この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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二章特別回

誤字脱字お気を付け下さい。


プラス

――現魔王軍最高幹部、プラスという人物の話をしよう。

 

 

プラスは父が紅魔族、母が普通の人間族の、いわゆる紅魔族とのハーフの子として生を受けた。

紅魔族は里の魔法学校を卒業すると、アークウィザードの職に就くことが可能である。

卒業後も里に残り、紅魔族の繁栄に尽力を捧げ、その地で一生を終える者。里を出て、王都や各街で冒険者人生に生きる者。

どちらの選択をするかの判断は本人に委ねられるが、どちらが圧倒的に多い。という事例は見受けられた事はない。

プラスの父は冒険者として生きる道を選んで街に出た紅魔族であり、プラスの母は父が向かった街でギルドの受付嬢をしていた。

お互いの出会いは言うまでもない。一人の冒険者と、一人の受付嬢。最初はそれだけの関係だった。

紅魔族は生まれながらの魔力が非常に強力である為、その火力はどのパーティも喉から手が出る程の存在であった。

だが、それは現在、と考えた場合の話だった。

ユウキ達が存在する現在からおよそ三十年前の話だ。

ある冒険者のパーティが、突然の魔王軍の襲撃を、犠牲者をこれまでの半分以下にまで抑え、王都を守ったという快挙がなされた。

――そのパーティの魔法使い職の者が、紅魔族出身だった。

国王は彼らの功績を称え、王都において強大な影響力を持つ王族と貴族のみが出席を許される、特別な酒宴に招待された。

――だが、原因不明の悲惨な暗殺事件が、会場で起きてしまった。

被害者の死因は、何らかの魔法、または呪いによってだと鑑定され、王族、貴族らの疑惑の目は、全て彼ら、冒険者に向けられる事になった。

貴族らの意見も否定できるとは言えない。今まで、何事もなく同じ顔触れで行われてきた酒宴に、王都の救世主を招待した途端、この様な事件が起きてしまったのだから。

権力の力はあっても、事実的な力を持たない貴族らのやり方は、残酷だった。

貴族らは無理やり彼らを処刑台に上げさせようとした。貴族らは自分の手は汚さないやり方だった。貴族らは彼らの出身地の者を迫害した。全て、権力で。

だが、魔王軍と渡り合えた彼らが、そんな簡単に貴族らの手に掴まる訳がない。彼らは罪を全て被る覚悟で、紅魔族の魔法使いのテレポートで、王都から脱出した。

貴族らの間では、彼らの逃亡の話で持ち切りとなった。その日から、紅魔族はもちろん、彼らの種族は批判の的となった。

当時、今から二十年程前では、紅魔族は未だにその事件の影響を受けており、差別の固定概念が世間に蔓延していた。

現在ではその考えは払拭され、差別を受ける事はないのだが、当時は違う。

彼女の父に対する風当たりは強く、その街の冒険者は彼の存在に目もくれなかった。

彼はその現実を受け入れ、次第にパーティという概念を頭から消し去り、単身でクエストをこなすようになった。

だが、彼はその街で完全に孤独の存在だった。という訳ではない。

後に彼の妻になる受付嬢は、一人で無茶をして毎日傷だらけで帰ってくる紅魔族の男を、放ってはおけなかった。

差別の壁を気にせず、手を差し伸べてくれた受付嬢に、彼はいつの間にか恋愛感情を抱く様になっていた。

その想いは受付嬢にもすぐに感じ取れる程の熱狂的なものだったが、彼女は嫌な感情を抱かずそれを受け入れ、初めての出会いから一年後、互いに両想いとなった二人は、差別の壁を破っての婚約を結んだ。

紅魔族の彼はその後も冒険者を続けて家族を支える夫となり、その妻は婚約から一年後、新しい生命を宿し、受付嬢の仕事は休む事になった。

妻の出産までの間、紅魔族の彼は家計を支えるのに必死だった。街の高価な家に住むのは難しくなり、街の近くの比較的安価な土地だった、山の集落へと移ることになった。

彼はその集落から街のギルドに向かい家計を支え、妻は集落の美しい空気、水、食べ物を得て、育児に時間を費やした。

二人の婚約から二年後、夫婦念願の子供が誕生し、その女の子は『プラス』と名付けられた。

――後の、魔王軍最高幹部、プラスが生まれた瞬間だった。

プラスは両親の愛情を受け、心優しい少女に育った。プラスは両親の特徴を、ちょうど半分ずつ受け継いだ美しい容姿をしていた。

父の紅魔族の特徴の一つである黒髪と、母の淡緑色のしなやかな髪を足した、暗緑色の美しい髪に、双眸は母に似て、透き通るような蒼色をした、可憐な少女だった。

生まれ持った魔力は純血の紅魔族に劣る実力のプラスだったが、家計を支える為に常に努力してきた父の教育により、少女の実力は純血の紅魔族を優に超え、一端の冒険者とさほど変わらない程にまでの才能を見せた。

少女は冒険者の道を夢としていた。

少女が上級魔法を習得したのは、純血の紅魔族でも不可能に近い、八歳の頃だった。父は自分の教育の成果だと喜び、母は受付嬢の経験上、娘を冒険者として育てるのは多少の抵抗があったが、少女の夢を知った母は数日か悩んだが、少女の意見は組まれる事となった。

幼少期のプラスを表現する上で、最も適切なのは『神童』だろう。

少女の存在は、その集落はもちろん。父が毎日向かう街にまで広まり、紅魔族という事で差別され続けてきた父も、『神童』とまで言われる自分の娘の存在がきっかけとなり、冒険者仲間が出来た、父は、孤独の冒険者生活を脱出した。

少女が十の頃に、父が初めてクエストに連れて行ってくれたのは、現在の彼女の記憶にも鮮明に残っている。

クエストといっても、最初から父が家計を支える為に戦っている大型モンスターではなく、父はプラスに合わせて、初心者冒険者が受けるようなクエストばかりだったが、少女はその時に父から一人前と認められた気がして、嬉しかった。

週に一度、父が連れて行ってくれるクエストはとても楽しかった。

母もプラスが五歳の頃に受付嬢の仕事に復帰し、一家の生活はやがて豊な物となっていった。

そんな日常が、幸せが、ずっと続くはずだった――。

 

少女が十四の頃、それは突拍子もなく、集落と、母が受付嬢を務めていた街を襲撃した。

襲撃が行われたのは、街の人々が寝静まるのを待っていたかの様な深夜での急な出来事だった。

日常だった。半日前までは、それは確かに、平和な日常だった。

深夜での奇襲と表すべきその攻撃は、街の警備兵にはもちろん歯が立たない。一部の警備兵が街の冒険者に協力を求める為奔走したが、彼らは数分で灰になった。

街の冒険者達は次々とその存在の前に倒れ、街は火の海と化した。

 

街は、もう、日常には帰れなくなった。

 

不幸中の幸いとはこのことなのか、一家が住んでいた集落から街が襲撃されている様子が見え、集落の者には危険を察知し、十分に避難する時間があった。

周囲の者は皆、少女一家に避難を勧めた。街の惨状を見れば、救援に向かうなどの考えは狂人の考えだ。皆、街を、集落を放棄する覚悟を持っていた。

プラスはこの間に、愛する家族と共に避難したかった、普段は我儘を言わない少女の、最初で最後の、願いだった。

だが、プラスの気持ちとは裏腹に、父は街に行く事を決意したのだ。母はその場で放心――。意思の疎通は、不可能だった。

母はその街の出身だった。実家も街にあり、母は両親を愛していた。その現実を、破壊された。

紅魔族の夫との婚約を許してくれた、寛大な両親。街の惨状を見た母は、全てを察したのだろう。何もかも、放棄した。

父の冒険者仲間は、街に住んでいた。集落からでも分かる街の悲惨さを見ても、父の意思は変わらない。

父は仲間を救いたかったのだろう。その父の覚悟を、意思を、止める言葉がプラスには出てこなかった。父は街へ駆け出した。集落から約五分で辿り着く街。父の命は、後五分だ。

黒の虚空に輝く紅の火炎、炎の元は、慣れ親しんだ街からだった。

街の上空に、何かが飛行している。炎の光の影響でうっすらと見えた影は、一言で表せば、龍だった。

龍は上空から街に炎を吐き、依然、余裕と言わんばかりの様子で火の海を見やる。

籠の中の虫を無残にも殺す子供の様な、余裕だった。街の冒険者を脅威とも見なしていない。

「お父…さん?」

父の姿が見当たらない、その現実を突きつけられたプラスには擦れた声しか出せない。

父は先程街に向かって歩みを進めた。その現実はプラスの目に映っていなかった訳ではない。この現実は重すぎた。少女の心に、この現実は重すぎたのだ。

少女の心は、父が歩みを進めたという事実を拒否した。拒否した。拒否した。拒否した。拒否した。

いつの間にか、拒否は、制止できない程の怒りに変化した。

母を心から破壊した炎。父を飲み込んだ炎。全てはあの龍が悪い。悪い。悪い。悪い。悪い。

――少女の精神は、感情は、全てが壊れた。

――誰かが、何かが。壊れた全てを力に変えた。

駆け出した。走った。街に向かって。憎き龍に向かって。走った。走った。

ぬかるんだ地面、水たまり、自然で出来た足元の妨害は、街に近づくにつれ、人血でぬかるんだ地面、血だまりに変わった。

足が傷ついても構わない。胸がはち切れそうな圧迫感を感じても構わない。少女の臓器は、身体は、強靭な自身の力に壊れようとしていたが、それさえも力で押さえつけた。

殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

その二文字が、プラスの脳内を支配する。支配が、力に変わる。冷静など、生まれ持っていなかったかのように。

先程まで持ち合わせていた恐怖が、力を引き出させる原動力に変わった。感情は、何もかも失った悲しみ以外に、思いのままになった。

駆け出した足は止まらない。胸を内側から圧迫される苦しさも、力に変わった。

地を蹴る足の力は、次第に大きくなっていった。感情から得た力を、引き出したかのように。

撥ねた泥水が少女の服を汚す。撥ねた血が、少女の頬を伝わる。

全ての無駄に見切りをつけて、龍を目指して走る。街を目指して走る。火の海を目指して。

と、その足が、何かに引っ掛かって、少女は泥水と人血が入り混じった地に。顔から無防備に落ちてしまった。

――痛みは感じない。力に変わるだけだ。

顔についた泥水と人血を服の袖口で乱暴に拭き取り、視界を十分確保してから、少女は足を取った原因を睨みつける。

――その紅の双眸には、もう何も映さない。上半身と下半身が綺麗な切断面で切り分けられた、果てた父の姿だった。

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」

 

――狂気の少女は、プラスは。その瞬間だけ。力と引き換えに、感情を取り戻した。

 




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