満月が光を反射し雲が影を作る。
「いたぞ!回り込め!」
静かな夜の街の中に叫び声が響いた。十数人の男達が走り回っている。男達が見据えるのは黒い人影。黒いマントを翻し、それは時に障害物の多い小道を走り抜け、時に屋根から屋根へと飛び移り、幾人の男達に囲まれようとするりとその脇を通り抜ける。
「逃がすな!今日こそは捕まえるんだ!」
指揮官らしき男が叫び、包囲網を狭め確実に追い込んでいく。次第に黒い人影は街の外れの方まで追い詰められていた。男達は人影を袋小路まで追い込み、満面の笑みを浮かべる。
「総員突撃!奴を捕らえろ!」
指揮官の指示で男達は一斉に人影に突撃して行った。男達の波に人影は呑み込まれ見えなくなる。男達は人影を逃がさんと上から覆いかぶさっていき塊となる。身体の大きい男達十数人に捕まっては流石に逃げられないだろうと指揮官はニヤニヤと笑いながら男達に近付く。
「よくやった、さあそいつを連行するんだ」
男達が警戒しつつ人影を縛り上げるため縄を用意し立ち上がる。しかし全員が立ち上がってその中には黒いマントしか無かった。
「奴はどこへ消えた!?」
指揮官は先程の余裕の表情とは打って変わって激昂する。男達が周囲を見渡すが何処にも見当たらない。そもそもどうやってこの状況から抜け出せたのか検討も付かなかった。雲に遮られていた月の光が差し込み、上から伸びてくる影に気付いた。見上げると建物の上に人影があった。その人影は男達をしばらく見つめて夜の街の闇へと溶けるように消えた。
「っ!クソぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
指揮官の悲痛の叫びが木霊した。
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「【《腐眼》またしても逃げられる】かぁ」
第55層、グランザムにあるギルド血盟騎士団のホームの1室で亜麻色の髪の少女は新聞の記事を読んでいた。《腐眼》とは第25層で壊滅的なダメージを受けた時に現れたプレイヤーだ。レイドの半分以上が死亡し、残り半分も満身創痍となった時突然現れ、漆黒のダガーを片手に神速と言っても過言ではないほどの速さで移動し、残りほぼ2本あったHPゲージを1人で削りきったのだ。戦闘終了後、本来なら称えられるはすがそうはならなかった。彼はこちらに向かって「無能な指揮官は誰だ?」と言い放ち、返事を待たずに続けた。「自分が騙されていた事にも気付かず、情報が違いピンチになっても何も指示を変えないのはなぜだ。俺が来なければ全滅していた」と。後の調べによるとキバオウ率いるアインクラッド解放軍は偽の情報を掴まされ、25層攻略にほぼ独断で踏み切ったらしい。この件によりキバオウの信用は地に落ちた。これで終わっていたらよかった。彼が軍を、キバオウを責め立てるだけで終わっていれば彼は今のように追いかけられるようにはならなかった。
─曰く、《腐眼》はレッドプレイヤーである。
─曰く、《腐眼》に関わったギルドは全滅する。
─曰く、犯罪ギルドラフィンコフィンとは別の犯罪ギルドのリーダーある。
などと様々な噂が飛び交っている。
しかし私はその《腐眼》の正体を知っている。知っているどころかフレンド登録もしている。
何故そんな犯罪者を見逃しているのかと言われたらその噂が全て嘘であり彼の性格を考えればそんなことはまずありえない。ふと時計を見ると12時を過ぎている。彼との約束の時間は12時だったはずだ。しょうがないとソファから立ち上がり今日も彼に・・・自称プロぼっちを名乗る捻デレさんにお説教をしに行くことにする。
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