艦隊これくしょん~抜錨! 戦艦加賀~   作:GF-FleGirAnS

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抱く矜持と誉とは


胸に携え

「正規空母加賀に戦艦の艤装、か……」

 

 久川はノートに書き殴っていたラフ案に大きくバツ印を書いて鉛筆を転がした。鉛筆削りを使わず肥後守で削ったらしいどこか歪な削り口の鉛筆がカラカラと音を立てる。その部屋――――『特種兵装研究センター搭載兵装開発室火力兵装研究開発セクション』などという長ったらしいプレートがかかった部屋ではラフスケッチが書き殴られた紙や計算表などが散乱していた。久川の向かいで紙の資料を漁っていた夕張が眼鏡を外しながら苦い笑みを浮かべた。

 

「我らがセンター長でもそう簡単にはいきませんか」

「買いかぶられると困る。そんな片手間で行くようなものじゃないのはお前さんもわかってるはずじゃないのか、バリっちゃん」

 

 バリっちゃんと呼ばれた夕張はそう言われてどこか不機嫌そうに頬を膨らませた。

 

「そりゃぁ戦艦のあのゴツイ砲塔ユニットを加賀さんのあのほっそい体にどう乗せるかは大問題ですけど……それを何とかするのが、我らが工廠の仕事ですからねぇ」

「とはいえ、はいそうですかと行くような内容ではないだろう」

 

 うーむ、と二人そろって腕を組んで静まり返った。その耳にカチコチと時計が時を刻む音が響く。それにふと顔を上げた夕張の視線の先で壁掛け時計が午後2時32分を指している。その事を理解するのにしばしの時間が必要だった。理解すると同時、絶望。

 

「あ”……今日もお昼食べそびれた!? 日替わり麺が天麩羅蕎麦だったのにぃ……」

「あー、そりゃ残念だったのぉ」

「久川センター長もどうして教えてくれなかったんですかぁ……」

「どうしてといわれてもわしも今昼を食べそびれたことに気がついとる。どうしろと?」

「……ですよねぇ」

 

 大量の手書きのコメントで真っ黒になった紙束に突っ伏すようにしながら夕張が『蕎麦ーソバーゾーバー』と呻く。

 

「しかたないのぉ。とりあえずなんか軽いもんでも後で腹に入れとけ」

「だー、またカップ麺かぁ。きついなぁ」

 

 ぼやく夕張を無視して久川は再度鉛筆を手に取った。それを見て夕張も体を起こす。

 

「このままだと今日も残業確定ですか……」

「ろくな状況じゃあないがね。残業なんて個人タスクに頼らないと仕事ができないほどチームが機能していないか、自己管理ができてない奴か、管理職がするもんだ。わしはともかく、バリっちゃんがするもんじゃぁない。ちゃんと集中して仕事をしんさい。……とはいえ、今日で方向性ぐらいは決めておきたいところじゃがのう……」

「コンセプトはそろそろ出さないと今期の補正予算で組めなさそうですもんね……」

 

 夕張がそう言いながら個人端末をいじり『1時間追加コースかなぁ』と呟いた。

 

「一時間ならいいじゃろう。わしゃぁ宿直も覚悟できとる」

「管理職は大変ですねぇ」

 

 夕張がそう言って湯呑に口を付けたタイミングで睦月が戻ってきた。

 

「お待たせなのです! 古賀海将補が天麩羅蕎麦持ってきてくれましたよー!」

 

 両手でお盆を支えて」満面の笑みで入ってくる睦月を見て、夕張が破顔した。

 

「ソ――――――バ――――――!」

「これはこれは実験団司令殿に出前をさせてしまって申し訳ない」

「これくらいはたいしたことはありませんよ。けれどどっかの馬鹿がやらかして、旧友経由で六課にアポとった方が苦行でしたけどね」

「そうか、九課の課長は元気しとるか。しかしのぅ、さすがにあの眼鏡も怒っといたかい」

 

 久川が割り箸をあわせ合掌する。その意味は「いただきます」の意味か、それとも小河原に対しての南無三か。そして、何事もなかったようにペットボトルに入った麺つゆをそばに掛ける。

 

「いえ、上長として部下を気遣うのはある意味当然のことでしょう? それにこの部隊の中核を成す特種兵装研究センター センター長たる久川二佐の機嫌を損ねると後々大変なことになりますし」

「仕事に差し障るほど機嫌を損ねることは無いけぇ安心しんさい、古賀司令」

 

 古賀がそう言いながら机の上を片付けて、皆が座れる位置を確保する。既に午後二時半を回っているが、遅い昼餐の用意が整っていく。

 

「手間かけたのぅ、睦月ちゃんも、ほれ」

 

 少し照れたようにそう言った睦月に、久川は微笑みかけて席を立つ。書類置きと化していたスツールを持ってきた。崩れそうな書類をなんとか安定させて久川が戻ってくる。皆で律儀に手を合わせるとそれぞれ箸をとった。

 

「ソ――バ――だ――。わ――しょ――く――だ――!」

「蕎麦一杯でキラキラするなら安いものだな。低コストで結構結構」

 

 涙と共に放たれた夕張の言いぐさに古賀がそういう。それに噴き出すのは久川だ。

 

「ならミニキッチンでも簡単に作ります? 許可あればささっとつくりますけど」

10以内(十万円)でできるなら考慮する」

「そんな予算でできるなら苦労しませんって」

 

 久川がそういって海老天を齧る。豪快にそばを啜っていた陽炎がそれを飲みこんで口を開く。

 

「えっと、昼ごはんを食べそびれた理由ってさ、やっぱり加賀さんの改装計画なわけ?」

「そうなのよーもう大変。空母と戦艦のコンバージョンにも対応できる拡張性を残しつつ火力を底上げ、安定性と速度を両立なんて無理難題も過ぎるわよホント」

 

 そう言って膨れる夕張に睦月が肩を落とす。

 

「演算リソースはたりてるんだけどにゃぁ……」

「それでも簡単にはいかん。飛行甲板引っぺがせば終了みたいなことにはならないからのぉ」

 

 久川は丼を置いて、散乱した裏紙とペンを引き寄せる。それを見てどこか顔をしかめるのは陽炎だ。

 

「久川センター長、行儀悪いですよー」

「他人の城でそば汁大量に飛ばしてる陽炎ちゃんには()われたくないのぅ」

「げっ」

 

 驚いて自分の服を確認する陽炎。結構つゆが散っているのが見て取れる。古賀が横で頭を抱えた。

 

「まぁ洗濯がんばれよ、陽炎ちゃん」

 

 それを口の端でくつくつと笑いながら久川はペンを走らせた。

 

「これは特種兵装全般に言えることじゃが、一番の問題は砲撃時の強烈な反動をどうやって安全に逃がすかということじゃな。睦月ちゃんみたいに小口径の運用だけなら手持ちや、アームホルダーで固定すれば十分反動を殺せるんじゃが、戦艦クラスにもなるとそうともいかん」

 

 そう言う間にもさらさらとペンが紙の上を滑る。

 

「じゃから戦艦の主砲ユニットは体幹に近いところでホールドして体全体でその衝撃に耐えられるようにするのが通例じゃの。要は背負子式で背中に乗せるタイプがそれじゃ」

 

 睦月の目線の先で扶桑型の艤装の模式図があっという間に書かれていく。

 

「こんな重いものを手持ちでやろうとしたら、撃った瞬間に肩から先が吹き飛ぶレベルの反動がくるぞ。それを防ぐために背負って使用することになるんだが……」

「普通にやっても艤装背負っての戦闘機動は至難の技ってことね?」

 

 陽炎の言葉に、久川が頷く。

 

「事務官とはいえ試験艦隊所属なだけあるのぉ」

「なに、バカにしてんの?」

「まさか、褒めとる褒めとる。不安定な波の上だと下手に踏ん張ればバランスを崩す。かといって踏ん張らなければ砲撃の衝撃で吹き飛ぶことになるからのう。皆はそれを感覚で処理しとるから、意識してないことが往々にしてある。それを意識してるだけ優秀じゃろうて」

「ただでさえ、艤装を背負って直立したらあっという間にひっくり返るぐらい重いもの背負わせてますからねぇ」

 

 夕張がしみじみそう言うと久川は苦笑いだ。

 

「それでも大分軽くなったほうじゃが……ばりっちゃんには特に迷惑かけっぱなしな重量じゃからのう。まぁ、そんな重量を腰に括り付けての機動にはかなりの無理が伴う。それを防ぐために艤装にはハード・ソフト両面で慣性制御装置が組み込まれておるわけじゃが……空母系、特に赤城達はそのシステムを組み込むのは大概厳しい」

「どういうことよ」

 

 陽炎が?を浮かべると夕張が笑った。

 

「加賀さんの装備で背負ってるのって矢筒だけでしょ? それに持たせても機銃か精々副砲レベル。慣性制御装置なんて必要ないのよ」

 

 たしかに言われてみればそうね、と陽炎は頷く。それを見て満足げな顔をして、夕張が続けた。

 

「加賀さんもそういう運用しか知らないし、必要ないの。訓練で慣れてねって言うこともできるけど、そんなことをしてたら実戦投入できるのはいつになるやら……ま、そういうわけで加賀さんでも使いやすいインターフェースを実戦投入可能な形でまとめることが必要なわけ」

「しかもワンオフものだから予算を湯水のようにとはいかんという条件付き。コンバージョンの条件ぐらい緩和してもらわないととてもじゃないができん」

「そこばっかりは我らが古賀海将補になんとかしてもらうほかないですよねぇ。直接的な上層部へのコンタクトは古賀海将補に任せることになりますし……」

 

 夕張がそう言ってため息をついた。それを聞いた古賀が小さく鼻を鳴らす。

 

「本人目の前にして嫌味か?」

「まさか、上層部との喧々を毎日のように続けてくださっているのは現場もよく知っとります。……予算とかを分捕ってもらうためにもそろそろ設計要綱を上げますから後々のこと頼んます」

 

 汁まで飲み干して、久川がそう言った。相変わらず食べるのが早いと夕張が呟く。それを見て古賀が小さくため息をついた。

 

「……とりあえず次の補正予算案に叩き込みます。あと5日で出せますか?」

「『出せるか』じゃなくて、『出せ』じゃないんか。とりあえずユーザーインターフェースとかそのあたりは八重重工さんたちにお任せするとして、やっぱり問題はショックアブソーバーの配置とそれの制御ソフトのプロトコルをどうするかじゃな……」

 

 久川はそう言って小さく笑った。

 

「コンバージョンっていっても同時に空母も戦艦もじゃないからもう完全に戦艦モードにするかぁ」

 

 そう言いながら伸びをする久川。背中からゴリゴリと音がするあたりかなりヤバそうな雰囲気がある。

 

「腰……大丈夫ですか?」

「ん? あぁ。最近はデスクワークが過ぎとるからのぉ、固まってしまって叶わん。こんなんで根を上げてたら扶桑や他の人にも笑われてしまう」

 

 その言いぐさに睦月も夕張も笑った。

 

「戦艦としては軽装って言われる金剛型の皆さんも重そうにしてますもんねぇ」

「あんな重いのよく背負えるのぅ」

 

 そんなことを言いながらトントンと腰を叩く久川。夕張がからかい口調で口を開く。

 

「もー、久川さんが軽いの作らないからぁ」

「あん? わしの専門は燃焼機関じゃからな?」

「でも噛んでたでしょー? 金剛型改二艤装開発」

「そりゃぁ噛んでおったが……」

 

 二人の掛け合いのような言葉に睦月が笑う。

 

「なら改三計画とかが持ちあがったら軽くしないといけないのです。元々金剛さんは高速戦艦にゃし、島風ちゃんぐらい速くなったりして」

「金剛さんと島風ちゃんの追いかけっことかうるさくて叶わないんじゃないかしら?」

「……今なんて()うた?」

 

 低い声が睦月と夕張の会話を断ち切った。

 

「え? 金剛さんと島風ちゃんの追いかけっこ……」

「その前だ!」

「こ、金剛さんは高速戦艦にゃし、島風ちゃんぐらい早くなったり……」

「それだ!」

 

 久川が勢いよく立ち上がった振動で椅子が蹴倒され、その衝撃で書類が崩れる。陽炎が慌てて丼を持ち上げた。

 

「ちょっと何やってんのよ!? 零れる零れるっ!」

「しょ、書類がっ……!」

 

 夕張が慌てたように書類を回収する中、久川は睦月を抱きあげてくるくると回った。

 

「でかした、睦月ちゃん! よくやった!」

「え、えっと……どういうこと、かにゃぁ……?」

 

 睦月が困惑しながらも『たかいたかい』されるがままになっているなか、久川だけが満面の笑みで上機嫌になる。

 

「バリっちゃん。空母艤装と通常艤装との一番の違いはなんだ?」

「え? 火砲を乗せない分、演算装置を増設して艦載機制御用の通信機能の強化……ですよね? それが、金剛さんとどういう……?」

「そっちじゃなくて島風のほうだ」

「そ、それにしたって島風ちゃんと……あ!」

 

 睦月と夕張が同時に声を張り上げた。

 

「「連装砲ちゃん!」」

 

 久川が頷く。

 

「あれなら、加賀本体へのマウントを気にしなくて済む」

「そ、それに艦載機用の通信機材を流用すれば……!」

「加賀自体にはそこまでの改装は必要ない。制御用のプロトコルも艦載機制御をたたき台にすれば、操作性で戸惑うことも少ないはずじゃろう」

「睦月ちゃんナイスアイディア! 久川さん!」

 

 夕張の眼がキラキラと輝きだし、設計用のプログラムを立ち上げ始めた。

 

「バリっちゃんは加賀側の艤装の設計ラフ上げろ。ラフで構わんから通信機材を除いて積載可能な重量を算出、対空兵装を中心に使えそうな既存兵装のリストアップ」

「了解っ!」

「わしは連装砲ちゃんの開発記録を漁ってくる。睦月ちゃん、給湯室の冷蔵庫に入っているばりっちゃんのとっておきプリン食べてええぞ」

「ちょっとぉ!」

 

 久川は笑って部屋のドアを開けた。それの後を追うように古賀も席を立つ。

 

「どれ、皆の仕事の邪魔をしてもあれだ。私もお暇することにしよう」

「まだあたし食べてるわよ」

「陽炎はゆっくり食べてていいが片付けは手伝っておけよ」

 

 古賀の目配せに気がついた睦月がぴょんとソファから飛び降りる。

 

「睦月もいくのです」

「お茶汲み係にしてしまってすまんのぉ」

「陸上勤務にゃしぃ。それくらいやるのです」

 

 睦月が司令官たちについて部屋を出る。

 

 向かった先は隣の応接室。睦月がすぐにお茶の用意を始める。

 

「古賀海将補。食後のお茶をどうぞなのです!」

「ありがとう。いただくよ」

 

 お茶出しを済ませた睦月が相席し、満足そうにプリン頬張る。それを見て笑う久川の様子とあわせれば、祖父と孫との年齢差のようだ。

 

 あの場じゃ話せんこともあるじゃろう――――そう久川は呟く。それに対して、古賀はソファに身を預け向かい合う。

 

「それで? 普段から飛びまわってる特種兵装開発実験団司令殿がわざわざ来るたぁ珍しい。ようやく腰を落ち着かせたんか」

「おちょくるなよ、おやっさん。こっちもこっちで大変なんだから」

 

 久川の指摘には、肩を竦める。人手不足が軍内部でも続いたあまり、必要とあらば各所に飛ばされる古賀の身分は待遇が良いものとはいえないと自嘲もしたくなる。

 

空自(ソラ)にいた頃とお前も変わらんのぉ。まだまだ青臭い坊主のままじゃ。相も変わらず、仕事を押し付けられとるのもな」

「俺もこの年にまでなって、海艤廠くんだりでおやっさんと20年近い付き合いになるとは思ってませんよ」

 

(ちげ)ぇねぇ――――そう笑う年上の部下に一言返しながら、窓の外に広がる港湾を眺める古賀。

 

 かつてこの横須賀港には、どれだけの船がところ狭しと接舷していたのだろうか。今では沖に出ることすら、艦娘の護衛なしでは叶わない。

 

 その艦娘ですら、深海棲艦に対する特効策となりうるものではない。わざわざ触れずとも久川には通ずる話題。人類が勝利する為には、相手以上に艤装の能力を引き出さねばならないことを。

 

 艦娘には妖精によって開発された艤装によって艦種(クラス)が定義されるが、友好知的生命体(ようせい)との共同開発によってその主力とする戦闘方法は日々進化してきている。

 

 二年ほど前であれば、水上偵察機を用いた着弾観測による大型艦艇の砲火が有効だとされていた。それ以降になると高速戦艦への徹甲弾の搭載や司令部機能の強化による複数艦隊の同時運用。索敵機器――――通称羅針盤への干渉や、対空システムの刷新など艦隊を運用するための手段は拡充されてきているだろう。

 

 しかし新たな技術が開発される以前に、深海棲艦相手には後手後手にまわっている現状は歯がゆいものだ。古賀にとっての目下の問題は、航空母艦の無力化に悩まされているという報告についてだ。

 

 深海棲艦の軽巡クラス。No.19――――日本ではいろは歌になぞらえて『ツ級』と呼ばれる個体が各地で急増しているとのことだった。

 

 改良された魚雷は雷撃戦において水雷戦隊にとって致命傷となり、また中口径以下の砲撃ではびくともしない装甲を持つ。単体の機動力もさることながら、極めつけは両腕に装備された対空機銃による艦娘航空攻撃隊への影響である。ツ級がいるときには空母艦娘を戦線から下げろ――――そんな冗談のような命令が飛び交う程に、前線は混乱に陥られてしまうものだ。

 

 事実上の空母艦娘の無力化。空母を遊ばせていられる余力は自衛海軍にはないのだが、役に立たない置物では戦力にならない。現状の使い道は敵空母との航空戦のために烈風といった艦上戦闘機を用いた制空権の確保と、大型艦艇の着弾観測の支援が主な任務であった。

 

「かの大戦の焼き戻しだか……航空母艦が補助艦艇に逆戻りとは」

 

 ワシントン海軍軍縮条約においては、各国の思惑があって主力艦から除かれた航空母艦。状況は違えど主力艦から降格された空母艦娘にとって非常に歯がゆい思いで戦場に立っているに違いない。

 

 この国を守るためには彼女らの力が必要だ……自衛艦などの通常艦艇だけでこの戦争が勝てるほど深海棲艦(奴ら)は甘くない。だからこそ無い知恵を絞って、陸に立つ人間は艤装の技術を精練しなければならない。

 

「……なんだ……空母が前線から下げられるのがそんなに悔しいかの? 坊主(古賀)

 

 深海棲艦に制海権を奪われ、その戦力差ゆえに飛ぶことすら叶わなくなった元戦闘機乗り(ただの人間)が工廠を見る様子が可笑しかったのだろうか。あの頃から整備で世話になっていたからこそ、自分の心象を当てられていそうで苦笑する。

 

「翼をもがれた戦闘機なんて、戦況を変える役になど立ちませんよ」

「あの時の後悔があるけぇ、上層部に加賀の二次改装案を無理にでも承諾させたんじゃろ?」

 

 一体どんな弱みを握ってちらつかせたんだこの策士は――――という久川の問いには、肩を竦めて返すだけだ。どうせそこまで分かりきってのことだろうし。

 

戦艦加賀(・・・・)か。艦載機を積まない分の演算許容域とジェネレータの出力を砲戦に回すって案は分かるが、一体どっから飛び出した?」

「トラック泊地に常駐している俺の後輩が、瑞鶴に高角砲だけ載せて砲撃戦で敵艦落としたって報告がありまして。奴らしいって言ったら奴らしい話なんですが」

「艦娘に使えない娘はいない……って話じゃろう。その後輩は、場を凌ぎきる観察眼だけは鍛えているようじゃ」

 

 史実再現にでも拘るのは技術者としてはどうかとは思うがのぅ、まるでハリネズミじゃ――――翔鶴型の妹の方が機銃を背負っている様を想像した含み笑いに、こちらもつられる。

 

「前線で頑張っている部隊もいる。だから俺ら実験団が陸で出来ることをやるしかないんです。頼りにしてます、おやっさん」

「坊主に心労かけないよう、こっちも上手くやるけぇ」

 

 工廠区画では、今ごろ加賀が夕張たちとフィッティングを済ませている頃合いだろうか。彼女が新造した艤装を背負い海原を翔ける姿。41cm砲を独立駆動させるなど、その質量を考えれば夢物語のような話だ。しかし、やらねばならないのが特種兵装開発実験団という組織である。あくまで一士官としての意見を技術職に伝える訳だが、その結果進展するとは限らないのが悲しいところだが。

 

「スタビライザーとかどうします? やっぱり形状は末広がりになりかねませんか。砲身が伸びる分転倒防止のためにはある程度は大型化しそうですし」

「案外、連装砲ちゃんのような準人型よりか車輌型の方が安定するかのぅ」

 

 予算案と照らし合わせた睨めっこ。試作用艤装を製作する際に、どれだけ鋼材を使用するのか。実現させるための最良のプランを捻りだそうと、二人は論を交わすのだった。

 




真打登場、じゃじゃー↑ん(睦月風)。と登場してみたのはいいものの、まったく似合っていないオーバードライヴです。はじめましての方ははじめまして。拙作『啓開の鏑矢』等にお目通しいただいている方は大変ご無沙汰しております。こんにちは。

今回の合作ですが、本当は日常系の短編を考えていました。ほのぼのとして、肩肘張らずに読める形にしようね。ふわふわした明るい感じもいいよなぁ……と話していたのが昨年12月。蓋を開けたら日常系シリアスな中編になっていました。1話平均9000字オーバーって何だよ。誰だよ担当部分で大暴走したの。……すいません、間違いなくオーバードライヴです。

全くもって話が変わるのですが、読者の皆さまは「ヒーロー/ヒロインの条件」って何だと思われますか? オーバードライヴは「何かを選び取ることができること」だと思っています。それは今回のような軍属の話なら特にそうですし、日常モノや、ハーレムモノでもそうでしょう。主人公がトラブルに巻き込まれる系のストーリーにしろ、巻き込まれるのは受動的でも、そのトラブルをどう乗り切るかは能動的に選択しているように思います。その選択をする姿勢や、そのあり方にかっこよさやキャラクターとしての深みが出るんだと思います。

……まぁ、ストーリーライターからすれば、何かを守るにしろ、何かを壊すにしろ、それは主人公の具体的な選択の上に成り立たないかぎり「かっこよく描き難い」という面もあるのですが……。

今作で主軸に据えているのは物部提督と加賀さん。この二人が今作のヒーロー/ヒロインなわけですが、この二人はどんな選択をするのでしょうか。そんなこんなでお送りして来た合作企画ですが、次回で最終話となります。二人の行方は……?

感想・意見などはお気軽にどうぞ。
それでは次回、最終話にてお会いしましょう。
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