艦隊これくしょん~抜錨! 戦艦加賀~ 作:GF-FleGirAnS
どれだけ執務室が静まり返ったのだろうか。静寂を破ったのは、木製ドアのノック音だった。
『お休みのところ失礼いたします。小河原一尉はご在室ですか?』
来客の予定は入ってないはずだから
物部の直属の上司にもあたる、特殊兵装開発実験団司令 古賀篤海将補。その専属である陽炎が何の用だろうか。
「横須賀工廠特務技官 陽炎、入ります!」
「あれ……何事だい? 陽炎ちゃん。わざわざここまで来るってことは緊急の用件?」
「先日の演習で得られたサンプルデータを纏め終わりましたので、そのご報告に上がりました」
「そんなのメール一本で構わないだろう?」
直属の部下ではないから、特別仲が良いという訳ではない。しかし目の前の少女の頬が引き攣って、上官を前にして明らかに怒っているオーラが滲み出ているのは端から見ても誰だって分かるだろう。
何か訳ありなんだと、小河原は陽炎に尋ねる。
「……顔が嘘ついてるよね。本題は? 俺は自己謹慎中なんだから、上下関係やら堅っ苦しい会話はナシで行こうか」
「では、失礼いたします………………本音を言わせて貰いますと、今日の演習場の事前申請すっ飛ばしてどういうつもりだったんですか!?」
「まあ待て、その話は飽きるほどした。もうやめよう」
「愚痴を聞くのが上官ってものでしょう? いいから黙って聞いててください!
溜めに溜め込んだエネルギーを放出する陽炎。剣幕が本当に冗談ではない。
「……事務方を通すと事前に言っても小言を言われるから、古賀さん通したのにさ」
「そりゃぁ海将補権限なら、ある程度上で案件を処理できますよ? けど、いい加減に私の上司を便利屋扱いしないでください!」
「まったく……あの人から逃げんのに物で釣るしかないから面倒なんだよ」
のらりくらりと怒声を躱す小河原の姿に、さすがの物部も困り顔である。しかし無理を言ってこちらから演習を頼み込んだのだから、その責任の一端を感じずにはいられないのは彼自身の誠実さもあるのだろう。マズイことをした――その不安が脳裏を掠め、穏便に済ませるためにはと思案する。
「小河原一尉。あの、物で釣ったって……?」
「戦時下といやぁ、酒とタバコと女とクスリと相場が決まってる。
陽炎に目を遣り、この期に及んで事務手続きで文句を言われるとはね。そう続ける小河原。
「
「まぁ
「唯我独尊って言うでしょ、部外者には分からんのよ」
「自分の所属をふつう部外っていいます?」
陽炎と小河原の勢いに乗った応酬に置いてきぼりを喰らうのは物部と加賀だ。物部がおそるおそる口を開く。
「あの、小河原一尉……一応悪いのは私たちなんですし、もう少し丁寧に……」
「なるほど下手に出ろと。それは道理だな……しかし特務も後で資料を確認するといい。今回の『事故』の原因は演習海域の伝達ミス、青葉氏の沈没は特調との連携ミス……全て些細なミスによるものだ」
「ミス、ねぇ……」
「陽炎君、人の話は最後まで聞く。問題なのはこれで彼が借りを作ろうとしていることだ。実際大きな貸しになるんだろうねぇ、実際には自身の保身もしてるくせに……いやはや全く、古賀海将補の腹の底にh……」
『――――誰の腹の底が何だって?』
音の発信源を探すと、明らかに視線を逸らす陽炎。左手でヒラヒラと黒塗りの金属ケースをちらつかせている。ノックと共にドアが開かれ、目深に制帽を被る男の姿がある。階級章が示すのは、海将補。目元を片手で覆い、やっぱりあなたか――――と小河原が呟いた。
「まーた、部下の艤装の無線機を悪用して遊んでるんですか。いい加減に懲りたらどうです? 古賀海将補」
「自己謹慎中の部下を、看守がてらに様子見も悪くはないね。そして勤務中ではないんだろう? 小河原君。ここは君のプライベートスペースであるし、
「だから嫌なんだこの人は」
守秘義務とか、そういう問題じゃないだろう――――最後の言葉は、物部だけに聞こえるくらいの小さな悪態だった。そんな反応にどこ吹く風な古賀は、言質をとったように笑みを浮かべる。
「それで。話の通りなら、賄賂でも頂けるのかな?」
「…………左側の戸棚に
「わざわざ復刻させた味とはいえ、こんな煙草はどこで仕入れるんだい? 市販されているものじゃないだろうに」
「企業秘密ってことでお願いします。じゃなきゃ古賀さんに渡すものがなくなるんで」
満足そうに胸ポケットへ翼の書かれた銘柄を押し込む古賀。話を遮ってしまって悪かったね――――そういうと来客用のソファに身を預けている。梃子でも動かないような様子に、小河原はまた溜息をつく。
「どうせ話を聞いてたんでしょうし、話題を振りますけれど。先輩指揮官として、古賀さんは何かありますか? 心構えとかってそういうものですけど」
「俺が担当した艦に改二艦はいないがいいのか? 碌なアドバイスにならないと思うが」
「そういう、さりげない『うちの艦隊弱いです』アピールしなくて良いですから。というより、ここ横須賀試験艦隊で通常艦隊と
「さて、どこの艦隊だったかね。それに『能ある鷹は爪を隠す』って言うだろう。それにうちが前線に出るような事態は、それこそ自衛海軍が壊滅してる時だ。戦果を上げるような出番はこれからもないだろうが」
「水雷屋四隻で戦艦重巡混成六隻に勝利した古賀さんの台詞は、自分には嫌味にしか聞こえません」
「そうとも言うね」
声だけで笑う古賀。水雷戦隊が戦艦部隊を破る――――それは、彼の水雷戦隊が精強であるというなによりの証拠だ。
「今度は君とやるかい? 君だってあの部隊の指揮官は前の上司じゃないか……勝ち方を教えて貰うといい」
「確かに今でも懇意にさせてもらってますよ……でも、負け方の間違いでしょう? 勝ったのは貴方の水雷だ」
「失敗は成功の母だ。そう言うだろう」
明らかにからかう古賀の発言によってヒートアップする会話。反発する小河原に遊び飽きたのか物部に視線を合わせた古賀の目は、先程とうって変わったものだった。
「そうだなぁ。物部三尉は武道とか何かやってたか?」
「自分ですか? 剣道はやってましたけれど」
「そうか。ならば
それを聞いて、制服のベルトにかけられたカラビナを鳴らす古賀。シンプルな装飾の施された白鞘の小太刀を見せる。
「それ本物ですか?」
「渤海戦線の時に頂いたチタン合金の竹光だがな。邪魔になるだけの勲章としてこういう
人材の確保は何時の世も難しいんだろう――――腰元から取り出し、年期の入った木目を撫ぜる。引き抜いたその刀身は斬れ味を持つ事はない物の、蛍光灯に照らされ鈍く輝いている。
「まぁ、あとはアーミーナイフで十分だろう。そして小河原君。海軍でわざわざ支給拳銃を申請しているのは君ぐらいだが、ここに出してくれるかい?」
「毎日が対テロ特別警戒中なもんでしてね……どこから情報を仕入れたのやら」
「国民の安全を脅かす輩と日中夜戦い続ける姿勢は褒めたものだね、小河原君」
「パフォーマンスとはいえ、勲章同然の
皮肉の投げ合いをしつつ、小河原は渋々といった様子で懐に忍ばせたFN-FiveseveNを取り出す。スライドストップをかけて、薬室から未使用の弾薬を抜きだし、弾倉も抜く。それを小河原はわざとらしく音を立ててテーブルに置いた。三人が囲むそのテーブルには、すでにアーミーナイフ、模造刀が置かれている。
「人間にだって、得意とする得物は違う。剣道をやってた物部三尉は、長物だって経験を踏まえて容易に扱えるだろう」
原価にすると相当な値段がするであろう模造刀の柄を、物部に『受け取れ』と突き出す。
「ここに三者三様の武器がある。俺はナイフ。小河原君は拳銃。物部三尉は模造刀だ。果たして戦ったら誰が強いだろうか?」
ここで即座に、拳銃を持った小河原君と答えてしまえばそれまでだけれどね――――古賀は肩を竦める。
「ヒントを出そう。太平洋戦争末期において、市民は徹底抗戦せよと竹槍で訓練していた。まぁ竹槍で米軍の火炎放射器に勝てるかと言われれば無理なんだが、かの明智光秀だって百姓の凶槍に斃れたという説もあるくらいだ。昔から竹槍は農民の武器だった」
「まぁ、竹自体の丈夫さや中空で軽量、加えて使い捨てが出来る便利さは他を追随しないんじゃないですか」
竹槍でB29を落とすのだって夢じゃなかった――――小河原
「……さすがにそれは無理だろう。すまない、話を戻そう。一般市民でさえ比較的容易に扱える武器なんだ。事実、沖縄戦において市民の私刑によって殺された米兵もいるくらいだ」
「いきなり
鉄砲をひとつ扱うのにも訓練が必要だ。しかもそれぞれ癖がある。竹槍だって、長さや太さで使い道は変わってくることだろう。それも踏まえて、それぞれの武器を見る。
確かに剣道はやっていたが、物部には重い模造刀を使いこなす技術はない。むしろ入隊時に訓練されるナイフや拳銃の方が使い勝手がいいくらいだ。しかし、模造刀自体が弱い訳ではない。鈍器としてのリーチはナイフより勝っているし、普段から装具として帯刀していた古賀にとって実は使いこなしているのかもしれない。結論から言えば『物部は模造刀で勝てない』ということだろう。
小河原の持つ拳銃が、一発でも当たれば深手を負うとなれば圧倒的である。しかし、ナイフを持った古賀が小河原に勝てない話ではない。例えば狭所での戦闘となると、拳銃の発砲は跳弾の危険がある。用途といえば、銃床で殴りつけるだけとまで拳銃の価値は下がってしまう。喉元を掻き切れる
戦闘環境を考慮しない上で、何が勝利を左右するか。運と言ったらそれまでだ。だが、運を引き寄せるまでに必要なのは、武器自体のスペックではなく――――
「人間にとって慣れた得物が、その人の実力を発揮できるってことですか」
「そういう事だ。ようは『向き不向き』っていうのがある話だ。加賀の二次改装による戦力向上は確かに望ましいことかもしれない。しかし、彼女が本当に戦艦として足り得るのかは別な話な訳だ」
航空母艦として戦果を上げたから、戦艦としての勝利を約束されている訳ではない。慣れた武器を手放すというリスクを踏まえた上で運用すべきだとの警告にも聞こえる。
「それは君自身にも言えることだ。物部三尉。君が石橋を叩いて渡る堅実な艦隊運営を心がけているのは知っている」
――――命は大事だ。それがなければ、戦争に勝つなどという夢すら掲げることは出来ないからね
「君自身の艦隊運営を否定はしない。
向かいの席から物部に視線を合わせた古賀が続ける。
「たとえば君の判断で撤退した時。機を逃すまいと反転した敵艦隊に挟撃され轟沈艦を出す可能性を考えたことがあるか? もし敵を追撃し殲滅していたとすれば、助けられたと君は後悔するか? 指揮官の目的は犠牲を出さないことじゃない。この戦争で最終的に勝つためには、何をすべきかを考えた上での決断を迫られる」
なかなか難しい問題だけれどね――――そういって、背もたれに身を預けて嗤う。
「司令官が艦隊に何を貢献できるか、思考を停めるな。艦娘の命は君が握っていることを忘れるな。生かすも殺すも君次第だ」
その言葉を聞いて膝の上に握った拳を見下ろし、逡巡する物部を尻目に古賀は席を立つのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
太陽が真南を回ったところで一人ごちる。この陽気は、疲労した心身を抉るには十分である。今の肩書になって思うところは一つだ。少なくとも執務室に缶詰めにされない
金糸で象られた
特種兵装開発実験団司令という立場は、自分にとって肩身の狭いものだ。これなら北方の最果て――――幌筵泊地で作戦群をまとめている方が性に合っている。
度重なる戦闘により人材の損耗が激しい時代では、自衛海軍においても幹部層の若年化は避けられない運命だった。まだ50代の目前だというのに海将補にまで押し上げられてしまう自分の現状が、まさに敗戦という二文字を思い起こさせるくらいには国が傾いていると言えるだろう。
特種兵装を装備した年端のいかぬ少女を酷使して、深海棲艦との戦争は続いている。制海権を敵が跳梁跋扈する前程度には取り戻している日本はまだ恵まれている方かもしれないが、敵の進化が著しいのもここ極東方面なのも事実だ。
ここ最近は各地の戦況報告の上がってくる横須賀基地中央司令部に何度も足を運ぶことになっているが、戦線が押し込まれつつあるという現実がやはり待っていた。
先日話をした物部三尉が加賀の第二改装に思うところがあるのは、戦力の拡充だけでなく操りきれるのかという期待と不安の入り交じりもあるのだろうか。
あの場で言い切った自分の言葉に、今さら苦笑する。その道は、俺たちも通った道だと。完璧な指揮官など、この世にはいない。いれば、軍全てがその一人で回るだろう。この地位に押し上げられた今でも、自分の不甲斐なさに自己嫌悪することはいくらでもある。
それでも、不完全な自分にだってできることがある。部下を信じ、部下に支えられて今の自分があるのだ。クサイ言葉だが、一人でできないなら皆でやればいい。
だがその思想には、自分の指揮への責任と艦娘を喪う覚悟が欠けてはならない。進撃であれ、撤退であれ。その後に起きた悲劇は、全て自分の所為だと背負う重い覚悟を。
「だから……苦悩しろ、葛藤しろ青二才。その答えは、自分の中にしかねぇんだからよ」
あの場で自分が言っていたら意味がない。彼自身が自分と、そして仲間と向き合って出す答えなのだから余計な世話になる。
「随分しらけた顔してるじゃない? 老け顔が一層老いて見えるわよ」
「……らしくない説教を垂れて、後悔したって話さ。あとは彼自身の問題だ。俺から言うべきことじゃない」
「もう数日前でしょうにあの『会談』は。今さらいじけるにも程があるでしょ、思春期ちゃん」
「とっくに
執務室へ向かう道中で、視線を後続へ向けると、見知った部下が呆れた目で見返してきた。
「茶化しに来るにはお前も物好きだろうに……俺が言うのもなんだが、こんなところで油を売ってる暇があるのか? 陽炎。
朱色の髪を左右でまとめた少女。陽炎型のネームシップはその辺は抜かりはないと胸を張る。
「さっき愛宕さんから、何時まで経っても定時連絡が来ない――って私信で泣きつかれたのよ。古賀海将補の執務を優先していいって、ちゃんと久川さんに許可は得てるわ。北方第二作戦群司令部も、アンタ抜きで回る程上手い組織じゃないのも分かってるでしょ」
「……ちょっと待て。あっち出る前に代理頼んだ高雄は何してる?」
「択捉で人員足りてないから、今朝支援艦隊に駆り出されたって。幌筵も暇じゃないから、入渠中の愛宕さんが執務代行してるらしいわ。で、レベルⅣの案件が来たから海将補のサインが今日中に欲しいって伝言預かってる」
真面目な高雄が引き継ぎを優先順位から下げた時点で、戦闘の緊急性が高かったのだと逡巡する。仕事を押し付けられた愛宕には同情しつつ、脳内で横須賀でのスケジュールと照会して空きがあることを確認する。
報告・連絡・相談の重要性はキツく言ってるはずなんだがなぁ。盛大に自分にブーメランが返ってきそうのなのは、気付かない振りをする。
「五十路手前の歳になって部下放っておいて、本土に
「それなら、とっとと幌筵に後任を寄越せってんだ。何で未だにに兼任してると思う。まぁ、碌に現場も分からん将官クラスが養殖されても困るが。それにわざわざ横須賀工廠くんだりまで中期出張してんのは、円卓会議じゃどうにもならんと呼び出し喰らったからだぞ? そしてお前にだけは言われたくねぇ、陽炎。大破状態で戦場引っ掻き回して、挙句の果てに轟沈扱いになったのは何処のどいつだ?」
痛いところを突かれたようで、少女のシニカルな笑みが引き攣る。ネームシップたれを信条に、無茶な作戦ばかりに戦果を上げ続けた彼女にとって嫌な思い出なのだろう。退役した後に、工廠で技官として軍に関わり続けているのは、自身に無力さを感じ力を追い求めた彼女なりのコンプレックスの表れなのだろうと古賀は考えている。
陽炎だって、短期間とはいえ同じ釜の飯を食った部下だ。幸い人を見る目は凡人であるから、彼女がどういう人間かは察しがついている。サルベージ後にも教導艦として職務にあたったり、誰よりも戦場に関わり続けたいという矜持だとは察している。分かっているからこそ、彼女の悪態には皮肉で返す。こんな距離感が、自分にとって居心地の良い部隊なのだから。
言い表せない信頼関係があるからこそ、継ぐ言葉は不要だ。陽炎がまた何か抱え込んでいるのが見え見えだからこそ、古賀はあえて話題に触れる。
「あらかた予想がつくが、お前は加賀に何て言ったんだ?」
「……別にぃ? 水雷魂舐めんなよとは言ったけど」
「お前らしいって言っちゃそれまでだ。だが、空母に言っても念仏か」
地雷をわざわざ踏むなと威嚇してくる部下。気のせいか、左右に垂らす朱髪が逆立っているように錯覚する。不貞腐れている機嫌をとるには、飯で釣る以外の方法をたまには考えたい。
「そういえば、昼飯を忘れていたな。後半の交代休が終わって、閉まる前に食堂に駆け込むか」
「…………勿論、海将補のおごりでしょ? そういえば、睦月たちも昼はまだだろうなー」
「何か差し入れを買っていくか。おそらくまた工廠に籠りっきりだろうしな」
ハッと。沈んでいた顔を引き上げた陽炎がはにかむ――――気遣いに反応したというよりは、明らかに昼飯を強請る部下の顔であるが。
「海将補のそういうところ……嫌いじゃないわよ!」
「…………俺も人のこたぁ言えねぇな」
部下との付き合い次第で、戦場はいくらでも変わる。空自時代に痛感し、いくらでも後悔したことだ。だが何も出来なかった頃よりは、一歩でも進めていると信じたい。昼飯一つで部下の機嫌がとれるなら、これ程安上がりなものもない。
工廠にいるはずのメンバーを頭の中でカウントし、日替わり定食を給仕用のプラケースに載せていく。
「蕎麦……これ抱えたまま持っていくのが面倒じゃない?」
「何のためにお前には両手があるんだ」
「こんなか弱い女の子に重たい荷物を持たせるなんて、なんてうちの海将補は薄情な男なんでしょう」
「銃器振り回してたどの艦娘が言う台詞だ……上官命令だ。我慢しろ。工廠に届けたら飯にありつけるんだぞ」
前言撤回。やれやれだ――――予想外の大荷物を抱えて、工廠の戸を叩きながら呟く。
掲げられた特種兵装開発実験団の看板。ブラックボックス化されている艦娘の生命線である艤装を解析し、前線で戦う少女らのため総力を上げてバックアップする組織。艤装システムの根幹を提供している妖精たちに頼らない人間による技術革新は、今日も今日とて働き詰めの特務技官達によって生み出されている。しかしブラックな空気を醸し出すくらいに、職場の環境が恵まれているものとは言い難いのだが。
「およっ!? どうされましたかー。古賀海将補」
その工廠から、レッドベリー色の髪が襟足で跳ねる少女が顔を出す。
「睦月ちゃん。作業は進んでる?」
「加賀さんは今まで搭載キャパシティの演算領域を艦載機に使ってましたし、砲塔を積み直すとなると根本から変えなきゃ難しいのです。巡洋艦クラスの砲重量なら取り回しも楽なんですけど」
考えるだけで頭が痛いと唇を尖らせる。あまりの忙しさに休憩を挟む暇もなかったのだろうか。タイミングよく腹の虫が鳴った睦月は、目敏く古賀たちが抱えているお盆に目を輝かせる。
「どうせ籠りっきりで、お昼食べてないんでしょ? 日替わりで良いなら差し入れなんだけど」
「やった! 今日
「アンタら一体どんな生活してんのよ……」
睦月は呆れ顔の陽炎から手荷物を掻っ攫い、工廠の奥へ駆けて行く。その素直な明るい仕草に微笑ましく思いながら古賀は睦月の後を追うのだった。
こんにちは。『E氏がやると全部暗めになるんだから』と、制止をかけられる場面ばかりであったエーデリカです。本職はシリアス谷に直滑降な瑞鶴(?)小説なもので、ご容赦ください。
ちなみにあらすじ案を書くだけでも『加賀は、力が欲しいと叫ぶ。古鷹は、上司と行くことを願う。夕張は、開発に己の技術を捧ぐ。睦月は、戦友の無事を祈る。陽炎は、無力さを糧に前へと進む。そんな横須賀鎮守府のとある日常』――――そんな日常系があるかと総ツッコミをくらいましたハイ
日常系(?)と銘打ってありますが、オーバードライヴさんと帝都造営さん、自分とでは、進む方向はもう……ね。ノリに乗って、作品全体の九割弱書ききった三人を合わせて『ドシリアス聯合艦隊』という(不)名誉な括りもありましたし、仕方がない。
主催の提海 蓮先生からは『自分の小説へのファンサービスをいかがか』とのご提案もあり、私もちょこちょこと手を加えています。敵対的危険生物対策室やら模造刀やら特調九課の課長やら特調六課の眼鏡の人やらは、ぜひ各先生の作品と合わせてお楽しみいただければ幸いです。