ある提督が艦隊に送る感謝状

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我が艦隊

 二○一三 九月 初旬

 

 最初の敬礼は初期艦に対してであった。

 ふてぶてしく閉じたサーバー選択画面のシャッターを見ながら乗り込んで、押し出されるように汽車を降りた。降り損ねたものは、果たして本当にあるともしれないその機会を念じながら、再びシャッターを睨む日々に連れ去られた。

 連中に同情する暇もなく、今にして思えば随分と乱暴に、重大な選択を迫られた。

 悪戯に私を槍で突く、そんな彼女がとても緊張しながら、敬礼に答えたのをよく覚えている。

 

 私の部屋はあの時のままだ。幾度か突拍子もない姿に変わったが、結局最後には最初の形に戻ってしまう。艦隊が最も多感であった、あの頃の姿に戻してしまう。

 

 いや、初めてこの部屋に来た時には、荷の箱が積み上げられていた。そればかりは片付けている。木の床と土壁は、やはりそのままなのであった。

 

 着任の瞬間から、我が艦隊は進軍を継続している。

 その日、持った資材は本当に僅かであった。それが多いのか少ないのかを実感できないまま、無性に嬉しいのだった。些細な作業と取るに足らぬ結果の繰り返しに一喜一憂し、月の満ち欠け程の進捗で、艦隊が肥えていく。

 資材が苦しく思える頃、先人の知恵に学ぶ術を得て、悪戯な出撃を自重し、遠征の重要性を確認すると、今度は第二以降艦隊の開放に躍起になり、堀りと建造祭りの中毒性を知って、結局自重できぬ自らを恥じたものだ。

 提督共の意見交換は多岐に渡り、果ては大本営の思い至らぬ領域にまで、この戦いの材料を丸裸にしていく。任務に攻略海域に保有艦にと進捗を競い比べれば、似たようなのがわらわらといて、かじって初めて先人の偉大さに気づき、また止まることなく増えていく後発の輩の莫大な数に、得も言われぬ高揚感の共有を実感していた。

 

 そうして得た中で最も驚くべきは、艦隊への愛着である。

 伝説の実戦を、私は夢か霞かと思えるほどに、それはそれは表面的に学んでいた事を思い知らされる。一艦の武勇伝に触れ、大戦の勝敗を戦闘郡の結果として捉えた時、この国があのような戦いをしたという、今で考えれば愚かしく、信じられず、しかし、どうしても誇らしい感情を得た。

 

 響の長い旅路に驚嘆し、夕立、綾波の勇気に鉄挺海峡の炎を思う。時雨が撮った”敵艦”の燃える姿に無情を覚え、利根の甲板に渦巻く闇を知り、青葉の生きようとする意志と結末に震え、雪風を伝説にした仕事の凄まじさに興奮し、武蔵の発見に飛び上がる。

 長門が沈んだ夜に艦艇達の終戦があったと私は思うのだった。

 

 そうして彼女らの個性に触れ始め、気づけばカスガダマ沖を攻略し、北方海域全域を踏破せしめた。現在では南方海域も陥落し、中部海域も同様に進行し、離島再攻略作戦を残すばかりだ。

 思えば艦隊は傷だらけである。どの艦艇も幾度大破し入渠を繰り返したかわからない。保有枠もとうに限界を超え、鎮守府は増築を重ね、随分大きな一団になった。

 それでも、ここぞという時に戦線を支えるのは、鎮守府海域の守護に奔走した黎明期の面子であり、思い入れも事更強い。

 限定海域は常に苛烈であったが、彼女らと駆けた日々は不思議と愛おしい。

 AL作戦に資材を使いすぎて苦悩したMI作戦。赤い目をしながら深夜に突破した3連ダイソン。未熟を知りながら最終海域に挑み続け、遂には燃料一桁を見たアイアンボトムサウンドの夜。いずれの海域も脱毛と枯渇と無数の大破撤退の末に、我が艦隊の到達しうる限界まで戦った。防空棲姫に阻まれたあの甲勲章が今でも口惜しい。

 私の未熟のため艦隊は傷ついていく。それでも応えてくれる彼女らと共に突き進む疾走感は何にも代えがたい。艱難辛苦を共にして育った艦隊の、強さが集結する戦いの海がある。おぞましくも美しい敵艦と、言葉もなく戦火を交える喜びがそこに有る。疲れ果て目に隈を溜め、消えていく資材に心が悲鳴を上げても、祈りで魂を削り取られながらも、出撃するただ一滴の力を生むのは、艦隊への愛着に他ならない。

 

 私は二○一六 春の限定海域の挑戦を最後として、一身上の都合により、数ヶ月か数年か、艦隊を離れることになる。

 生涯の節目になるであろうこの時にも、艦隊を離れるのは悲しい。

 

 あゝ我が艦隊。本当に楽しかった。本当に楽しかった。

 

 だが、私は必ず帰ってくる。

 寒々とした北方の海に。焼けつくようなサーモンの海に。真っ赤な限定海域の夜闇に。

再び彼女らと全霊をもって戦う為、炎の海を駆け抜ける為に。

 この戦いの矜持を飲み尽くすために、私はいつか艦隊に戻る。

 

 今、一時、艦隊に対する感謝をこの文書にて表す。

 

 

 

                                     二○一六 四月

                                   ショートランド泊地

                                          少将

                                       ぴす○○く

 


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