垣根の背中から、6枚の翼が飛び出し、雲川に向かう。それを尋常ではない身体能力で躱す。
「チッ‼」
翼を発射し躱される、といったやりとりはもう6回目だ。能力だって無限ではない。いつか必ず限界が来る。ましてやそれが複雑な演算を使う超能力者なら尚更だ。
焦った垣根は、あらかじめ用意しておいた懐中電灯を自分の背後の壁に叩きつけた。懐中電灯が突き刺さり、垣根の後ろから光が差しているような状態になる。
「ッ‼」
「どうだ?光で焼け死ぬ気分は?」
垣根が使ったのは、『回折』だ。昔一方通行に使った技だが、今回は太陽光ではない。
垣根の後ろから後光のように零れている、懐中電灯の光。それが、垣根の翼を通って殺人光線と化している。雲川は逃げようとするが、光から逃げられるはずが無い。殺人光線にじりじりと肌を焼かれていく。
「おいおいどうした?さっきまでの威勢は?」
『未元物質』で懐中電灯の光を殺人光線に変えながら、垣根がニヤニヤと笑う。
「ッ‼」
「おっと、甘いぜ」
雲川が苦し紛れに何かを投げつけてきたが、翼で容赦なく粉砕する。
だがそれを見て、雲川はニヤリと笑った。それと同時に、足元から白い煙がもくもくと立ち上った。
「くそっ、煙玉か!」
垣根は悪態をつくと、手で煙を払いのけようとして、その煙がただの煙ではない事に気が付く。
「何だ、この煙は?」
「おや、気が付いたようだね。じゃあせっかくだから教えてあげよう」
煙の向こう側から、雲川の声が聞こえる。
「その煙はただの煙ではない。科学力を結集して作った、酸素100%の煙だ。知っての通り酸素は単体で取り込めば猛毒にしかならない。さらにこの量なら少しの摩擦で即大爆発だ。つまり君は今呼吸をすることも出来なければ『未元物質』が起こすかもしれない摩擦のせいで下手に動く事も出来ない。さらにさっきまで使っていた『回折』だったかな。あれも煙のせいで私に届く事はない」
「面倒くせえな、要点を一言でまとめろ」
「つまり君は、私に攻撃することが出来ないという事だよ」
カツ、カツと雲川の足音が近づいて来る。どうやら彼女は摩擦による爆発が怖くないらしい。『未元物質』で自分が吸う酸素のみを窒素に変えながら垣根は考える。
雲川はある重大な事実を知らない。故に垣根の勝ちは揺るぎない。ただ、今この場でその手段を使うとそこら辺に転がっている土御門と食蜂まで被害を受けてしまう。
そこまで考えている垣根の耳に、奇跡の一言が聞こえてきた。
「おっと、こんな所に無様に倒れている人達が居るな。仕方がない、ゴミは処理しておこう」
その声と同時に、ドサッという音が聞こえた。どうやら気絶した二人を階段から落としたようだ。
垣根はその音を聞くと、ニヤリと笑った。雲川の足音が近づいて来る。
「さて、そろそろ終わりにしようか。ああ、一つ言い忘れていたが私には君の姿がはっきりと見える」
「そうかよ。だからどうした」
「いやなに、俗に言う『冥土の土産に聞かせてやる』という奴だよ」
「おいおい、何テメエが冥土の土産を聞かせてんだよ」
「どういう意味だ?」
雲川の不思議そうな声が聞こえる。垣根は首の関節をコキコキと鳴らしながらいう。
「馬鹿だな。冥土の土産を聞かせるのは勝つ方だろ。何で負けるテメエがそれ語ってんだ」
「・・・・・」
煙の中に、雲川のシルエットが浮かび上がった。こちらの姿が見えているという事は、おそらく垣根が翼を振るった瞬間後ろに跳ぶつもりだろう。そうすれば摩擦で垣根はもろに爆発をくらい、雲川は軽傷で済む。さらに翼を振るう一動作のせいで、翼で爆発の衝撃を防御するという動作が追いつかない。雲川はここまで読んでいるはずだ。
だがここで誤算が生じる。
「なあ、テメエ自分で墓穴掘ってる事に気付いてねえだろ」
その瞬間、大爆発が巻き起こった。
「ッ‼」
爆発が起こる瞬間、危険を感じた雲川は全力で後ろに跳んで回避する。一方垣根は、6枚の翼で悠々と防御する。
「お前さあ、『回折』が殺人光線だけだと思った?」
そう、そこが雲川の知らなかった、いや、見落としていた事実。
『回折』は、何も光を殺人光線に変えるだけではない。『熱を持った光』にすることも出来る。
そう、酸素の爆発を引き起こす、熱を持った物質にも。
そもそも、垣根が爆発を安易に起こせなかった理由は翼を振るって摩擦で酸素を爆発させたときに、防御が間に合わないからだ。
だがこの場合はどうだ。翼を動かさずに酸素の爆発に成功した。これで、爆発の前に翼での防御が間に合う。さらに、爆発に巻き込まれる可能性のあった土御門と食蜂の二人は安全地帯だ。
「思い知ったか、クソ野郎」
「ッ‼」
雲川の苦痛そうな声が聞こえる。辺りが煙に包まれる。垣根は考える。
雲川は回避したとはいえ少なからず爆発のダメージを受けているはずだ。そこを一気に畳みかければこちらの勝ちだ。
だが、視界がはれた時、垣根の目の前には誰も居なかった。
垣根は舌打ちした。雲川は逃げた。あの怪我を負った状態で。おそらく彼女とはまた戦う事になるのだろう。そしてまた互いに傷つけ合い、罵り合い、雌雄を決していくのだろう。
「とでも思ったか?」
垣根の手には、誰かの足首が握られていた。
間違いない、雲川の足首だ。あの時、逃げようとした雲川に一瞬早く追いつき、足首を掴み取ったのだ。
「さて、と。もう散々言いたい事は言ったし、そろそろいいよな」
「・・・・・」
「色々聞きたいことはあったが、もう我慢ならねえ」
「・・・・・」
「塵になれ、クソ野郎」
肉を引き裂くような音が、数回にわたって聞こえた。
いかがでしたか?最後の展開、予想できたでしょうか。
さてここで一つ。過去に書いた文章を、大幅に訂正しようと思います。あまりの文章力の無さに、自分でもビックリだったからです。
それでは、次の投稿は一か月後になるかもしれませんが、お元気で。