ガールズ&パンツァー これが私達の戦車道です!   作:YUJIKONI

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戦車道、やります!

 戦車道──それは女子のたしなみとして古くから世界中で受け継がれており、今ではマイナーな武芸となっているが、かつては華道・茶道とともに並び称される伝統的な文化である。

 これは、そんな戦車道に青春と情熱をかける乙女たちの熱き戦いの日々を描いた物語である。

 

 

 

 

 

「皆さん、準備はいいですか?」

 

 湾岸女子高校戦車道チームの隊長を務める池田(いけだ)千佳(ちか)は喉元のタコホーンを使って仲間に呼びかけた。

 

「こちらBチーム、問題なしです!」

「Cチーム、異常なし!」

「Dチームも大丈夫だよ~~!」

「こちらEチーム、戦車の中蒸し蒸しするけど、それ以外は大丈夫です!」

 

 どうやら、問題はなさそうだ。

 

「了解しました」

 

 千佳は一旦深呼吸をする。その呼吸音もタコホーンを通して仲間に届いているのだが、千佳は気にしなかった。

 

「皆さん、これから練習試合が始まります。 相手は昨年の全国大会優勝校で大学選抜チームにも勝った大洗女子です。 ですが、私達は私達なりの戦車道をしましょう。 では、健闘と幸運を祈ります。 全車前進!」

 

 千佳の合図で5台の戦車が一斉に発進した。その様子はお世辞にも美しいとは言えないものだが、千佳はそれだけでも満足していた。

 

「あの西住みほさんと試合ができる! 私って、なんて幸せなんだろう!」

 

 千佳の心はまさに浮き足立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4ヶ月前。

 

 千佳は自宅のテレビで、戦車道全国高校生大会および県立大洗女子学園連合チームと大学選抜チームの試合中継を見ていた。

 

「すごい……! あの島田流に勝っちゃった……!」

 

 それ以来、西住みほは千佳の憧れの的となった。黒森峰に在学していたときのこと、大洗女子に転入してからのこと、全国大会で初出場ながらサンダース大付属高校、アンツィオ高校、プラウダ高校、そして、かつていた黒森峰女学園に勝ち優勝したこと。すべてが千佳の憧れとなり目標となった。

 

 それから2ヶ月後。

 

「はぁ~~、私も西住みほさんみたいな指揮が執れたらいいなぁ~~……」

「千佳はいつもみほさんのことばっかりね」

 

 千佳がいつものように妄想に(ふけ)っていると、母の美佳(みか)が話しかけてきた。

 

「えへへ~~、だってかっこいいんだもん」

「次通う高校は戦車道やってるところらしいから、思う存分戦車に乗れるわね」

「うん!」

 

 千佳は満面の笑みを浮かべ応える。千佳は父の仕事の関係でよく引っ越しを繰り返している。が、まもなく定年を迎える父は引っ越してきたばかりのこの地──富山──にずっと住み続けることを決めた。家族にこれ以上の負担をかけたくなかったのかもしれない。

 

「湾岸女子高校かぁ~~! かっこいいなぁ~~! 早く戦車乗りたいなぁ~~!」

「千佳、戦車だけじゃなく勉強もちゃんとするんだぞ!」

 

 と、ビールを飲みながら新聞を読んでいた父が言った。

 

「は~~い!」

「千佳、明日入学手続きしなきゃいけないから早く寝ちゃいなさい」

「うん、お風呂入ってから寝るよ~~」

 

 千佳は自分の部屋に向かい着替えを取ってくるなりそのままバスルームに入っていった。

 

 

 

 

 

「──以上で手続きは完了です。 明日から通ってきて大丈夫ですが、制服のほうは後日お渡しとなりますので、それまでは前のものを着させてきて下さい」

 

 湾岸女子高校の校長が美佳にこう説明した。千佳はその説明のあいだ、ずっと校長の禿げかかった頭髪を注視していた。

 

「分かりました。 ありがとうございます」

「いえいえ、いいんですよ。 でも大変ですねぇ、この時期に引っ越しとは」

 

 校長はそう言った。確かに千佳達が引っ越してきたのは学期途中の9月だ。すんなりクラスに馴染めるかどうか、千佳は少しだけ不安だった。

 

「いえ……。 娘も不安だと思いますが、主人の仕事の都合でなんとも……。 ですが、ここでずっと暮らしていくと決めましたのでこれ以上の負担はないかと……」

「そうですか。 ならよかった。 では私はこれにて」

「お手数をおかけしましてすみません……」

 

 部屋をあとにする校長に千佳と美佳は頭を深々と下げた。頭を下げているあいだも千佳の頭のなかは戦車道のことでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 前いた高校の制服をまとった千佳は湾岸女子高校までの通学路を歩いていた。周りには湾岸女子に通ってると思われる生徒がいたので、違う制服で通っているのは言いようのない違和感と後ろめたさを感じたが、それも次第に消えていった。

 

「あっれーー? もしかして転校生? 転校生でしょ?」

「うわぁ!」

 

 と、背後から突然声をかけられたので千佳は驚いてしまった。おかげで手から提げていたバッグを落としてしまったほどだ。

 

「あ、ごめん! ビックリした?」

 

 話しかけたのは千佳と同い年くらいの女の子だった。着ている制服が周りにいる生徒と同じなのでどうやら湾岸女子の生徒のようだ。

 

「あ! だ、大丈夫です!」

 

 千佳がバッグを拾い上げると女の子が手を差し出す。

 

「え?」

「ホコリ、落としてあげる!」

「いや、大丈夫ですよ! これくらい自分でできますし!」

「いやいや、ビックリさせちゃったお詫びだって~~!」

 

 と、千佳の返事を待たずに女の子は千佳のバッグについた土ボコリを手で払い落した。

 

「よし、これでキレイになったね!」

「あ、ありがとう……ございます……」

「じゃあね!」

 

 女の子はそう言うと、走って学校のある方角へと走って行った。

 

「なんか……イキイキしてる……」

 

 千佳はバッグを手にしばらく立ち尽くした。そして、あることを思い出した。

 

「……なんで私が転校生って分かったんだろう?」

 

 

 

 

 

 2年B組──そこが千佳が入ることになったクラスだ。生徒数は35人で、他のクラスより若干だが多い。千佳はどんなクラスかと不安に思っていたが、そんなに心配するほどではないとホッと胸をなで下ろした。

 

「池田千佳です。 父の仕事の都合でこの学校に転入することになりました。 どうかよろしくお願いします」

 

 千佳が自己紹介を終えると拍手が起こった。千佳は思わず笑みがこぼれた。

 

「えーーっと、池田さんは……佐藤さんの隣の席ね」

 

 担任の尾上(おのえ)先生が言ったが、千佳にはどの席か分からなかった。なぜなら、空いている席が3つあったからだ。

 

「佐藤さんの隣……ですか?」

「窓側の席の……ほら、今手を振ってる子が佐藤さんよ」

 

 見ると、今朝通学路で会った女の子が千佳に向かって大きく手を振っていた。

 

「あ、土ボコリを払ってくれた……」

「あら、知り合いだったの? だったら安心ね」

 

 千佳は佐藤さんのほうへと足を向けた。

 

「いやーー、まさか同じクラスだったとはねーー!」

「私もビックリです!」

「あたし、佐藤史織! よろしくね、千佳ちゃん!」

「よろしくお願いします、佐藤さん!」

「史織でいいよ!」

「え? あ! よ、よろしくお願いします、史織さん!」

 

 千佳は一礼すると自分の席に座った。

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 千佳は職員室の入り口前に立っていた。なぜかというと、戦車道の授業を選択したいと尾上先生に申し込むためだ。この高校では選択必修科目が設定されており、剣道・柔道・合気道・弓道・華道・茶道、そして戦車道の7つのなかから受けたい授業を選択するシステムになっている。生徒が受けたい授業を専用の用紙に記入し担任の教師に渡すことになっている。千佳はすでに戦車道を受けるつもりなので職員室でそのまま尾上先生に渡そうと考えたのだ。

 

「失礼します!」

 

 職員室に入ると、全職員の視線が一斉に千佳のほうに集まった。

 

「うお……」

 

 千佳は一瞬うろたえたが、気を取り直して尾上先生のデスクへと向かった。

 

「どうしたの、池田さん?」

「あ、えと……選択授業の用紙を書きに来ました」

「なにを受けたいかはもう決まっているの?」

「あ、はい! 戦車道を受けたいと思ってまして……」

「戦車道?」

「はい! ここで用紙に書いて先生に渡せばそれでオッケーですよね?」

「え、ええ……、そうだけど……」

「用紙、もらってもいいですか?」

「え、いいけど……、戦車道は……」

 

 千佳は尾上先生から用紙を受け取ると必要事項を記入し始めた。といっても、書くのは数項目ほどしかなく数分で終わるものだが。千佳は一通り記入し尾上先生に渡す。

 

「よろしくお願いします!」

「え、あ……、でもね、池田さん……、実はね……」

「はい?」

 

 千佳は尾上先生の表情が曇っていることに気がついた。どうしたのだろうか。

 

「とても言いにくいことなのだけれど……」

「なんでもおっしゃって下さい!」

 

 尾上先生はふいに真剣な顔を見せた。千佳はふいに鼓動が高鳴るのを感じた。

 

 

「我が校の戦車道は……5年前に廃止されたの……」

 

 

「──え?」

 

 尾上先生のこの一言で、千佳の胸の鼓動はよりいっそう高鳴った。

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