この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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三章五話 


自称ライバル

 

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」

 

「あんた最低、最低な卑怯者よ!正々堂々と戦いなさいよ!」

 

決して正等とはいえない方法で勝利したカズマに対し、恐らく取り巻きなのだろう二人の盗賊風な女性が罵声を浴びせる。

 

取り巻きの女性は三人いると聞いていたが、どうやらこの二人が中心らしい。残りの一人は建物の影に隠れ、こちらをチラチラ見ながら様子を窺っている。

 

抗議する二人に、カズマは余裕を隠さない表情で。

 

「ほら、コイツ起きないな。じゃあ俺の勝ちって事で。コイツ、負けたら何でも一つ言う事を聞くとか言ってたな?じゃあ、この魔剣もらっていきますね」

 

そのカズマの言葉に、取り巻きの一人がいきり立つ。

 

「なっ!?バ、バカ言ってんじゃないわよ!それに、その魔剣はキョウヤを主として認めたの。キョウヤ以外の人にはその魔剣の加護は得られないわ!」

 

自信たっぷりにそう言う少女の言葉に、カズマは思わずアクアの方を向き。

 

「……マジで?これで俺も多少はマシな状況になったと思ったんだけど、俺では使えないのか?せっかく強力な武器を取り上げたと思ったんだけど」

 

「マジです。元々は転生者同士での戦闘が起きないように、魔剣とかのチート武器には特典として得た人しか使用できないようになっているわ。…ユウキのような能力系はちょっと特殊なんだけど。まあ、そういう事でその魔剣は、カズマさんが使っても店に売ってる普通の剣と変わらないわ」

 

マジか。意外と転生者同士のいざこざに対応してるのか。

 

…そう考えると、最初に杖とかを選ばなくて本当に良かった気がする。

 

「まあ、折角だし貰っていくわ。ソイツが起きたら言っておいてくれ、『お前から持ち掛けた話なんだから恨みっこ無しな』って。…それでは、お帰りはこちらです」

 

何か抗議の声を上げたげな取り巻きに、カズマは嫌味や皮肉も込めた丁寧な口調で対応する。

 

「めぐみん?めぐみんじゃない!?私よ私!あなたのライバルであり同じ学校の…」

 

「――さて、屋敷に戻ってゆっくりしましょうか。春に入ったとはいえ、朝はまだ寒いです」

 

おいおい、無視しちゃっていいのか、知り合いじゃないのかよ。

 

ぷいっと屋敷の方に振り向いためぐみんの背中に、その少女――眼が紅い、俺の知る中では三人目になるのだろう、紅魔族の少女が声を浴びせる。

 

「ああっ!?何で私を無視するの!?…久しぶりねめぐみん!この通り私は、修行を終えて帰ってきたわ!今の私は昔と違って、上級魔法も使う事ができる!さあ、今こそあの時の約束を果たす時!今日こそは、長きに亘った対決に決着をつけるわよ!」

 

そう宣言し、どこか嬉々とした表情でその少女は手に持っているワンドをめぐみんに差し向ける。

 

なんだろう、この熱い展開は。正直、御剣とカズマの戦いより興味がある。

 

そして、その少女から大きく指名を受けた当の本人は――!

 

「どちら様でしょう?」

 

「ええっ!?」

 

驚きの声を上げたその少女は、やはりどことなくめぐみんと似たような格好をしている。

 

めぐみんや、ウィズの店にいるめいめいと似たデザインの黒いローブとマント。

 

めぐみんより背は少し高く、体系はすらっとしており…出てる所は出ている整った体型。

 

そして、清楚系というジャンルに組み込まれる大人しい顔立ちの、かなりの美少女だ。

 

もし日本にいるなら、またはアニメの中などであれば生徒会長などの職をこなしている印象を抱かせる少女だ。

 

「わ、私よ私!ほら、紅魔の里の学園で同期だった!めぐみんが一番で、私が二番だったから上級魔法を習得するまで修行するって……」

 

自分の顔を指差しながら、涙目でそう訴えかける紅魔族の少女。

 

いや、ちょっと待て。今この子何て言ったんだ?

 

「…めぐみんが一位で彼女が二位?……ああわかった、内申点とかで卒業まで稼いでたんだな。俺も中学の頃に生徒会に入ったりしたもんだ」

 

俺の言葉に、めぐみんはフッっと笑い、

 

「今更何を言うのです?私は名乗りの時に、しっかりと紅魔族随一の魔法使いと名乗っています。それを信じなかった、ユウキに非があるのですよ?しかし、長い付き合いの今なら信じられるでしょう?」

 

く…!返す言葉が無い…!

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

めぐみんと話している途中に、紅魔族の少女は慌てて言った。

 

「ねえ、めぐみん!私よ私!本当に忘れちゃったの!?ほら、学園のテストでも何でも、あなたに勝負を挑んで、その度にあなたは、勝負を挑むには対価が必要。弁当を賭けるなら受けて立つって!よく私の弁当を巻き上げてたじゃない!」

 

…そんな事をしていたのか。

 

俺がめぐみんをジッと見つめると、都合が悪そうに目を逸らす。

 

「で、この子はお前の知り合いだとか言ってるが、どうなんだ?結構詳しく知ってるみたいだから思い出してやれよ」

 

「知りませんよ、大体、名前も名乗らないなんておかしいじゃないですか。これはきっと、以前カズマがアクアに、いくら金に困ってもこれだけはするなよと言っていた、オレオレなんとかというやつです。関わってはいけません」

 

めぐみんは、そんな事を言って俺の袖を引っ張り、屋敷へ立ち去ろうとした。

 

屋敷へ去ろうとしている俺達を見て、少女はさらに慌てたように、

 

「ちょ、ちょっと待ってよー!わ、分かったわよ、知らない人が大勢いる前で恥ずかしいけど名乗るわよ!……我が名はゆんゆん。アークウィザードにして、上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者………!」

 

ゆんゆんは恥ずかしそうに赤くした顔をしながら名乗りを上げると、着ていたマントをバサッと翻した。

 

紅魔族というのは、全員このような名乗りを上げないといけない決まりでも存在するのだろうか。

 

そんなゆんゆんを見ながら、めぐみんは一つ溜息をつき、

 

「とまあ、彼女はゆんゆん。紅魔族の族長の娘で、やがては紅魔族の長となる、私の輝かしい学生時代の自称ライバルです」

 

「なるほど、一人一人紹介していくと時間掛かるから、ここは俺が代表して。こいつの冒険者仲間のカズマです。よろしくゆんゆん」

 

「ちょっと、ちゃんと覚えてるじゃない!……あ、あれ?その……カズマさん?私の名前を聞いても笑わないんですか…?」

 

ゆんゆんが不思議そうに、カズマにおずおずとそう尋ねた。

 

…まあ、めぐみんやら、めいめいやらの本場の名乗りを知っていたら、少しは耐性がついてきたって事か?あんまり需要なさそうだが…。

 

「名前がちょっと変わってるぐらいで、本人の人格には関係ないだろ?世の中にはな、とても目立つ変わった名前をしているにも拘わらず、頭のおかしい爆裂娘なんて不名誉な名前で呼ばれている奴もいるんだよ」

 

「私ですか?それって私の事ですか?私が知らない間に、いつの間にその通り名が定着していたのですか!?」

 

カズマの言葉に、ゆんゆんが不思議そうな、それでいて驚いた表情を浮かべ。

 

「……なるほど。流石ねめぐみん。いい仲間を見つけたわね。それでこそ私のライバルよ」

 

いや、今の会話で何故そうなる。

 

そういえば、いつの間にか御剣とその周りにいた二人の少女の姿が見当たらない。

 

「ところで、話があるのなら屋敷の中でしないか?こんな所で立ち話もあれだし」

 

俺がそう提案すると、ゆんゆんはハッとしたように顔を上げ、俺達全員から一歩退いた。

 

「そうよ!めぐみんが私を知らないなんてねぼけた事言うからおかしな展開になったけど……!めぐみん、私はあなたと勝負しに来たのよ!私はいずれ紅魔族の長となる者。そんな存在があなたに勝てないとなると、おめおめと族長の椅子に座ることなんて出来ないわ!そして何より!」

 

ようやく自分の展開に持っていけた事が嬉しいのか、ゆんゆんは少し興奮した様子でめぐみんをビシッと指差し。

 

「あなたとの約束通り、私は上級魔法を習得したわ。後はあなたに勝って、紅魔族一の座を手に入れる。そして、私が紅魔族の長になる事を皆に納得してもらうの。家柄だけの子なんて、もう誰にも言わせない。さあめぐみん、この私と勝負しなさい!」

 

その紅い眼を光り輝かせて固い決心をし、ゆんゆんはそう宣言した。

 

「嫌ですよ。まだまだ残冬の時期で寒いですし」

 

当たり前のように放っためぐみんの言葉に、ゆんゆんはえっと言って固まった。

 

「そうだな、そういや今日はまだ朝飯も食ってないし。おいアクア、台所に何か食べ物が残ってるか?最近は外食続きだし少し不安だな」

 

「何も残ってないわよ?本当に最近はカズマさんが外食ばかりだし、私も外で食べる生活になってきてるんだから」

 

二人は固まっているゆんゆんをほとんど無視し、そんな日常的な会話をし始めた。

 

「ちょちょちょ、ちょっと待って!ねえ、なんで?久しぶりに会ったのに、なぜそんなに冷たくするの?めぐみん、お願いよ、勝負してよー!」

 

そんなカズマ達に、ゆんゆんは泣きながらすがりついた。

 

それを見て、めぐみんがため息をつく。

 

「………しかし、この私に魔法で勝負する気ですか?あなたはこの街から離れていたので知らないかもしれませんが……。聞いた事はないですか?連日居城に撃ち込まれる私の魔法に脅威を感じ、まんまと魔王軍の幹部がこの街へと誘き出され、撃退された話を。そして無敵を誇ったあの機動要塞デストロイヤーが、この街で爆裂魔法によって破壊されたという事を!!」

 

……まあ、嘘ではないなぁ…。

 

「まあ、連日の爆裂魔法のおかげで魔王軍幹部がこの街に来たのも本当だし、めぐみんがデストロイヤーを爆裂魔法で破壊したのも本当だよ」

 

物は言いようとはまさにこの事だよな…。一応、俺も爆裂魔法を撃ってるんだが…。

 

俺の言葉に、いよいよゆんゆんは青い顔で。

 

「そそそそそ、それでもっ…!それでも勝負をしないと…。いくら勝ち目が無いといっても、何度も何度も挑戦して勝ってみせるわ!」

 

目に涙を浮かべながらも、いずれは族長の椅子に座る者として何か譲れない物があるのだろう、ゆんゆんは若干怖気づきながらも、キッパリとめぐみんに告げた。

 

それを見てめぐみんは、再び深いため息を吐く。

 

「………しょうがないですね。では、魔法ではなくゆんゆんが得意な体術で勝負してあげましょう。あなたももう一端の冒険者の様ですし、今更筆記試験で決着をつける事にも不満を持つ筈です。両者武器はなし。勝負はどちらかが降参するまで…。どうでしょうか?」

 

「…いいの?毎日体術の授業にはほとんど出席しなかっためぐみんが…。まさか、私に花を持たせようとでもしているの?……わかった。その勝負方法でいいわ。そして、あなたはこう言うんでしょう?『勝負には対価が必要だ』って!対価はこのマナタト鉱石!かなりの純度の一級品よ!」

 

ゆんゆんの手に握られているのは小さな宝石。サティアがこの街にテレポートで来た時に、拳で割っていた代物だ。

 

という事は、恐らく瞬時に魔力を回復出来る、魔法使いにとっては重要なアイテムなのだろう。

 

めぐみんがそれを見て、満足そうに頷いた。

 

「よろしい、受けて立ちます!では、どこからでも掛かって来なさい!……サティアさん、お願いします!」

 

めぐみんは、威嚇するように両手を広げて宣言した。

 

…サティア?

 

「了解!『パワード』!『スピードゲイン』!『プロテクション』!………さあ、いってらっしゃい!」

 

指名を受けたサティアが何か三つの魔法を唱えた途端、めぐみんが三色の光に包まれた。

 

三色の光に包まれながら、本人はとても満足そうに。

 

「確かに、武器は禁止と言われましたが、支援魔法を受けてはいけないというルールはありません!さあどうしたのです、どこからでも掛かって来なさいと言ったはずですよ!そちらが勝負を仕掛けてきたのではありませんか!」

 

え、えげつねえ…。友人との一対一の決闘に、支援魔法を掛けて挑むとまでは思ってなかった…。

 

そう宣言してめぐみんが両腕を広げてジリジリと前に出るが、それに合わせてゆんゆんが引きつった顔で後ずさる。

 

「め、めぐみん?笑えない冗談は止めてね?嘘でしょ?わ、私の戦意を挫いて、降参させようって作戦なのよね?でしょう?学園時代もそんなのばかりだったし。わ、私はもう騙されないからね?」

 

そんなゆんゆんの言葉を聞き入れず、めぐみんは紅い眼を輝かせ、ジリジリとにじり寄った。

 

まるで、仲の良い友人にイタズラでもしようとする子供みたいな表情だ。

 

「私達、友達ですよね。友人というものは、苦難も分かち合うものだと思います」

 

その言葉にゆんゆんは、背を向けて屋敷の門へと走り出した。

 

それを、支援魔法を受け俊足であるめぐみんが追いかける。

 

「降参!降参するから!マナタイトあげるから、こっちに来ないで!」

 

 

 

 




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