「雨は嫌い・・・・天気予報なんて当てにならないものね」
先程まで薄曇りだった空はいつの間にか雨に変わっていた。
そして駅から出た《私》は無意識に呟く。
「駅の売店ならまだ傘を売っているかもしれません行ってみましょう」
そう呟くと傘をさし駅を出て行く人の波に逆らうように駅の中に向かって行く。
電車の乗降がひと段落ついたのか売店は人もまばらで売店の横にはビニールの傘が一本残っていた。
(これで何とかなりそうです)
心の中でそう安堵してビニール傘に向かったそのときだった。
「翔鶴姉、一本残ってたラッキーだね♪」
自分より頭ひとつ小さいツインテールの少女が一足先にその傘を手にしていた。
「・・・・・・・瑞鶴さん」
「げっ加賀先輩」
《私》の声に気付いたのかその少女《瑞鶴》一瞬嫌な顔をした。
「瑞鶴、傘はあったの。・・・・・・あら加賀さんお久しぶりです」
「翔鶴さんお久しぶり・・・・・瑞鶴さんも元気そうですね」
瑞鶴を急いで追いかけて来たのか彼女の姉である翔鶴が長い髪を整えながら歩いて来ると私に気付いたのかそう言うと軽く頭をさげる。
彼女達は少し前まで同じ弓道場に通っていた同門の門下である。
「もしかして、傘忘れたとか?残念だけどこれは私と翔鶴姉のだからね」
「もう、瑞鶴ったら・・・・・・また今度ゆっくりお話しましょうね」
そう言うと売店に向かう瑞鶴を追うように翔鶴も売店に向かって行った。
「外に戻りましょう・・・・・・何だか独り言が今日は多いわ」
だれに聞かせるわけでもなくそう言うと再び出入り口に向かった。
雨は止む気配はなく私は駅の入り口で立ち尽くす。
(そう言えば以前にもこんな事があった・・・・・あの時は確か・・・あの人が)
不意に既視感を覚えたその時だった。
「もしかして加賀さんじゃあ無いですか?」
後ろから掛けられた声に顔を向けるとそこには長い髪と自分と同じ背丈の女性がニコニコと立っていた。
「赤城さんお久しぶりです」
自分が内心で考えていた人物があらわれた事の驚きながらも表情に出す事なくそれだけを口に出す。
「久しぶりですね、でもどうしたんですかこんな所で?」
「実は天気予報は曇りだったので傘を持って出なくてこの有様です」
「そうですか・・・・・」
加賀の一言に赤城はそう呟くと突然自分の持っていた鞄の中から何かを取り出した。
「なら、私の傘に一緒に入っていけば良いです」
そう言って鞄から出した少し小さな折りたたみ傘を加賀に見せる。
「それでは二人入らないわ、赤城さんだけで帰ってくれれば良いわ」
「大丈夫、以前もあったじゃ無いですかこんな事」
加賀の一言に笑顔でそう言うと加賀の腕を強引に組むと傘をさし駅を出る。
「赤城さん覚えていたんですか?」
「加賀さんとの思い出ですから忘れたりしませんよ」
互いに少しずつ濡れながらも二人は寄り添い合い雨の中を歩いて行く。
「赤城さん、良かったら久しぶり何時もの甘味屋に寄って行きましょう」
「それ、良い考えです。行きましょう」
加賀の一言に赤城は笑顔で答える。
(雨は嫌い、でも今日の雨は気分が高揚します。感謝しましょう)
そう胸中で呟く加賀も笑顔で歩き始めた。
おしまい