ユクモ村のギルドから張り出されるクエストは、いつも危険がつきもので、いつも死を覚悟していないといけない。
やれ卵をとって来いだ、やれイビルジョーを倒してこいだ。簡単なクエストだろうが、最難関のクエストだろうが、どんな物でも死を覚悟しろ。それが俺の師匠が俺に教えてくれたことだ。
覚悟ができていない奴はついて来るな。
それが俺の口癖だ。まだ未熟なやつと一緒にクエストに出てそいつが死んだら、俺はその死を一生背負わなくちゃならない。俺にとっちゃそんなのはごめんだ。
「よぉ、姉さん。今日はどんなクエストがあるんだ?」
「お待ちしておりました、ザンカさん。今日はザンカさん指名のクエストが来てますよ。この前のウカムルバス討伐でザンカさんの株は一気に上がりましたから、討伐依頼が後を立ちませんよ」
「そりゃどうも」
「何ていったって、アイルーもお仲間も連れずに一人で行って無傷で帰ってきたんですから、指名の依頼が来るのも頷けます」
俺がギルドに入ってから、俺を指名してクエストを出して来るなんて、今日が初めてだった。依頼主の名前はN。
「N? 本名は?」
「それが、上に聞いても本名を明かしてくれなくて……。ギルドマスターの話ですと、ハンターギルド本部と密接なつながりのある方からの依頼だそうです」
「お偉いさんの癒着相手、ねぇ。狩るのが人間じゃないならいいが」
「討伐対象はジャギィ1匹です」
ジャギィだと?
俺は自分の耳を疑い、目を丸くして受付嬢が持っているクエストの詳細を見る。
「マジか……本当にジャギィ1匹だけだ……」
「ドスジャギィでもないんですよね」
「クエストの場所は?」
「埋立地、だそうです」
そんな場所、聞いたこともない。
今までギルドから依頼されたクエストは全てこなし、この世のありとあらゆる場所へ行ってきたが、そんな名前の場所は見たことも聞いたこともない。
「火山のベースキャンプがある場所から、火山内部を通り抜けて反対側へ行ったところに、海があるのはご存知ですか?」
「いや、今初めて聞いた」
「まぁ私たちギルド職員にも立ち入り禁止区域だからハンターをいかせないように、と言われていますから、ザンカさんが知らなくても不思議ではありません」
怪しい。
今までどんなに適当に書かれた依頼だって、きちんとこなして金を稼いできたが今回のは流石に怪しい。ハンターが立ち入り禁止の場所に、なぜ俺がいけるんだ?
「そのクエストの依頼主から、なにかメッセージは?」
「えーっと、『テーマパーク建設予定地に邪魔なジャギィがいるので、そいつを追っ払ってください。もしかすると群れのボスが出て来るかもしれないので気をつけてください。なお、テーマパークの話はまだ一般に公開していないので、絶対に他社へ漏らさないよう、お願い申し上げます。……ハハッ!』」
平坦な声でそう読み上げた受付嬢。最後のところは明らかに笑うべきなのだろうが、仕事人間の彼女がそんなことをするはずがなかった。
「火山を超えたところにテーマパーク、か」
「火山付近に凶暴なモンスターがいるのに、どうしてそんなところに作るんでしょうね」
「土地の値段が安いからじゃないか?」
「いくら安くても危険なところに作ったら、人が来なくて結局赤字になるんじゃ……」
「俺たちがそんなこと気にしててもしょうがねぇや。さっと行ってさっと帰って来るさ」
俺にはお偉いさんがたの考えていることなんて分からない。だからいつも自分に、『ハンターはハンターらしくクエストをこなし、それ以外のことは他の連中に任せればいい』と言い聞かせている。
だから今回も、クエスト依頼主のことは考えず、目先のクエストのことだけを考える。
「狩猟環境は? 依頼主の話を聞くに、不安定っぽいが」
「えぇ、狩猟環境は不安定です。出現が予測されているのはーー」
「ドスジャギィ、か」
「えぇ。狩猟場所が少し特殊なので、想定外のことがあるかのせいも否定できないですが、少なくともイビルジョーが生息できる環境ではないので」
「最悪の場合を想定しても、ティガレックスってとこか? 孤島みたいな環境下ならジンオウガもありえるか」
何が乱入してきても対処できるようにすれば問題ない。一応万全をきして、回復薬グレートや強走薬は作っておいた方がいいか。
「それで、ザンカさん。このクエストは受けますか? それとも蹴りますか?」
「名指しの指名を蹴る理由はないだろ」
「では、同行者の募集は?」
「いつも通り、貼らなくていい」
「了解しました。成功報酬はいつも通り後払いです。では頑張ってください」
営業スマイルを顔に貼り付けた彼女は、浴場の方へと向かう俺に手を振る。
彼女は確かに仕事ができるいい女ではあるのだが、仕事ができすぎて怖いところがあるのも事実だ。無駄な仕事は一切せず、かといって不足は一切ない。完璧すぎるほど完璧な彼女の仕事ぶりは、他のハンターから『受付嬢はサイボーグ』と言われるほどだ。
そんな彼女ですら十分な情報を集められていない、今回のクエスト。念には念を入れた方がいい。ウカムルバス討伐の際にリオレウス希少種の装備に、リオレウスの太刀で挑むだけでなく、蜂蜜と回復薬も持って行った方がいい。この際、収穫物のことは考えずに自分の身を案じた方がいい。
つけていた装備を外し、浴場へと向かう。
毎日最後の風呂だと思っているせいか、風呂場では不思議と緊張感が立ち込めてくる。
「ザンカか。今日もピリピリしてるな。風呂場でくらいは肩の力を抜いたらどうだ」
俺が湯船に浸かるなり、さっきまで目を閉じていた常連客のおっさんが片目を開けて声をかけてくる。彼が引退したハンターであるのは、体についた無数の傷と潰れた左目がまざまざと語っている。
「おっさん、あんたまた来てたのか」
「そりゃあなぁ。片目がないハンターにできることなんざ、毎日湯船に使って後輩にアドバイスしてやることくらいさ」
「そんなあんたに聞きたいことがあるんだが、火山の近くにある埋立地って、どういうところかわかるか?」
彼は目をつぶり首を横に振る。
「そんな場所はしらねぇな。火山の近くの立ち入り禁止区域のこと言ってんのか?」
「あぁ、多分そこだ」
「……あそこか」
「おっさん、なんか知ってんのか?」
「知ってるも何も、俺はあそこで目を潰されたからな。あのクソ野郎に」
彼は湯船に浮いていたクルペッコの人形を掴む。
「お前に一つだけ忠告してやる。あそこに行くなら死を覚悟しろ。あそこは悪夢と絶望の国だ。一度中に足を踏み入れようもんなら、ケージの中のモルモットと同じか、それ以上の絶望を突きつけられる」
「あんたの言ってることがイマイチよくわかんねぇんだが」
「ようは、あそこではどんなハンターもただの人間ってことさ。悪いことは言わねぇ。あそこに近づくのだけはやめとけ」
おっさんは湯船の近くにいたアイルーという、猫に似た生き物から瓶に入った牛乳をもらうと、それを一気に飲み干した。
「なぁ、その立ち入り禁止区域、埋立地には何があるんだ?」
「……あんまり詳しいことは言えない。言ったら消されるからな」
「言える範囲でいい」
「……悪夢と絶望がある。夢は一瞬で打ち砕かれ、希望は即座に黒く塗り替えられちまう」
彼は空っぽになった瓶を湯船に浮かせる。
「思い出したくもねぇよ、あそこのことは。こうやって話してる今も、膝の震えが止まんねぇ。ちょっと気を抜いたらいろいろと吐き出しちまいそうだ」
「あんたがそこまで弱気になってるなんて、珍しいな」
俺もアイルーから牛乳を貰い、冷え切った瓶に口をつける。温まった体に冷たい牛乳は染み渡り、口からうめぇ、という言葉が漏れる。
「あんたが埋立地で何があったかしらねぇが、そんなにやばいのか?」
「あぁ、ウカムルバスやアルバトリオンなんて比べ物にならないレベルだ。あいつらは人間の体じゃなくて心を壊しに来る」
ウカムルバスもアルバトリオンも、もはや伝説上の生き物となったモンスターだ。そんなものと比べものにならない、と引退したハンターが口にする埋立地にいるなにか。
「先輩からのアドバイスだ。出ちまえば奴らは追ってこない。だが、目か腕はないと思え」
「それであんたは目を犠牲にした、と」
「あぁ、そうしないと死んでた」
冷やかし混じりの俺の言葉に、思い口調で返す元ハンター。
「幸福な死。ハッピーなデス、略してハピデス」
「ハピデス?」
「あそこに行くなら嫌でも『幸福な死』を意識させられちまうのさ」
彼はおもむろに立ち上がり、脱衣所の方へと向かう。
「あそこに行くなら覚悟はしておけ。……帰って来れたら祝杯をあげよう。全部俺のおごりでいい」
「いいのか? 酒飲むぞ? イビルジョーの肉、頼むぞ?」
「いくらでも出してやる。だから絶対ーー」
死ぬんじゃねぇぞ。
彼はそう言い残すと風呂場から出て行った。
俺とあのおっさんはずいぶん昔からの仲で、彼が眼をなくす前からの知り合いだ。俺と同じようにソロで世界を駆け回り、ありとあらゆるモンスターを狩ってきた英雄。
だがそんな英雄はあり日を境にハンターを引退した。
周りは眼をやられたせいだと行っていたが、俺はなんだか違う気がしていたのは言うまでもない。
英雄は眼がやられた程度で止まらない。
それが俺の中に巣食っている英雄の、理想の姿だ。彼のような英雄が眼一つで諦めたりしない、とまだ小さかった俺は周りの大人に主張したが、聞き耳を持ってくれるはずもない。
「おっさん、あんたがどうしてハンターを辞めたのか、本当の理由を俺が確かめに行ってやるよ」
誰に言うわけでもなく、自然と口から出て来た言葉は、晴れ渡った空の中へと消えて行った。
赤い座席に白いスクリーン、黒い絨毯の上には大量のフィルム。
「彼はだいぶ育ったじゃないか! いいね! このザンカっていうハンター、面白いじゃないか!」
映画館のような施設の席の一つに、それは座っていた。画面上に映るザンカの狩猟シーンをみながら、そいつは楽しそうに手を鳴らす。
「いいよ! よくここまで育ってくれたよ! これで皆ハッピーだ!」
真っ赤で派手な装飾が施された靴、ピンク色のジャケットを見にまとい、白くて大きなグローブのような手、そして黒くて大きな二つの耳。
着ぐるみのようなそいつは、固定された笑みを後ろにいるメイド服の女性に向ける。
「最良物件じゃないか! どうやって見つけてきたんだい?」
「ハンターギルドに回して資料を提供してもらいました」
「資金提供はゲスツからかい?」
着ぐるみの言葉にメイドはうなづく。
「生身でここまでやるなんてすごいじゃないか!」
「武装はしています。飛竜刀と呼ばれる太刀と、同じくリオレウスから作った鎧をーー」
「そういうことじゃないのさ! ただの人間がここまでできるのがすごいのさ! 次のイベントはザンカくん、君に決めたよ!」
着ぐるみはメイド服の女性から、彼についての情報が書かれたファイルを受け取る。
「ふむふむ、友人、恋人、家族、ペット、何もいないんだね! 孤独の1匹狼っていうやつだ! これじゃぁハピデスを与えられそうにないなぁ」
「彼を呼ぶにもパティーではなく、ソロになりそうです」
「うーん、それじゃあ盛り上がらないんだよね。そうだ! 近くの村から何人か拉致ってきてよ! 子供がいいね。プー太郎でも連れて行けば子供は大喜び! そのまま薬漬けにしてハッピーにしてあげてよ! ハハッ!」
ペラペラとファイルをめくりながら着ぐるみは笑う。
「……あれ? 一応交友関係はあるみたいだね。この引退したハンターって……」
「
固定された笑みが、おぞましい何かを発する。形は変わっていないのに、笑みの質が変わった。
「ハハッ! 彼も英雄に憧れた子達の一人なんだね! いいよ! すごくいい! 君にはとっておきのハピデスをあげよう! 彼に借金は?」
「ありません」
「依頼を断った回数は0でいいんだよね?」
「よくわかりましたね」
「当然だろう? なんたって僕は、デスニードラウンドの人気キャラクター、ニッティー・ザ・モルモットだからね! ハハッ!」
着ぐるみ、もといニッティーはファイルを女性の方へ投げてよこす。
「パーティーじゃないのが良くないけど、一人でもハピデスは見つけられるさ! ここは絶望と悪夢の国、デスニードラウンドだからね! ハハッ!」
実験動物のモルモットが死から逃げるように車輪を回し続けているときにみた夢、それが元となって様々なストーリーが展開され、最終的にテーマパークとなった物がデスニードラウンド。
夢の中の話をテーマパークにしたことから夢の国と呼ばれるそこは、幸せな死、ハピデスを見つけ出すための場所でもある。
「まだ一般公開されてない場所だから、キャストとキャラクターの人数が少ないんだよね。さりげなく攫ったりできないから」
「一般公開は1ヶ月後です」
「それまでに失敗した肉を処分しないとね! 今度のイベントは在庫処分セールだ! 開園前の最高のショーにしよう!」
ニッティーは床に転がっていたステッキを掴むと、スクリーンに映る残かの方へと向ける。
「ハピデスを君にっ!」
みなさんこんにちは。
普段書いている作品を一度中断してまでも書きたかった、ライトノベル、DNRの二次創作です。
原作自体は数年前に終わりましたが、その作品が残した爪痕は後世に残って欲しいレベルです。
さてモンハンとクロスさせた理由は単純です。これがジャブだからです。いきなりDNRの二次創作を書いて消されたら、泣けますからね。本当はもっとゆりゆりしたのを書きたいのですが、それはまたいつかということで。
また、別の作品と同時進行なので、こっちの更新速度は遅くなりますが、全力で書かせていただきます。
消されていなかったら、またお会いしましょう! ハハッ!