゲームソフトです
○○○○○ってゲームはいいですね
たっぷり儲けているって思わせます
関連製品でがっぽりと稼ぎましょう
印象商法で判断力を失わせましょう
発売遅延は情報小出しで誤魔化すわ
財布の紐をゆるくさせる秘策炸裂!
毎月雑誌でインタビュー記事を掲載
イベント開催でファンの心を釘付け
イメージCDを先行発売乱れ撃ち!
ポジティブシンキングって大事です
偽りの気持ちでも無いよりマシです
発売直後に低評価でも売れたらOK
一万本以上売れたらそれでいいのよ
ファンディスクの連発で更に大儲け
ソフトの複製は絶対禁止項目です!
箱庭でピョンピョンするんじゃあ! って近所のお爺ちゃんが中古ソフト屋へ走っていきました
人生いかなる時も前向きに
次回、『提督懇親会』
えっ、また販売日延期ですか?






ⅩCⅥ:提督懇親会

 

 

 

提督懇親会は大体親馬鹿めいた艦娘自慢に始まって、大抵は血迷った乱闘で終わる。

本来の意味を失った面は多々あるものの、連絡協議会の側面は一応生き残っていた。

 

「うちの磯波の奥ゆかしい可愛らしさ。あれこそ、大和撫子よ!」

「叢雲と曙と霞と満潮の四名をデレさせることこそ漢の本懐也!」

「知っているか? 名取って二人きりだとけっこう可愛いんだ。」

「白露と一番争いして無邪気に抱きついてくる可愛さときたら!」

「鳳翔と差し向かいで料理を食べる。これこそが提督の本領よ!」

「龍田さんが不意に儚げに微笑んでキュンと来たのは恋の予感!」

「白雪はまさに姫! 綾波敷波両名と共にぷにぷにしたき所存!」

「礼儀正しい初霜は、朝を迎えても折り目正しい艦隊の鑑です!」

「ふっ、初春の雅な喋りは俺のハートを熱く燃やす燃料である!」

 

……こいつら。

駆逐艦はあらゆる基地の基幹戦力で遠征要員で、好奇心旺盛で猪突猛進な存在だ。

彼女たちが恋愛に興味を持って進撃を始めたなら、戦艦でも勝つのは困難だ。

その彼女たちが本気になってかかったら、大抵のおっさんは簡単に陥落する。

恋愛経験のない童貞ならば、チョロインもびっくりの容易さで堕ちてしまう。

いやはや、駆逐艦は最強だぜ。

 

会合はなんとか終わった。

ちょっと聞きなさいと、私が『隣の部屋の人』『やさしいあの子』『いつも温かい』『よく見かけますね』『夜中の入浴』の五話を終えると皆静かになったので、ほっとした。

 

今回この函館に集まった提督二種の同期たちと共に、李さんの作る本格絶妙的中華を味わう。

貪るように旨い旨いと食べ尽くす勢いのこいつらで、欠けている者は今のところ存在しない。

食事中も情報交換する。

最近は内陸県の鎮守府要請が強くなっているそうだが、名目はどうするつもりかね?

観光名所じゃないんだぞ。

民家転用の通常家屋みたいな鎮守府もどきが多い中、我々の出来ることはあまりにも少なく求められるものはあまりにも多すぎる。

皆に函館鎮守府を羨ましがられた。

彼らの秘書艦や護衛艦としてここに来た艦娘たちは、現在厨房で特訓中だ。

フレンチを得意とする有沢さんは時折葡萄酒に短い手紙を同封して送ってくるが、まだ道内をうろうろしている。

困った人だ。

眼帯と葉巻型プラグで悪役めいた風貌の鹿ノ谷さんは李さんの補助をしたり、鳳翔間宮の手助けをしたりと三面六臂の活躍だ。

日々のご飯がおいしくなることはとても大切なことだから、訪れた艦娘を鍛えることは重要だ。

戦後も、その技能は役立つに違いない。

 

「そう言えばですね。」

 

集団の中では比較的若い提督が口を開いた。

 

「なんだ?」

「あの件、ってどうなったんでしたっけ?」

「あの件とはどの件だ?」

「呉の新人提督がやらかした件です。」

「嗚呼、あの駆逐艦に君が運命の人だって迫った件か。」

「地方でのんびりやっていた子を急遽呼び寄せ、着任後数週間で艦隊旗艦に抜擢したとかでいろいろ騒ぎになっていたよな。」

「遠征要員をいきなり取られたって、元の所属の提督がかなり怒っていたっけ。」

「そうそう、提督二種のなんちゃって提督な俺たちは、なんだかんだで一種様の命令に逆らえないんだよ。」

「で、その提督様はその駆逐艦を育成中に行方不明になったと聞いたが、その後発見されたのか?」

「『この展開を私は予想していた。』って言いながら、危機を迎えた艦隊の前に現れたそうだよ。しかも、稀少艦の正規空母を引き連れてさ。それなんてヒーロー?」

「えーと、滅茶苦茶な指令と私情入れまくりのごり押しの結果、作戦後に左遷されたと聞いたけど奴は一体なにがしたかったんだろう?」

「第六の先輩がかなり怒っていたんだよ。『あげな身勝手な奴は、南でも北でもええけえ飛ばしとけ!』とお冠だったね。」

「結局、その渦中の駆逐艦はどうなったんですか?」

「提督の求婚を断ったって聞いたぞ。」

「あれ? 喜んで受け入れた、と聞きましたよ。」

「呉鎮守府への攻撃が未然に防がれたのは事実だし、彼の関わった作戦が結果的に成功したのも事実だ。後、左遷が実施されたのも事実だけど、他の情報は錯綜していてよくわからない。先輩も何故か口を濁すし、箝口令が敷かれているみたいだ。」

「ヤダネー、自分のことしか考えない奴は。」

「なんでそんな奴が提督になれたんだ?」

「偉いさんの息子らしいね。」

「所詮はコネかよ。嫌だな。」

「噂では有能だったらしい。」

「秘書艦の戦艦がかなり振り回されたと聞いたよ。」

「提督の指示が疑問を覚えるものばかりだって、妹にぼやいたと聞いたぞなもし。」

「頭のいい人って時に訳のわからないことをするけど、それに部下の艦娘たちが引っ掻き回されたってこと?」

「まあ、そうなるな。たぶん。」

 

 

 

土産はトラピストクッキーに間宮羊羮と煎餅と月餅の組み合わせ。

煎餅は鹿ノ谷さんが一枚一枚丁寧に焼いたもので、月餅は李さん渾身の菓子だ。

 

 

何度も何度も何年も発売延期されるゲームソフトの話で盛り上がりながら、同期の連中は帰って行った。

連絡を今後も密にすること並びに、戦後に艦娘たちが平和に暮らせる状況作りを推進することを決める。

 

獄門島の提督が、少し痩せたように見えた。

 

 

 


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