右手首まで伸びた赤黒い痣……もとい令呪を眺める。星形に見えなくもないそれは、新たに加わった三本の痣で流れ星のようになっていた。
「令呪とはとある魔術の家が編み出した魔力が籠った刻印だ。使えば消える。お前には、ランサーとキャスターの分の令呪が、合計六画刻印されている。無駄遣いはするなよ」
そう言う綺礼神父の後ろから、長椅子に座っているギルガメッシュが口を挟む。
「特にキャスターは令呪が無くなれば直ぐ様裏切るだろうよ。努々油断はせぬことだ」
「………ん。気を付けとくね」
もう空が白んでいる。今夜は一睡もしていないから凄く眠い。寝床に行くことすら億劫だ。
「キャスター……いる……?」
「なんでしょう」
黒いローブに身を包んだ女性が呼び掛けに応じて実体化する。
「キャスターも疲れたでしょ…私もう寝るから……休んでね。………ランサーにも言っておいて」
それだけ言うと私は長椅子に横たわって目を閉じる。疲れのせいもあってか私の意識はすぐに泥のような眠りへと落ちていく。
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体の芯に響く音に、瞼をうっすらと開ける。
何かの楽器だろうか。重く寂しい音色に身を起こすと、オルガンに向かう神父の背中が視界に映る。
ひとしきり弾き終えると、顔をしかめながらこちらを振り向く。
「む……起きていたか。いや私が起こしたのか」
「い、いやそういう訳じゃ」
「どうだ、目覚めに鎮魂歌を聴く気分は」
そう聞く頃にはもういつもの薄笑いを顔に張り付けていた。
「ちょっと寂しい感じだったかな…でもとても綺麗な音色だったよ。音楽のことはよくわからないけれど」
「そうか、お前は綺麗だと言うのか。まぁ、いい。さて、高町なのは」
唐突に名前を呼ばれて姿勢を改める。
「お前には、明日から穂群原学園に通ってもらう」
「………え?」
「私立の高校だ。ここからでは少し遠いがバスを使えば問題あるまい」
「ちょ、ちょっと待って!急すぎるしそもそも私は記憶を失ってて…」
わたわたと慌てる私を、さも面白そうに眺めながら神父は続ける。
「だからこそだ。未だにお前の年齢は不明だが、外見年齢は17~20歳といったところだ。高校生だったとしたら実際に高校生になることで思い出すこともあるだろう」
「ぐぬぬ…でも…」
「既に話はつけてある。付き添いの準備も出来ている」
「え?綺礼さんが付いてくるの?」
まさか、といった風に神父は首を振る。
「高町、お前の入学手続きの付き添いはあの男だ」
振り向くと教会の入り口に寄りかかり、私を待っている金髪の男がいた。
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何故ギルガメッシュが、と思いながらも先に出ていったギルガメッシュに走って追い付く。
「あ、あのどうして」
「気まぐれとでも思っておけ。しかし些か遠いな。星舟でも使えばいいがアレは少し目立ちすぎる故な。目立てば綺礼がうるさい」
直後ギルガメッシュは私を掴んで無造作に投げた。
「うわぁっ!?……っ、あれ?」
顔から地面に激突するかと思ったが、一瞬視界が金色で埋まったかと思うと、次の瞬間には見知らぬ道路に立っていた。
「どこ…?ここ…?」
「学校だ。我の時代にこんなものはなかったが、教養をつけるのはよいことだ。行くぞ」
ギルガメッシュは、今何をしたのかについては何も言わず、校門らしきものの横に設置されているインターホンを押す。
「編入の手続きをしたい」
向こう側の困惑している空気も伝わってきたが、しばらく待つと校門の方へ誰かが歩いてきた。それは長身痩躯のスーツを着た男だった。
「ここではなんですので。どうぞ。校舎内の応接室にて伺います」
そう言うと男は門を引っ張って開けて私たちを中へ入れる。
「……男、何者だ」
「社会科と倫理を担当している、葛木宗一郎といいます」
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「つまり、そちらの高町さんは記憶障害で自分の素性もわからない、と」
「あぁ。だが保護者はいる」
ギルガメッシュは応接室の机に封筒を投げる。
「これは…言峰教会の…。なるほど。少し取り合ってみますのでここでお待ちください」
葛木先生は封筒を持って応接室を出ていった。
「この時代にもあのような男がいるのだな。いや、アレはむしろ刃、道具に近いか」
少し嬉しそうな口調でそう言うギルガメッシュ。
しばらくすると応接室の扉が開いて葛木先生と別の少し太った男性も表れた。
「お待たせしました。ではこちらが手続きの書類となります」
「ふむ」
書類に向かってギルガメッシュが書き込んでいるのを見て、顔をあげるとその男性と目があった。
「あぁ、自己紹介がまだだったね。私はこの穂群原の校長だ。君は、高町なのはさん、だね?」
「は、はい。よろしくお願いします…」
「君は無理に勉学に励む必要はないから、存分にこの学園を楽しむといいでちゅ…ゴホン。楽しむといい」
「書き終わったぞ」
ギルガメッシュが書いた書類を葛木先生が回収し、確認する。
「はい。ありがとうございました。これで手続きは終了です。高町さんは二年のクラスに編入というのことで。些か特例なのでこちらとしても対応に不備が出ると思いますが」
「よい。我は気にせん。では我は帰る」
席を立ち、ギルガメッシュは部屋を出ていく。私もそれについて出ようとすると
「お前は日が暮れるまではここで見学でもしていろ。じき、ランサーが迎えに来るであろう」
と言い残し、一人で去っていった。
「そんなこと言われても…」
「葛木君、君この後授業は?」
「放課後まですべてのコマあります」
「そうか、では私が手の空いている先生を探してこよう」
そう言うと校長は茄子のような体型を揺らしながら何処かへと行った。
「では高町、ここで待っていればだれか案内役が来るだろう。私はこれから授業なので失礼する」
「あ、あの。色々お世話になりました」
葛木先生は見たときからずっと変わらない真顔で、私のその言葉にも答えた。
「我々が世話をするのはこれからだ。それを言うのは少し早かろう」
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応接室の前の廊下でボンヤリ掲示板を眺めていると、パタパタという音が聞こえてきた。
「あ、あなたが新しい編入生ね!話は聞いてるわ。今から私が案内してあげる」
「は、はい…あの、あなたは?」
「私は英語担当の教師、藤村大河!この学校のことなら任せなさい!」
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