食後に自分で作ったキャラメルミルクを飲んでから、教会の屋根裏部屋に向かう。
相変わらず記憶は戻らないのに、ふと飲みたいと思ったモノの作り方は覚えていた。我ながらとても甘く美味しく出来たのだが、隣で真っ赤な麻婆を食べる神父のせいで色々ブチ壊しだった。
「無論、わざとだとも」
等と言うので洗い物は全て神父に任せることにした。
「入りますよ~」
ノックの後、扉を開け中に入った先には、スーツに着替え今まさに出掛けようとしている女性がいた。
「な、何してるんですか!」
「宿を提供していただきありがとうございました。ですが今は非常時なので。では」
それだけ言うと出ていこうとする女性――バゼット・フラガ・マクレミッツを押し止める。
「どいてください」
体格はそこまで変わらない筈なのに簡単に押し退けられてしまう。それが欠かさぬ鍛練故のものだと何となく解る。が、ここで通してしまっては彼女は死ぬ。
『令呪を無くした女を匿うのは構わない。だが勝手な行動をされると“処理”しなくてはならない。わかるな?』
神父の言う“処理”とは、もしかしなくても殺害を意味するのだろう。みすみす助けた人をまた殺される訳にはいかない。自分では説得出来ないなら……
「……ランサー」
「!?」
部屋を出ようとしたバゼットの前に、槍を立てた青装束の男が突然現れる。男――ランサーは何も言わず、じっとバゼットを見下ろしている。
「……どういう、こと……です、か」
暫くの沈黙の後、掠れる様な声がバゼットの喉から発される。ランサーが口を開く。
「どうもこうもねぇだろ。お前は油断して、仕留められ、脱落した。聖杯戦争からな」
「な……」
愕然とし、ワナワナと震えるバゼットにランサーは更に追い討ちをかける。
「令呪は剥奪され、今や俺はあの嬢ちゃんのサーヴァントだ。もうお前に聖杯戦争に参加する資格は無い。わかったら終わるまでここでじっとしてるんだな」
言うだけ言ってランサーは姿を消した。床に崩れ落ちたバゼットは蹲ったまま動かない。そんな彼女をどうにかベットに戻す。脱力し横たわる彼女にかける言葉が見つからず、いたたまれなくなって部屋を出るとランサーが居た。
「ケジメは付けた。これで後腐れなしだ。これからは好きに命令しな、俺は嬢ちゃんのサーヴァントなんだからよ」
そう言ってまた消えようとするランサーに声をかける。
「もう少し言い方があったんじゃないかな?流石にあれじゃ可哀想だよ」
それに対しランサーはそっけなく答える。
「あ?アイツはあれくらい言わねぇと止まらねぇだろ?あれでいいんだよ」
それは投げやりな言い訳ではなく、相手を理解した上での発言であるように私には思えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
下に降りると話し声が聞こえてきた。
「ではランサーのマスターによろしく頼むよ、監督役」
「請け負った」
覗くとちょうど誰かが帰っていくところだった。見えたのは浅黒い肌に金髪の、自信に満ち溢れた表情の男。
その男と会話をしていた綺礼神父は扉を閉め、こちらに振り向く。
「盗み聞きか?いい趣味ではないな」
「ち、違います。今降りてきたばかりで」
「なに、いずれ知ることだ。早いか遅いかの違いでしかない」
神父は長椅子のひとつに腰掛け、ニヤリと笑う。
「…ランサーのマスターって言ってたから、あの人も聖杯戦争の参加者なの?」
「ご名答。あの男の名はアトラム・ガリアスタ。サーヴァント、キャスターのマスターだ」
パチパチパチ、と拍手を響かせる神父。
「彼はランサーのマスターと協定を結びたいそうだ。協会から派遣されたバゼットは既に令呪を失っているがな」
クックックッ…と心底愉しそうに笑う神父。
「そこで私から君への“依頼”だ。キャスターのマスターと協定を結ぶと見せかけ、裏切り、殺せ。キャスターの相手はランサーにさせるといい」
「嫌だよ。こんな殺し合いは最初から間違ってる」
「これは“依頼”だ。成功報酬も当然ある」
「私には欲しいものなんてない」
「報酬は、次回以降までのバゼット・フラガ・マクレミッツの安全の保証だ」
「な…………!?」
こちらの愕然とした顔を見て更に笑みを深める神父は、立ち上がりこちらへと歩いてくる。
「そんなの話が違う!!」
「それとこれとは話が別だ。私は聖職者だが薄情者でね」
自分でそれを言うか、と思いつつも言葉に詰まる。
「簡単な計算だろう?聖杯戦争という殺し合いから脱落した人間と、聖杯戦争という殺し合いに積極的に取り組む魔術師。どちらが死ぬべきかは子供でも解る」
私の目の前まで来た神父は両手を広げて私に問う。より死ぬべき人間がどちらかを。
「さぁ……選べ、無垢なる少女よ」
誤字脱字あればお伝えください。今回はただでさえ短い文を更に短めで投稿して申し訳ありません。