はこちん!   作:輪音

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もう百年にはなりますね
明治村です
明治の女と書いてみてください
そこはかとなく漂うエロスが
官能的ですよね
うふふ♪
次回、『リッちゃんはお嫁さんに転職しました!』
大正村や昭和村には負けません





ⅩCⅨ:リッちゃんはお嫁さんに転職しました!

 

 

 

律は記憶に難があるらしい。

 

未明の海岸で彼女を見つけた時は大変驚いた。

この寂れた漁村で『筋肉中年艦隊』の一員として周辺海域の安定を図っている私だが、正直この展開は読めなかった。

漁業ギルドもびっくりだ。

クランの皆も驚くだろう。

一糸まとわぬ彼女は病的に色白で胸が大きく、とても美しかった。

いや、今も美しいのだが、その時私は一目惚れしてしまったのだ。

高校生くらいの彼女を嫁にしたいなどとぬかせば皆からどんなことを言われるかわかったものではないので、取り敢えず紳士的に振る舞うことを決めた。

 

「……ここはどこですか? 私は……誰?」

 

彼女の第一声はそれだった。

可愛い声だ。

短い黒髪の愛らしい顔立ち。

首をかしげる姿も又可愛い。

 

「お前は私の恋人だ。忘れたのか?」

「えっ? 私は貴方を知りません。貴方など見たことがありません。」

「まあ、その内思い出せばいいさ、律。」

「リツ? それが私の名前でしょうか?」

「名前も忘れてしまったのかい、律? 私は悲しいよ。」

「思い出せそうにありませんし、貴方が恋人とはとても思えませんが、よろしくお願いいたします。」

「ああ、大丈夫だ。問題ない。」

 

そう、時間なら沢山ある。

学生時代に習った心理学を総動員して、この美少女を私の嫁にするのだ。

記憶障害とは都合がいい。

くくく。

かつて私の愛した女性の名前を、お前に与えよう。

持てる力をすべて使い、お前を我が手中に収める。

くくく。

 

 

 

律は意外とすんなり私の脳内設定を受け入れた。

あまりにも都合がよすぎるので怪訝に思ったが、彼女も心細いのだろう。

妻にやさしくするのも夫の義務だ。

よかたいよかたい。

他人の戸籍を上手く入手出来たのもよかった。

『戸籍屋』に頼んだだけはあるな。

お陰で、彼女は女子学生になれた。

来月から高校生として通学予定だ。

現在、編入試験のために勉強中也。

 

 

 

 

律と漁に出掛けると、深海棲艦が出てこないのでありがたい。

そのために、我が『筋肉中年艦隊』の面々からは女神扱いだ。

私としても収入が上がるからとても嬉しい。

クランでの階位が上がり、発言力も増した。

未明の海岸をクランの仲間がうろうろするようになったのには少々苦笑するが、あいつらも必死なのだろう。

目付きがヤバかった。

 

今度、休みを取って明治村まで足を延ばそうかな?

犬山駅から送迎バスに乗ってゆっくり行くのも悪くない。

味噌カツや大須ういろ、あちらの名物のモーニングなどを食べ歩くのもいいな。

前に食ったモーニングはゴツかった。

老いた夫婦のやっている古びた喫茶店だったが、サンドウィッチに味噌汁に南京豆に蜜柑に代用珈琲にポテトサラダに素うどんに煎餅に貰い物とかいう餅菓子まで付いてきた。

このご時世に豪気なこった。

律とあそこの老夫婦みたいになりたいものだ。

 

 

 

 

オスがようやく眠った。

しかし、毎日飽きないものだ。

任務に支障をきたさないから歓迎ではあるのだが、最近このオスがいないとさみしく思う自分自身がいて驚く。

これはなんなのだろうか?

仲間との通信を今夜も行う。

何度か仲間たちで構成される鎮守府もどきへ誘われたが、断ってよかった。

……よかった?

この感情はなんだ?

よくわからない。

オスが私に向ける感情もよくわからない。

ほぼ常時発情しているのはわかるが、そんなに私に魅力はあるのだろうか?

セーラー服に、体操着に水着。

オスは何故かそれらの服を着ると大喜びするのだ。

先日はメイド服とやらを入手したオスが大興奮して大変だった。

洗濯回数が多すぎるとすぐダメになるだろうに。

通信教育を受けていたお陰で、学生生活はそれなりに順調だ。

艦娘らしき者もちらほらいるが、気のせいに違いない。

私の姿はとある巡洋艦に似ているそうだ。

オスがよれよれの艦娘コレクチオンを私に見せて、似ていないかと訊かれたがわからないと答えておいた。

記憶喪失とは便利な設定だ。

 

 

 

一度学校に函館の提督が来た時は緊張したが、節穴だったのでホッとした。

私をじっと見つめた時はドギマギしたが、すぐに別の子たちを眺めていた。

同じ組の玖珠耶が「冴えないおっさんだよね。」と言い、その友人の久万野が「本当ですわね。」と相槌を打っていた。

 

「て……じゃなくてダーリンに知らせとこっと。」

 

玖珠耶が携帯端末で素早くメールを打つ。

久万野が呆れた顔をしていた。

平和だ。

オス……じゃなくて男を紹介して欲しいと何人かの同級生と上級生に頼まれたので、オスの仲間を紹介した。

結果に責任は持てない。

英国からシヴェリア鉄道を使って留学したという、金髪碧眼な美少年のマルフォイヤーが女子に囲まれていた。

生意気な雰囲気だが、世話好きで人気がある。

教官……間違えた、教師が教室に入ってきた。

 

「シズカニシナサイ! ジュギョーヲハジメマス!」

 

渋い感じのおっさん教師だ。

なんとなく宇宙人ぽい感じ。

……まさかな。

 

 

 

オスの顔を見つめる。

さっきまでは荒武者。

間抜けな寝顔を見る。

満ち足りた顔だった。

その首に手を伸ばす。

 

「りつー、愛しているぜー。」

 

……寝言か。

オスの顎を撫でて、私も眠りにつく。

いつまでこの生活が続くのかと、不安と期待を抱きながら。

オスのぬくもりを体内で感じながら。

 

 

明日は裸エプロンを試してみようか。

 

 

 


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