地球連邦とジオンの戦いは、MSを持たない連邦軍にとっては悪夢のような戦況で進んでいた。そんななかやっとMSの量産化に成功した連邦。
だが、それが配備されだしてもいまだに全土には行き渡らない


そんな中、マドラスで起こったある戦闘のおはなし



めちゃくちゃリハビリ作品です

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マドラスにて

戦争はなぜ起こるのだろうか。

 

そんなことをだれもが考える。欲望であったり、自由に対する戦いであったり、憎しみであったり、さまざまな要因が戦争を呼び起こす。それは誰にもわかることであるし、そして誰にもわからないことである。自由の名のもとに死ぬのも、権利の下のために死ぬのも何も変わらない一つの死であるからだ。

 

そして、人類が宇宙に進出してもそれは変わらなかった。

 

 

宇宙世紀0079、 地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、 地球連邦政府に独立戦争を挑んだ。

スペースノイドの自由をかけて、独立戦争を挑んだともザビ家の権力拡大のための戦争ともいわれるこの戦いは、初めての地球規模での戦いであった。

 

その大規模な戦乱は初めの1ヶ月あまりの戦いで、地球総人口の半分は死に絶え 人々は、自らの行為に恐怖したのであった

 

当初の予想では、艦艇の数で勝る連邦軍がジオン軍に敗北するとはだれも考えていなかった。地上に戦火が落ちることなく、艦隊決戦ですべて片が付くと、連邦高層部、そして市民も考えていたのだ。しかし、その予想はあっけなく裏切られた。

 艦隊決戦に投入された新型兵器MS。そしてミノフスキー粒子による既存兵器の沈黙と今までの常識が大きく覆されたのである。機動力の高いMSは戦艦を次々と翻弄し撃破していく。ミサイルによる攻撃は命中弾を浴びせることはできず、あっというまに連邦の宇宙艦隊は敗退してしまうのであった。

 

このように戦争の序盤は新型兵器、MS ザクを中心としたジオン軍によるコロニー落とし、降下作戦による効率的な主要都市の占領により、早期の戦争終結かと思われた物の、数に勝る連邦軍、各拠点で奮戦することで戦線は膠着。戦争は泥沼の道へ突き進んでいた。

 

兵士たちが、各地で戦い、そして死んでいく。連邦の秩序のため、ジオン独立のため。兵士は戦い続けていた。

 

そんな状況を打開するため、連邦軍もMS開発計画「V作戦」を起動。反攻作戦の準備は着々と進められていた。

 

このように連邦反攻の勢いが水面下で進む中、苦しい戦いを続ける基地があった。ジオン公国地球最大規模の拠点、オデッサとキリマンジャロに挟まれた基地、マドラスである。北も南もジオンからの攻撃にさらされ、連邦軍の中でも孤立しかかっている地域である。

 

だが、ここでもようやくMSデータを受領し、ようやくMSにMSで対抗できるようになった9/3からこの物語は始まる。

 

 

 

夜の高原の中に61式戦車が潜んでいた。インドの中心であるデカン高原。そこまで戦線を押し込まれている連邦軍、その最後のラインを維持するため、死に物狂いで戦いを繰り広げているのだ。

MSが出てくる前は、地上最強の兵器であった兵器は、その巨体を真っ暗な草陰に身をひそめていた。

その砲口の先にはジオン軍、物量だけで耐えようとする連邦を蹴散らすためか、ザクだけではなく、新型のドムの姿が見える。足の速いドムが2機。そして連邦を苦しめ続けるザクⅡが3機と、見つかってしまったら戦車砲では対応しきれないであろうこの戦力。

 

このジオンのMS部隊を望遠鏡で眺める1人の士官がいた。

キューポラから身を乗り出し、電子双眼鏡で敵軍を観察している彼は、この部隊の全体を統括する大尉である。逃げ惑うことばかりが多い、連邦戦車隊を率いる彼はいつもひげ面の厳しい顔をこの日は、比較的柔和な表情に変えて指揮を執っていた。

 

 

《何とか敵より先に、標的を発見できましたね、大尉》

 

「ああ、接近されたらこっちはお陀仏だからな。先制攻撃、そして逃げる。これができない奴は今の連邦にはいらんよ。」

 

ミノフスキー粒子の存在により、レーダー探知による遠距離攻撃だけで戦闘が終わる時代は終わった。旧時代のように視認で戦闘、そして伝令を走らせて連絡という原始的な戦闘まで戦争は戻っていた。

 

そのため、偵察に出た斥候から得た情報をもとに戦線を展開、構築していく昔ながらの戦いがここ、インドでも繰り広げられていた。

 

「さて、このチャンス。無駄にだけはできんぞ、全戦車隊、砲撃用意!!座標データ準備!!」

 

そんななか、接近戦ではなかなかMSに勝てない連邦戦車隊。先に敵を見つけて砲撃する。野戦は撃って逃げるを続ける。これが基本戦法となっていた。そしてこの日はこの戦略的に大変有利な状況であった。

 

そして、この61式戦車。ミノフスキー粒子がばらまかれる前は、データさえ間違えていなかったら、移動標的にも命中率は70%を超えるとも言われた兵器であり、その実力は観測班が仕事をできた場合、MSにも通用する。

 

 

「敵位置、距離30km 風南南西よりわずか。データよーし!!」

 

MSの射程外、そこから一方的に砲撃して逃げる。これができれば連邦軍はその戦いを勝ったといえるのである。そしてこの日は連邦にとって勝利といえる日になりそうであった。

 

「全砲、てぇ!!!!」

 

マズルフラッシュが夜に煌めく。砲塔から次々と繰り出され、敵に降りかかっていく砲弾の雨。MSとはいえども簡単に耐えられるものではない。鉄の塊の直撃を受けザク、ドムが爆散していく。

 

 

<宇宙人共め、ザマーねえぜ。はっはぁ!!>

 

そんな敵を見て戦車乗りたちが喜びの声を上げた。基本的に死亡率の高い仕事である戦車部隊。一方的にたたけることはまずないことなので、喜び方も異様である。

 

その連邦兵の笑い声の中、砲撃は続けられた。1,2発の砲弾ではびくともしないはずのザク、ドム。しかし、休む間もなく撃ち込まれ続ける砲弾の嵐。直撃しなくとも爆風の余波でひるみ、そして崩れていく巨人は煙の中に沈んでいったのであった。

 

 

「よし、観測は後回しだ。基地まで逃げるぞ」

 

十分な戦果を挙げたと判断した大尉が叫ぶ。ここから敵は、親の仇のように追撃を仕掛けてくるに違いないからである

 

いくら、MSとはいえ、あそこまで痛めつけられたなら悪くて全滅。よくても戦力の2/3は削り取られている。しかし、敵の支援部隊と鉢合わせたら、戦車だけでは対抗できないのがいまの連邦軍。追撃戦は、リスクが高すぎてできないのだ。

 

そのため全車もその声と同時に基地に向かって、走り出した。61式戦車は、戦車とはいえ最新の戦車。多少の悪路などものともせずキャタピラをうならせる。基地までは2時間。もう戦闘はなく、勝利の凱歌を歌いながら基地に戻れる。

 

この日は連邦の勝利。誰もがそう思っていた。

 

 

だが、そのような予測は、一発の閃光弾によって崩壊させられた。

 

 

夜空に向かって、戦車隊の右側面から打ち上げられた閃光弾。それは、夜陰に隠れて逃亡する61式を煌々と照らしあげた。

必死で唸りを上げて逃げているため、すでに音で所在はばれているものの、闇にひそみ、早々当たらなかったであろう車体が、暴かれる。そして、その姿が見えると同時に銃撃の雨が車体に降り注いだ。

 

激しい衝撃が戦車の操縦室を揺らす。横転はしないものの、一時的にハンドルを取られ、戸惑いの動きを見る61式戦車の中で、大尉は自らの座席をたたきつけた。

 

「くそ……別働隊がいたのか…」

 

通信機の奥では大破した車両から部下のうめき声、そして指示を求める叫び声が充満している。

 

《大尉!!このままじゃわが隊は全滅します。どのように対処すれば……》

 

レーダーには6機もの敵を示す赤点が、急速にこちらに近づいてきているのが表示されている。15台の戦車隊といえば大規模な戦力であるものの、せいぜい正面から相手にできるMSは3機程度。その二倍もの戦力で敵が攻めてきているのだ。

 

 

「そんなの俺にもわかるか!!連邦の上層部だってまだまともにMS対策ができていないんだ、この野郎」

 

そう叫びたいものの、生き延びたい部下たちに怒りをぶつけても仕方ない。唯一できる対策、敵に砲撃を浴びせながら基地へ逃げ、そして応援を乞う。これしか考えつかなかった大尉は、その通りの指示を部下に与える。

しかし、部下はそんな隊長の気持ちも知らずに、言葉を続けた

《大尉…そんなに応援は早く来てくれるのでしょうか…?》

 

知るか。そんなこと…

 

そんな大尉の気持ちとは、関係なく敵MS、ドムはその推力を生かし突き進んでくる。戦車隊の抵抗も、全力で後退しつつの砲撃では命中弾はほとんどない。そんな砲撃など怖くないとばかりに突撃を紫の巨体は続け、その手に持つマシンガンで、着々と部隊の戦車に銃弾を撃ち込んでいく。

 

また一両の61式が足を止めた。そしてすぐさま爆散。中にいる部下はもうだめだろう…

 

《大尉!エリックの車両がやられました…。もうだめですね、俺たちは…》

 

部下が絶望の声を上げる。先ほどまでいた15両の戦車隊は、あっという間に8両と半数にまで減らされている。基地までの距離はまだ100キロ以上もあり、絶望するのは当然だなと大尉も考えた。

 

そして敵との距離は、さらに縮まり、肉眼でもドムの姿が確認できる距離まで接近されたときである。

 

 

突然赤い閃光が戦場に放たれた

 

その光を肩口にまともに受けたドムはよろめき、体勢を崩した。追撃隊の他の機体もその閃光に警戒を覚え、追撃を躊躇する。戦場が一瞬だが、止まる。

 

その隙を大尉は見逃すはずはなかった。やられっぱなしで逃げているとはいえ、一機のMSをやるチャンス。ここまでボロボロにされた恨みもこめ大尉は叫んだ。

 

「好機だ。全車、砲撃対象。敵一番機に集中。そのまま全力後退を続けろ!!」

 

移動標的、これは非常にあてることが難しい。相手の動きを予測し、偏差射撃を行わなければならない。相手もフェイントをかけて移動を行うので、命中率は自然と低下する。しかし止まってしまった敵は、ただの的である。どんなMS止まってしまったらただの的なのだ。

 

大尉の通信とともに統一された動きで8門の戦車砲は、止まったドムへと方向を向けた。

そしてマズルフラッシュ。先ほどまでは全く当たらない戦車砲が一機のMSに火を噴いた。

 

いくら固いMSの装甲とはいえ、8門の集中砲火に耐えられるものはない。装甲は突き破られ、熱核エンジンに突き刺さった砲弾は、機体を食い荒らした。そして爆散。

 

《やった!!さっきの光のおかげですね。大尉!!》

 

部下の喜ぶ声が聞こえる。先ほどまで死んだと思った状況から一転して一機のMSを撃破したから当然といえば当然ではあるが。

 

「そんなこと言わずに逃げ続けるぞ。まともにやったら負けるのはまだ変わってないんだからな」

 

いくら、一機をやったとはいえ、まだ5機も残っている敵MS部隊。あっという間にこちらの戦力は食い尽くされるだろう。敵が戸惑っている間に逃げ続けなければ、また死線に舞い戻ってしまうのは目に見えている。

 

「あとは逃げろ、逃げるしかないんだ」

 

そう叫びながらも大尉は、逃げ切れる希望を持っていた。先ほどの閃光は自分の記憶にあるビームライフルと同じ輝きを放っていたからである。連邦のMSの正式武装として採用されると聞いており、マドラスにやっとMSがこの作戦中に配備されるということを聞いていたためだ。

 

そして、その期待は叶えられた。

 

《こちら、マドラス方面第4機械化混成大隊所属 第5小隊のコウサカ少尉です。カルロス大尉。聞こえますか》

 

アジア系の青年がモニターに現れた。士官学校のエリートっぽい声だが、この状況では救世主に見える。

「助かったぞ。少尉。このままマドラスまでの撤退を支援してくれ」

 

《了解。この場は、私たち第5小隊が何とかします。ザク程度ならこいつの敵になりませんよ》

 

そう自信ありげに、通信を送ってきた少尉の顔には笑顔があった。そう、笑顔があった。

 

 

 



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